■ 「ほら、何してんの?」 床に仰向けになった真央が雅史を急かす。 広げられた両脚。股間に伸びた右手――その指が陰裂を広げている。汁気たっぷりの膣はひくひくと蠢動し、愛液と精液の混ざりあった匂いを漂わせ、男を誘っていた。そこに視線を向けたまま、雅史は動かない。しかし、彼の一部はひっきりなしにいなないている。焦らしに焦らされた結果、短小ペニスは凶暴な衝動を充填され、炸裂の時を今か今かと待ちわびていた。腫れ上がった亀頭。鈴口から垂れる涎。赤黒の血管が浮かびあがらせた細い幹。短小であるからこそ、そこにみなぎるオスの欲望が際立っていた。 「ねえねえ、挿れないの?」 指使いで陰裂を開閉させながら真央は言う。それだけで、漂う芳香が強くなった。それを吸いこんだ雅史は、ごくりと喉を鳴らして生唾を呑みこんだ。挿れたい。しかし、挿れたら最後、出してしまう。あと一度でも射精したら、彼のペニスはもう勃起することはかなわないだろう。そうなれば、自分は真央の望むとおりに改造され、翔太は海外の変態に売り飛ばされてしまう。それがわかっているのに、挿れたいと強烈に欲してしまう。漂う香りがその欲望をさらに掻き立てた。 「まおっちのこと、イかせるんでしょ♡ だったら、早く挿れないと♡ ずっぷぅ~って挿れて、ずこずこ♡ ぱこぱこ♡ しないと。やーん♡ こんなバッキバキのおちんちんで責められたら、まおっちすぐイッちゃうかも~♡」 真央の言葉に続き、観客たちも「早くしろ」「挿れろ」と囃し立てる。 そうだ、と雅史は思う。自分が射精する前に、真央を絶頂させればいい。そうすれば自分と息子は助かる。射精したいから真央に挿入するわけではない。自分と息子を救うため、仕方なく真央に挿れるのだ。果たして、自分に今の真央を絶頂させることができるのか――根本的な問題からは目を反らして、雅史は己に言い聞かせる。 都合のいい言い訳に、彼の唇の端が、ひくり、と卑しく動いた。 「い……挿れる……。挿れるぞ……っ」 真央にではなく自分にそう言って、雅史は体を動かした。真央の両足に手を添えて、短小を陰裂にあてがう。ぴと、と触れた亀頭から伝わってくる温度は、火傷しそうに高く感じられる。その熱に脳髄を灼かれ、雅史の喉から焦げた息が絞り出された。すでに一度挿入したからこそ、その感触の極上ぶりが彼をおののかせる。 いや、一度ではない。真央とはこれまでに何度も愛し合った。それなのに、そんなふうに思ってしまうのは、今、目の前にいる女が彼の知る真央とはまったくの別人だからなのだろう。まおっち。そんなふうにこの女を呼んでいる自分を想像してしまい、慄然とする。夫として長年連れ添ってきた自分までもが真央が「真央」であることを否定してどうするのか。何があったとしても、自分は真央を真央と思っていなければいけない。 何も恐れる必要はない。自分がこれから挿入するのは、もう何度も挿入したことのある真央の膣なのだ。絶頂させたことだって、数えるほどだが、ないわけではない。大丈夫だ。すぐに精液を漏らしたりはしない。――己に言い聞かせながら、雅史は腰を動かし、勃起を真央の膣へと侵入させていく。 徹底した寸止めによって敏感になったペニスは、どういう意味でもすでに知っているはずの真央の膣壁の感触を過大に受け取ってしまう。気持ちいい。気持ちいい。気持ちいい。感激で意識が埋め尽くされる。痛みを感じるほどに強く鳥肌がたち、まったく治まらない。 わずかに残った義務感を振り絞って、雅史はペニスを突き入れていった。ほんの十数センチの距離があまりにも遠い。それでも、目を剥き、歯を食いしばって、彼はどうにか射精せずに根本まで挿入を果たす。反射的に「ほっ」と安堵の息がこぼれた。同時にこみあげるのは恐怖――挿入するだけでこんなにも快感を味わってしまうのだ。ずこずこ♡ ぱこぱこ♡ 腰を動かしたら、どれほど気持ちいいのか。鳥肌による痛みが刺すようなものへと変わってもなお、彼のペニスは硬い状態のまま変わらない。むしろその硬度はさらに増している。 「ほら、早く動けよ。う♡ ご♡ け♡」 楽しげに真央が急かす。今回、彼女は一切動かないつもりらしい。それはつまり、雅史自身に彼の運命を決めさせようとしている、ということだ。あまりにも悪趣味すぎる。どうして、あの清純だった真央がそこまでねじ曲がってしまったのか。わからない。もしかすると、これこそが彼女も気づかなかった彼女の本当の姿なのかもしれない。でなければ、この短期間でここまで変わってしまうことはありえないのではないだろうか。 ならば、雅史が思う「真央」は、虚妄――勘違いの産物に過ぎない。思い浮かんだその考えを受け入れるには、雅史はあまりにも長い間その勘違いを抱き続けてしまっている。振り払おうとも頭に絡みついて離れないその思考の矛先は雅史のほうにも向いている。 真央が「真央」でないのかもしれないなら、雅史もまた「雅史」ではないのかもしれない。自分が知る自分が正しい保証など、どこにもありはしない。そもそも、そこまで確かな自分が存在するという考えこそが妄想なのかもしれない。 思考の霧に沈み迷いそうになる雅史を叱咤するように、彼のペニスがびくびくといなないた。ほんのわずかな摩擦でも、体が裏返りそうなほどの快感が生まれ、雅史のすべてを責めさいなむ。だが、雅史は動かなければいけない。それが義務感のためなのか、欲望のためなのかは、自分でももうわからなかった。 「う、動くぞ……」 雅史は、そして、ようやく腰を前後に動かし始める。その動きは、地雷原を這うように弱々しい。前……後……前……後……あまりにも緩慢な抽挿に、観客たちからブーイングがあがった。「いやいや」「それはないっしょ」「もっとがんがん突いてやんねーと」「まおっちのことイかせなきゃいけないってわかってる?」そんな声は、激感に震える雅史の耳には届いていない。 極上の締めつけに煽られ、刻一刻と膨れ上がっていく射精欲求が、父として、夫としての意識とぶつかりあい、火花を散らしている。先程は真央たちによって行われた寸止めを、今度は自分で行わされている――己を囚える地獄を作り出すことを強いられているのだ。 「くっ……ああ……。く、そ……っ」 葛藤に苦しむ雅史を、真央は黙って眺めている。案の定、少しも快感を得ている様子はない。今にも口笛を吹き出しそうな余裕の表情だった。視覚から全身へと広がる敗北感が、射精欲求を一段と大きく膨らませる。どうせ、自分は勝てはしない。それならば、もう諦めたほうがいいのではないか。観念して、こみあげる快感に溺れてしまったほうがいいのではないか。そんなふうに考えてしまう。しかし、駄目だ。抗う気持ちを捨ててはいけない。自分は家族を守る――父親なのだ。父親が気を強く持たなくてどうするのか。 しっかりしろ、と自分に言い聞かせる言葉は、膣壁が与えてくる快感にたちまち蕩けてしまう。肉体的な快感だけではない。現在の真央のすべてが彼の脳を茹で上がらせる。豪奢な金髪、年甲斐もないギャル風のメイク、呆れるほど巨大な乳房、熟れに熟れた爆尻、怒涛のように溢れかえる肉感が無言のうちに誇示する男性経験……かつての楚々とした真央も美しかった。しかし、今の真央の魅力はそれをはるかに上回る。肉食獣――いや、導火線に火のついた爆弾と交わっているような錯覚に襲われる。 しかし、今、爆発しそうになっているのは真央ではなく雅史のほうだ。 「ねえねえ」 と、真央が話しかけてくる。 「そんなふうに動いてても、つらいだけっしょ♡ だから、もっと思いっきり動いちゃお♡ ぱんぱん、って腰、叩きつけちゃお♡ そんで、ザーメン、どびゅどびゅーって全力でお漏らししちゃお♡ 子どもなんて捨てて……新しく生まれ変わっちゃお♡ ね? ね? ね?」 悪魔の囁きが、脳を蝕む。促された想像に崩れそうになる表情を、雅史は必死に取り繕った。何も考えず、欲望の赴くままに動く――それはできない。そんな生き方を、これまで雅史はしてこなかった。常識と良心。そのふたつが彼の行動の指針だった。それは、真央も同じはずだ。その真央が、そんなものは捨ててしまえ、と誘惑してくる。受け入れることができないからこそ、その誘惑は甘美なものに感じられる。 「だ……駄目だっ。そんなこと……で、できない……っ」 「もー♡ 真面目すぎー。『できない』とかじゃなくて――『したい』か『したくない』かっしょ♡ もっと人生楽しめ☆」 「ま、真央……君は……翔太がどうなってもいいのか……。僕は……どうなってもいい……。でも翔太は……翔太、だけは……っ」 翔太を売り飛ばすと決めた相手に、雅史は言う。この状況では、もはや、真央の母親としての意識に――真央にわずかでもそんなものが残っていると期待することしかできない。翔太が生まれた日のことが蘇る。医師もよく耐えたと褒め称えるほどの難産。翔太を抱く真央の姿には、神々しさすら感じるほどの優しさに満ちていた。「あなたそっくりね。嫉妬しちゃうわ」と言って笑っていた彼女の顔は決して忘れられない。そんな真央ならば、きっと、あるいは、もしかすると――そんな期待は、しかし、すぐさま粉微塵に打ち砕かれてしまう。 「はーい。どうでもいいでーす♡」 溌剌とした笑顔で真央は言った。断言した。 「言ったっしょ。あれは失敗作。黒焦げになっちゃった料理はどうする? とーぜん捨てるでしょ。作り直すでしょ♡ だから、一緒に家族作り直そ♡ まあその前に、お前を作り直させてもらうんですけど。大丈夫。安心して。ガチでつよつよのイケメン君にしてあげっから」 「真央……君は……!」 母親として恥ずかしいと思わないのか、という激怒は、真央の一点の曇りもない笑顔の前に萎んでしまう。こんな笑い方ができる女は、もう母親ではありえない。母親ではないものに母親としての咎を責めたところで意味はない。常識や良心どころか、ひととしてあるべき倫理すら放り捨てたその姿は、「メス」としか形容しようがないだろう。 第一、自分に彼女を責める資格があるのか。家庭を守るためとはいえ、他の男に妻を差し出した自分は、とっくに父親としての視覚を失っていたのではないか。そうとも気づかず、これまで演じていた役を演じ続けていたに過ぎないのではないか。 いつの間にか弱くなっていた腰の動きが、やがて止まる。己の愚かさが、今更ながら、雅史を打ちのめしていた。光を失った瞳でうなだれる雅史を見上げ、真央が忌々しげに舌打ちをする。 「てめーコラ。何勝手に腰ヘコやめてんだよ。ったくもー。仕方ないなー。誰か、まおっちのスマホ取ってくれん? ――そうそう。それ。ありがと♡」 観客のひとりが、ソファーに置きっぱなしになっていたスマートフォンを真央に手渡す。数度のタップを経て、真央はその画面を雅史に向けた。「ほら見て♡」と言われて突きつけられた画像に、雅史の喉が完全にすぼまった。 「撮って送ってくれって言ってたやつ。これ見て、どうするか、よく考えよっか。――じゃなくて、考えるのやるかどうか、決めよっか♡」 そこに写るのは自室のベッドに居心地悪そうに座る翔太。両脇に密着してはべるのは、彼をリヴィングから連れ去ったふたりの女だ。女のひとりの姿勢から、この画像がインカメラで撮影されたものであることがわかる。女たちは満面の笑みを浮かべているが、翔太の顔は引き攣ったまま固まっている。 しかし、真央の指がスワイプで招いた次の画像では、翔太の表情はほぐれ、目元や口元に笑みを兆している。彼が手にしているのは酒の缶――プルタブは引き開けられている。間違いなく、女たちに飲まされているのだろう。彼女らも、それぞれ酒の缶を手にしている。翔太が手にしている酒だけアルコール度数が低いものなのは、彼女たちなりの気遣いだろうか。だからといって、もちろん、許せるわけではない。何を考えているのか、と声をあげようとしたところで、真央の指が画面を滑った。 表示された画像の中、翔太が女のひとりに抱きすくめられ、唇を奪われている。その次の画像では、もうひとりの女に――。また次の画像では、服をめくりあげた女の乳房を揉み、その次の画像では女の乳房に吸いついている。……飛び飛びに記録されているのは、無垢な息子が激甚な速度で大人の階段を登っていく――登らされている様子だった。いや、やはり自ら「登っていく」という表現こそが正しいだろう。女たちにされていることを少年がどれほど喜んでいるか、楽しんでいるかは、すっかり蕩け崩れた表情が教えてくれる。 「あんなにちっちゃくてもやっぱり男なんだねー。ていうか、オス?」 そんな真央の嘲笑も、今は遠くにしか聞こえない。雅史の目は、スマートフォンに釘づけだ。裸に剥かれる翔太。乳首を責められて喘ぐ翔太。フェラチオを受けて喉を反らす翔太。手淫を受けている翔太。弛みきった笑みで避妊具を装着してもらっている翔太。そして――正常位で女と繋がり、腰を振りたくる翔太。騎乗位で女と繋がる翔太。後背位で女と繋がる翔太。……スワイプのたび、周囲に散らばる避妊具と空き缶の数が増えていく。それにあわせ、翔太の顔つきも、雅史が知るものからは離れていき、真央が揶揄した通り、オスのものへと変わっていく。それが翔太に眠っていた彼の本性なのか、あるいは性的な体験が少年をそう変えてしまったのか――そんなことはどうでもいい。そんなことは今は考えられない。 自分は圧倒的な性感を味わえず、それどころか拒絶するしかないというのに、翔太は思う存分性を謳歌している。強烈な嫉妬に、ぎりっっっ、と歯が軋った。そんなふうに思ってはいけない。それはわかっている。しかし、思わずにいられない。この子は守るべき対象だ。その守るべき対象が、自分が味わえない愉悦にどっぷりと溺れ狂っている。本能から湧き上がる嫉妬が、雅史の体温を急激に上昇させた。掌が硬く拳を作るが、そんなことをしても、激情を握り潰せはしない。 もう見たくない。見たくないはずなのに、画面から視線を外せない。そして次に呼び出されたのは画像ではなく動画――そこで、翔太は今の雅史と同じ正常位で女と交わっていた。腰の動きは、雅史から見ても稚拙で、滑稽なほどに激しい。それだからこそ、彼の得ている悦楽の凄まじさが伝わってきた。 『翔太くーん、セックス気持ちいい?』 カメラを構えている女の質問に、翔太は『気持ちいいっ』と答えた。 『せっくす気持ちいいっ♡ せっくす♡ せっくす♡ せっくす♡』 もちろん、そのあいだも、かくかくかくかくかくかくかくかくと前後する腰は止まらない。止まるわけがない。荒い呼吸。息とともに漏れる『ふひっ♡』『はひっ♡』という笑いは、一切の知性を感じず、耳を塞ぎたくなるほどに卑しい。指が食い込むほどに強く女の尻を抱えて全身全霊を尽くして悦楽を貪るその姿は、色欲に溺れ狂ったオス――色餓鬼にしか見えない。 『ああっ♡ 出るっ♡ 出るっ♡ せーしっ♡ せーし出るっ♡ 出っ……りゅうううううっっっ♡』 白目を剥いて全身を痙攣させる翔太。生殖本能がそうさせるのだろう、己の腰を女の尻にぐりぐりと押しつけている。ぶびゅるるるるっ♡ という汁気たっぷりの発射音が聞こえてきそうな、そんな射精だった。こんなふうに思う存分射精できたのなら――という嫉妬が、また雅史の歯を軋らせた。 『はぅ……♡』 射精を終えた翔太は、未練を色濃く曳きながらも女の体から離れる。射精を経てなお一丁前に勃起し続けている肉棒――そこに装着された避妊具には、肉棒の大きさからは考えられないほど大量の精液が吐き出されている。挿入を受けていた女が体を起こし、翔太のペニスから避妊具を外し、口を縛って無造作に放り捨てた。 ねえ、とカメラを構えた女が言う。 『もういっぱいしたし、そろそろ終わりにしようと思うんだけど――翔太くんはそれでいいかな?』 終了の宣告が、快感の余韻に呆けていた翔太の顔を一気に凍りつかせる。『それはっ』という切迫した声を押し留めて、女は続けた。 『もしかして、もっとしたい? もっとお姉さんたちとセックスしたい?』 狂ったように頷く翔太。それに同調するように、ペニスがぴくぴくといなないていた。剥き出しの鈴口から、押し出された精液の残滓が垂れ落ちる。女たちの容姿はどちらもかなりのもの。翔太レベルの容姿では、彼女たちのような女とこうして交わる機会はない――翔太自身はまだよくわかっていなくても、オスの本能がそれを悟り、降って湧いた幸運を逃すまいとしているのだ。 『いいよ。じゃあ、もっとセックスしよ♡』 挿入されていた女が翔太に擦り寄り、その耳に囁く。 『その代わり――お願いしたいことがあるの。いいかな?』 『お、お願い……?』 『そう。あのね、もしもっとお姉さんたちとセックスしたいなら――お姉さんに、パパのこと、ぶん殴らせてくんない? あのおっさん、むかつくからボコボコにしたいんだ♡』 『パパを……ぼこぼこ……』 きゃはは、と女は笑った。朱色に塗られた爪が、翔太の乳首をカリカリと刺激し始める。翔太は眉間に皺を寄せ、悩ましげに上体をくねらせた。『あふっ♡』という声の気色悪さは父親からしても鳥肌がたつ。カメラを構えた女がくすくすと笑いを漏らし、『きっしょ』と呟いていたが、おそらく翔太には聞こえていないだろう。 『お姉さんたちとのいちゃらぶセックスと中年のおっさん、どっちが大切か、頭のいい翔太くんならすぐにわかるよね?』 『お姉さんたちは――』カメラを構えた女も、撮影を続けながら翔太に擦り寄る。『もっといっぱい翔太くんとエッチしたいな~♡』 『翔太くんも同じだよね? お姉さんたちと、あんなこと、こんなこと、たくさんしたいよね? だったら、パパのことくらいボコボコにしてもいいよね?』 『パパのことボコボコにしてください、って言ったら、コンドームなんて使わないで、直接させてあげる♡ 生のおちんちん挿れて、お姉さんたちの中に思いっきりぴゅっぴゅっぴゅーってしたら、絶対気持ちいいよ♡ もしかしたら、翔太くんとお姉さんたちの赤ちゃんができちゃうかも♡』 『早く決めて♡』『翔太くんが許可したってことは内緒にするから。ね♡』『パパのことボコらせて♡」「ボコらせて♡』『ていうか、やりすぎて殺しちゃうかも♡』『ほらほら♡』『どうすんの、翔太く~ん?』『やるの? やんないの?』『ていうか、翔太くんは何をしたいの?』――次々と注がれる甘い囁きが、性を覚えたての少年の脳を膿み腐らせていく。急速に失われていく瞳の輝き。その代わり、顔に欲望が強く滲み出た。 『それは……僕は……』 ひくひくといななく唇端が、言葉を発するよりも先に、少年の意思を表明していた。 『パ、パパのこと……ボコボコ……ボコボコにしていいですからっ。僕とせっくすっ♡ せっくすっ♡ せっくす♡ せっくすううううっ♡』 その瞬間、ぎっっっ、と音がした。画面の中の音ではない。噛み締めすぎたせいで、奥歯が欠けてしまったのだ。それを憂うような余裕は、雅史にはない。雅史がここまで苦しんでいるのは翔太を守るためだ。その翔太がこれほどまでに簡単に自分を売り渡した。女たちが殴るまでもない。その事実が雅史をすでに充分に叩きのめしている。 あはは、と画面の中でカメラを構えた女が笑う。 『いいの? 大好きなパパ、ボコボコにしちゃって本当にいいの?』 『は、はいっ。いい、ですっ』 『当然だよね』ともうひとりの女が言う。『翔太くんが大好きなのは私たち♡ パパのことは好きなんかじゃないんだもんね♡ 大嫌いなんだもんね♡』 『はいっ。好きなんかじゃないですっ。嫌い、ですっ』 性欲による狂乱を瞳に渦巻かせながら、翔太は断言した。 落ち着け、と雅史は自分に言い聞かせる。これは真央によって計画されたものだ。翔太はこんなことを思ってはいない。性悦を餌に、そう言うように誘導されただけに過ぎない。それはわかっている――わかっているはずなのにどうしてもそうは考えられない。好き放題に性悦を貪る翔太への嫉妬が、そう考えさせてくれない。自分は翔太を愛している。しかし、翔太は果たして自分を愛しているのか。いくら性の快感に脳をを灼かれたにしても、ここまで簡単に雅史を売り飛ばすのは、本当に自分を嫌っているからなのではないか。自分たちのあいだにあると信じていた愛情は幻想に過ぎなかったのか。だとしたら、どうしてこんな色餓鬼のために、ここまで苦しい思いをしなければいけないのか。 今度は三人で絡み合い始める翔太たちを映し始めたスマートフォンが視界から消える。その代わりに現れたのは真央の顔。彼女は、「それで、どうすんの?」と尋ねた。 「こんなやつのために苦しむ? それとも――楽しんじゃう?」 どうしなければいけないか。それはわかっている。たとえ勝てないまでも、父親としての矜持を見せ、最後まで真央に抵抗するのだ。間違いなく、真央の目的は勝負に勝つことではなく、雅史の心をへし折ることにある。それが、抵抗の心を失わなかったとなれば、もう構ってくることはないだろう。しかし今――いや、そうではなく、いつだって重要なのは、どうしなければいけないかではなく、どうしたいかだ。雅史はそれに気づいた。気づいてしまった。 夫。父親。そんなもの、邪魔なだけ。ただ己の欲望に忠実であればいい。それが人生で最も重要なことだと、目の前にある真央の笑みが語っていた。雅史の表情が動く。自分では見えないが、きっと真央と同じ表情をしているのだろうと思う。 「僕は……僕は……っ!」 止まっていた腰が、動き始める。 先ほどまでのようなこわごわとしたものではない。欲望を全力で剥き出しにした、力強い動きだ。すぐに射精してしまわないのは、極度の興奮がそのハードルを上げに上げてしまっているからだ。しかし、一切の躊躇のない腰使いはすぐに雅史をそこへと到達させるだろう。その時に訪れる快感がどれほどか――それを考えて、腰使いは殴りつけるように強くなる。 もういい。翔太や自分がどうなろうが、どうでもいい。そんなふうに未来を無責任に放り投げるのがこんなにも爽快なものだとは知らなかった。真央が負けてしまったのも当然だ。こんなものに勝てるわけがない。勝とうと考えること自体間違っている。彼女は悪くない。だから、自分も悪くはない。 「あんっ♡ ちょ――何っ――激しっ♡ んんっ♡ あんっ♡ はっ♡ あっ♡」 完全に油断していたところに与えられる爆発的な突き込みに、真央は声をあげた。余裕はまだ残っているが、動揺は明らかだ。内心の揺れを表して、膣壁がきゅんきゅんと蠢動を繰り返し、出し入れされる肉棒を歓待する。 「おー」「おっさんやるじゃん」「がんばえー」「悪いデカ乳ババアをやっつけろー」「いけー」「やれー」……無責任に声援を送る観客たち。腰使いに合わせて彼らが手拍子を始める。手拍子のリズムが早まっていくと、それにつられ、雅史の腰使いも早くなった。多くの他者と渾然一体になる感覚。熱狂が自他の境界を溶かす。ここに至ってようやく、雅史はパーティーの楽しさを知った。 突き込みの衝撃で、ゆっさゆっさと揺れている豊胸超乳。たまらず、雅史はそこに顔を埋める。柔らかさに顔面を包みながら、その匂いを胸いっぱいに吸い込む。胸を満たすのはかつてのような楚々とした香りではない。強烈な香水の匂い。少し前までは忌まわしかったそれが、今はとても好ましい。嗅いでいるだけで血が一気に沸騰した。 「はっ♡ あんっ♡ やばっ♡ まじで気持ちよくなってきちゃったかも……♡」 真央の体にどこまでも沈み込んでいってしまう――彼女に呑みこまれる。そんな錯覚を覚えながら、雅史は腰を振る。振る。振りに振る。汗ばんだ肌をまとったオスの肉とメスの肉がぶつかりあう音――ばぢっ♡ ばぢっ♡ ばぢっ♡ という音がひたすらに連続した。こんなふうに性行為をするのは初めてだ。自分にこんなセックスができるなんて知らなかった。それはつまり、自分で自分を知らなかった、ということだ。きっとまだまだ、自分の知らない自分がいるのだろう。それを知るのが、今から楽しみでならない。 乳海に溺れたまま、雅史は笑みを浮かべる。 「ああっ♡ 真央……真央……真央おおっ……♡」 「『真央』じゃないっしょ?」 当の本人に言われてようやく、雅史は己の過誤を悟る。雅史が呼びたいのは、妻の名前ではない。自分の人生を変えてしまった女の名前だ。だから、彼は間違っている。そうだ。ここにいるのは真央ではない。ここにいるのは―― 「まおっち♡ まおっち♡ まおっちいいいっ♡」 ふひっ、ふひっ、と笑いを混じらせながら、雅史は叫ぶ。呼び方とは、つまり、その人間をどう認識しているかの表明だ。雅史は真央を「まおっち」と再定義した。そして、そんなふうに再定義すること自体が、自分を定義し直すことでもある。真央が真央ではないように、もう雅史も雅史ではない。では、今は自分は一体何なのか。それはこれから経験する様々なものが教えてくれるだろう。 騒々しい音楽も観客たちの爆笑や手拍子も、真央の喘ぎも、今は聞こえない。新生の歓喜が雅史のすべてを塗り潰している。その歓喜は、腰を動かすたび純度を高め、雅史を刺し貫いた。このままでは壊れてしまう、と思うのに、腰を動かすのがやめられない。なぜならば、今の雅史が望むのは自己の破壊なのだから。 「あんっ♡ これ……まじで……イッちゃう……かもっ♡ てか、やばっ、これ……イくっ♡ あんっ♡ あぁん♡ イくっ♡ イくっ♡ やっべこれまじでイッちゃう……♡ イ……くぅ~~~~~っっっ♡♡♡」 喉を反らした真央の膣がきゅんっっっと強く収縮する。それとまったく同時に、雅史が「うっ」と呻き、その肉棒から、尋常ならざるほどの量の精液が噴出する。夫婦は――かつて夫婦だった男女は、きつく抱き合いながら、それぞれの愉悦を、その最後のひと波が去るまで貪っていた。 そして、ふたりは荒い息を喘ぎながら体を離す。 最後の射精をおえて、雅史の股間は完全に萎えていた。もうしばらくは、何をしたところで勃起することはないだろう。しかし、彼が真央を絶頂させたのは事実だ。喜ぶべきことを、今はまったく喜ぶことができない。雅史の顔面は蒼白――脳内は後悔でぐちゃぐちゃに乱れている。まさか、勝ってしまうなんて。取り返しのつかないことをしてしまった。負ければよかったのに――と思う心が、もう雅史がかつての雅史でないことを物語っている。 「あれ」「これって、もしかして」「まおっちの負け?」「パパさんの勝ち?」「そうじゃない?」「えー」「まじかー」「おっさんの勝ちに賭けてたやつ、いる?」「いませーん」「予想外」「全米が泣いた」「かんげきででなみだがとまりません」予想外の逆転劇に、観客たちは戸惑いつつも大いに沸いている。 「わー。やばーい。どうしよー。まおっち、負けちゃった。くすん♡」 棒読みでそう言いながら、真央が体を起こした。彼女は負けた。にもかかわらず、その仕草は余裕に満ちている。歯医者とは思えないその余裕が、絶望に沈む雅史の胸に一筋の希望を兆した。彼女はきっとそれに答えてくれる。今ではその確信があった。 「でも――」 と、べっとり厚く紅を塗りたくられた真央の唇が言う。その逆接の言葉が、雅史の耳には福音のように心地よく響いた。それだけで全身が痺れる。言ってくれ、真央。僕を負けさせてくれ。そう願わずにはいられない。 「その勝ち、まおっちに贈ってくれるよね♡ ほら、今日が何の日か、わかるでしょ?」 楽しげな色を浮かべたその瞳は、雅史がどうするか――どうしたいのかをすでに知っている。ごくり、と呑まれる唾。勝者であるはずの雅史は、顔面を負け犬の笑みに歪めながら、真央に最高のクリスマスプレゼントを贈った。 ■ ソファーに座る裕貴は欠伸をする。 時刻はすでに朝。あらためて見渡す種崎家の屋内は、いたるところ滅茶苦茶に荒らされている。散らかった残飯、壊された家具、そこらに放り捨てられているゴミの数々、盛大にへこんだ壁、亀裂の入ったガラス窓。少し前に赴いた便所は、一面に吐瀉物がぶちまけられていた。 パーティーはすでに終わり。参加者のほとんどは帰ってしまい、今残っているのは、裕貴の他、そこらに雑魚寝している男女――そして真央と雅史くらいのものだ。 「ああっ♡ まおっち♡ 出る出る出るぅ~♡」 「やぁん♡ 男らしい腰使い、素敵~♡ 惚れちゃう~♡」 今、裕貴のすぐ目の前で、彼らは交わっている。雅史が復活したらハメまくり、雅史が復活したらハメまくり……いい年をしてよくやるものだ、と苦笑いせずにはいられない。まあ、揶揄はしない。彼らにとって、パーティーはまだ続いている。それに外から水を指すのは野暮の極みというものだ。 ふたりの姿勢は、床に四つん這いになった真央を、雅史が後ろから貫く――いわゆるバックスタイル。雅史の手は真央の腰を抱えるのではなく、真央の尻をひたすらに揉みしだいていた。どれだけ掌を広げようと、爆発的な質量は掴みきれはしない。抜群の柔らかさを誇る尻肉は、手指をずぶずぶと呑みこみこませ、決して離しはしない。 「まおっちの尻……凄すぎ……まだいっぱい出せるぅ……♡」 もう幾度目になるかもわからない射精をおえて、雅史が恍惚と呻く。明らかに疲労困憊しているが、放出しても放出しても冷めやらない興奮が立ち止まることを許さないのだろう。げっそりと衰えていながら、目だけは爛々と光らせるその姿は、すでに狂気の域に足を踏み入れかけている。 「あはっ♡ 本当? 嬉し~♡ それじゃ、お礼に――大好きな爆ケツ、顔に乗っけてやんよ」 「か、顔にっ――」 待ち切れない、とばかりに雅史が仰向けになる。開きっぱなしの唇から、はへっ、はへっ、と焦げた息遣いが漏れる。その顔面に、真央は爆尻を乗せた。尻肉がむにゅうん♡ と柔らかく、そして弾力たっぷりに潰れる。そのまま体重をかけると、尻肉はさらに潰れ、劣情の呼吸は完全に封殺されてしまった。むぐ、むぐ、と呻く雅史。どんな表情をしているかは、もちろんわからない。しかし、真央が眼下に望む肉棒は、びくびくびくびくぅ♡ とせわしない脈動でもって最大級の喜びを訴えている。 「ほら♡ ほら♡ 大好きなケツだぞ~♡」 ぐりゅん♡ ぐりゅん♡ ぐりゅりゅりゅん♡ 艶めかしく腰が動き、圧倒的なボリュームを誇る尻肉が雅史の顔をなぶる。その動きにあわせて肉棒がいななき、卑しい先走りを飛ばした。次の射精も、もうすぐだろう。 幸せそうで何よりだ、と考えながら、裕貴は煙草に火をつける。一口目を吸ったところで、「裕貴くーん」「おっはよー」という挨拶が届いた。 リヴィングにやってきたのはふたりの女。彼女たちが引きずるように連れてきたのは翔太だった。徹夜と酒精と性感の合せ技で、少年はほとんど意識を保っていない。貧相な裸体はいたるところ口紅の痕やキスマークに塗れている。「やりすぎだっつうの」と裕貴が苦笑いをすると、ふたりは「だってこの子が」「シたいシたいって言うから」と唇を尖らせた。 「パパ……ママ……?」 おぼろげな意識で両親の姿を認め、翔太が呼びかける。しかし、顔面騎乗に夢中のふたりはそれに気づかない。あるいは、気づいていても無視しているのか。これが睦まじかった種崎家の終焉なのだと考えると感慨深い――などということもない。家族など、所詮はこの程度のものだろう、と裕貴は思っている。 「そいつ風呂に入れて、適当に服着せてやって。俺が連れてくから」 「連れてくって……どこに……?」 裕貴の言葉を聞き、翔太が二日酔いの頭痛に顔を歪めつつ尋ねる。その質問に、裕貴は言葉ではなく笑みで答えた。これから、翔太は業者を介して海外の変態の元へと送られる。そこでどのような改造が施されるかはわからない。最初はつらい思いをするだろうが、すぐにそれを楽しめるようになる。 なぜなら、と考えながら、裕貴は深々と煙草を吸い込む。 なぜなら――こいつは真央と雅史の血を引いているのだ。楽しまないわけがない。笑いを滲ませながら吹き上げた烟は、すぐに朝の空気に紛れて見えなくなった。 ■ 「~~~♪」 調子外れの鼻歌をご機嫌に歌いながら、真央は腰をグラインドさせる。前に後ろに。右に左に。容赦なく顔面をなぶる超絶ボリュームの尻肉に、雅史は完全に翻弄されている。先ほどの休憩の際、そこにたっぷりと刷り込んでおいた香水が、彼の脳を灼いてくれるだろう。 ちらり、と視線を向けたそこに、もう翔太の姿はない。今は風呂にでも入れられているのだろう。呼びかけられた時に反応しなかったのは、気づかなかったのではなく、反応する価値がないと判断したからだ。せいぜい綺麗に洗ってもらって、少しでも高い値段で売れてくれればいい、と思う。腹を痛めて産んで、ここまで育ててやったのだ。それくらいの親孝行はされて当然だろう。 「むぐっ♡ んっ♡ んむっ♡ むううううううっっっっ♡」 「んー? 何? もっとお尻欲しいの?」 いいよ、と真央は言った。視界を完全に塞がれていても、その凶悪な笑顔は、雅史に伝わっているに違いなかった。真央は両脚で雅史の頭部を押し潰さんばかりに強く挟んで固定し、一切の遠慮なく、体重を顔面にのせていく。 「おらっ♡ クソでっけえケツに潰されて窒息しろ♡ 死ね♡ 死ね♡ 死~~~ね~~~♡」 雅史の顔面にのしかかっているのは、尻肉の重さだけではない。Oカップの豊胸超乳や荒れた生活のせいでむちむちと熟れた堕肉……裕貴の元で過ごした時間の一秒一秒が、余さず彼を覆い潰している。打ちひしがれているべき雅史のペニスは硬くいきり勃ち、脈動で射精のカウントダウンを行っていた。 (やっぱりお前もえろえろじゃん♡) と、真央は唇を歪めた。ぎゅ、と乳首をひねってやると、雅史の腰が浮かび上がる。 「むぐぅううううううう♡♡♡♡」 ぴゅる♡ ぴゅるるるっ♡ ぴゅるぅ~~~~♡ 吹き出した白濁によって汚されていく床――そこでは、雅史と翔太が贈るはずだったクリスマスプレゼントの箱が、無数の足に踏み潰され、無惨に潰れている。『ママ、おかえりなさい』『真央、おかえり』というメッセージカードとエプロンが入られていたそれは、もはや、周囲に散らばる無数のゴミとまったく見分けがつかなかった。 (続)