真夏の太陽がぎらぎらと照りつける。
潮風は生温かく、浜辺には色とりどりのパラソルが咲き誇っていた。
防衛任務――とはいえ、今日は「半分遊び、半分仕事」だ。
異胎機関の魔獣がこの海域に出没する可能性があるという情報を受け、監視も兼ねて現地へ来た。
ここ最近のナツキは、街のあちこちで戦い続けていた。
異胎機関が放つ魔獣は、昼夜を問わず現れる。
ナツキは人々の避難誘導に走り、立ち向かい、時には無茶な戦い方で体を傷つけながらも街を守ってきた。
俺はその姿を間近で見てきたからこそ、今日の海行きは、少しでも彼女を休ませる意味を持たせたいと思っていた。
「……っと、準備できた」
視線を向けると、ナツキが黄色いパーカーのファスナーを下ろすところだった。
現れたのは、白地に青い紐が映えるビキニ。シンプルながらも引き締まった体にぴったりで、スポーティーかつ爽やかだ。

腰骨の上の青い紐が、肉にしっかりと食い込んでいる。
そんな衣装とは一変、足元には黒い無骨なサンダル。そして、両肘と両膝には黒いパッドががっちりと装着されていた。
「……じ、じろじろ見ないでよ」
耳まで赤くしながら、ナツキが視線を逸らす。パーカーのファスナーをきゅっと握り、閉め直そうとする。
「いや、ごめん。…でもさ、パッドまでつける必要あるの?」
俺の疑問に、彼女はふんっと鼻を鳴らして唇を尖らせた。
「魔獣と闘うかもしれないでしょ!いるいるっ!」
「ここ、ビーチなんだけどな」
「だからだよ! 何が出てくるかわかんないでしょ? 遊ぶにしたって、あたしは準備しておくの」
彼女なりの準備なのだろう。
けれど、白いビキニに青い紐、黒いサンダル、そして黒いパッドというアンバランスな組み合わせは、どうしても目を引いた。
格好良いはずなのに、どこか可笑しい。
つい口元が緩むと、ナツキは「な、何笑ってんの!」と声を上げた。
次の瞬間、ざっ、と足元の砂を蹴り上げる。
太陽で熱された砂粒が肌に触れ、じりっと熱さが伝わってきた。
「なにするんだよ!」
ぷいっと顔を背け、フードを深くかぶるナツキ。その照れ隠しの仕草に、余計に笑みがこぼれてしまう。
俺は、ふと真顔に戻って問いを口にした。
「なぁ、ナツキ。……君はいつも街を守ってるけどさ。やめたいって思うこと、ないのか?」
彼女の肩が一瞬だけ揺れた。けれど、すぐに振り返り、まっすぐな瞳をこちらに向けてきた。
「……思わないよ」
即答だった。
「だって、街には普通の人たちが暮らしてるんだから。あたしが逃げたら、その人たちが泣くんだよ? 父さんがいつも言ってた。人は平和に生きる資格があるって。だから、守れるなら守りたい。誰かのために闘えるなら、あたしは闘いたい」
その言葉には迷いがなかった。
だが同時に、少しだけ影のような疲れもにじんで見えた。だからこそ、今日くらいは少し息を抜いてほしい。
「……そっか」
俺は小さく笑い、肩をすくめた。
「じゃあ今日は、街じゃなくて俺が守る番だな。せめてリフレッシュくらい、任せてよ」
「は……?なになに、それ」
ナツキは目を丸くして、それから堪えきれず笑った。
潮風に乗って響くその笑い声は、戦いの場で見せる顔とはまるで違っていて、ほんの少し救われるような気がした。
◇◇◇
砂浜は照り返しが強く、裸足では長く立っていられないほどだった。
けれどナツキは構わず黒いサンダルを脱ぎ、波打ち際まで駆けていった。
「ひゃっ……! つめたっ!」
海水がふくらはぎまで跳ね、彼女は思わず声を上げる。
さっきまで“戦う準備”だなんて言っていたのに、もう表情はすっかり子供のようだ。
「おいおい、最初からそんなに飛ばして大丈夫か?」
「だって海だよ? 泳がなきゃ意味ないじゃん!」
そう言うとナツキは、パーカーを脱いで砂の上に放り投げた。白いビキニの布地が陽光を反射してきらりと輝く。肩や腹筋のラインは、戦いで鍛えられた証そのものだ。
彼女は軽く準備運動をすると、波に向かってざぶんと飛び込んだ。
ばしゃん、と水しぶきが弧を描く。すぐに顔を出したナツキが、髪をかき上げながら笑った。
「うん! やっぱ気持ちいい!」
普段は戦いの中で汗と血に塗れている。そんな彼女が、無邪気に水を楽しむ姿を見るのは珍しかった。
俺は監視任務を忘れぬよう視線を巡らせながらも、その光景に自然と笑みを浮かべる。
しばらく遊んだあと、砂浜へ戻ってきたナツキが、息を弾ませながら声を上げた。
「ね、スイカ持ってきてるんでしょ? 割ろうよ!」
その声に、近くで遊んでいた子供たちが「えっ、スイカ割り!?」と目を輝かせて集まってきた。
「お姉ちゃんたちのやつ、やらせて!」
「やるやるー!」
ナツキは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに笑って頷いた。
「いいよ! 一緒にやろっか!」
砂浜にスイカを置き、タオルで目隠しをした子供が、木の棒を握りしめてふらふらと歩き出す。
「もっと右だよー!」
「ちがうちがう、こっち!」
ナツキも混ざって大声で応援し、子供たちと一緒に右へ左へと指示を飛ばす。
ぱかん、と棒がスイカを直撃したときには、歓声が砂浜に響いた。
「やったー! あたった!」
「すごいすごい!」
ナツキは子供の頭をぽんと撫で、にこっと笑う。
「お見事! じゃあみんなで食べよっか」
スイカを切り分けて配ると、子供たちは口いっぱいに頬張り、果汁で顔をべたべたにしながら笑った。ナツキも夢中でかぶりつき、腕に垂れた汁を慌てて拭っている。
「……ふふっ、やっぱ夏はこうじゃないとね」
その笑顔は、戦い続きの日々の疲れを忘れたように輝いていた。
だが――
青い海面がきらめいている、その奥で、一瞬、黒い影のようなものがちらりと揺れた。
「……今、見えた?」
「……ああ」
俺とナツキの視線が交わる。彼女はサンダルを履き直し、パーカーを肩に引っかけた。
「……やっぱり。遊んでても気を抜くなってことだね」
その声音は、さっきまでの無邪気さから一転して、街を守るシティーソルバーの顔に戻っていた。
◇◇◇
ナツキは砂を軽く蹴り、沖を睨む。
青く澄んだ海面――その奥に、再び黒い影がちらりと揺れた。
夏の陽光を受けてきらめく海。その美しさを塗りつぶすように、黒い染みがじわじわと広がっていく。
潮騒に混ざって、耳障りな低い振動音のようなものが聞こえた気がした。
「……見間違いじゃないな」
「うん。来るよ」
やがて海が爆ぜた。
轟音と共に水柱が立ち、赤いタコ型魔獣が姿を現す。
しかも一体ではない。人間と同じくらいの大きさの個体が次々と海面から這い出し、十数体もの群れとなって浜辺へ押し寄せてきた。
「数が……多い!」
「でもやるしかない!」
ナツキは構えを取った。
最初の一体が触腕を振りかざす。
ナツキは砂を蹴って跳び、拳を叩き込んだ。
どん、と鈍い衝撃音と共に魔獣がぐにゃりと曲がり、砂に転がる。
「一体!」
続けざまに回し蹴りで二体目を吹き飛ばし、飛びかかる三体目の触腕を掴んで地面に叩きつけた。
さらに跳び蹴りで四体目を弾き飛ばし、アッパーで五体目を沈める。
「はぁっ……! これで七……八!」
荒い息を吐きながらも、ナツキは歯を食いしばって立つ。
――常人なら到底できない芸当だった。
その強さは、かつて異胎機関に囚われて受けた「肉体改造」の副産物だった。
“魔獣器”として受胎しやすくされた代償に、筋肉や神経までもが異常に強化されていた。
その皮肉な力が、いま彼女を戦場に立たせている。
突如、
群れはそこで動きを変えた。
赤い魔獣たちが一斉に口を開く。
「……っ!? なに――」
次の瞬間、黒い液体が雨のように放たれた。
どろりとした墨が空を裂き、避けきれない弧を描いて降り注ぐ。
「うそうそっ……!?」
ナツキの顔に墨がまともに浴びせられた。熱い砂と混じり、粘ついた液体が瞼に絡みつく。
「っ、見え……ない……!」
必死に拭おうとするが、粘液は肌にへばりつき、視界は真っ黒に閉ざされる。
――その瞬間。
ナツキの全身がびくりと強張った。
暗闇。何も見えない。
幼い頃に誘拐され、目隠しされたまま何もできずに震えていた記憶。
そして異胎機関に囚われたとき、視界を奪われて従順化を強いられた日々。
「目を塞がれる=無力化される」という刷り込みが、深層から呼び覚まされる。
「やだやだ……また……っ」
強靭なはずの身体が鈍り、呼吸が乱れ、拳が震える。
その隙を逃さず、複数の触腕が一斉に襲いかかってきた。
両腕、両足、腰、胸。
しなやかで強靭な赤い触腕が絡みつき、彼女の身体をぎちぎちと締め上げる。
「く……そっ……離せ……っ!」
だが視界を奪われた彼女には、もはや回避も反撃もできない。
さっきまで優勢に見えた戦いは、一瞬で逆転した。
◇◇◇
黒い粘液が瞼にまとわりつき、ナツキの視界は完全に閉ざされていた。
暗闇――ただそれだけで、彼女の全身は強張る。心臓が早鐘を打ち、息が荒くなる。
両腕を振り払おうとするが、すぐさま触腕が巻きついた。
「く……っ! は、離してってば!」
必死の抵抗も、視界を失った今では正確さを欠き、空を切る。
腰へ、脚へ、胸へ――赤い触腕が次々と絡みつき、ぎちぎちと締め上げてくる。
吸盤が肌に吸い付き、粘液がぬるりと流れる感触が走った。
「やっ……やだやだ……!」
彼女の声には苛立ちと、抑えきれない動揺が入り混じる。
――ナツキは超人だ。
異胎機関の改造で、常人をはるかに超える肉体を与えられた。
だがその同じ改造の過程で、目隠しによる従順化を叩き込まれた記憶は、深層に刻まれている。
暗闇に閉ざされると、力が鈍り、思考が揺らぐ。
「見えない……どこ……どこに……!」
焦燥の声が波音にかき消される。
赤い群れの触腕は休むことなく動き続ける。
一本が両手首を背中へとねじり上げ、一本が足首を左右に引き裂き、さらに別の一本が腰を絡めて地面へと引き倒した。
砂浜に押しつけられたナツキの体が熱くなる。
ビキニの青い紐が吸盤に引っかかり、ぷつんと結び目が緩む。
「やっ……! やめろっ……!」
粘液に濡れた触腕が、彼女の肌をなぞるように這い回る。
太陽に焼かれた熱い砂と、冷たい海水の滴る触腕。その二重の温度差が、彼女の神経を刺激していた。
「ん……っ……はぁ……!」
必死に唇を噛みしめるが、声が漏れる。
拘束は完全だった。
超人的な力を持ちながらも、今のナツキは目隠し状態に囚われたただの“器”として、群れに囲まれている。
人々の避難はすでに終わり、浜辺には俺とナツキ、そして魔獣たちだけが残っていた。
俺は武器を構えるが、彼女を締め上げる触腕の数はあまりにも多い。
「ナツキ……! 耐えろ、今……!」
声をかけるが、彼女は触腕に押さえつけられたまま、顔を覆う黒い墨を必死に拭おうとしていた。
その姿は、まるで異胎機関が望んだ“実験体”そのもの。
超人でありながら、目隠しされた瞬間に抗えなくなる存在。
――海鳴りが響く。
群れはさらに動きを増し、獲物を完全に組み伏せようと迫っていた。
◇◇◇
ナツキの体を、赤い触腕が何本も這い回る。
視界を奪われた暗闇の中、どこから来るか分からない感触が彼女の神経をじわじわと蝕んでいた。
「やっ……離して……!」
声を張っても、触腕は容赦しない。
吸盤が肌に吸いつくたび、粘ついた音が響く。ぴちゃ、ぬちゅ、といやらしい水音が彼女の抵抗をかき消すように続いていく。
一本の触腕が首筋をなぞった。
冷たい海水を滴らせながら、汗ばむ肌を滑る感触。反射的に背筋が跳ね、ナツキは声を押し殺す。
「ん……っ……」
別の触腕が腕から肩、胸元へ。
青い紐の白ビキニは、吸盤に引っかけられ、ずるずると布をずらされていく。結び目がほどけ、布地がたわみ、隠していた部分に冷気が触れた。
「っ……やめろ……っ!」
必死に体を捩るが、両手首は上に上げられ、指先すら自由に動かせない。
吸盤が乳房を掴むように覆い、ぴたりと密着する。
じゅる、と音を立てて吸い上げられる感触が走り、思わず声が漏れた。
「あっ……! そこっ……!」
羞恥と焦燥で顔を振るが、黒い墨がまだ瞼にまとわりつき、視界は閉ざされたままだ。
光のない闇の中で、感覚だけがいやに鮮明に浮かび上がる。
もう一本の触腕が太腿をなぞる。
日焼けで火照った肌を、冷たくぬめる表面が這い、内腿を執拗に撫でる。
腰がびくりと震え、逃げ場のない羞恥が押し寄せる。
「っ……くぅ……!」
さらに、細い触腕が、下の布地をずらして潜り込んでくる。
砂の熱と潮風が直に触れると、ナツキの呼吸が荒くなった。
触腕は彼女を押さえ込むだけでは終わらない。
吸盤を使って乳首を吸い、尖らせ、舌のようにぬらぬらと蠢いて転がしていく。
その間にも別の一本が内腿を広げ、付け根をちろちろと撫で続ける。
「ん……や……やだ……っ……!」
必死に否定の声を上げるが、体は反射的に跳ね、呼吸は荒くなる。
闇に閉ざされた中で、感覚だけが増幅する。
皮肉なことに――改造で感度まで高められたその肉体は、触腕の這い回りを正直に受け止めてしまっていた。
「っ……んん……はぁっ……!」
震える吐息が、波音に混じって漏れていく。
群れの触腕は、まるで“器”としての機能を確かめるかのように、彼女をじわじわと追い詰めていった。
「くっ……どこから……来るの……!」
身を捩ろうとしても、絡みつく触腕の力はびくともしない。
そんな彼女を取り囲む群れの中から、ひときわ太い触腕を持つ一体が前に進み出た。
他の個体より体も核も大きい。奴らの親玉といったところなのだろう。
赤い肌が夕陽を反射し、吸盤からぬるりと粘液が滴り落ちる。
その先端が、ナツキの股間へとゆっくりと近づいていった。
「や……やめてっ……!」
声を張っても、応える者はいない。
仲間を打ち倒した彼女への報復のように、群れはその場を取り囲んで観察しているだけだった。
ぬちゅ、と水音がした。
先端が割れ目をなぞり、改造された肉体が反射的に跳ねる。
否応なく敏感になったその部分は、触れるだけで電流のような反応を返してしまうのだ。
「ん……っ! ちが……っ、やめ……!」
触腕が押し分けるようにして割れ目を割り、2つの穴に粘液を流し込む。
「ひあっ……!?」
全身が跳ねる。腰を捩るが、他の触腕がぎちぎちと締め上げ、逃げ場を許さない。
ずる、ぬちゅ、ずる……。
海水と粘液をまとった肉の柱が、奥へ奥へと侵入していく。
粘膜同士が擦れ合う音が、波音に混ざっていやらしく響く。
「やっ……やめて……っ……!」
言葉は震えて途切れ、荒い息が砂浜に散った。
やがて先端が奥に届く。
そこから律動が始まる。
ずん、ずん、と押し込まれ、引き抜かれ、再び叩き込まれる。
「あっ……っ……! くぅっ……!」
声を噛み殺そうとしても、衝撃に合わせて声が漏れる。
墨で閉ざされた暗闇の中、感覚だけが強制的に研ぎ澄まされていく。
超人の肉体に与えられた強化された感度。
それは武器であるはずが、今は逆に彼女を裏切っていた。
「ん……っ……だめ……っ……!」
波打つ砂浜で、ナツキの体は無理やり突き上げられ続ける。
水着も剥ぎ取られ、首のチョーカー、パッドとサンダルだけにされる。
群れの魔獣たちは取り囲んだまま、仲間の一体が彼女を犯す様をじっと見つめていた。
それはまるで、「器」としての適性を試験しているかのように。
◇◇◇
ずん、ずん、と律動する衝撃が腹の奥に叩き込まれる。
触腕に絡みつかれたナツキの身体は、拘束され完全に無力化されていた。
墨で閉ざされた視界は暗闇のまま――ただ感覚だけが鮮烈に浮かび上がる。
「っ……あぁっ……や、やめて……!♡♡」
声を張り上げても、群れの赤いタコ型魔獣たちは無言で取り囲んでいる。
その中の一体が、前へと進み出た。
その触腕のうち一本――交接腕が、他よりも太く、先端に小さな囊のような器官を備えている。
そこには精子の詰まったカプセル、精莢が収められていた。
粘液に濡れたその腕が、ナツキの太腿をなぞり、股間へと近づく。
「ひっ……! やだ……っ……!」
改造によって敏感にされた器官が、無防備に晒されていた。
ずるりと粘ついた感触が割れ目を押し広げ、奥へ奥へと侵入していく。
「んっ……くっ……!♡♡」
抵抗の声は波音にかき消され、体は強制的に受け入れさせられていく。
そして――。
交接腕の先端が膣奥に到達すると、ぴたりと止まった。
次の瞬間、精莢が押し出される。
ぶちゅっ、
といやらしい音を立てて、それはナツキの奥へと置き去りにされた。
粘膜に密着した囊が内部で開き、濃厚な精子が一気に広がっていく。
「ひぁっ……! あっ……だめぇっ……!♡♡」
腰が反射的に跳ね、全身が痙攣する。
暗闇の中、爆ぜるような快感と恐怖がないまぜになり、頭が真っ白になる。
交接腕は精莢を奥深く押し込んだまま、膣壁をぬちゅぬちゅと擦りながら抜けていく。
残された内部では、カプセルから解き放たれた精がうねりながら拡散し、改造された子宮をじわじわと浸していった。
「あっ……あぁっ……や……いやぁぁっ!♡♡」
絶頂が、強制的に訪れる。
目隠しされた暗闇の中で、ナツキの身体は己の奥へ注がれた命の重みを感じ取り、容赦なく痙攣していた。
群れの魔獣たちは取り囲んだまま、その光景を見つめている。
――“至高の器”が、実際に精を受け入れる姿を。
◇◇◇
砂浜に押し倒されたナツキは、触腕に縛られたまま震えていた。
奥に押し込まれた精莢がじわじわと精を放ち、改造された身体が勝手に痙攣を続けている。
墨で塞がれた瞼は開かず、暗闇の中で彼女は恐怖と羞恥に飲み込まれていた。
「くっ……見えない……動けない……!」
声は震え、普段の闘志は影を潜めている。
その姿に、俺は奥歯を噛みしめた。
――このままじゃダメだ。
彼女は戦える。けれど、トラウマの暗闇が力を奪っている。
俺は近くに転がっていたバケツを掴んだ。
中には子供たちが遊んでいた海水が残っている。
ためらっている時間はなかった。今の体勢なら届くはずだ。
「ナツキ――これで!」
叫びながら、彼女の顔に海水をぶちまけた。
ざばぁっと飛沫が上がり、黒く粘ついた墨が洗い流されていく。
しぶきと共に砂混じりの粘液が剥がれ落ち、瞼がようやく光を受け止めた。
「……っ、いった……!」
ナツキの声が震える。
海水が目に沁み、視界はぼやけて涙でにじんでいる。
「でも……暗闇よりは……全然マシ……!」
彼女は瞼を強く瞬かせ、曇った視界のまま前を見据えた。
「……ありがとう! これで、まだ闘える!」
痛みに顔を歪めながらも、口元に笑みが浮かぶ。
それはさっきまでの絶望を振り払う、強い笑みだった。
全身を締め上げていた触腕が軋む。
彼女の筋肉が再び目覚め、力が解放されていく。
「さあさあ……やろうか。ここからが本番だよ!」
太陽に照らされたナツキが、再び闘志を取り戻した。
◇◇◇
海水がまだ目に沁み、視界は滲んでいる。
涙でぼやけた景色の中でも、ナツキはもう暗闇に囚われてはいなかった。
「……くっ……痛い……けど、見えないよりはマシマシ!」
強く瞬きを繰り返し、前を睨む。その瞳には再び闘志の光が宿っていた。
全身を絡め取っていた触腕が、ぎしぎしと鳴る。
だが次の瞬間、ナツキの身体が爆発するように動いた。
「おおおっ!」
背筋の力で一気に身体を反らし、両腕を縛る触腕を引きちぎる。
ぬちゅっと粘液が飛び散り、赤い魔獣が悲鳴のような声を上げた。
すぐさま膝蹴りを叩き込み、目の前の一体を吹き飛ばす。
砂を蹴って立ち上がった彼女は、すでに戦士の姿に戻っていた。
「さあ……かかってきなよ!」
残った群れが一斉に襲いかかる。
しかし今のナツキは怯まない。
右の拳で一体を沈め、左の蹴りで二体目を砂に叩きつける。
背後から絡みつこうとする触腕を逆に掴み、ぐるりと振り回して別の個体へ叩きつけた。
ざばん、と海水が飛び散り、赤い影が波間に沈む。
「これで……九、十!」
額の汗を拭う余裕もなく、次々と襲いかかる魔獣を捌いていく。
その姿は、まるで嵐の中で翻る一陣の風のようだった。
俺は後方からその背を見守りながら、叫んだ。
「ナツキ、やれるぞ!」
「もちろん! これで終わらせるよ!」
ナツキは最後の一体の懐に飛び込み、精神を集中する。
右拳に収束した青白い光が、まるで光の槍のようにタコ型魔獣の核を一直線に貫く。
バキィィィッッ!!!
コアが完全に砕ける音だ。
やがて、波間に赤い影は見えなくなった。
砂浜には、彼女と俺だけが残されていた。
「……ふぅ……終わった……かな」
膝に手をつき、大きく息をつくナツキ。
その身体は傷と粘液にまみれていたが、瞳だけはまだ燃えていた。
◇◇◇
砂浜には、潮騒だけが戻っていた。
つい先ほどまで蠢いていた赤い群れの影は、波間に溶けて消えている。
ナツキは両膝に手をつき、肩で息をしていた。
そして、自分がパッド以外剥かれていたことを思い出し、慌てて水着を着直す。
額には汗と海水が入り混じり、頬を伝う雫が陽光に煌めく。
それでも、その瞳ははっきりと輝きを取り戻していた。
「……ふぅ……やっと片付いた、かな」
息を整え、拳を下ろす。その声には疲労と同時に、確かな安堵が滲んでいた。
俺は駆け寄り、彼女の肩にパーカーをかけてやり、タオルを渡す。
「ナイスファイト。ほんとに……無茶しやがって」
「へへっ……でも、守れたでしょ」
ナツキはタオルを受け取り、顔を乱暴に拭った。
その笑みは、戦いを終えた達成感に満ちていた。
浜辺の奥からは、避難していた子供たちが恐る恐る顔を出し、やがて「お姉ちゃん、すごーい!」と歓声を上げる。
ナツキは照れくさそうに笑い、片手を振った。
「ほんとに……ヒーローは疲れるよ」
「でも、誰かがやらなきゃ、なんだろ?」
俺がそう返すと、ナツキは少し目を細めて空を見上げた。
夏の太陽が真上に昇り、青い空と海がひと続きになって広がっている。
戦いの直後だというのに、その光景はあまりに鮮やかで、穏やかだった。
「……夏ってさ、こうやって汗だくになって笑って……その後にちゃんと風が吹いてくれるんだよね」
ナツキは肩にパーカーを羽織り、砂の上にどさりと座り込む。
「だからあたし、嫌いになれないんだ。戦いばっかでも、みんなの笑顔を守れる瞬間があるから」
俺はその隣に腰を下ろし、波打ち際を見やった。
潮風が頬を撫で、二人の間にしばし静かな時間が流れる。
「今日は……ありがと。助けてくれて」
ぽつりと漏らしたナツキの言葉に、俺は苦笑を返した。
「礼を言うのは俺の方だ。お前がいたから、この海も人も守れたんだ」
照れ隠しのように彼女がフードを深くかぶり、頬を赤くする。
その仕草は、戦場で見せる険しい顔とはまるで違い、年相応の女の子に見えた。
潮騒と蝉の声が重なり、夏の午後は静かに過ぎていく。
戦いも、汗も、笑いも、全部ひっくるめて――これが、ナツキにとっての“夏”なのだろう。
End.