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【無料】ヴァルキューレの狂犬、逮捕しようとしてた男がめっちゃイケメンでメロつく

【カンナ視点】  吹く風の涼しさが、顔の火照りを教えてくれる。  夕方から夜へと移ろっていくキヴォトスの市街。知らずのうちにゆるんでいた表情を引き締め、彼女――尾刃カンナは歩みを進めた。ヴァルキューレ警察学校公安局局長。だが、今日は、その役職を部下に預け、当番として、シャーレで先生の補助を行っていた。  山積みになっていた仕事は、ふたりの努力でまたたくまにその量を減らし、予定よりも早めに終わった。一息ついたところで、先生が「お疲れ様」とコーヒーを淹れてくれた。  そっ、と。  カンナは指先で唇に触れる。コーヒーの味わいが鮮やかに蘇った。ふたたびゆるんでしまいそうになる表情を、咳払いと共に慌てて引き締め直す。ヴァルキューレ警察学校の生徒として、公安局の局長として、どんな状況であっても、威厳のある態度をとらなければいけない。 (まったく、こんなことで浮かれてしまうとは。私もまだまだだな……)  年齢相応の素顔を警官の仮面で覆って、カンナは歩く。  しばらくして、その眉間に皺が生まれた。普通にしていても険のある視線が、さらに鋭く尖る。前方、路地から出てきたひとりの生徒。血色の失せた肌。こけた頬。瞳にぎらつく光。……現在、キヴォトスの各地で不法な薬剤の売買が横行している、という情報と合わせれば、何が起きたのか推察するのは容易だ。  生徒は足早に雑踏に紛れてしまったが、その顔と制服は記憶に刻んである。すぐに身元は割れるだろう。それよりも先に――とカンナは生徒の出てきた路地をのぞきこむ。今は誰の姿もない。だが、路地裏から声が聞こえてくる。  連絡をして、やって来る応援を待っている時間はない。そう判断したカンナはホルスターから拳銃を引き抜いた。安全装置を外す。足音を殺し、狭苦しい空間を進んでいく。慎重に視線を忍び込ませた路地裏――そこにいたのは人間の男だった。キヴォトスでは極めて珍しいが、まったく存在していないわけではない。男はこちらに背を向け、携帯端末を使用して、何者かと会話をしている。 「今週分はもう全部はけた。あんたが言ってた通り、市街のほうが回転がいいな」  空いた手で首筋を掻いて、男は言った。 「明日、ブツを補充しに行くよ。上物をたっぷりと用意しておいてくれ。それじゃ」  通話を終了した男が端末を下ろす。背後まで忍び寄っていたカンナは、銃口を男の背中に据えて、「ヴァルキューレ警察学校だ!」と声を上げた。 「両手をあげて、ゆっくりとこちらを向け!」  まじかよ、と男は溜息を吐き捨てる。即座の諦念。警察の世話になるのはこれが初めてではないのだろう。大人しく両手をあげた男は、緩慢な動きでこちらへと向き直った。 「不法な薬剤を売買した容疑で貴様を――ふえぇ♡♡♡」  鋭い棘を生やした言葉が、突如として無惨に蕩け崩れる。  その理由はひとつ――男の容姿だ。 (か、か、か、格好いい~~~~~~~~~~っ♡)  ばりん、と幻聴がした。それは、カンナが着けていた警察官の仮面が真っ二つに割れた音だ。あるいは、シャーレの先生に抱いていた恋心が砕けた音かもしれない。 (待って♡ やばいやばいやばい♡ この男、格好よすぎるっ♡)  どきどきどきどき、と心臓が高鳴る。全身の毛穴が開き、汗が滲んだ。普段は凛とした光を宿した瞳に、慕情を示すハートがくっきりと浮かぶ。そんな反応を示すのも当然なほど、男は二枚目――イケメンだった。この男に比べれば、シャーレの先生など、道端に転がる石に等しい。同じ男、とみなすのも失礼だろう。 「えっと、その、あの……」  はわわ、と息を乱しながら、カンナは言った。男の顔面を直視できず、あちこちに視線が飛び散ってしまう。突きつけた銃口も、ふらふらと狙いを迷わせた。 「危ない薬を売るのは……法律に違反してて……だから……捕まえなきゃいけなくて……」  必死に紡ぐ言葉の内容は、情けなく震える声よりもなお弱々しい。  つかの間、男は怪訝な表情をしていたが、すぐに「そういうことか」と笑みを浮かべた。上げていた手が何の断りもなく降ろされる。命令に背かれても、カンナはあぅあぅと狼狽したまま、何も言うことができない。 「きみ、尾刃カンナだよね。ヴァルキューレ公安局長の。知ってるよ。『ヴァルキューレの狂犬』は有名だからね」  男が自分を知っていた。その嬉しさに、心臓が大きく跳ねた。 「カンナちゃん、俺のこと好きになっちゃったんでしょ」 「ち、違う。そんなわけ――」 「違わないでしょ。だって、恋する女の顔してるよ?」  恋。その単語の的確さが、カンナを限界まで赤面させる。頭頂から、ぼふっと煙が立ち上りそうな、猛烈な照れ方だった。腕がへにょへにょと力を失い、牙を剥いていた銃がうなだれる。  あーあ、と男が言った。 「警察学校の生徒のくせに、公安局長のくせに、俺みたいなやつに一目惚れしちゃったんだ。まずいんじゃないの、それ」 「してないっ。こ、こ、恋なんてしていないっ。絶対にしてないもんっ……♡」  カンナは言う。だが、その声は胸焼けしそうに甘く、「恋してまーす♡」と主張しているようにしか聞こえない。 「否定してもバレバレ。完全に俺にメロつきまくってんじゃん」  にやり、と男が歯を見せる。 「それじゃ、こうしよっか。もし見逃してくれたら、俺の恋人にしてあげるよ」 「こ、恋人っ!?」 「そう。なりたいよね? 大好きな男の恋人。そのためなら、多少の悪事には目をつぶってもいいんじゃないかな。仕事と俺、どっちが大切か、考えてみてよ」 「ええと……でも……でもぉ……」  そんなことができるわけがない。この男を見逃す。それは、薬の蔓延を助長することに等しい。警察官の身でそんなことが許されるわけがない。だが、しかし、それでも――カンナには拒絶の言葉を口にすることが、どうしてもできない。それを口にするには、この男はあまりにも魅力的すぎる。  男がカンナの横に並び立った。その腕を彼女の肩に回し、豊満な乳房を鷲掴みにして、それを揉みしだき始めた。「あっ♡」という驚きの声がカンナの喉から迸った。やめろと怒声を発する。体を突き飛ばす。手を払いのける。……そんなことは思いつきもせず、カンナはただ男のなすがまま、乳肉を弄ばれ続ける。熱い息遣いのあいまに「お手々……おっきいよぉ……♡」という感嘆が漏れた。 「こんなことされて嫌がらずに喜んじゃうんだから、答えはもう出てるでしょ。それ、大人しく認めちゃいなって」  男はカンナの耳に唇を寄せた。そして、 「……さっさと俺の女になれよ、カンナ♡」  ひときわ低音を効かせた囁きが、カンナを直撃する。 「ひゃ、ひゃいっ♡」  不規則に下肢を震わせながら、カンナは返事をしていた。 「なる♡ なります♡ 全部ぜんぶ見逃して――あなたの恋人になりますっっっ♡」  警察官としての矜持を投げ捨てた、全力の恋人宣言。だが、敗北感はなかった。こんなイケメンを相手にして、女が勝てるわけがないのだ。手指が力を失い、かろうじて握っていた銃が足元に落ちた。頭頂では犬耳がぺたんと倒れ、恭順の意思を示す。 「恋人になった記念に――」  男の顔がカンナの顔に近づき、唇が唇に重なる。ふれあいはほんの一瞬。だが、初めて味わう感触は、その一瞬で、カンナの脳を蕩けさせてしまった。脳だけではなく、顔までもが見るも無惨に崩れている。 「えへ……えへへ……♡ ちゅー、してもらっちゃった……♡」  頬に両手をあてがって身を悶えさせるその姿は、とても『ヴァルキューレの狂犬』と呼ばれている女性のそれではない。男の顔を見てからわずか数分のうちに、狂犬は牝犬へと変えられていた。 「それじゃ、行くか」  カンナの腰を抱いて、男が歩き始める。カンナはそれに調子を合わせ、足を動かした。そうしながら、おずおずと尋ねる。 「あの、行くって、どこに……?」 「あ? 決まってんだろ。俺の部屋だよ。キスの続き、そこでしてやるよ。その前にコンビニに寄って――と思ったけど、キヴォトスのコンビニって避妊具売ってないんだよな。女しかいないから当然か。面倒くさいからナマでやんぞ」 「~~~~~~~~~~~~~~~っ♡」  中出しの宣告。その喜びが、カンナから言葉を奪う。彼女は男の腕を抱き、彼と共に歩みを重ねた。もしもその後ろ姿を見る者がいれば、ぶんぶんと激しく振られる尻尾を幻視したに違いない。  あ、と男が言った。 「部屋に着いて色々済ませたら、プレゼントやるよ」 「プレゼント? 何?」 「それは……『すごくいいもの』かな」 「えー。何だろ。楽しみ♡」  いちゃいちゃと睦み合いながらふたりが去り、後にはカンナの拳銃だけが残される。  持ち主に忘れ去られ、虚しく地面に転がるそれは、甲虫の死骸のように見えた。 (続き→ https://ringokidjp.booth.pm/items/7116588 )

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