会社のお昼休み。
そのわずかな時間をカフェで優雅に過ごす一人の狐獣人のOLがいた。
この店では現在「秋のスイーツフェスティバル」と銘打って、デザートビュッフェが開催中であり、彼女もそれが目的で来店している。
「わぁ~美味しそう…」
趣向を凝らしたスイーツの数々に思わず彼女は目を輝かせる。
さっそくプレートいっぱいにデザートをよそうと片っ端から胃に放り込んでいく。スレンダーな彼女のどこにそんな食べ物が入る場所があるのかという程の暴食である。
中でも糖度の高いさつまいも「蜜芋」をふんだんに使った蜜芋ブリュレがよっぽど絶品だったのか、時間の許す限りおかわりを重ね、結局1時間の間に10個以上平らげてしまった。
しかし、この時まだ彼女は知らなかった。
この蜜芋ブリュレが後に大惨事を巻き起こすことを…
至福のランチタイムも終わりオフィスに戻った彼女。美味しかったデザートの余韻に浸る余裕もなく、午後一から予定されていた会議に出席する。
この会議が結構長時間でハードなもので、お昼の高カロリー摂取はこれに備えていたのもあった。
しかし、一時間ほどが経過した頃、徐々に彼女の表情が苦悶に歪み始めた。
(どうしよう……おならが出そう……)
お腹がパンパンに膨らみ、衣服で締め付けられ、その苦しさで額にびっしょりと汗をかく。
あれだけ蜜芋ブリュレを食べたのだから当然である。
さつまいもに含まれる豊富な食物繊維とデンプンが腸内で善玉菌に分解され、現在進行形で大量の炭酸ガスが生成されているのである。
このままでは当然ながら大規模なガス漏れが起きる。トイレに行こうにも少しでも身体を動かすとケツの穴が開きそうで身動きが取れない。
しかし、彼女もそこまで馬鹿ではない。サツマイモを食べたらおならが出易くなるなんて一般常識ではあるし、当然、彼女も対策はしていた。
その対策というのが「エチケットホール」。携帯ワームホール型のトイレである。
このアイテムは近年、若者を中心として急激に流行りつつあるヒット商品で、コンビニでも買えるような安価なものにもかかわらず、簡単にワームホールを生成できるという高性能製品だ。
一見、ただの輪っかのようなものに見えるが、スイッチが付いており、電源を起動すると輪っかの先が異空間に繋がる。
基本的には虫食い穴の先は別の惑星に繋がっている。彼女達獣人族は宇宙全土を統べる高等種族であり、宇宙に無数にある有生物惑星のほとんどを手中に納めている。
ちょっと不憫な話ではあるが、そんな有生物惑星に問答無用で排泄し、処理してもらおうというのが、エチケットホールのコンセプトである。言ってしまえば惑星丸ごとのトイレ化。まさに弱肉強食の頂点だからこそできる横暴な行いである。
彼女もこのエチケットホールは所有しており、いつガス漏れが起きても問題ないように既にお尻の割れ目に輪っかを仕込んでいた。
電源ボタンも起動しており、既にアナルは別の惑星の空に展開されている状態で、今、ここで思い切り大放屁しても、ガスや爆音はその惑星で発せられるだけである。
しかし、彼女がそれでもおならを我慢していたのは、排泄指定惑星の住人達のことを想ってのことだ。獣人達は他惑星の住人と比べても極端に身体が大きく、実際、今彼女のアナルの真下には米粒にも満たないような小さな建物の密集する大都市があった。
この排泄先惑星のスケールでいえば彼女のお尻の穴の直径は10㎞をゆうに超える。そんな地獄の門が開き毒ガスなんて噴出しようものなら、どれだけの死者が出るかわからない。
彼女もそれが分かっているから、なんとか我慢しているのだ。
しかし……
(もう無理…ッ!)
有事の際に放屁できるようにエチケットホールをセットしている時点で、初めから自分の尊厳>>>>>他惑星の沢山の住人の命であることは明白だった。
あくまで一握りの慈悲。何百万の命の前に白昼堂々とアナルを晒していて何も恥ずかしさも覚えない時点で、彼女にとって彼らが虫けら以下の存在であることは明らかだ。
ブオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!
ハリケーンすらそよ風に感じる程の風速で繰り出される大放屁!
煌びやかなスイーツの数々、あの絶品の蜜芋ブリュレが大量殺戮兵器に変わった瞬間である!!
圧倒的な風圧を前に地表がめくり上がり、カビのように地面に張り付いていた大都市は宙を舞い瞬時に粉々になる。瓦礫同士がぶつかり合い火花を散らし、ガスに引火し、やがて火砕流となり、周囲数百㎞を火の海で呑み込んだ。
そのあまりに凄惨な一幕は、映画「インデペンデンス・デイ」の宇宙船からの主砲攻撃のシーンを思わせるほどの身の毛もよだつ大量虐殺であり、それが科学技術の粋を尽くした最終破壊兵器ならまだしもただの生理現象でしかないというのが、あまりにも無情なスケールギャップである。しかも、破壊エネルギーの根源が蜜芋ブリュレだというのだから猶更だ。
死者1億人超。
たった一人の女性がデザートタイムを満喫した代償がこれである。
(ふぅ~…すっきりした……)
今まさに爆音の大放屁を繰り出したにもかかわらず、会議の参加者は誰一人それに気付かない。当の本人もすまし顔で真剣に他の人のプレゼンを聞いている。
この間も死者は増え続けていることを彼女は知らない。あまりに巨大な彼女のおならが大気成分の割合を崩してしまった。たった一回の屁がテラフォーミングを引き起こしているのだ。
女神の大放屁という淘汰圧にこの惑星の生命体が耐えられるかどうかは分からない。しかし、一つだけ言えることがある。
それは、もしこの惑星で再び彼女の尻穴が開いたならば、その時こそ、この星が完全な“死の惑星”になると言うことだ。
沢山の尊い命の為に、早急にこの会議が終わることをただただ願うのみである。
おわり