よーう、お前ら楽しそうに飲んでるじゃねえか。
おうおう……そう邪険にするなって、お前らもさっきから後輩共に偉そうに語ってじゃねえか、ベテラン冒険者のありがた~い話は、酒の席だろうが聞いておくもんだ、タメになるもんだ、……ってな?
そこいくと俺は、お前ら全員の大大大先輩だぜ?
……そう年齢は変わりねえだろ、ってか?
まあまあ落ち着けって、俺はな……こう見えてもお前らの爺さんか、そのまた爺さんの時代から冒険者やってた人間だぜ?
まあ聞いてけって! お前らいいカラダしたベテランだろうが、それでも石になっていた人間の話、なんて、そうそう聞けるもんじゃあねえぞ。
………。お、ちょっとは興味でたか? ま、ありがたい話をひとつ、とんでもねえ冒険譚ってやつをひとつ、いっちょ聞かせてやろうじゃねえか、なあ?
帰る故郷もなくなった独り身の男の話だ、少しくらい付き合ったって悪くねえだろ?
最後まで聞いてみりゃあ、お前らもきっと俺に感謝するって、へへ……。
そう俺が石像をやっていたのは、今は『霞の城』って呼ばれてるあの城の中だ。
俺の時代には、もっと別の名で呼ばれ、今みたいに禁足地扱いもされちゃあいなかったぜ。
腕に覚えのある冒険者達が、ギルドの依頼や、残された家族の頼みや、自分の名声を確固たるものにするためにこぞって挑んでいったもんだ。
――そして、誰一人帰らなかった。そんな、ダンジョンだ。
この帰らないってのが大事でな。
そんな人間が増えれば増えるほど、報奨金は増え、命知らずの男共もわんさか湧いて、あそこには特A級のガタイと装備を携えた男たちが集まっていった。
玉座に込められた呪いを持ち帰って、俺こそが新たな王になるんだってな。
ま、俺もその中のひとりだったってことだ。
俺はガッチリと装備や食料を持ち込み、なにより勝利の確信を持って単独で城に侵入した。
中は静かで、不気味で、そして霧だらけだった。
広い城とはいえ建物の中だってのに、濃霧が俺の肌にねっとり絡みついて来やがるんだ。
視界どころか呼吸もおぼつかないほどの濃い霧の中を、俺は不意打ちを警戒して進行した。
武器をグッと握りしめて、足音を消して、そろりそりと歩いていたんだ。だがな、……妙なことに……城にたどり着くまであれほどいた魔物もいなけりゃ、先に挑んでいた冒険者の姿も見えやしねえ。
ただひたすら、自分の息遣い、防具の金属音、分厚い靴底が擦れる音。それだけだ。
まるで……止まった時間の中を歩いているような、けったいな静けさだった。
その中を俺は、玉座目指して進んでいった。これまで見てきた城の情報を頭に浮かべて、目星をつけてな。
そうしていくつめかの扉を開くと、急に開けた場所に出た。
先の様子は見えねえが、踏みしめる土の感覚と位置から、おそらく中庭だろうってのはわかった。
そこで俺は剣を振り上げた!
黒い影が、ずらりと並んでいやがったんだ!
待ち伏せか? 俺は扉で半身を隠して、息を深く吸い込んだ。腕に力を込めた。眉間にシワを寄せて、影を睨みつけた。
俺は待った。
だが、影は襲ってこなかった。距離を取るでもなかった。ただそこにぼんやりと残り続けた。
俺は警戒を残しながら、三歩……前に進んだ。
そこで、初めて見たんだ。
もうわかるな、石像の群れだ。
筋骨隆々、鍛え抜かれたガタイをもった男たちが、右にも左にもズラリ、だ。
どれもこれもが、ご立派な四角柱の台座の上に鎮座して俺を見下ろしていた。
魔力のこもったガーゴイルや、王の威光を示すためのナイトの彫像でないことは一目瞭然だ。
こんな脂ぎった、男臭い肉付きや髭、腕自慢の冒険者以外はありえねえ。
生きていた人間が、石にされた。
そうとしか思えん姿形だ。
どんな石鍛冶だろうと、こうは作れねえだろうっていう生々しい迫力ってもんがあった。
連中は鎧や翼の代わりに、個性豊かな髪や髭をして、それぞれ違う筋肉を見せつけていた。そしてなにより、一人残らず、……腰にぶら下げた魔羅をビンビンにいきり勃たせて石になっていやがったんだよ。
戦いで鍛え上げた厳つい顔面をしてやがるのに、全員が全員いやらしいドスケベな表情で固まってやがったんだ。
石になる瞬間、どんな極楽を見たのか――絶世の美女のメデューサか、骨抜きになる厳格か。見ているこっちが想像を掻き立てられちまう、いやらしい顔だ。
今にも口からヨダレやスケベな声が上がってきそうな……そんな、な。
俺はメデューサや呪いを警戒することも忘れて、その表情を見つめていた。
もちろん男のチンポやスケベヅラなんて見たいもんじゃねえが……、ここまで見事に鍛え抜かれたガタイが、さあ見ろ、見やがれ、って勢いで並んでいるんだ。どうしても目がいくというか、……吸い寄せられるんだよ。
霧で視界がおぼつかないはずなのに、何故か男共の顔面や筋肉だけはクッキリ見えるみたいでな、意識が全部、石になった筋肉に持っていかれて――こう……ボーッと………。
へへ……。
まあ、しかし、俺も冒険者だ。幻術か呪いだかわからんが、その程度で当初の目的を忘れたりしねえ。
俺は変態芸術家でもなけりゃあ、迷い込んだ哀れな農民じゃねえ。
百戦錬磨、戦斧の使い手よ。玉座を制覇してこいつら負け犬を助け出せば、どんな英雄にも負けねえ名声が手に入るってんで決意が固まった。
俺は玉座に向かうために、一歩進んだ。
土や草を踏む感触は不思議なもんで、生物感がなかった。足の裏に感じる草は、まるで作り物みたいに感じた。
俺の荒い息遣い。汗が垂れる音。草を踏む音。そして、声。
そうだ、声がしたんだよ。
俺以外いないはずの城の中から。
あっちこっちから、静かに。低い声で。
どんなって……。こうだよ。
石になれ……石になれ……。
石はいいぞ~。
石ってのは素晴らしいんぞぉ……最高なんじゃぁ……。
こんなもんだ。
それが、ハッキリ聴こえてくるんだよ。
いや正確には声じゃねえんだ。
耳を塞ごうが、歯を食いしばろうが、どうあっても聞こえてくる。
頭の中というか……魂に直接響くような音だ。洞窟の中で何かが反響しているみたいに、ずーっと俺の頭蓋骨の中で囁いてきやがるんだ。
滅びのない肉体。欠けることない至福。冒険者として最高の姿。永遠に残し続ける。見せ続ける。味わい続ける。
そんなような内容が、頭の奥でガンガン響いてくる。
俺は最初は無視してガンガン進んでいたんだが、聞いているうちに……だんだん……言葉が溜まってきた。
声に意識が引っ張られて、つい……石になるってどういう気持なんだ……そんなにいいものなのか……なんて考え始めちまった。
コツン、コツンって、言葉が溜まってきやがるんだ。最初は小さい砂粒みたいに、それがどんどん溜まって、デカくなって、巨大な石になって……俺の頭の中を占め始めた。
そうなると……だんだん自分がどこにいるのかわからなくなってくる。
何をしているのかわからなくなってくる。
何がしたいか……わからなくなる。
頭が重い石にでもなったみたいに、グラングラン揺れて、一歩歩くたびに足がおぼつかなくなってくる。
頭はクラクラ、視界もグラグラ。あちこちに飾られた、雄々しいポージングを晒した男たちの脚や、胸板や、チンポや、顔に、目がいっちまって……さっきまでどっちに向かって歩いていたかがわからねえ。
俺はついに、阿呆みたいに尻餅をついた。
ケツに土の感触を直に感じて、そこで俺はようやく自分が素っ裸になっていることに気がついた。
戦斧も手放し、鎧も外して、ブーツなんてとっくのとうに脱ぎ捨てていた。
残っているのは、魔封のスペルが裏地に織り込まれたバンダナだけ。
あとはなんもねえ。鍛え抜かれた男臭い美しい肉体だけだ。
冒険者として、戦いと鍛錬で鍛え上げられた、脂の乗った分厚くてゴツい筋肉の塊。
装備を一つも身に着けちゃいない。完璧な姿。ああ………そうだな……俺はその時まで、なんで大層な鎧なんて身につけていたんだろうな。こんな――フンッ、見事な筋肉が隠れるようなことをしていたんだろうな。どうだ、凄えガタイだろ?
それに、戦斧ってのも……よくよく考えたら邪魔なもんだ。
こんなに立派な拳があって、自分でも見惚れるくらいの二の腕があって、雄臭え毛が生えた胸板があるのに、どうしてそんな勿体ねえことを……。
俺は呆然としながら、俺と同じ……素っ裸の石像達を見つめた。
こいつらは俺がガキの頃から、……いや、産まれる前から、ここでこうして石になっていたんだ。
俺が爺になって、引退して、ガキの世話なんかする頃も、ずっとずっとここで石になっているんだ。
俺の口から、ドロッとしたヨダレが垂れた。
俺はようやく立ち上がった。
だが、足は玉座には向かっていなかった。
すでに半分石になったように、ガチガチに固くなって動けなかった。
石になりたい。
石になりてえ。
石のまま永遠に仲間入りしてえ。
気がつけば頭の中の声は、俺の声色になってやがった。
気持ち悪さや躊躇いなんて、最初からなかったみてえに少しも見つからん。
顔がニヤける。筋肉がざわつく。股間にぶら下がったイチモツが、グツグツ固くなってくる。
ふいに脚が動いた。
逞しい大腿筋がのっそり動いて、男臭い足の裏が大地を踏みしめた。
だが、目的地はもう違う。玉座でもなけりゃあ、故郷に逃げおおせたいとも思ってねえ。
俺は探していた。
俺の玉座を。
俺の玉座は、ここにある。
この中庭に。
その確信があった。
俺は素っ裸のまま、竿を右に左に揺らして中庭を歩き回った。
胸板を見せつける石像。
二の腕を強調している石像。
尻の穴が見えるほど股を開いた石像。
名だたる腕自慢たちが、みんな思い思いの表情で石になっている。
最高の笑顔だ。
自分の最良を見せつけて石になることは、人生最高の歓びなんだ。
俺にもわかっていた。
そして見つけたんだよ。
俺の台座。
俺が飾られるべき台座。
本能でわかるんだ。
まだ誰も乗っていない、たった今切り出されたばかりみたいな四角柱を見つけて、俺は猿みたいに飛びついた。
石になる。
もうすぐ石になれる。
もう二度と帰れない。もう二度と話せない。戦うことも、武勲を讃えられることも、酒を飲むことも、飯を食うこともできない。
だが、それでもいい、早く石になりたい。
石に。石。石になって、自分を飾りてえ。
それしか頭にはなかった。
俺の脳はもう石になっていた。
一つの考えごとだけを繰り返すただの石だ。
俺は台座の上で、自分が一番エロく見える、逞しく見える、最高のポージングをキメた。
ああ、これだ。
これ。
俺はこの格好がいい。
そう頭の中で思った瞬間、俺の体はゆっくり石になり始めた。
石になる感覚ってわかるか?
凍りつくみてえに冷たい、か? 息ができなくなって苦しい、か? 一瞬で意識が消える死みたいなもの、か?
全部違う。
もっとこう、肉体が代わることがわかるんだよ。じっくりな。
着っぱなしだった重武装を脱いだ時ってあるだろ? あれが一番近いな。
すっかり慣れて自覚もしていなかった重さや煩わしさを感じて、全身がふっと軽くなる。体の中を巡っていた血や心臓さえも石になる。
体から余計な活動が全部止まって、時間の感覚が止まるんだ。
ああ……俺は人間の最強冒険者から、逞しい筋骨隆々の石像になるんだ。
そう思うと、もう笑顔が止まらねえ。
顔が自然にニヤけて、笑っちまう。
それ以外の表情ができなくなる。
肉棒はガッチガチに勃起した。
筋肉は最大限に膨れ上がった。
ああ、さいっこうだ………。
そう感じた瞬間に、顔もチンポも筋肉も、全部が全部ガチガチに石になっちまった。
俺が人間だった証は、頭に残った高級品の魔封のバンダナだけ。
だが、中身が石になっちまえば魔封もなにも関係ねえな。ああバカバカしい、笑っちまうな。
石になった俺は、自分っていう輪郭と世界に完璧に分けられていた。
肌じゃなくなったのに、石と石じゃないものとの間が意識できて、不思議なもんで全身の筋肉のエロさやポーズの完璧さがわかるんだ。
それが続く。ずっと、何年も、何十年も。完璧が終わらねえんだ。
瞬きがなくなった目は、これまで以上にクッキリと風景が見えた。
霧で見えなかった風景がわかる。どれだけの男がここで石になり、最高の瞬間を永遠に味わっているかが見えるんだ。
勃起した肉棒も石になって、じゃあ射精ができなくって苦しくないのかって?
いいや、それも違うな。
言っただろ、俺は……最高を感じた瞬間に石になったって。
ぱっくり開いた鈴口から、まさに雄汁が出る瞬間、俺は石になってたんだ。
そう、夜に何発種付けしたなんて、そんなもんにこだわっていたのが馬鹿みてえで笑っちまうよ。
石の射精は……永遠なんだぜ?
射精なんて一瞬の快感のために、必死になってシコったり、肉穴に入れたりするなんて無駄なことはねえ。
ただ続くんだ。射精が。快感が。絶頂が。
あぁあ……イキっぱなし。
狂いっぱなし……。
ヨガりっぱなしの、ヘロりっぱなしだ……。
だがどんなにヘロってアヘっても、雄臭えポージングは残ったままなんだぜ。
どうだ、最高だろ?
俺はそこから、何度の昼と夜を味わった。
その間中ずっと、俺は一人で幸せだった。
―――。
………。
そうして……まあ、だいたい……石としての最高の人生が、俺が人間やってただけの人生より長く続いた頃だろうな。
俺はいよいよ石との同化が完璧になった。
俺が突っ立っている石柱あるだろう?
これが、実は繋がっていたんだよ。
他の連中、城、霧、そして今の俺。これが全部……この石の素材でできてたんだ。
だから伝わるんだ。
連中の声と歓びが。
俺の仲間。いや、俺達。俺自身って言ってもいい。
俺達は同じ、石だからだ。繋がるんだ。
数百年前からここで石像やってるオヤジの気持ちよさ。
俺より10年ほど早く石像になった侍。
生きてる間はどんなヤツにも負けなかった巨漢。
全部が全部、俺なんだ。
その瞬間、これが最高だって思ってたものが膨れ上がった。
考えてみりゃあ当然だ。一人の最高より、百人、いや、それよりもっと大勢の最高のほうが強くて……キモチヨクッて、ああ……はひっ……イイにきまってるだろ?
とんでもねえぜ。想像もしなかった。できようがなかった。最高の向こう側だ。
信じられねえことはまだあった。
俺はイッたんだよ。
石になったチンポから。完全に石になったチンポから。出てくるんだよ。石のザー汁が。
俺の体積は減ってねえ。きっと、城の何処か、台座の何処か、一体になった場所から流れ込んできた石が、俺のチンポの先から出てきやがったんだ。
あぁっ………すげえ……そう、思い出しただけで、おかしくなっちまうぜ♥
仰け反っちまう♥
チンポから出ちまう……♥♥
栓が開く。
道ができる。
チンポとちんぽが繋がって、俺のチンポは、他の冒険者達のチンポになるんだ。
そんで出てくる、……何百倍の石の射精だ♥♥
頭の中全部に響く雄の喘ぎ声に、石の体全体に響くくらいの快感、そんで、石のチンポから溢れる精液……何百何千倍……、それが………終わらねえ……永遠だ♥♥♥
永遠にイクんだ♥♥ あぁぁ……今お前らがチンポイジってる気持ちよさなんか比べ物にならねえぞ。もうなんもかんも、比較にならねえ♥♥ どんなガタイも、武具も、セックスも、比較にならねえんだ♥♥
ひひっ♥
あぁ、ヨダレ垂らすなんて、何年ぶりだっ♥
おっと悪い悪い♥♥
もっと話聞きてえよな、いいぜ、いいぜ。もっと聞け、聞け。
といっても、もうお前らにもわかるだろ?
これを知るとな、そうなるとな、もっともっと欲しくなるんだよ。
石になる人間がもっと欲しくなるんだっ♥
たくさん、おおぜい、いっぱい、大量の雄で石になりたくなるんだよ♥♥
へへへ……石になりてえ……か?
お前らも……?
そうだろ? そうだよなあ、俺の話……全部聞いちまったんだもんなぁ?
困ってたんだぜここ百年。
禁足地だなんて、馬鹿げたルールを人間が決めたせいで、すっかり新しい冒険者が来なくなってなぁ……。
へへ……だがよ、こうやって……なりたくもない人間になんて戻って……こうやって集めに来たかいがあったぜぇ……♥♥
収穫、収穫だぁぁ♥
お前たちみたいな男は……きっといい石像になるぜ……。へへ♥
自分の石像の姿想像しちまったんだろ? わかるぜ、そのツラ……そのチンポ、もう……石になりたいですぅってイッちまってるようなもんだぜ♥
さあ、いこうぜ♥
人間なんてもうやめて……俺と一緒に、俺達と一緒に……石になろうぜえぇええぇええ♥♥♥……♥♥♥♥♥
終
※背景素材/アキ二号機様