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【或る高校教師の苦悩26】俺の上履きの行方

(前話「踏みつぶされる恐怖」の続きです。) ブーメランパンツ姿で岩倉の素足と対峙するという前代未聞の出来事から数日。 俺は日常を取り戻していた。 朝早めの電車で学校に行き、職員室のデスクに座る。 山盛りのタスクに絶望しながらも、ノートパソコンへと向かう。 いつもと変わらぬ光景だ。 だが最近、1つだけ困ったことが起きていた。 それは、いつからか俺の上履きを失くしてしまったということだ。 上履きといえば学生が履くイメージだろうが、もちろん教師だって校舎内にいるときは上履きを履いている。 うちの学校では、学生は指定のムーンスターの上履きがあるが、教師は何を履いてもいいことになっている。 だから、俺はいつもティンバーランド風のくるぶしまであるスニーカーを上履きとして履いていた。 なぜこれを履いているかって? まあ、ここでは隠すまでもないだろう。 それは他でもない、身長を盛ることができるからだ。 この靴はただでさえ厚底であるが、さらに中敷きのかかと部分が2cmほど分厚めに作られている。 だから、実際の身長よりも数cm身長を盛ることができる。 典型的なシークレットシューズというやつだ。 悲しいことに、俺はこれを履いていてもクラスの男子の中で一番チビで、クラスの女子の中でも背の低い部類に入るだろう。 だが、さすがに実際の身長の154cmよりは高く見られていると思う。 せいぜい、150cm後半はあると見られてはずだ。 あと余談だが、この154cmという身長も怪しくなってきた。 というのも、先日教職員の身体測定があり、そこでは身長153.1cmという結果であった。 大学生のころは154cmぴったりだった記憶があるのだが、縮んでしまったのだろうか? まあ俺も32歳だし、体が衰え始めたのかもしれない。 そう考えるとだんだん悲しくなってくる。 話が逸れてしまった。 そのシークレットシューズの上履きが、ここ数日無くなってしまったという訳だ。 これがいかに由々しき事態か、おわかりいただけるだろうか? まず、そんなティンバーランド風の上履きを履いているのは学校中で俺しかいない。 だから、誰かが見つけたならそれが俺のものであることは一瞬で分かるはずだ。 そして、その発見者はその上履きを観察することだろう。 すると、そのかかと部分が不自然に盛り上がって作られていることに気づく。 それで、「これはシークレットシューズで、村上という教師はただでさえチビなのに、普段こんな小細工をしていたのか?こんな小細工をしてもあいつはあんなにチビなのか?」と馬鹿にすることだろう。 この一連の流れが、手に取るように予想できる。 それだけではない。 その上履きのサイズは22cmで、中敷きにデカデカと書いてある。 つまり、発見者には俺の足の小ささもばれてしまうということだ。 考えれば考えるほど憂鬱だ。 俺は、その日も上履きを失くす前に行った場所を念入りに探し回った。 まあ、俺が行くとしたら職員室か教室かトイレくらいだ。 だが、そんなところで上履きを失くすだろうか? 百歩譲ってトイレでは履物を履き替えるから上履きを脱ぐが、そこで失くした記憶もない。 本当に気づいたら、無くなっていたのだ。 しかも、最近体が疲れていて、一日中頭がボーとしていることか多い。 だから、ここ数日何をしていたかもうろ覚えで、上履きの発見はさらに難しくなっていた。 --- 「キンコンカンコーン!キンコンカンコーン!」 その日の終業のチャイムが鳴った。 「じゃあ、今日は終わりー。」 俺は受け持つ1年3組のホームルームを終わらせる。 一気に教室内が騒がしくなり、生徒たちが帰っていく。 俺はそれを横目に、神妙な面持ちで教室の窓の外をボーっと眺めていた。 頭の中は、あの失くした上履きでいっぱいだった。 今日は金曜日、本来はうきうきした気分になるはずだが、全く気分が晴れない。 俺は、モヤモヤしながら職員室へと戻った。 そして、まだやり残した事務作業に手を付ける。 こんな憂鬱な日だが、唯一心躍る予定があった。 何を隠そう、それは来週の家庭訪問だ。 そう、俺はついに岩倉の家へ訪問する、いや、侵入することができるのだ。 どんな家に住んでいるのだろうか? 彼女の家族はどんな人なのだろうか? 想像がどんどん膨らむ。 それだけでなく、彼女の家には彼女の靴や私服など、俺の夜のおかず達が大量に眠っているはずだ。 ばれずに、何か持って帰れないかしら? 俺の脳内は、悪魔のささやきでいっぱいだ。 すでに岩倉の住所は手に入れてある。 そうだ、Google Mapでどんな家か調べられないだろうか? そう思った俺は、おもむろにGoogle Mapにその住所を入力する。 「…県安川市奥山台5丁目1番地」 すると、高台にある住宅地がヒットした。 俺はこの地名を知らなかったが、よくよく調べるとこの奥山台という街は、郊外の山を切り開いて作られた新興の高級住宅地らしい。 広大な敷地に建てられた大きな家が立ち並んでいる。 「あいつ、こんなところに住んでたのか、、?」 俺のような庶民とは程遠い世界だ。 そして、その住宅街の端に、ひと際異彩を放つ巨大な家、いや建造物が鎮座していた。 そこが「5丁目1番地」。そう、岩倉の住む家だった。 どう異彩を放っているかというと、まず敷地があり得ないほど広大だ。 周りの家も庭でサッカーができそうなほど広大な敷地を有しているが、それらの家を20~30軒集めてもまだ岩倉の家が大きいくらいだ。 そもそも、この5丁目というのは1番地しかないらしい。 つまり、5丁目は全て岩倉家の敷地ということだ。 それだけで、いかにすごいかが分かるだろう。 もちろん建物もすごい。 現代風のモダン建築なのだが、サイズが尋常ではない。 最初に見たとき、ちょっとした公共施設かと思ったほどだ。 この例えが伝わるかわからないが、「私立大学の洗練された図書館」みたいな見た目だ。 というか、この周りから異彩を放つサイズ感という感覚が、初めて全校集会で岩倉を見たときの感覚と全く一緒で、なんだか可笑しく思えてきた。 彼女は、そういう星の下に生まれたというか、何にしても特別な存在なのだろう。 改めてそう実感する。 俺は、その家までの経路を念入りに調べた。 「バス停からかなり遠いから、タクシーを使わないといけないかもな。」 「来週ぶっつけ本番だと心配だから、今週末に下見しようかしら。」 俺は、そんなことを妄想していた。 家庭訪問が、ますます楽しみになってきた。 --- そんな風に無駄なことをしていたせいで、結局仕事が終わらず、俺は職員室の最後の一人になった。 時計の針は21時を回っていた。 この時間になると、誰に気を使う必要も無い。 俺は、Yシャツを脱ぎTシャツ1枚になった。 さらに靴も脱ぎ、靴下も脱ぐ。 完全にリラックスモードだ。 こうなったら、スマホを見ながらダラダラ仕事するか。 そう思って、俺はカバンに入ったスマホに手を伸ばした。 最近、俺がスマホを触るときのルーティンがある。 まあ大したことではないが、岩倉のSNSチェックだ。 以前彼女のインスタのアカウントを見つけたことがあっただろう。 (彼女のインスタ https://nao-tall.fanbox.cc/posts/9149379 を参照。) その後、俺はネット上を探し回って、彼女のX(Twitter)とTikTokのアカウントも見つけていたのだ。 しかも、これらのアカウントは鍵垢だったから、違うクラスの男子生徒を装ってフォローするという徹底ぶりだ。 そして彼女の投稿は、俺の格好の夜のおかずになるのだ。 とはいえ、彼女も高校生だしそんな頻繁に更新する感じではない。 1週間に1,2件の投稿があれば、ラッキーという感じだ。 だが、今日はXに30件以上の新着投稿が届いていた。 これは何事だろうか? 俺は、ワクワクしながら彼女のアカウントを開いた。 すると、、 俺「う、うそだろ。。」 そこには、「ちょっと待ってww 更衣室の前にあった誰かの靴、踏みつぶしちゃったんだけどww」というコメントと共に、彼女の巨大な足跡の真ん中でまるで車に轢かれたかのようにペシャンコになった俺の上履きの写真が投稿されていたのだった。 つづく…


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