-西金市立西金中学校 屋上-
この町を訪れた初日に猫姉妹があちこち回って目星をつけていた、暫定アジトのうちのひとつ。
ただでさえも夏休みで人の出入りが少ない中学校の、さらに校舎側から施錠されている屋上に、縄でぐるぐる巻きにした少女――
一ノ瀬鈴夏の身体を転がして、
「つあああー……これ、やっちゃったやつであろう。つあー……」
頭を抱える猫忍・ゆらを、夕日が無感情に見下ろしていた。
「こういうところがあるものなぁ、拙者ー……カッとなると体が勝手に動いちゃうのなんでであろぅー」
母校の屋上に転がされてる鈴夏は「そう言われても」という顔だ。
割と白けている。
「これ警察が動くやつでは? 国家権力の介入はいかにもマズい……ああ、時計の針を戻せたら」
「いや、あの、聞いて? 一回落ち着こうか忍者ちゃん」
ゆらのグダグダぶりは、図らずも鈴夏の警戒を和らげる一助にはなっていた。
あるいはストックホルム症候群の類である。
「早まっちゃダメ。まずはこの縄ほどいてくれる? お、おまわりさんに行かないって約束するし」
「……断る。お主の言葉を信用する理由がない」
こいつ、と鈴夏は内心で。
「逆にそっちは頑張ってあたしを信用させようとしなよ。こんなことしたのは何か理由があるんでしょ。
それは何? 忍者ってマジで? ハルのこと根掘り葉掘り聞いてたのは……」
「あれこれ聞くな! 拙者がポロッと主様の名前でも口を滑らせたらどうするつもりだ」
「知るか! 警察は勘弁とか言ってんならちょっとは殊勝にしろー!」
「ぬぅ、こやつ……意外と肝が据わっている」
「おねえちゃん。思ったんだけど……もしかしたら、事情を話したら協力してくれるかもよ」
「む? 発想の転換というやつであるな。思えばドラゴンどもは全ての人類にとって不倶戴天の敵。
満願成就の後にはこの娘の記憶を消せば済むと考えれば」
腹芸ができないのである。
「ならば話そう。我ら風魔の忍びに託されし、偉大なる任務を」
「その前に記憶を消すって何?」
30分後――
「要するに、ええと……二人はこの地球からドラゴンを追い払うために来たってこと?」
「うむ。主命である」
その主が聞いたら腰を抜かすだろうが、残念ながらツッコミ役はこの場にいない。
「我ら風魔忍軍がドラゴンをやっつける。するとどうなる? 我が主・ハルキ殿の評価も鰻登り。
現在のパッとしない為政者どもより北条の傘の下、我らが指導者はハルキ殿をおいて他になし! とこうなるわけだ。
これにはハルキ殿もニッコリご満悦である」
「野望がすごい」
いつ、ゆらの主人がそんな野望を口にしたというのか。
それと本人の懸念通りポロッと主様の名前を言ってしまっていたことにも気付いていたが、鈴夏は指摘しない。
「お主もこの星からドラゴンを追い払えるならば、それに越したことはないとは思うであろう?
先の話を聞くに、ドラゴンの姫とは何やら恋敵的な側面もあるようなないような」
「それ絶対にママとかの耳があるところで言わないでね」
本人以外の全員(当の幼馴染も含めて)知っていることではあるが。
「そんなことはどうでもいい! 我らに力を貸すのか貸さぬのか、どっちだ。
おっと勝算のことなら心配する必要はないぞ。
拙者達の強さは、あのいばりんぼのドラゴンを倒したことで証明された」
(やっぱりドラ美さん負けたんだ……)
「我ら風魔こそ人類に灯った微かな希望の明かり。お主と拙者は協力者、それでよいな?」
「……言いたいことはわかったし、オタクとしては正義の忍者とか出てきてワクワク感もあるけど」
「お主は一体、何を言っているのだ」
「いやほら、さっきも言ったよね? ハルもあれで意外と可愛いとこあるし、ただいるだけっていうか。
世の中を騒がす意図とかはなさそうだから」
「あの日、お前ら人類は全員奴隷だと憎たらしい声が頭に響いたが?」
「それなー……あたしも正直あの時はないわーって思ったし、最初はビクってたけどさ」
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「ハルのことは個人的に信じてるんだよね。あたし達、これで一応は友達……だから」
最後は言いにくそうに……しかし、鈴夏ははっきりと想いを口にした。
「ふむ」
自らの顎を擦って、ゆらはしばしの思案顔。
「そ、そういうことだから、できたらそっとしておいてもらえたりすると……わ!? 何っ」
問答無用とばかりに、ゆらが転がっている鈴夏の衣服をもぞもぞやって身辺のチェックを始める。
「すまーとふぉんがない! お主、家に忘れてきたな」
「うん、何を言い出したの?」
「友達なのであろう? ならば、お主にはあの雑魚ドラゴン以上の利用価値があるということだ。
その姿、しばらくこちらで使わせてもらう」
「姿を使うって……」
姉の目配せに頷いて、たまがニンニンっと印を切る。
「風魔忍法・変化の術!」
ぐにゃぐにゃとたまの輪郭が崩れ、瞬く間に――
「あたしだぁ!? す、すごい、忍法だっ」
こんな時でもちょっと興奮してしまうのが、オタクの悲しい性。
「急にこやつが姿を消したことで、ママ殿辺りが怪しんでいる可能性は否めぬ。
一度その姿で戻って、友達のところに行くだのなんだと適当に伝えてから戻ってこい。
部屋からすまーとふぉんを持ってくるのを忘れるなよ。
この娘を見張っていないわけにもいかぬがゆえ、お主に任せるが……」
「とりま余裕っしょー! いえーい、あげぴょん! あげぴょんっ」
「その意気だ!」
「あげぴょんじゃねーわ! ちょっ、こら……あたしの姿で変な真似すんなぁ!!」
「ごめんね、優しいギャルのおねえちゃん」
鈴夏の顔で、たまは申し訳なさそうに眉を八の字にする。
「たま、早く任務を済ませて家に帰りたいの」
「言うほど悪く思ってなさそうなやつ!」
「お主の憤りもわからぬではないが、拙者達はあくまでもハルキ殿にお仕えする忍びであるので?
良心の呵責などは期待しないでもらおう。
なぁに、安心しろ。よきところで記憶は消してやる」
「そんなこと言われてよかったーってなるかー!」
などと悲痛に叫んだみたところで、声が届くのはせいぜい空を行くカラスまで。
最終的には「うるさい」と猿ぐつわも噛まされる始末。
敬愛する主以外の人間に対しては、ドライなところがある猫忍・ゆらなのであった。
-宮本邸 居間-
一方その頃、宮本道場(母屋)――
いつものようにゴロゴロと夕方の相撲を見ていたバカ……改め宮本武と竜姫は、思わぬ来客を受けていた。
「鈴夏がいなくなった、ですか」
せめて起きろ、座布団を枕にするのをやめろと男にツッコむ者はいない。
「そうなの。鈴夏ちゃんは私に声もかけずに出ていくような子じゃないし……
部屋にスマートフォンも置きっぱなしだったのよ。
お菓子とお茶も部屋に持っていってたのに、お皿も戻してなかったの」
日頃の鈴夏がどんなにいい子か窺えるというものだ。
「それに、靴も玄関に全部あるのよ? これって普通のことかしら」
「あれじゃないですか? ジョギングとか。あいつもお年頃なのでダイエットを悟られたくないんですよ」
「へー、乙女心ですね」
「靴の話は聞いてた? おばさん真面目な話をしてるのよ」
「い、言われてみれば妙ですね! わかりました、一応気にかけておきます」
さすがに起きた。
清貧を貫く宮本家において、心優しい隣人の援助がいかに大きなものを占めているかは武の足りない頭でもわかっている。
「一応って。何気なく聞き流してるわよね?」
「……だってあいつドラゴンに片足突っ込んでるんですよ? ドラゴンって強いんですよ。
正直、ケンカしたら俺が一方的にボコられるでしょうね」
「それは間違いないです」
ドラゴンの姫のお墨付きである。
「玄関まで行くのめんどいし窓から、なんてドラゴンなら普通にあり得ますよ。
背中に羽根が生えてるんですから」
「ドラゴンならって……でも、うーん、そういうものかしら」
「心配な気持ちはわかりますし、さっきも言った通り俺も気にかけてはおきますけど。
まだ、いなくなって1時間とかですよね?
なんでもなかったら、さすがにちょっと過剰な介入になるのでは」
「面倒臭がってるわけではないのよね?」
「面倒臭くはないですけど、あいつを武力でどうにかできる人類はいないっていうのが安心の材料になってはいますね」
「まあそうね、武力……そうねぇ~」
武の無気力に引きずられるようにして、秋乃も次第に落ち着きを取り戻し、「そうねぇ」で結ぶ。
バカに期待することを諦めたという見方もできなくはない。
「おっと、麦茶でも……じゃなかった。あれは痺れ薬らしきものが仕込まれてたから捨てたんだったな。
水でよければ用意しますけど」
「武くんの方は武くんの方で、何か起きてるの?」
無事に来客を追い払い、本日結びの一番も終わり、さて夕食時というところ。
……なのだが、武は怠惰に寝転がったまま。
「武さん? ごはんの時間ですよ」
「ん、ああ、そうだな」
起きない。
「……さすがにどんな用事でも、あいつなら秋乃さんに声くらいかけるよな」
一度は頭の中で結論を出しておいて、後からじわじわと不安になってくるやつである。
この男、決して鈴夏を軽んじているわけではないのだ。
「ハァ」
「なんだそのこれ見よがしなため息は」
「気になるなら変に強がらなければいいんですよ。はいはい、わかりました……
私が探してくるので武さんはごはんお願いします」
「簡単に言いおった」
「知らないんですか? ドラゴンはクンクンってすれば同種の気配をたどることができるんですよ」
「マジかよ。警察犬じゃん」
「警察犬はなんだかよくわかりませんけど、尊敬していいですよ。
まったく……私が行くのは効率を重視してですからね? 武さんはごはんで報いてください。
はい、返事は聞きません。行ってきます」
行った。
「報いるも何も、家には野生のザリガニと庭で育ってるニラくらいしか食えるものはないが……」
ちょっとホッとしたのもまた事実。
当然、武は再びゴロンと横になってそれ以上そのことを考えるをやめた。
-西金市 住宅街-
「あら、こんにちは鈴夏ちゃん。大学の帰りかしら?」
「ふえ? あ、うえーいだよー。大学からの帰りの助ー☆」
たまが鈴夏の姿になってから、こうして道行く誰かから声をかけられたのは何度目だろう?
局地的な大人気である。
「まあ、おばあちゃん知ってるのよ。そういうのぎゃるっていうんでしょ? とれんでぃねぇー」
老婆の連れの犬は匂いへの違和感からワンワン吠えまくっているのだが、人間がそんな反応に特別な意味を感じ取れるはずもなく。
「また、お店に寄らせてもらうわね。それじゃ」
「ばいばーい」
手を振って老婆を見送ってから、たまは「家への道を聞けばよかった」と内心で。
そんなことを聞いたら怪しまれはするだろうが。
(迷っちゃった。確か、この辺だったと思うんだけど……)
なお、惜しいところまでは来ている。
まさに目の前の角を曲がった先にあるオンボロ道場から、あくび混じりに竜姫が出てきたところだ。
「どうしようかな。一度、戻っておねえちゃんに……わっ」
「あれ? すずか」
たまには伝わらない、あれ? の意味。
つまりは『ドラゴンの匂いがしない鈴夏』と曲がり角で鉢合わせした違和感に、ハルがクイッと首を傾げる。
「おっとと……は、ハルっ? ハルじゃん、うえーい」
「なんですかそれ」
「はあ? ハルってば何それウケるんだよ。あたしはいつもこんな感じであげぴょんして……」
「……偽者?」
「バレたーーーー!!」
それ以上は粘らずに、たまは術を解いてぽよんと本来の姿に切り替える。
「どうしてー? たまの変化は完璧だったのに」
「さては甘く見てますね? ドラゴンはすごいんですよ。
あなたの変身の魔法もたいしたものですが、私達は見せかけにごまかされたりしないんです」
「ウソだよ! 前にたまが別のドラゴンさんに変身してた時は気付いてなかったもん。
普通にお話して飴玉もぺろぺろ食べてたでしょ」
「……はいはい、あの時のあれですよね? 泳がせてたんです。ドラゴンは頭もいいので」
返事にちょっと間があったのはそういうことだ。
ハルはあまりドラ美に関心がないという、言葉にするまでもない事情。
「あなたがすずかの格好をして歩いてるってことは、すずかはあなたに……うん? ああ、そっか。
さっきちょろちょろしてた気配はふたつありました。
もう一人のお仲間さんが、鈴夏を監禁してるとかでしょうか」
「……ピュヒーッ」
「お、口笛ですね? さすが私、当たってたみたいです」
「またバレたーーーー!!」
「確認しておきますけど、すずかに危害とか……ごめんなさい、加えてるはずないですよね」
鈴夏は古竜の力をその身に宿しているのだ。
何らかの事情で大人しくしているだけだろう、とハルは目星をつける。
「すずかを返してもらえます? あと、私達の周辺でコソコソ何を企んでるのかも教えて欲しいです。
私はともかく武さんは貧弱なので。
さっきも麦茶に毒みたいなの入れましたよね? 危なく……あっ」
シュタッ! とたまのつま先が鋭くアスファルトを蹴る。
計画が破綻したのなら、忍者の取るべき道はひとつ。
つまるところは逃げの一手。
「ちょっとー? そういう態度取られると傷つくんですけど。待ってくださーい」
-西金市 市民公園-
日が暮れようとしていた。
自然豊かなベッドタウンであるこの町にとってはお馴染みの、静かで平凡な夜がゆっくりと支配の範囲を拡げていく。
町の影、あるいは上空で――
30分ほども繰り広げられていた、超越者達の鬼ごっこに気付く者は誰もいない。
さほど広大な敷地を持つわけでない市民公園の片隅、人気のない一角を選んでたまが初めて足を止める。
「もうっ、なんで追いかけてくるの!」
振り返るなりの癇癪であった。
「……それ聞きます?」
竜姫・ハルの立場から言えば「追いかけさせられていた」のだから、疲れた声も出るというものだ。
「止まったってことは話を聞く気になったってことでいいんですよね? では……」
「風魔忍法・疾風閃! てやーっ」
ごうっ! と風が唸る。
「あ、そっちですか。降参していただけるとかではなく……」
迫り来る無形の刃を、ハルはただぼーっと立ち尽くして受け止める。
憎たらしいまでの余裕そのままに、たまが放った風の刃は見えない障壁に吹き散らされる。
「また、バリヤーだ! そういうのずるいんだけど」
「すいません。ドラゴンだからでしょうか? こういうの勝手に備わっちゃってるんで」
「前のいばりんぼのドラゴンさんには、ちゃんと術が効いたのに!」
「ドラ美さんはあんまり強くないんですよ」
身も蓋もない物言いである。
「種族の記憶が教えてくれました。その耳、その尻尾……あなたは亜人さんですよね。
恐竜さんとかと違って種を保ってたみたいでよかったです」
「むつかしいこと言われてもよくわかんない」
「なら、何ならわかるんです? 言葉は通じるんですから対話をしましょう。
乱暴する気がないのはわかってもらえましたよね?
そろそろ落ち着いて、こちらの質問に答えてもらえると……」
「風魔忍法! 火遁・紅蓮双爪!!」
ぼーっ!
「聞いてます? 困るんですよね。そろそろおなかも空いてきましたし……」
「風魔忍法・猫気弾!」
ばごーん!
「意地になってもお互いいいことないですよー」
「風魔忍法……!」
途中でやめた。
「つまんない!」
「自覚はあります。すいません、盛り上がらない展開で……」
「いいもんね。別に……えーと、ハルさん? ハルさんを倒すのがたまの任務ってわけじゃないし」
「では、どんな任務なんですか?」
「……内緒」
「ダメですよそんなの通じないですよ」
さすがにげんなり顔である。
「内緒は内緒なの! てやっ」
全身をバネにぴょーんと垂直に跳躍した忍者の動きに軽々と反応したハルが、空中で追いすがってひょいっと細い腰を抱える。
「フギャーーー!!」
「また、追いかけっことかさすがに付き合いきれないので。すいませんけど……」
「ダメなの! たまは忍者だから任務のこととか話したら、おなか切らないといけなくなっちゃうんだもん」
「ええ、発想が怖い。ギャングじゃないですか」
「掟だからしょうがないんだもん。それに、お兄ちゃんが待ってるんだから……」
そう、たまは忍びで、帰りを待っている主がいる。
帰らなければいけない場所があるのだ。
(たまのこと甘く見てる今がチャンスだよ。やっつけちゃうんだから……!)
着地してからもたまの身体を抱えたままのハルは、たまが胸の前で複雑な印を切っているのに気付かない。
「なんでしょう? 空がゴロゴロいって……わっ」
ビシャーーーーーーーン!!
鋭い稲光が地面を灼くのと同時にたまは身体をよじり、ハルの腕から脱する。
「風魔流降魔術・究極奥義! 現界せよ古の魔将」
たまの声……呼びかけに応じて、ゴゴゴゴと空が轟く。
「ちょっと、まだ抵抗する気……」
さすがのハルも息を飲み、たまを追いかけることを躊躇した。
足を止め、不吉に轟く空を仰ぎ見る。
分厚く雲が立ち込める空に浮かび上がっていたのは、魔法陣に似た真紅の円陣。
異界の門だ。
「グオオオオオアアアアーーーーーッ!!」
びきびき、めきめきと空間を軋ませながら限界した、禍々しいその姿にドラゴンが目を丸くする。
赤銅の肌に二本の角。
全長10メートルはあろうかという巨躯を筋肉で鎧った、虎柄パンツの巨人。
「鬼さんです……」
これぞ風魔の里が誇る若き天才・たまが現代に復活させた古の禁呪。
「やっちゃえ! 極破・羅刹掌ーーーっ!!」
術者の命に応じて、天の裁きにも似た無慈悲の剛拳が唸りを上げてハルを狙う。
直撃する。
勝利を確信したたまの直後、信じられないものをその目に見る。
つまりは、逃げもせずにしゅたっ! と謎のポーズを取ったハルの姿を。
「ドラゴンビイィィーーーーーーームッ!!」
秒速、約3億メートルのカウンター。
音すら生じない――
宇宙の創造をも連想させる光の奔流がジュッと『門』を消し飛ばし、あっさりと巨人を冥府に送り返す。
竜姫が放った光条が宇宙の彼方に消えるまでに要した時間は1秒弱。
しかし、世界中の観測機関がその現象を知った。
明日の朝刊の一面は決定である。
「乱暴なことするなって武さんに言われてるんですが、今のはさすがにノーカンですよね?
パンチされたら痛そうでしたし」
逃げるのも忘れてビームの軌道をぽかんと見送っていたたまが、我に返る。
「バリアーの次はビームとか、そういうのずるっこなんだけど!」
「鬼さんを召喚するのはずるじゃないんでしょうか……あ、いえ、なんでも、すいません」
「もうっ、付き合ってられないよ!」
「だから、ダメですって」
ひょいっ!
「フギャーーーーーーーーーーーー!!」
うやむやで逃げようとしたたまを、さっきと同じ無造作なだっこで捕まえる。
「いい加減諦めてもらっていいですか? さっきからおなかが空いて……」
「風魔忍法・猫転身っ」
何かする前にとたまを抱え直そうとしたハルの腕が、スルッと空を切る。
「にゃーん」
とす、と優雅な身のこなして黒猫が地面に下りる。
「えっ? 猫……さっきは、あ、あれ? もしかして猫に変身したってことですか」
「にゃー」
「にゃーじゃなくて!」
黒猫がプイッと横を向いて、何事もなかったようにぺろぺろと前足を舐める。
「……それはないですよー」
-宮本邸 居間-
飽きもせずに居間でだらだらしていた宮本武は、玄関に生じた人の気配によっこいせと腰を上げる。
「あっ、こら! 暴れないでください」
「おかえり。鈴夏は……」
質問を続ける代わりに、なんじゃそらと声が出ていた。
「猫ぉ?」
「そうなんですよ。猫なんです」
なぜか露骨に不機嫌そうな顔の黒猫を抱えて帰ってきたハルが、弱り果てた息をつく。
「ちょっとこれお手上げってやつですよ? いくら話しても、にゃんにゃんしか言ってくれないんです」
「そりゃ、猫はにゃんにゃん言うだろ」
「武さんは本当に残念な人ですね」
「なんだこの野郎」
さすがにこの件においては、やや武に分がある。
「鈴夏の代わりに猫なんか拾ってきてどうするんだよ。ウチにそんなもん飼う余裕あるわけないだろ」
「飼うつもりで連れてきたわけじゃないですー」
「……食うのか? いくら貧乏でもそれはちょっと乗っかれないわ」
武がバカなのは今に始まったことではない。
失礼な納得と共にこの場を諦めて、ハルはさっさと奥へ向かう。
「おい、猫を連れ込むな! それより鈴夏のことはどうなったんだよ」
「どうなったんですか?」
問いかけても黒猫・たまはプイッと横を向くばかり。
「本当に猫になっちゃったんですか? それとも猫のふりしてるだけなんですか」
「にゃー」
「困るんですけど。ちょっとー!」
「困るのは俺だ! ウチにはもう燃費悪いドラゴンがいるんだよ!!」
猫VSドラゴン第2試合無制限一本勝負
竜姫ハル ○ VS X 猫忍・たま
(5分11秒 トラゴンビーム)