ショートストーリー 「夏、熱、そして二人」
Added 2025-08-30 11:34:49 +0000 UTC駅を出た瞬間、熱気がまとわりついた。
革ジャケットを着たナツキは立ち止まり、顔をしかめる。
「……これ、外に出ちゃだめなやつじゃない?」
「うん、37度だそうだ」
「数字見ただけで気力が削がれる……」
俺も額の汗をぬぐった。
さすがに、この暑さは体にこたえる。
⸻
「ねえ、アスファルト溶けてない? 歩いたら沈むんじゃない?」
「そう思えるくらい熱いな」
「だよね……あ、ジャケット脱ごうかな」
白いタンクトップ姿のナツキ、デニムスカートが張りつくほどの汗を滲ませ、肩で息をついた。
「いや……変わらん。けど脱いだ方がいいか。もう、スニーカーの中まで暑いよ」
「俺も靴の底が焼けそうだ」
「一緒だね……ちょっと安心した」
⸻
俺とナツキはコンビニに避難して、
冷房の風に吹かれながら二人で深呼吸した。
「……助かった」
「うん、生き返るってこういうことだね」
アイスコーナーを物色するナツキの横で、俺はペットボトルのお茶を手に取った。
冷えたボトルを首筋に当てると、思わず声が漏れる。
「……あぁ……」
「おじさんみたいな声出てるよ」
「歳のせいかもしれないな」
「ふふっ、わかるわかる、その気持ち」
⸻
外に戻り、二人でアイスをかじりながら歩く。
まだ熱気は重く、呼吸すらだるい。
「37度って、人間の体温超えてるよね」
「そうだな。熱が出た時みたいだ」
「そりゃしんどいわけだ……」
ナツキはアイスをかじり、俺はお茶を飲む。
無言の時間が少し続く。
「……俺も正直、今日は堪えてる」
「えっ、やられてる?」
「うん。涼しい顔はできないな」
「そっか……じゃあ一緒だ」
ナツキは少し嬉しそうに笑った。
⸻
夕方になっても、暑さは完全には引かない。
それでも並んで歩きながら、ナツキがぽつりとつぶやいた。
「……大変だけど、こうやって一緒にバテてるのも悪くないね」
「うん。分け合えば軽くなる」
「うん……」
彼女はにかっと笑い、汗に濡れた髪をかき上げた。
黒いスニーカーでとん、とアスファルトを蹴りながら。
「よし、あとちょっと頑張ろう!」
「うん。帰ったら冷たいシャワーだ」
二人で同じペースで歩き続ける。
37度の夏の中、その足取りは不思議と軽かった。