「今より成獣の儀を執り行う!」
暗い室内にしゃがれた老人のような声が響き渡る。
部屋の奥には一つ高価な見た目の椅子が置いてあり、そこにはニャオニクス族の青年が緊張した面持ちで背筋を立てて座っていた。
それを取り囲むように何十席と粗末な椅子が並べられており、壮年から老年までの男女が彼を見守っている。
「今宵、成獣の儀に挑むのはニャオニクス種のシアンじゃ。」
儀を取り仕切っているのはこの集落の村長だろうか。杖を付き背骨は直角に曲がっている。
しかし、その風貌に反して声は威厳に満ち溢れていた。
「“野性”を見せなさい。」
「はい!」
シアンはそう言われると服を脱ぎ始めた。“野性”を見せるとは“理性”を纏わないこと、則ち裸になるということだ。
「おぉ・・・これはなかなかに・・・」
「いや、既にあれで興奮状態なのではないのか?」
「同じ見立てだ。コレが勃ち上がるとは到底思えぬ」
俄かに会場がざわつく。
というのも、椅子から垂れ下がったシアンのイチモツが床に着きそうなほどに大きかったからだ。重すぎて勃起状態で垂れ下がってしまっているのか、これでもまだ萎えチンなのかはわからないが、どちらにせよ相当な怪物を股間に飼っている。
「シアンよ。今から“贄を”授ける。両手を前に出すのじゃ。」
老人の指示する儘に手を出す。すると別の女性がシアンのもとに近付いてきた。
彼女は仄かに青紫色のオーラのようなものを纏っており、何か土の塊のようなものを宙に浮かせている。
“念力”。対象を宙に浮かせてコントロールし宙に浮かせる技だ。
そのまま土塊はシアンの両手の上に置かれた。
「それはシアンが無事成獣の儀を終えた暁に管理することになる“地球”という星の一部じゃ。表面をよく見てみなさい。」
手の上に置かれた土塊をまじまじと見るシアン。しかし、次の瞬間、彼の顔は青ざめ、手が震えだした。
「今回の“贄”は、まさにその地球の住人じゃ。我ら破壊神族は殺戮を責務とする罪深き種族。その重い仕事に耐え得るか適性を見るのが成獣の儀の目的なのじゃ。」
土塊の表面は灰色。コンクリートの色。そう、今シアンの手のひらには一つの大都市が、何百万という命が乗せられていた。
彼のパッチリとした大きな目を以てすれば、ダニのような地球人でもしっかりと視認できる。
既に町は其処ら中で地割れが発生しており、高層ビル群が倒壊し、瓦礫の山になっていた。シアンの震える手がそのままダイレクトに都市直下型地震となり町を破壊し尽くしているのだ。
「シアンよ、その贄を“使って”精通するのじゃ。贄を消費し、射精できれば一人前の成獣として、そして破壊神として認め地球を管理することを許す。さぁ・・・殺れ!!」
スペースモンスター。縮めてスペモン。
ポケットどころか、惑星にすら収まらないことからそう呼ばれる彼らは、その圧倒的な力で宇宙全土を支配していた。
そんな彼らの中には、命を育む新たな星を創る創造神族や、宇宙全体のバランスを調律する秩序神族、そしてシアンのような不要な星を破壊したり、“管理”して正す破壊神族など、様々な種族がいる。
中でも破壊神族は億単位、兆単位の命を当たり前のように摘み取らなければならない極めて精神負荷の大きい役割を担っていた。
“成獣の儀”として今まさに、シアンが課せられているこの滅茶苦茶な課題も、その精神負荷に耐え得る適性があるかどうかを問うものなのだ。
尊い命を蹂躙して射精しろ、などあまりにふざけている様にも見えるかもしれないが、これでも彼らは至って真面目にやっているのである。
(・・・こ、こんなの・・・できるわけない・・・!必死に生きている人たちを殺すなんて、僕には・・・)
シアンは既に涙目になっていた。
“するどいめ”を持ち、無駄に視力が良い彼の目には必死にもがき苦しむ人間達の姿がはっきりと映っていた。
「た、助けて・・・何が起きてるの・・・!?」
「なんだ!?空に見えているのは・・・巨大な・・・目・・・?」
「地震が収まらないぞ!?・・・世界の終わりなのか?」
「死にたくない・・・死にたくない!!」
「痛い・・・・痛いよ・・・助けて・・・」
瓦礫に押し潰された母親の手を泣きながら引っ張る小さな子供。愛する家族を失い絶望で蹲る男性。逃げ場もないのに必死に逃げ惑う人々・・・
車も電車も建物も何もかもがひっくり返り、其処ら中から黒煙が立ち上る地獄の光景は、まだ若く多感なシアンにとってあまりに衝撃的でショッキングなものだった。
自分が町を破壊してしまっているのは分かっていても、手の震えが止まらない。今すぐにでもここから逃げ出したい気持ちに支配されるが、両手が塞がれた今この状況で立ち上がって走り出そうものなら、その反動ですべての命が消滅するだろうことは明らかだった。
「震えておるぞ。やはり心優しいシアンには無理なのではないか?」
「だらしないわね。破壊の申し子と呼ばれるニャオニクスの風上にも置けないわ」
「長老。もういいのでは?涙で震えるような彼に破壊神の適性はないでしょう。」
成獣の儀を見守るオーディエンス達が好き勝手言いたい放題言葉を並べていく。しかし、長老は黙っていた。
“破壊の申し子”。
ニャオニクス族がそう呼ばれる理由はその圧倒的な念力の破壊力にある。彼らの体内に秘める恐るべきサイコパワーは自分の何倍、何十倍という大きさの物ですら容易くぺしゃんこにできる程の力を持つ。
中でもシアンは幼少期から特にサイコパワーが強く、無事に成獣を迎え破壊神にさえなれば、星一つを丸ごと捻り潰してしまうような優秀なプラネットキラーとなることが期待されていた。
しかし、その圧倒的な力に反して、シアンはかなり保守的かつ内向的な性格の心優しい青年だった。
破壊性能だけは一流でも、他者を傷付ける適性を持たなければ、破壊神としては失格なのだ。
・・・しかし
暗い部屋に突如響き渡る鈍い音。何の音だ?、と皆が目を見合わせる。
また一回。その鼓動のような音は明らかにシアンから発せられていた。
「ま、まさか・・・」
「動いてる・・・股間が動いているぞ!」
そう、この追い詰められた状況で、なぜかシアンの勃起が始まったのだ!
長老は静かにニヤリと顔を歪めた。
(・・・な、なんで!?・・・なんで僕勃起してるの?・・・どういうこと!?)
破壊神族の村の掟で、性教育は一切禁止されており、成獣を迎えるまではオナニーもセックスも厳禁だ。
これは成獣の儀の場で、何の擦り込みも性的錯倒もない純粋な性的嗜好を測る為である。
破壊神族の場合は成獣の儀で破壊神と認められなければ、永遠にオトナとして認められないどころか、その時点で地位は最底辺まで落ち、番を持つことも許されなくなる。
そう、結局この集落では破壊や殺戮で勃起できるような猟奇的嗜好を持つ者だけが子孫を残せるのだ。
とはいえ、もともと破壊神族は破壊と殺戮の長い歴史を経て、遺伝子レベルで猟奇的嗜好が刻まれている。それは生命が子孫を残す為、異性に興奮を覚えたり、行為時に快感を得るようプログラムされているのと全く同じだ。
シアンが今謎に勃起しているのも、それだけ破壊神族の血の力を強く受け継いでいる証左である。
しかし村全体で見れば、皆が皆シアンのように破壊と殺戮で勃起できるわけではない。
これだけDNAのお膳立てがあっても、やはり成獣の儀で精通できない者は多い。少しでも理性が本能を上回れば、勃起どころではないし、これだけ多くの人に見守られている中で人目も気にせずオナニーできるような胆力だって必要になる。
破壊神の資質としては強靭な胆力も重要な要素だ。成獣の儀の何倍、それこそ億単位の命の前に身体を晒すのが破壊神の仕事だ。いっそ露出狂レベルで堂々としてないととてもやってられないのである。
「さっきまではあれでも萎えチンだったのか・・・いったいどれだけ大きいのだ」
「破壊神族としては歴代一の巨竿ではないか?ここ数十年これほどの巨根持ちは記憶にないぞ」
「泣きながら勃起してる・・・しかし、ここからが難題よ。その震える手で虐殺して精通までできるかしら?」
シアンの爆根に周囲がざわつく。竿が勃ち上がったことで隠れていた睾丸が露わになったが、やはりこちらもかなりデカい。手で掴んでも余りあるほどの巨玉だ。
(・・・身体が・・・熱い・・・怖い・・・。なんで僕は勃起してるの?こんなに沢山の人を殺して・・・僕のせいで・・・みんな・・・。・・・でも、なぜだろう・・・ヤりたい・・・ちんちんを・・・扱きたい!!)
シアンはパニックで頭が真っ白になり、大粒の涙がこぼれていたが、しかし頬は紅潮し、激しい喉の渇きに襲われていた。
確かにシアンは心優しく良心も強く理性的な青年だ。しかし、その理性を遥かに上回るほどの破壊神としての本能を持っていたのである。
早く手の平の町をペニスに擦り付けて虐殺したいと願う身体と、一人も殺したくないと願う心。
相反する心と体に壊れてしまいそうになるシアンだったが、しかし、ここで彼のある特徴が大きく作用した。
それは彼の人並外れた性欲の強さだった。
そのあまりにも巨大な性感帯から生み出される性欲はすべての思考をいとも簡単に掻き消してしまうほどのインパクトがあった。性欲はヒトを馬鹿にするとはよく言ったもので、まさにシアンも今、“おちんチンパンジー”と言うべき思考混濁状態に陥っていた。
「・・・殺したく・・・ない・・・殺したくないのに・・・!滅茶苦茶にしたい・・・ッ!破壊したい!!・・・・ぎ、虐殺したい・・・ッ!・・・嫌だ・・・嫌だ・・・!!」
思考が既に口から漏れ出していた。周りにヒトがいることももはや忘れて、シアンはただ自分のチンコと命が乗った土塊にだけ神経を傾けていた。
顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになり、垂れ流す我慢汁が床に水溜まりを作っている。室内の湿度が急激に上がり、もわぁ・・とシアンのオスの匂いが充満する中、彼の理性と本能が激しく鬩ぎ合う凄まじい剣幕に思わず周囲は固唾を呑んで見守っている。
そして・・・
ついにそのちっぽけな土塊はシアンの肉棒に呑み込まれていった。
「・・・ごめん・・・ごめんなさい・・・ッ!!・・・僕は・・・僕は・・・!!」
人間のスケールで言うと50㎞はあろうかという爆根の裏筋に沿って上下する両手。そのあまりに雄大な巨塔を前に菌床のような人間の町など最初からなかったかのように一瞬で磨り潰され、地盤ごと粉々になっていく。
まだ100万人以上の生き残りが町にはいた筈だが、そのすべてが儚くも彼の恥垢と化した。
「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんさいごめんなさいごめんなさい!!!」
シアンはただただ謝罪を繰り返した。しかし、その言葉と身体は一致せず、激しいピストン運動で、町や人間の残骸を更に細かく形も残らないくらいに分解していく。
そのあまりのオナニーの激しさと大きな感情の波に破壊神族の面々も瞬きすら忘れる程に魅入られた。
「逸材じゃ・・・破壊神の王が降臨なさった・・・」
長老は震えていた。その目には涙すら浮かべている。
「皆のもの。彼の・・・シアン様のこの偉大なるオナニーを脳裏に焼き付けるのじゃ。彼が・・・彼こそが、破壊神の真にあるべき姿じゃ!“破壊神王”が降臨されたのじゃ!」
長老は興奮した様子で今迄以上に大きな声で言った。
破壊神の適性。それは決して、ただ破壊して興奮すればいいだけの単純なものではない。相手を虐殺しつつも決して命を軽んじることなく、性器の糧として有難く頂き、罪を背負うのが破壊神の役割。
良心の呵責に苛まれ、ダニのようなちっぽけな存在にすら涙を流す極限の状態で、それすら超越する破壊神の本能で事を致すシアンのオナニーは破壊神としての理想の形そのものであった。
「あ、ああああ!!!・・・命が・・・・気持ちいい・・・ッ!!・・・みんな・・・本当にごめん!!・・・みんなを“使って”、こんな淫らなことを・・・!・・・う、・・・・うあああああああああああ!!」
ピストン運動が更に激しくなる。それに伴い、倒れていたシアンの耳が起き上がったのを長老は見逃さなかった!
「いかん!!・・・みんな逃げるのじゃ!!!我らまで皆殺しにされるぞ!!!早く!!!」
長老に言われてすぐにその意味を理解した成獣の儀の参加者たちは一目散に逃げだす。
その直後だった。
轟音。
そして、
精液がぶちまけられる音。
シアンを中心に途轍もない衝撃が発生し、一瞬で建物が崩壊する。衝撃波は周囲の建物にも波及し、辺りを滅茶苦茶に破壊し尽くした。
破壊神王の射精によって村が消滅してしまったのだ。
もともと破壊神族がスペモン最強クラスの種族で、かなり頑丈にできていることもあり死者こそ出なかったが、重軽傷者は多数。もし長老の判断が少しでも遅かったらかなりの死傷者が出ていてもおかしくはなかっただろう。
何が起きたのか。
それはシアンの種族特性に大きく関係していた。
“よくせいスペモン”ニャオニクス。彼らは惑星すら捻り潰してしまう強大なサイコパワーを身に宿しており、それを解放しないように常に力を抑制している種族だ。
耳の内側にサイコパワーを放出する器官がある為、普段は耳を折って隠している。
長老はその耳の動きを見逃さなかった。
巨大な竿と性欲に抗い、我慢して我慢して解放された快感、射精。精通に伴い理性が外れたと同時に抑制していたサイコパワーが一斉に放出されてしまったわけだ。
集落が消滅したことは残念だったが、しかし、破壊神王の誕生に皆は大いに沸いた。
無事に成獣の儀を終えたシアン。これから地球の管理者として彼が就任する。
それがどれだけ恐ろしいことか、まだ地球に住む80億の人々は知る由もなかった。
おわり