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【冒頭無料】【悲報】有栖川夏葉さん、大金払ってドキドキおうちデート(小宮家)を楽しんでしまう

■ (来ちゃった……)  来てしまった。  彼女は、己の罪深さを噛みしめる。自分をここまで乗せてきたタクシーが、排ガスの匂いを残して走り去っても、しばらくはそのまま立ち尽くしていた。  有栖川夏葉――優美なうねりを描く明るい茶色のロングヘアー。どこまでも白く滑らかな柔肌。どんな宝石にも勝る美しさを誇る両目。ただ立っているだけでも感じられる高貴な雰囲気は、国際的な企業の頂点に君臨する有栖川家、その令嬢なればこそのものだろう。  彼女は、オーディションを経て芸能事務所に所属し、アイドルとして活動している。まだ新人ながら、その端麗な容姿と明晰な頭脳、そしてまれに垣間見せる稚気は、多くの人間の心を掴んでいる。彼女がアイドル業界のトップに立つ日もそう遠くはないはずだ。  今、眼前に建つ家は、夏葉と同じ『放課後クライマックスガールズ』のメンバー、小宮果穂の自宅だ。夏葉は現在二十歳。果穂はそれより八つ年下だが、ふたりは気のおけない友人――いや、親友以上の関係だ。しかし、今日、夏葉は果穂に会うためにここにやってきたわけではない。 (ごめんなさいね、果穂……)  心のなかで紡ぐ謝罪は、自分でも恐ろしくなるほどに軽々しい。そんな自分に慄然としながらも、夏葉はバッグから取り出したスマートフォンを手鏡代わりにして、身だしなみを整える。今日の服装は肩出しのニットワンピース。ボディコンシャスな藍色の生地は、しなやかでありながらも女性らしさを備えた体つきを夏の日差しに浮き彫りにしている。  夏葉はスマートフォンをしまった。どきどきどきどき、と心臓を高鳴らせながら、玄関扉脇のインターフォンを押す。屋内に響く呼び出し音。ややあって、扉が開き、ひとりの少年が顔をのぞかせた。 「いらっしゃい」  彼は笑みを浮かべて夏葉を出迎える。 「こ、こんにちは……っ」  会場を埋め尽くす観客、手厳しい審査員、映像を万人に送るテレビカメラ……どんなものを前にしても堂々と振る舞う彼女の声が、今は情けなく上擦っている。その手は、関節が白むほど強くバッグの紐を握り締めていた。 「どうぞ、あがって」と促され、夏葉は家へ足を踏み入れた。緊張のせいで、動きはひどくぎこちなくなってしまう。見知っているはずの小宮家が、見知らぬ場所に感じられる。  リヴィングに通された夏葉は、彼と並んでソファーに座った。彼の体から漂ってくる香りが胸を締めつける。吐いた感嘆の息は、喉が焦げるほどに熱かった。 「今日はありがとう。あなたと一緒にいれて、私、とっても――」  待って、と彼は夏葉の言葉を掌で制した。その掌が上に向けて突き出される。 「まずはお金を貰えるかな? お金」  その顔も声音も愛想を失っていない。しかし、彼から伝わってくる温度はひどく冷たいものへと変わっている。それは夏葉の心臓をその真芯まで凍りつかせた。 「ご、ごめんなさい。そうよね。まずはお金よね。うっかりしていたわ」  夏葉は慌ててバッグを開く。封筒を取り出し、うやうやしく彼の掌に載せる。彼はその中に収められていた紙幣を引き出し、一枚ずつ数え始めた。十五枚。間違いなく十五万円あるのを確認した彼は、それを雑に折りたたみ、ズボンのポケットにしまった。 「いつもありがと。俺、夏葉さん大好き♡」  瞬時に温かさを取り戻した彼が、夏葉の頬に唇を寄せる。ちゅっ、と可愛らしい音が弾けた。たちまち、夏葉の顔が真っ赤に染まった。ぼふっ、と頭頂から白い煙があがりそうな、猛烈な照れ方だった。しかし、仕方がない。だって―― (だって……この子、イケメンすぎるんだものっっっ♡♡♡)  はぅ、と吐いた溜息は、喉が焦げつきそうに熱い。彼を見る夏葉の目――普段は凛とした光を宿す瞳は、今、色情をぐるぐると渦巻かせていた。顔が格好いい。体が格好いい。声が格好いい。その男らしさを鑑みて、『格好いい』ではなく、『強い』と表現したほうがいいかもしれない。強い。外見の何もかもがあまりにも強すぎる。  彼は果穂の兄。夏葉は彼と体の関係を持っている。ふたりを結びつけているのは愛ではない。金だ。一回のデートにつき十万円。それが彼の提示した条件だった。当然、デート中の諸費用はすべて夏葉持ちだ。わずか二ヶ月のあいだに、彼女はすでに百万円以上を彼に注ぎ込んでいる。もちろん、果穂はふたりの関係を知らない。知られるわけにはいかない。 「あの、本当に大丈夫なのよね?」  何が、とは言わない臆病な問いかけに、夏葉に少年は微笑んだ。 「果穂はマメ丸と一緒に友達の家に遊びに行ってる。両親は親戚の引っ越しの手伝い。だから、夕方まで俺とおうちデート楽しめるよ」 「おうちデート……」  その響きに、夏葉は相好を崩す。  今度、家にひとりきりになる日があるから、プラス五万円のオプション費用を払って家でデートをしないか――前回のデートで彼にそう誘われた時、夏葉は目を輝かせて、「するする~っ♡」と答えていた。 「今日の夏葉さん、つけてる香水がいつもと違うね」  彼は夏葉の首筋に鼻を近づけ、息を吸い込んだ。羞恥に苛まれ、夏葉は「やん♡」と甘い声をあげながら身を悶えさせる。こんなところ、ファンたちが見たら卒倒どころか憤死するだろう。だが、仕方がない。夏葉がメスの部分を剥き出しにしてしまうほど、この少年はオスとして強いのだ。 「だって、今日はこうしてあなたの家で過ごす特別な日でしょう。だから、特別な香水を選んだの。どうかしら? 嫌いな香りじゃないといいのだけれど――」 「すごくいい匂いだよ。それから、今日着てる服もめっちゃ好み」 「そう言ってくれて嬉しいわ。あなたはこういうのが好きかな、って思って買ったの」 「こんな可愛い服脱がせちゃうの、もったいないな」 「もうっ。エッチなんだから……♡」 「ごめんね。夏葉さんと一緒にいると、ついそういうこと考えちゃう」 「あなたと一緒にいると、私もいやらしいことばかり考えてしまうわ」 「どんなこと?」 「例えば――その、キスしたいな、とか♡」  えへへ、と笑って、夏葉は目と唇を軽く閉じた。キス待ち顔にねだられ、少年が彼女と唇を重ねる。絡まる舌と舌。混ざり合う唾液。切なく鼻を鳴らしながら、夏葉が彼の体を抱きしめると、彼も夏葉を抱きしめ返してくれた。 「んっ♡ ちゅっ♡ んむぅ♡ んちゅ♡ ……はぅ♡ 好き♡ あなたのこと、世界中の誰よりも好きぃ♡」 「俺も夏葉さんのこと世界一大好きだよ。ほら、もっと舌絡めて。愛情確かめ合お?」  世界一大好き。そんなこと、実際は思ってはいない。それはわかっているのに、全身の血が喜悦で沸騰する。コンセプトカフェやホストクラブに通い詰めて破滅してしまう女性たちの気持ちが、痛いほどによく理解できた。これは夢――目を醒ましたまま見ることのできる夢なのだ。普段は夏葉がファンたちに見せている幻覚を、今、彼が夏葉に見せてくれている。 「ふぁ~い♡」と蕩けた返事をした夏葉は、舌の蠢きにあらん限りの熱をこめた。舌の根が蕩け合うようなディープキス。爽やかな日差しの注ぐリヴィングに唾液の音が淫猥に粘りつく。いつもはこの場所で果穂が無邪気に過ごしているのだ、と考えると、総身の毛が逆だった。 (ああっ。私、なんて最低なことをしているの……)  自分を責めながらも、夏葉は最高の男性が与えてくれる最高の淫夢を貪り続けた。 ■ 「それでね、そのディレクターがね、すごく失礼で――」  甘ったるい口調で夏葉が口にするのは仕事の愚痴だ。事務所の人間には決して漏らせないが、彼が相手だと話せてしまう。聞いていて気持ちがいいわけはない内容だが、すぐ隣に座る彼は、嫌な顔ひとつせず、夏葉の話に耳を傾けてくれた。 「でもね、相手は大物でしょう。だからプロデューサーも何も言ってくれなくて――結局、そのまま有耶無耶になってしまったの。信じられる?」  睦み合う代わりに、ふたりは掌を重ね、絶え間なく指をじゃれあわせている。問いかけられた彼は、答えに先んじて、夏葉の掌をぎゅっと握った。 「ありえないね。話聞いてて思ったんだけど、プロデューサーさんって情けないよね。俺だったら、夏葉さんにそんな不愉快な思い、絶対にさせないのにな」 「本当にあなたがプロデューサーならよかったのに……」  あんな男に恋をしていた時期があった、というのが信じられない。おそらくは、自分をアイドルにしてくれたことへの感謝を恋愛感情と錯誤していたのだろう。今ではもう、一緒にいても、男としてのグレードの低さに不快感を感じるばかりだ。  ちら、と時計を見る。夏葉は名残惜しさを曳きながら掌を離した。 「ごめんなさい。長々とつまらない話をしてしまったわ」 「いいんだよ。それで夏葉さんが少しでも楽になれるなら」  なんて優しいのだろう、と夏葉は感動に打ち震える。確かに、自分と彼はお金の関係だ。だが、今恋愛感情を抱いてないからといって、将来的にもそうだとは限らない。可能性は充分にあるはずだ。でなければ、こんなに優しく接してくれるわけがない。自分への感情を育むため、もっと彼に尽くさなければ、と心に誓う。 「そろそろ昼食の時間ね。何か頼みましょう。何がいいかしら」 「デリバリーも悪くないけど、それより、夏葉さんが作ってくれたものが食べたいな。愛情たっぷりの手料理。贅沢過ぎるかな?」 「私、料理はそこまで得意ではないけど、それでもいいのかしら?」 「もちろん。美味しい料理じゃなくて、夏葉さんが作ってくれた料理が食べたいんだよ」  そう言われては絶対に断れない。夏葉は台所へ行き、冷蔵庫の中身をあらためた。食材を考慮して、ナポリタンスパゲッティとサラダチキンのシーザーサラダを作ることにする。夏葉が料理をしている最中、彼はテーブルに着き、スマートフォンを弄りつつ、彼女の姿を眺めていた。  気合が入りすぎたせいだろう。パスタに絡めるソースに塩が効きすぎてしまった。だが、出来上がった料理を食べた彼は「とっても美味しいよ」と褒めてくれた。その心遣いがたまらなく嬉しくて、夏葉は両脚をテーブルの下でぱたぱたと暴れさせた。 「こうしてると、同棲カップルみたいだね、俺たち。ていうか、新婚夫婦?」  彼がそう言うと、夏葉の両脚はさらに激しく暴れた。本当にそうなれたら、どれだけ素敵だろう。考えるだけで、口元がほころぶ。献身の決意がますます強固になった。  料理を食べ終えて、皿を洗っていると、後ろから彼に抱きしめられた。 「それ片づけたらさ――」  耳に寄せられた唇が囁く。ぞくぞくぞく、と全身を甘い痺れが襲った。ぎゅっと握り締めたスポンジから溢れた泡が、シンクに垂れ落ちる。 「今度は俺の部屋行こっか♡」  尻にぐりぐりと押しつけられる肉棒の硬さを感じながら、夏葉は「……ん♡」と頷いた。 (続き→ https://ringokidjp.booth.pm/items/6554192 )

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