常識改変系、正義のベテランヒーローがクリスマスの幸福概念とコスチュームに侵食されて幸福になっていく話です。
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正義のヒーローエレクトリックジャスティス。彼は稲妻のような黄色いスーツを身に纏い、クリスマスイブの街をひとり静かに駆けていた。
屋根から屋根、ビルからビルへ屈強な電撃が飛び散るように跳ねている。
「街は平和そのもの……、結構なことだな、ヌンッ!」
眼下に広がるイルミネーションに、マスクの上から露出した顎が小さな笑みを作る。この平和を護らねばならない。無精髭の生えてきた顎が再び固くなった。
報告を受けたのはつい先刻のことだ。内容は、基地の発見。調査、殲滅がヒーローの任務だ。
すでに今日二度の戦闘をこなした体は100%の状態ではなかったが、それでもエレクトリックが選ばれたのは、その戦力が通常のヒーロー十人分以上のものだということだ。
なにせ、地点調査型は大抵死闘が予想される。
怪人出現の報告や、被害報告というのは、実のところ規模の推察が難しくない。しかし根城を構えている怪人というのは、それだけ戦力を蓄え、迎え撃つだけの準備を済ましているということだ。集団で攻めれば逃げられ、単身で乗り込めば返り討ち。つまり、ベテランヒーローが単身強襲を仕掛けるのが最も任務成功率が高い、ということだ。
「しかし、妙だな……コッチの方角で間違いないはずだが、ううむ……」
エレクトリックは喉仏から困ったような唸り声を上げた。
臆病風に吹かれたのではない。その逆だ。高揚させた戦意の維持が困難だった。
示されたポイントは間違いない。だが、どんどん住宅街に向かっている。日本の土地は豊かではない。狭い場所に一軒家がひしめいている。こんな場所に基地など建設できるものだろうか。
「ここか、ぬぅッ……」
そうして辿り着いたポイントで、ヒーローは改めて首を傾げた。
目の前にあるのは、間違いなくただの一軒家だ。地下や上空でもない、地上の、ここを示している。
「目的地に到着、これより……調査を開始する」
バイザーの機能をつけみたが、中には複数人の人間の熱反応があるばかりだった。一軒家にしては少々多すぎるが、しかしパーティ中といえばそれまでの人数だ。今日はクリスマスイブ。特別な夜だ。
それ以外には何も変哲はない。乗用車は二日以内に使用された痕跡がある。庭も荒れた様子はない。
しかし、だからヒーローは警戒を強めた。いついかなる場所に悪が潜んでいるかもわからないのだ。
ヒーローは無精髭面の顔をグイと引き締め、バイザーの機能をオフにした。予測される戦闘の前に、改めて自己診断プログラムを走らせる。
すでに今日二体の怪人との死闘を繰り広げてきたところだ。
朝方には空、夕方には海で。
しかし体力もエナジーの残量は十分だ。
不意打ちでも喰らわない限り、遅れを取ることはまずないだろう。万が一敗北したとしても、調査開始の報告はすでに入れている。潜入から時間が経てば応援がやってくる手はずになっている。
慢心はなく、かといって恐れもない。
ベテランヒーローは極めて冷静に、それでいて熱く判断した。
「とはいえ、まあ、誤報の可能性もあるからな……」
ヒーローは二度咳払いをして、低すぎる自分の声を少しばかりチューニングしてインターホンを鳴らした。
「はーい」
インターホン越しに聞こえたのは、平和そのものといった少年の声だった。
「なんでしょうかー」
少々不用心なまでに、あっさりと扉は開いた。玄関にいたのは一人の人間の少年だった。すかさずスキャンをしたが、武器や変装の類は見つからなかった。
「うむ、夕飯時に失礼。あー……本部から報告があってだな。悪いが家の中を改めさせていただくことになる。ご協力をお願いできるかな。なに、なにもなければすぐに立ち去る、よ?」
ヒーローは真剣な面持ちで、仁王立ちのまま少年に説明した。いささか堅苦しい言葉だが、戦闘に比べてこういった対応は不慣れなのだ。
「すごい、クリスマスにヒーローだ! 今度学校で自慢していいですか? ……あ、じゃなかった、はいどうぞーー。ヒーローには協力しなきゃいけないって、いつも先生にはいつも言われておりますから!」
しかし少年は得意げに笑うと、半開きだった扉を大きく開いてエレクトリックジャスティスを迎え入れた。
「それはそれは……ええと、うむ、失礼」
ヒーローは軽い会釈をして、改めて門をくぐった。扉の中に入ると、暖房で暖められた空気と灯りがすっとエレクトリックスーツ越しに肌に感じられた。
玄関の先には冬らしい柑橘系の芳香剤。壁にはリース。廊下はそっけない。きれいに整えられた、ごくごく幸せそうなご家庭だ。
「マスクオフ」
中に入って、ヒーローはすぐに首から上の全装備を解除した。
必要だった。たとえヒーローであっても、人様のお宅にお邪魔する以上、顔面を隠しているのは失礼にあたる。
「わあ、エレクトリックの素顔、はじめて見たよ! そっちのほうが格好いいとおもうな」
「うむ、お言葉感謝。だがヒーローというのは、常に自分を晒しているわけにはいかないんだ」
ヒーローは少年の感動を受け流しながら、用心深く廊下を歩いた。
まだ彼に心を許したわけではない。廊下の影から、突然不意打ちが来るとも限らない。エレクトリックは全身を覆う黄色のスーツに僅かに発光させた。
エナジーを滾らせた状態だ。全身に薄い防御の膜を帯びている。弾丸は溶け、殴打はねじれ、一軒家程度の広さであれば一瞬で一周できる。
「はい、どーぞー」
少年の手によって、リビングルームへの扉が開いた。
「…………」
「ほら、クリスマスだからね、楽しいことしてたんだ」
嬉しげに語る彼の言葉に混じって、楽しげなBGMがわっと大きくなった。
いかにもといったようなクリスマスカラーの彩り、暖色の灯り、そして至る所に汗臭さがむわりと香ってくるほどの、大量の男たち。
「……これは」
「ようこそ、クリスマスパーティ!」
少年が背後からヒーローの背中を撫でるように押した。
スーツ越しにぞくぞくとむず痒い刺激が走る。
「ぬ、あ………ッ」
カーン……と、背後からクリスマスベルの甲高い音が鳴った。聴覚も視覚も全てがクリスマス一色だ。
………。
ふいに、黄色く発光するエレクトリックスーツが居心地悪いもののように感じられた。まったくクリスマスに則していない。この場所に、この季節に、この雰囲気にそぐわない。全裸と変わりないほどに場違いで、みっともないものに思えてしょうがなかった。
「ああ、ど、どうしたんだ、俺は一体、ヌゥッ……――」
喉から絞り出す声も、いつも以上に低く濁っている。ヒーローは顔を抑えて背中を丸めた。……そこで、己の顔面がなにも纏っていない事に気がついた。マスクがない。いや、自分でついさっき脱ぎ去ったのだ。この家に入った時に。なぜ。どうしてそんな事をした。秘匿性と防護機能を致命的に下げる行いだ。
「ほらほら、見て回らないと行けないんでしょう」
動転しているヒーローの分厚い尻を少年がぐいと押した。
「う……おぅ……」
返答とも、うめきとも取れる声が出た。
一歩、また一歩進むだけでも異様な緊張感がヒーローの体を刺激していた。
夜の家の中で全身にスーツを纏っているというのに、まるで真っ昼間の往来を裸で闊歩させられているような気分だ。とてつもなく恥ずかしい。
羞恥など、ヒーローになってから忘れたものとばかり思っていた。常に堂々と立ち、勇ましく戦い、雄々しい姿を見せつけることによって希望を体言してきたのが、正義のヒーローエレクトリックジャスティス、そのはずだった。
そんな自分が、クリスマスに染まっていないという、ただ一点のみの理由で顔から火が出るほど恥ずかしい。
「ハァハァ……た、たのむ、なにか、俺にもなにか……、なにか身に着けさせてくれ、たまらん、こんな、こんな辱めは、はじめてだ……ぬぅう!」
他人の家特有の空気感というのは、これほどに人を蝕むものなのだろうか理解できないほどの羞恥心に、ヒーローは頭を抱えて懇願した。
「えーっと、じゃあどれかを選んでみるのがいいんじゃないかな、ほら、いっぱいいるでしょ?」
少年が指差すままにヒーローはリビングを見渡した。
すぐ側、床には褐色の肌をした男たちが、四つん這いになってウロウロと徘徊していた。見るからに異常な光景だ……だが、それが両手両足に蹄のようなグローブとブーツを身につけて、ピエロのような赤い鼻をつけているとなれば話は別だ。
「お、男としてそんな姿を晒すのは……本来、いかがなものか、と、なるもの……なのだが……」
なるほど、彼らはトナカイのようだ。クリスマスにトナカイは必須であろう。それならば四足歩行で、股間を剥き出しにして、言葉もなく腰を振っているのもおかしな話ではない。
いやむしろ、四つん這いになっている彼らのほうが、今の自分よりよほどクリスマスらしく見えて誇り高い存在のように思えてしまう。
「あぁ……くっ、し、しかし」
ヒーローは膝をついたり、倒れたりはしないものだ。という志がエレクトリックの脚を止めた。しかしそれも一瞬だった。
部屋を流れるクリスマスソング。全身のタイツに伸し掛かるように包んでくる香り、足元で気持ちよさそうに這い回るトナカイ。どれも抗いがたいほど魅力的だった。
どすん、とヒーローは両膝を床につけた。大きな掌をフローリングに打ち付ける。これでトナカイのように歩きだせば、この空間に調和した存在になれるのだ。
ほっと、安らぐような……心地の良い安堵感がエレクトリックの体に満ちた。少しだけだ、ほんの少しこの安堵感を味わってから調査を続ければいいのだ。
「あーダメダメだよ」
だが、少年はひょいとヒーローに跨りつつ言った。
「ど、どうしてだ、この大きな背中と、怪力は……トナカイとして申し分ないだろう」
「でもヒーローはトナカイになんてなれないよ、ほら、ブーツとグローブが入らないでしょ?」
言われて他のトナカイたちを見れば、まったくそのとおりだった。みなしっかり蹄をつけている。自分は人並み外れた体格をしているうえに、そのうえヒーロースーツにはブーツやグローブはついている。さらにその上から蹄型のグローブをつけようとしても、とても入らないだろう。
これではただ子供の前で四つん這いになったヒーローでしかないのだ。
「ああ、お、俺はトナカイじゃない……!? ぬ、あっ……お、降りるんだ、ヒーローの上にそんな、ああ、の、ノッてはいけないッ……! あ、あッ、は、はやく降りるんだッ!」
ヒーローは体を揺すって訴えた。誰かの体重を背に感じるというのは、トナカイでもないくせに随分と心地がよく危険であった。
しかしヒーローが必死になればなるほど面白いのか、背中の少年は面白そうに笑うばかりだ。
ヒーローは屈辱に感じながらも、体を低く平べったくして逞しい大殿筋をぐいと突き上げた、まるで滑り台のような格好になって、ようやく少年を下りてくれた。
「ハァ、ハァ……ああ、……くそぉ……」
立ちくらみのような感覚があった。先よりさらに恥ずかしさは増している。目眩がする。頭がクラクラして、何も考えられない。
「早く、報告に……戻らなければ……俺は……街の平和を護るために……ッ」
ヒーローにふさわしい言葉が無意識のうちに口から出ていた。だが、それもソファに目を向けた瞬間にいっきに薄らいでしまった。
広々としたソファには、真っ赤な帽子を被った屈強な男たちがクッキーとミルクを飲みながら深々と腰掛け、絡み合っていた。
「さ、サンタクロース……だな、あれは、そうだ、サンタクロースに違いないな……あぁ……逞しい男によく似合っているな……そうだ、あれならば、俺にもピッタリだ」
ヒーローは求めるようにソファに近づいた。
赤いタンクトップに赤い帽子、下着はどうやら真っ白な褌を締めている。倒錯した見た目だが、その白い立派な髭を見れば彼らがサンタクロースなのは疑いようがない。
少年が近づくと、サンタたちは急に股間をムクムクと大きくさせてチラリチラリと様子を伺っているのが見えた。時刻はまだ夕方で、サンタにはまだ何の仕事も宛てられていないのだろう。早くもっとクリスマスにふさわしい行為がしたい。プレゼントを渡して、子供に夢を与えて、幸せにして……自分たちも幸せになりたい。
そんな思考が流れ込んでくる。言葉に出さずともわかってしまう。
なんて崇高な男たちだろうか。
ヒーローはゴクリとつばを飲み込んだ。
あの中に混じりたい。サンタクロースになって、彼の願いをなんでも全て聞き入れてしまいたい。言いなりになりたい。
そんなことばかり頭の中に浮かんでくる。
凛々しかったヒーローの顔が、柔和な笑顔に変わっていた。破顔はそこで収まらず、とろけていくチーズのようにふわふわとした笑顔に変わっていく。
「でも、ヒーローは……髭がないよ」
「………」
しかし、そんな笑顔はすぐに凍りついた。
その通り。ヒーローは常に清く正しくあるべきであって、今朝も髭をそってきたばかりだ。無精髭がチクチクと顔半分を覆っているが、こんなものはサンタクロースとは呼べない。
「だ、だめか、コレでは」
そうわかってながら、ヒーローは跪いて少年の両手を自分の顔に導いた。
「ほ、ほら、触ったらわかるだろう。たった半日でヒーローはこんなに雄臭い髭が生えてくるんだ、なあ、わかるかな」
浅ましく縋り付く姿だ、しかし少年は認めなかった。
「それに、サンタクロースは子供の願いを叶えるんだろう。ほら、お、おじさんはピッタリじゃないか、普段はヒーローをしているんだぞ」
ヒーローはピッチリと胸板を覆うスーツを強調した。
しかし、そんなものは髭が生えていないという要素ひとつで否定されてしまった。
「で、では一体どうすればいいんだ……俺は一体、どうすれば……」
どんな強敵と会っても動じなかったエレクトリックジャスティスが、黄色いスーツ姿のまま右往左往している。これまで戦ってきた者たちがみれば、さぞ驚くに違いない姿だ。
そんな彼が最後に目をつけたのは、窓際に並んでいるのはクリスマスツリーだった。
緑色の全身タイツを身に着けた男たちが、両手にダンボール製の粗末な木を持ってガニマタで並んでいる。脚には茶色の長靴を履いている、これは鉢植え代わりなのだろう。
電飾をあちこちに巻きつけて、股間には電動式のオナホールが装着されている。彼らは腰を前後にゆっくりと振って、ホールに肉竿を擦り付けている。
ここに電気が走れば光がつき、あのオナホールも強烈に前後運動を始めてくれるのだろう。パーティの本番を今か今かと待ちわびている男たちの……いや、雄の顔がずらりと並んでいた。
「どうどう、面白いでしょう?」
「あ、ああ……なるほど、ヒーローのようにスーツを着せるのは……特に良い発想だな……ああ、これならば電飾を身にまとってもあまり危険ではない、からな……!」
彼らを讃えながら、ヒーローは内心では歯噛みしていた。同じ全身タイツ姿でありながら、なんと見事なクリスマス姿だろうか
ああ、これだ、コレなら完璧にこなすことができる。
「機能変更ッ、ヒーロー権限において――そう、今すぐにだ」
ヒーローはスーツに命令し、エレクトリックを表すそのカラーを躊躇いなく緑色に染め替えた。能力は失われ、胸板のマークも消えてしまったが、そんなことよりクリスマスの色に染まった高揚感に打ち震えていた。
「ああ……」
これで俺もクリスマスツリーのようになれた、緑の巨体。なんて立派なツリーだろうか。
「どうだこれで、俺もクリスマスツリーだ」
ヒーローは二の腕をムキムキと強調し、ガニマタになって、ぐいと腰を落とした。これで窓際に立っていればツリーにしか見えない。
「――あー駄目だよ」
しかし返事はまたしても残酷だった。
「ヒーローがそんなことしちゃあ駄目。ヒーローがここに混じっちゃったら、他のクリスマスツリーが可愛そうだよ。みんなボディビルダーやスポーツ選手だから筋肉ムキムキだけど、ヒーローが並んじゃったら流石に勝てないんだから」
「ぬゥ……!」
その言葉には、反論のしようがなかった。
クリスマスは思いやりの日だというのに、これでは調和もなにもない。
「ほら、この人とかはね、もともとは僕の家庭教師をしていたんですけどね、いい機会だったのでクリスマスツリーになってもらったんだよ。ヒーローに協力しろっていつも言ってたよ。――そんな人の横でヒーローがポージングしたらだめだよ」
「ああぁ……ツリーにもなれないのか、俺は……一体どうすれば」
エレクトリックジャスティスの逞しい胸板はいよいよ恐怖にかられた。世界を護ってきたヒーローが、突如世界に取り残されたような気分だった。
おかしくなりそうだ。
なぜ俺はクリスマスに染まれないのだ。
平和を守るなどと胸を張って言いながら、実のところ平和の一員になどまるでなれていなかったということだ。
なんて尊大で傲慢な人間だったのだろうか。
その時、ヒーローの腕に機械の振動が流れた。潜入してから一定時間が立ったので、報告の義務が発生したのだ。ヒーローは迷わず『問題はなかった』と報告した。さて、そんなことより、この身の置所のなさについてだ。
いったいどうすれば解決するのだ。ヒーローは少年に向かなおって、片膝をついて問いかけようとした。
「――なんだか、ヒーローは全然クリスマス一緒にできないね」
「あっ、ち、違う……そんなバカな、この俺が……ッ!」
しかし反論はできなかった。トナカイもサンタもクリスマスツリーでさえこなせない。どんな悪党にも負けなかった怪人との死闘にも勝ってきた、無敵のヒーローエレクトリックジャスティスとしての自信が粉々に砕かれた。
「あ、もう全部見終わったみたいだし、ヒーローで忙しいみたいだから、僕らは僕らでクリスマスパーティをやってるよ」
そう言って少年は手元のリモコンのボタンを押した。
暖色一つだった照明に、キラキラとした光が加わった。天井にぶら下がっていたミラーボールを模した照明器具が輝き出したのだ。
「おッほぉおお……ヌッォオオオオ!!」
ツリーは輝き、股間についていた電動のオナホールが機械音を鳴らした。並んだ髭面の男たちは一斉にガニマタの腰を前後に揺らして、機械が与える振動を全身で甘受している。
「ハァハァ……ハァハァッ、ハァッ!」
トナカイ達は嬉しげにお互いに跨りだして、雄も雌もなく発情期のケモノのように交尾を始めた。蹄の手足で上手に絡めないのが歯がゆくも同時に気持ちがいいようで、勃起した竿をバチンバチンとぶつけ合っている。
「ホ……ゥッオォオオオゥウウ……ホォォ!!!」
白い髭のオヤジ達は、日本人には不自然な笑い声のような喘ぎ声のようなものを発しながら、お互いの竿や尻の穴をほぐし始めた。おもちゃのような色合いの道具を使って、三者三様に尻の穴を広げている。ケツの快感にむせびながら、ヘラヘラとした赤ら顔で互いの白髭を絡ませあっているのが見えた。
クリスマスソングが流れる中で、楽しげなパーティの中を少年が嬉しそうに踊っている。
リビングルームは天国だ。
ツリーは少年のいる方角に向け腰を突き上げ、全身緑の筋肉を見せつけるように大きくパンプアップさせている。
トナカイたちは鍛え上げた広背筋を見せつけて、必死に自分の上に乗ってもらえるように懇願している。
サンタ達はあたためた肉体を使って、派手な柄の靴下で優しく彼の下半身をタッチして卑猥に誘っている。
誰もが聖なる夜を楽しんでいる。
そんな中で、唯一人立ち尽くすしている。
卑猥で、しかし幸せな世界だ。
ヒーローの黄色いスーツの中で、竿がギンギンに持ち上がっていた。
屈辱と羞恥と情けなさが、エレクトリックジャスティスの下半身をひたすらに刺激していた。
世界を護るヒーローが、まるで世界から一人取り残されたような気分だった。
ああ、この中に混じりたい。
幸せの中に浸りたい。
「そんなに一緒にすごしたいの?」
足元から聞こえた声に、ヒーローは躊躇いなく答えた。
「ああ」
「よしそれじゃあ一つだけ、あるよ」
「な、なんだ、教えてくれ!!」
ヒーローは全身を発光させて少年に尋ねた。
クリスマスに必要なもの、他にどんな物があるだろう。想像もつかない。もう教えてもらうしかない。
「ほら、大事なものが一つ残っているでしょ、これこれ、これだよっと」
それは、黒一色のそっけないエプロンだった。
クリスマスカラーでもなければ、妖精や雪だるまの類でもない。ただの黒いエプロンだ。
「こ、コレは一体……」
「クリスマスに必要な、優しいお父さんだよ」
その言葉を聞いた瞬間、目からウロコが落ちた。
ああ、そうだ。クリスマスというものを象徴的なものでしか見ていなかった。なんということだろうか。幸せなクリスマスには、幸せを作り上げる存在が必要なのだ。
「そうだ、ああ、そうだ、そうに違いない……ああ、目が覚めた……本当に、その通りだ…………!!」
――しかし、だ。父親という役割は他の……サンタなどとはわけがちがう。クリスマス一日限定の話ではない。人生のすべてを使って役割を果たすべき存在にあたる。
生涯独身を貫くヒーローにとって、それはまったく新しい契約であり。現在の自分の放棄にほかならない。
「それじゃあ、お父さん早くゴハンにしようよ」
「あぁあ………」
そんな躊躇いも、足元にすがりつかれた時の強烈な陶酔感を前に粉々に砕け散った。
幸せなBGMに、頭がゆっくりとろけていく。
スーツで覆われた股間からエナジーが勝手にあふれるのがわかった。先が湿って、とろとろになっている。興奮と幸福で腰が勝手に動く。
「ハァハァ……ハァッハァッ……アッァァァ……!!!」
もうダメだ、我慢できない。
この幸せな空間の一員になりたい。
「ああ、いいぞ、さあ、これで楽しいクリスマスになるなあ!!」
ヒーローはすっくと立ち上がり、迷うことなく手渡されたエプロンを身に着けた。
全身タイツの上に身につけたエプロンに竿を擦り付けた。先走りが滲み出ていたスーツとエプロンの間でとろりと卑猥な糸が引く。
「あっ、あぁぁ、エプロン似合うかあ、父さん、エプロン似合うかあ!!」
エレクトリックジャスティスは自分の股をエプロンにぐいぐいと食い込ませ、嬉しそうに少年に――名も知らぬ息子に尋ねた。
「美味しいご飯に、楽しい踊り、今日は夜ふかしだってしてもいいぞお、ああ寝る前には絵本を読んであげよう!! あぁぁ、た、楽しいなあ、クリスマスは楽しいなあッッ!! アァァ考えただけで楽しくなって、き、きもっちよくなってきちまうなぁぁッ!」
ヒーローは黄色い全身タイツに真っ黒なエプロンを擦り付けまくり、弾むような足取りで台所に向かった。用意されたターキーやポテトをレンジを自分のパワーを用いて熱しホクホクできたて同然の料理に温めなおす。
幸福だった。
スーツを貫通した雄汁が、分厚いエプロンをも貫通するほどドロッドロにあふれていくのがわかった。
クリスマスの主役はサンタでもトナカイでもツリーでもない。
それを楽しむ子供と、父親のものだ。
阻害されていた気分から一転、一気に主役にまで躍り出た気分だった。
エレクトリックジャスティスはツリーの横で同じポーズを撮ったり、サンタクロースに混じって息子を誘ったり、トナカイたちと一緒に四つん這いで歩きまわったり、おどけて笑って楽しみ続けた。
その度にヒーローは「ヌホォッ……」とお決まりのうめき声を上げて、腰をくいくいエプロンに食い込ませて射精した。
報告は適当に済ましてある。改めて何の問題もない事を報告し、疑われない程度にヒーロー活動を続けて引退しよう。彼らを養うほどの蓄えは十分にある。
クリスマスが終われば今度は年末、正月、節分と、イベント事はいくらでもある。
楽しませてあげよう。名前もまだ知らない息子のために、これからはこの人生と筋肉とパワーを使い続けなければ。
「さ、さあぁ次は何をして遊ぼうかぁ、ヌホォオッ!」
これからの明るい未来を考えて、ヒーローはたまらず手も触れず射精した。
彼らと一緒の姿でなくても、彼らとともにあることは出来る。なぜなら、クリスマスは楽しむものなのだから。調和と思いやりの日なのだから。