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ジン(浜沼盡)
ジン(浜沼盡)

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セヴンス・ソドム 第壱章

 ズュンデ王国が数百年に渡って魔族を退け続け、今なお栄えた国であり続けているのは、古より伝わる聖なる儀式のお陰だった。

 王国に産まれた健康な男子のうち、聖騎士たる適性を持つと判断されたものは、王国より招集の手紙が届く。彼らは城へと集められ、厳正なテストののち合格したものには、聖なる儀式が執り行われる。

 香の焚かれた薄暗い部屋。合格したものは、その中心に裸で寝転ぶことを命じられる。

 裸で寝転ぶ彼らの周りに、ぞろぞろと大人が集まってくる――その大人たちは皆顔の前に白い布を垂らし、表情を伺うことはできない。その大人たちは、この国の中枢を担う聖職者たちだ。

 彼らが入室時から小さな音量で唱えていた詠唱が、徐々に大きな音になる。その低く一定のリズムで鳴る音は、少年の意識を混濁させる――そして、詠唱者のうちの一人が、少年の右足の親指の先をつんとつつく。

 そこから、まるで植物が芽吹くように、紺色の蔦のような紋章が、しゅるしゅると少年の体を這う。

 そしてそれは太ももを這って股間へと届くと、睾丸と陰茎に巻きつく。

 儀式を受ける少年のうち大多数が、この紋章が定着しないで終わる。彼らは既に、体が大人になっているのだ。精子が尿道を通過したことが一度でもある少年は、聖騎士になる資格を持たない。

 ぶぉん

 少年の睾丸と陰茎に巻きついた紋章が、一瞬鈍く光る――それは、紋章が定着した証。彼がまだ精通を経験していない証明だった。

 安堵のため息を大人たちは漏らす。また、この国を護るものが無事に与えられた。詠唱がさらに大きくなり、少年の周りを地鳴りのように囲んでいる。

 少年は朦朧とした意識でよだれを流し、ぼんやりと宙を見つめるばかりだ――。


 このように、第七師団のメンバーたちも洗礼を受け、聖騎士隊のメンバーとなった。

 彼らは聖痕を受けると、一旦家に帰される。彼らが肉体を鍛錬するにふさわしい年齢に達した時、彼らは再び王城の門をくぐるのだ。

 彼らは精鋭であった。

 ガイツだけでなく、彼ら全員の陰茎には紋章が刻み込まれている。彼らの陰茎は射精はおろか、勃起することもない。彼らは誰も、それを不幸だとは思っていなかった。彼らはそれによって神の加護を受け、飛躍的な力を手に入れることができているのだから。それによって、王国を護る存在足り得ているのだから。

 しかし一部の心無い市民たちが、彼らのことをこう噂していることは、もちろん彼らも知っていた。

 ――あんなのは聖なる儀式なんかじゃない。

 ――あれは、呪いだ。

 ――彼らは、呪われている。

 彼らはほとんど、それを気にしていなかった。無論、護るべき存在にそう言われれば複雑な気持ちになりもするが、何かをもらう立場の人間は、往々にしてそのありがたさを忘れるものだ。それが、人間の性。聖騎士たる存在は、それを超越しなければならない……。


 そして、彼らは任務にために東の村へと向かっていた。しかし、目的の村は遠く、徒歩で向かう彼らはかなりの時間を要することになっている。

 数日は野宿を行い、出立から五日ほど経った日、彼らは予定通りその中途の、ヒメルという町にたどり着いた。彼らはここに数日滞在し英気を養ったのち、さらに東に向けて出発することになっている。

「ようこそいらっしゃいました」

 町長が、丁寧にお辞儀をし彼らを出迎えた。

 若々しく溌剌とし、逞しい体をもった町長は、

「本当に、ご苦労様です。みなさま、こちらへどうぞ」

 そう言い、彼らを案内する。町は整備されており、綺麗だった。

「こちらがみなさまの宿泊する施設になります」

 彼らが案内されたのは大きな建物。その前に、親子だろうか二人組が立っている。

 太鼓腹の、黒く短い髪の毛の男性が、

「やあやあ、ようこそ、お疲れ様でした。ほら、ホフヌング、みなさまの荷物をお預かりしなさい」

「はい」

 ホフヌングと呼ばれた青年は、団員の荷物を受け取るとどんどんと中に運んだ。てきぱきと、献身的に働くその青年。その様子を確認した宿の主人が、聖騎士たちを奥へと案内する。

「では、建物をご案内します、こちらが、皆様の宿泊する寝室です――一人一人にお部屋を用意しております」

 宿の主人に着いていく六人。ツォーンはその流れから離れて、建物の中を見回していた。

 ふと視線を感じ、振り返る。

 ホフヌングと呼ばれた青年と視線があった――気がした。気のせいかと思うほど、一瞬のできごとだった。荷物を一つ一つ寝室へ運ぶホフヌングのことを、ツォーンはしばらく見つめていたが、彼もやがて視線を外し、頭をかきながら残りの六人に続いた。


「いよいよだな」

 ――町役場の町長室。高級なしつらえの椅子に座っているのは、あのホフヌングと呼ばれた青年だった。

「たっぷり餌を撒いた甲斐があった。第七師団直々に馳せ参じてくれるとはな」

「さすが、です、ホフヌングさまッ♡」

 本来その椅子に座っているはずの町長が、ホフヌングの足元に膝をついて、その股間に鼻を這わせている。すん♡ すん♡ と音を立てて犬のようにそのにおいを肺に吸い込む。

「どうだ? 久しぶりのちんぽのにおいは?」

「はぁッ……♡ すばらしすぎてぇ……♡ ばかになってしまいそうですうっ……♡」

「おやおや、お前にまだ知性が残っていたとは意外だな。自分では何も考えられないちんぽ狂いに仕立て上げたつもりだったが」

「はいぃ♡ 私はちんぽ狂いの変態ですぅ♡ あぁくっせ♡ 雄くせぇ♡」

「妻と息子が今のお前の姿を見たらどう思うだろうなあ」

 ホフヌングが当てつけるように言う。それを聞いても町長はまったく動じることもなく、

「きっと……妻と息子も、誇りに思ってくれることでしょう! ご主人様にお仕えすることは、この上ない名誉そのものですから……♡」

「ふふ、嬉しいことを言うじゃないか」

 ちら、とホフヌングは横を見た。横では、宿の主人がまるで軍人か何かのように、ピシリと両手を体の横に立てて直立している。そのズボンには大きな膨らみがあり、時折ぴく♡ ぴく♡ といやらしく痙攣している。

 彼には溺愛する娘がいたはずだった。ホフヌングは彼らを見て、子供をこさえた父親同士の淫らな絡み合いを見るのも愉しいだろうと思う。

「立てよ」

 ホフヌングが町長に命じる。

「はいッ」

 町長は従順に従う。

「お前も、もう動いていい」

「ハッ!」

 男らしい野太い声で宿の主人が答える。

「じゃあ、向き合って」

 二人が体をサッと動かし、相対する姿勢になる。

 せっかくだ、入念に準備をしてやろうとホフヌングは思う。

「目の前にいる男をよく見ろ。お前たちはどんどん、目の前の男に惹かれていく。目の前の男を見ていると、自分の中で性的な欲望が――そう、果てしなく高まっていくのを感じる」

 二人は、徐々に目をとろんとさせ、うっとりと目の前の相手を見つめ出した。股間の膨らみが一層大きくなる。

「お前たちには、生涯を誓い合った相手がいたな?」

「はい、……私には妻が」

「俺、にも……嫁が……」

 呟く二人。

「いいか、今お前たちの頭の中にいるその女どもよりも、目の前の雄こそお前の生涯を捧げるべき相手だ。分かるだろう?」

「あ、あぁあ、……すっげぇ……あはぁ、かっこいい……」

「お前も……あぁ、たまんねぇ……!」

 もぞ、もぞ、ともどかしげに体を動かす二人。主人の命令なしに体を動かすことはできないのだ。二人はあまりの興奮から体中にじっとりと汗を滲ませ始めた。室内に雄の、それも獣のように興奮したフェロモンが充満する。二人は小鼻を動かして、その臭気を肺に取り込む。それによって二人はますます興奮していく。

 ――ぱちん。

 ホフヌングは無言で指を鳴らした。それが合図だった。

 解放された二人はまるでタックルするかのようにがつん! と体をぶつけると、ふーっ! ふーっ! と荒い呼吸で互いの唇に貪りついた。

「んぁ♡ んぁ♡」

「すっげ♡ キスやべぇ♡ あぁああ♡」

 ゴリ♡ ゴリ♡ 二人は逞しい尻を振って、ズボン越しに股間を押し付け合う。

「んぁ♡ ちんぽズリたまんねぇ♡ 俺ばかンなる♡ 戻れねえくらいばかになっちまうぅ♡」

 互いの首筋に顔を埋め体臭を取り込み、汗を舐め、雄の味に二人は溺れていく。

「どうだい? 気持ちいいだろう?」

 町長に問いかけるホフヌング。

「あぁ♡ ホフヌングさまっ♡ サイッコーです♡ あぁあはぁ♡」

「そういえば、まだ言ってなかったことがあるな」

「はいぃ、なんでしょう……? フゥッ♡」

 宿の主人が彼のシャツをたくしあげ、腹筋の溝に舌を這わせる。右手で胸筋を揉み、左の乳首に子供のように吸い付いた。

「ん♡」

 快楽に眉を顰める町長。

「この前捧げてくれたお前の息子――あいつも無事、奴隷になったぞ」

 町長は思い出した。息子をホフヌングに――いや、魔族様にささげたときのこと。それは一人の息子を持つ親として、当然のことをしただけだった。

 だが、息子は激しく抵抗した。

 息子は先に仲間になった町の人々に取り押さえられたが、叫んで暴れて大変だった。

「お前もわかる、ご主人様に仕える素晴らしさが」

「どうしたんだよ、親父ッッ!!! 目を覚ませよッ!!」

「違う、私は目を覚ましていただいたんだよ、その、魔族様によって」

「おい、あんた、あんた……あんた、聖職者だろう! こんなことしておかしいと思わねえのかよ! なんとかしてくれよ!」

 町長の息子は、黒い聖衣に身を包み、ぶつぶつと祈りを捧げている教会の神父に向かって叫んだ。

「ああ、おぞましい。まだ本当の生きる意味に出会えていないとは……」

 それを聞き、町長の息子からはがくりと力が抜けた。呆然とした彼は、この町の教会に向かって連れて行かれ――そこで、儀式を施された。

「息子とも、また対面させてやろう」

「あぁ♡ ありがたき幸せぇ♡」

 宿の主人が再び、町長の顔に唇を寄せた。

 二人はまるで最愛の恋人であるかのように、うっとりと唇を重ねた。ちゅぱちゅぱと唇を吸い舌を淫らに絡める二人。それをみて十分に満足したホフヌングは、

 ――ぱちん。

「「んんんんんんんんんッッ!?」」

 それだけで、二人は絶頂した。ズボンの中、パンツの中がほかほかの精液で汚される。

 二人はもぞもぞとパンツの中に手を突っ込んで、まるで泥遊びする子供のように手をザーメンに塗れさせると、うっとりとそれを互いの顔に塗りたくり、相手の手も自分の手も舐め、精液を存分に味わった。

 ホフヌングは第二ラウンドへともつれこんだ彼らを放置し、町長室をあとにした。


           §


 夜。外はすでに闇に飲まれている。

 ナイトは、ベッドには入らずに、スツールに腰掛けじっと窓際に灯った蝋燭の光を見つめていた。何かを真剣に考え込んでいる表情だ。彼の脳細胞は活発に働き、さまざまな可能性をシミュレーションしていた。じっと動かず、脳を動かすことに集中している。ゆらゆらと蝋燭の小さな火が揺れ、室内の彼の影がゆらゆらと揺れた。

「――仕方ない」

 彼はそう呟き、かけている縁の細い眼鏡のブリッジを人差し指でくいと持ち上げると、なるべく物音を立てないように気をつけながら宿の外へ出た。

 外は静まっていた。

 人の気配どころか、獣の声さえ聞こえない。

 ただ風が吹き、植物が揺れる音だけが聞こえる。

 彼は大股で歩き、村の中心へ向かう。

 そこには、大きな教会があるはずだった。ナイトはそこで、神父に話を聞く心算だった。

 今日は満月。魔物たちの活動が最も活発になる日――おそらく神父は、夜通しで祈りを捧げていることだろう。

 教会のシンボルを掲げた、大きく聳え立つ教会にナイトは辿り着いた。

 ふう、と一度息をはいて、扉のノブに手を伸ばす――。

「こんばんは」

 後ろから、声がかかった。

 そこには、あの宿で荷物を運んでいた青年――ホフヌングが、立っていた。

「今日来た、聖騎士の方、……ですよね?」

「あ、ああ、そうだが」

「神父様に、何かご用ですか?」

 ナイトは困惑した。今青年に、抱えている不安を打ち明けるわけにもいかない。

「いや、……少し、眠れなくてね。気を落ち着けようかと思ったんだ」

「今日は満月です。魔物が現れては危険ですよ。……って、聖騎士さんなら問題ないですね。とてもお強いって聞いてます」

「いや、そんなことは」

 ナイトは社交辞令の微笑みを浮かべ、それとなく青年に拒絶の空気を示す。青年はその空気を察していないのか、饒舌に話を続けた。

「ぼく、聖騎士さんに会うのは初めてなんです。実際にお会いすると、みなさんとても精悍で、凛々しくて、素晴らしいですね」

 青年は浮かれているようだった。にこやかに話を聞きながら、どうしたものか、と思案するナイト。

「それにみなさん、とても逞しい。男らしくて、素敵ですね」

 彼の目が、妖しい光を宿した気がした――それは、おそらくナイトの気のせいではなかった。

「あなたのように、聡明で、敬虔で、精悍で逞しい男の人は大好きです」

 そう言い、青年は妖しく笑った。

 いくら聖騎士が性的な経験がないとは言え、その言葉に含まれる意味は、容易に理解できた。それは、性的なまなざしだった――王国でも、ごく稀にだがこういった人間はいる。もっとも、そういった人々は、もっとひっそりと、隠すように彼らをこっそりと見つめているものだった。

 だから、こんな堂々とした青年に、ナイトは一瞬、どう対処したら良いのかわからなかった。

 その躊躇が、命取りになるとは知らず。

「――おかしいって思ったんでしょう?」

 青年が言った。瞬間、その場の空気が、一瞬で冷え切った。

「なに、が」

 先ほどの動揺から、ナイトは行動が遅れてしまった。彼はすぐにその場を逃げ出すべきだった。だが、その判断ができなかった。

「誤魔化さなくていいですよ、気付いたんでしょう? この村に来てから、一人も女性を見ていないことに」

「――」

 温厚そうな、人の良さそうな顔をしていたはずの青年――。今は、その顔に笑みを浮かべているが、その笑みは先ほどまでのものと全く性質が異なっていた。

「だけど、仲間を連れてこなかったのは失敗ですね」

 どこか嬉しそうに青年は言う。

「仲間を心配したから? 仲間が邪魔だから? ……どちらにせよ、あなたは本心では仲間を信用していないんですよ」

 青年は、ナイトの目の前まで歩み寄って、上半身をかがめてわざとナイトを見上げる姿勢をとった。そして言った。

「あなたは、そういう人なんです」

 まるで医者が病名を宣告するような口調だった。

 そこで、遅れていた判断が、ようやくナイトに追いついた。

 念の為と持ってきていた短剣を取り出し、彼の前にシュッと突き出す。

「お前は、何者だ……!」

「いやいや、ぼくはホフヌングです。ただの宿の手伝いの――」

「誤魔化すな、お前――人ならざる存在だな? こんな、聖域の眼前に現れるなど……」

 ナイトの言葉を聞いて、ホフヌングはぶふっと笑った。

「聖域、ね。なるほど、はは、面白いや」

「我らの神を侮辱するな、魔族め……!」

「じゃあ、ここが本当にまだ聖域なのか、……その目で確認してみますか?」

 挑発するようにホフヌングが言う。

 それを聞いたナイトは、強く動揺した。振り返り、教会のシンボルを見る。それは間違いなくそこにある。それは、そこが聖域である証だった。

「駄目ですよ、中までちゃんと確認しないと」

 ホフヌングが言う。

 ナイトは短剣を向けたまま――ドアノブに手をかけ、引いた。

 軋んだ音を立てながら、荘厳な扉が開かれる。

「……あ、あ、あっ」

 中から、声が聞こえた。

 ――なんだ?

 ナイトは闇の中に目を凝らす。たくさんの蝋燭に火が灯されている。ゆらゆらと揺れるその灯りの中に、誰かが立っている。

「んぅ……ふぅ……ッ♡」

 その漏れる吐息が熱を帯びている。

「あぁ……すごい……すばらしいぃ……」

 うわ言のように呟き、自分の体を撫で回している。

 その男は、この教会の主人である神父だった。

 彼の、眼鏡の奥の目は半分閉じられ白目を剥き、口はだらしなく開いて舌がちろちろと覗いている。

 逞しい胸を、丸く円を描くように両手で揉んでいたが、……やがて右手はそこを離れ、聖壇に置かれた何かを掴んだ。

 それが何なのか、ナイトにはしばらくわからなかった。なにかキノコのような形にも見える、太い棒――。彼がすぐに理解できないのも無理はない。彼のペニスは、勃起を知らないのだ。彼の周りにいる男は誰も、勃起したことがないのだ。だから彼は、それが勃起した男性器を模したものだということも、それを何に使うかも、わからなかった。

「ああ、あぁ」

 神父は苦しそうに、しかしどこか上の空にうめいて、まるでキャンディーを舐めるようにその棒に舌を這わせた。棒が、淫らに濡れていく。神父は、愛おしそうにそれを舐め、唾液で濡らした。

 神父はそのまま、十分に湿らせたそれを、臀部へと持って行った。

「はぁッ♡ 来ましたぁッ♡ ちんぽぉーッ♡」

 そんな、まるで知性を感じさせないようなことを言う。

 それは、ナイトが人生で一度も見たことのない、男の痴態……雄の乱れる姿だった。

 神父は体の向きを変えた。そこでようやく、ナイトは神父が何をしているのか正しく理解した――それは、教会で最も禁忌とされている行為に違いなかった。

 ナイトは圧倒されていた。しかし、何が起きているのか理解した。

 ――精神操作。

 それはここに来る前、彼自身が考えた一つの可能性だった。

 それを畏れたからこそ、彼は夜中にここまでやってきたのだ。神父に相談しようとしていた、村人の様子に最近変わったところはないか、と。

 だが。

 まさか。

 当の神父さえも――。

 秘術を施されている聖騎士ほどではないにしろ、聖職者もまた自らを律し神に仕える身。魔族の精神攻撃への耐性は持っているはずだった。その神父が、あれほどまでに……。

 その時、虚に宙を眺めていた神父の視線が動き、ナイトをその視線に捉えた。

「あ、あ、あ……」

 震える声を漏らす神父。

 ナイトは、彼が正気に戻ったのではないかと思った。だがそれは、全くの間違いだった。

「あぁ……♡ 聖騎士さまが私の淫らな姿を見ている……聖職者失格の私を見てくださっているっ♡」

 ふぅ、ふぅ♡ と激しい運動後のような熱い息を吐きながら、彼は普段自らが立ち説教を行うその机の上に登った。そのまま、両脚をあげて、彼に尻を見せつける。

「もっとぉー……もっと見てぇー……、変態な、私を……堕落した私をぉー、淫乱なわたしをぉぉ……♡」

 尻の筋肉に力を入れているのか、挿入された棒がぶるんぶるんと震えている。結合部からは、何か液体がとろりと垂れている。

 ナイトは呆然としていた。目の前で起きている事態が信じられなかった。

「――どうです、素晴らしいでしょう?」

 自分の背後に、魔族がいるのを忘れてしまうほど。驚いて振り返ると、青年――いや、魔物が思い切り彼の体を突き飛ばした。薄暗い教会の中に彼は追いやられる。

「貴様……! 神を冒涜して……!」

 ナイトの背後からは、相変わらず神父の野太い喘ぎ声が聞こえてくる。

 ナイトは魔物に切り込むため、短剣を強く握り彼の懐へと飛び込んだ――飛び込もうとした、はずだった。

 しかし、彼の足はその場に棒立ちになったまま、動けない。驚きにナイトの表情が固まる。

「な……ッ!?」

「良かった。十分に浸透しているみたいだね」

 魔物がうきうきした声で言う。

「浸透――?」

「そう、浸透。この村にはね、ぼくの穢れた力が、十分すぎるほどに充満している。君たちの体をちょこっと操作できるくらいの穢れがね」

「そんな穢れに、我々が気付かないわけが……」

「そうだね、こんな穢れを一気に浴びたら、きっと君たちはすぐに異変に気づくだろう」

 魔物はナイトに向かい合う。キスでもするくらいに顔を寄せる。ナイトは顔を逸らすこともできない。魔物が言う。

「カエル、知ってる?」

 ナイトは返事をしない。急な話の展開についていけなかったからだ。

「カエルを水の中に入れて、少しずつ水の温度をあげていく。そうすると、カエルは温度の上昇に気がつかないで、いつの間にか茹で死んじゃうんだって」

 おぞましい話だ、とナイトは思い、そして理解する。つまり――。

「そう、カエルは君たちだ。道中、本当に気づかれないくらいに少しずつ、穢れの濃度をあげていった。今、この町は、普通の人間なら数秒で発狂してもおかしくないくらいの穢れ、性の淫らな力で満ちているんだよ」

 背後では、神父がうめき声のような叫びをあげた。神父は絶頂していた。

 魔物は続ける。

「聖騎士さんたちは、性欲とは無縁だから、気づかなかったっていうのもあるだろうね。普通の人間なら、興奮してどうしようもなくなるはずだから。難儀だね、その呪いも」

 魔物は、ナイトの股間を指差した。

 ナイトはその、あまりに予想を上回る展開に呆然としながらも考えていた。

 ――なんということだ。

 早く、仲間たちにこの事態を知らせなければ!

 しかし、ナイトの体は動かない。

 どうすればいい、どうすれば――。

 考えるナイトに、魔物が告げる。

「さっきお兄さんが入ったお風呂にも、ぼくの力がいっぱい入っていたんだよ? 村人たちが、新鮮な精液を注いでくれたからね」

 ナイトは、先刻入った宿の大浴場を思い出していた。

 あの、とろみのある白濁した液体――あそこに、そんなものが……!

「全身にたっぷり浴びた力が、少しずつ体内に侵入したんだ。ふふ、サイコーでしょ?」

 それは、神に仕え、性的なものを断ち切って生きるナイトにとってあまりにおぞましい話だった。

 ナイトはしかしまだ挫けていなかった。

「だが、そんなものは、神の加護の前では、意味がないはずだ――! 神の力で、我々は守護されている。祝福された存在なんだ、我々は」

 彼の信仰心は微塵も揺らいでいなかった。神を信じれば、目の前の魔物も打ち倒せるはず、そう信じていた。

 魔物が言う。

「そう、確かに神の加護はとても強力だ。あなたたちは聖なる力に護られている。――でもそれは、残念だけど絶対じゃない」

「何を……言って…」

「どんなに神の加護が強力でも、結局あなたたちは人間だ」

 青年の嗜虐的な笑み。

「人間は神にはなれない。あなたたちがどんなに鍛錬しても、民衆から怖がられるほど禁欲的な生活を送っても、神そのものにはなれない。神は、生まれたときから神、人間は、生まれた時から人間だからね」

 魔物が歩き、神父の元へ歩み寄った。絶頂し呆けていた神父だったが、魔物が目の前に手を差し出すと、恭しく手をとって指をしゃぶった。

「あなたたちはあの大戦で、魔族を討伐したつもりになっているようだけど――それは間違いだよ」

「まち、がい……?」

「あんなのは、僕たちの力の一部しか使ってないんだ」

 ねー? そう、神父に語りかける。

 神父はうっとりと答える。

「その通りでございますご主人様、魔物たちの力は我々よりも遥かに強く圧倒的で――すばらしく幸せになれますぅー……♡」

 ナイトは理解していた。

 これは、私に動揺を誘うための手段に過ぎない。

 私の心を弱らせて、その隙につけこもうとしているのだ。

 そう理解していてもなお、ナイトは自分の立っている地面がぐらぐら揺れているような気がしていた。

 ぱちん。

 魔物が指を鳴らすと、犬のように盛っていた神父は、糸が切れた人形のようにぐったりとその場に倒れこんだ。

「ほら、見てみて」

 魔物が神父の股間に手を伸ばし、そこにこびりついたねばねばした液体を手に取った。

「これが、精液だよ。見たことある?」

「そんなものを、私に見せるな……」

「どうして? こんなに素敵なものはないじゃない」

 そう言い、ぺろっとそれをなめとった。

「にが」

「穢らわしい!」

 叫んだナイトに、魔物は言う。

「どうしてこれが穢らわしいんだい?」

「穢らわしい、人間の恥部だ、そんなものは」

「恥部ね。これがあるから子供は産まれてくるんだけどな。むしろこれは、祝福なんじゃないのかい? 新たな生命の源だよ。とても濃厚なエナジーに満ちている」

 ナイトは黙ってしまった。反論が思いつかなかったからだ。

「ねえ、どうしてあの洗礼で君たちが力を手に入れることができるのか考えたことがあるかい?」

 その洗礼が何のことを差しているか、すぐにナイトは理解した。

「君たちがされているのは、要するに去勢なんだよ。君たちは本来味わえるはずの生命の悦びを失う代わりに、力を手に入れている。悲しいと思わない?」

「戯言、を……そんな穢れた悦びは、はなから求めてなんていない」

「勇ましいね、一度もそれを味わったこともないのに。食わず嫌いってやつかな? いいかい」

 ずいっ、と魔物はナイトの眼前にザーメン塗れの手を突き出した。

 栗の花のような、苦いにおいがナイトの鼻を突く。

「快楽は、穢れでも、呪いでもない。それはただの快楽でしかない。去勢された、哀れな聖騎士様にはわからないかもしれないけれど、世の中の男たちはみんなオナニーしてるんだ。毎晩ちんこを扱いてザーメン出して、それですっきりして翌日は仕事をしてるんだよ」

 ナイトは顔を顰めた。

「そんなのは、退廃だ。人間はもっと理性的で、神への信仰を――」

 魔物がその言葉を遮る。

「素直じゃないなぁ。まあ、こんなもののせいで、一度も射精してないんだ、仕方ないか」

 魔物がナイトのちんぽをズボン越しに触った。

「さ、触るな!」

 魔物はもちろん取り合わず、そのままズボンをずり下ろした。

 現れたナイトの陰茎は、白く綺麗な色をしていた。

「使ってないから綺麗な色だね。はは、これがあの紋章かぁ」

 魔物は腰を下ろし、目の前でまじまじとナイトのちんこを見る。そんなものをまじまじ見たこともないナイトは、羞恥を感じてしまう。 

「強情なお兄さんに教えてあげるよ。快楽ってやつをね」

 すう、と魔物はナイトのふにゃっと萎えたちんぽを指でなぞった。

 ぞくっ!

 奇妙な感覚が、ナイトの背筋を駆け抜けた。

 普段小便のときにペニスを触っても、あんな感触を覚えたことはなかった。

 未知の感覚……。

 ――なんだ?

 おかしい、おかしい、何かがおかしい。

 ナイトの毛穴が開いて、汗が滲み出る。

「ほら……感じるでしょ? お兄さんのナカに入った、淫靡な力を、さ」

 そう言われると、体の中が奇妙な感じがしてきた。

 それは、一種の暗示だったのかもしれない。

 実際には、何も感じていなかったのかもしれない。

 熱もないのに、顔が赤いと言われると風邪を引いて感じるのと、同じ仕組みだったのかもしれない。

 ナイトの中で、何かが目覚めたような、むずむずする感触が芽生えた。魔物が告げる。

「お前は、素晴らしく自分を鍛え上げた」

 声色が、先ほどまでと違う。ナイトはぼんやりと魔物を見つめた。

「神に仕えるにふさわしい、人間離れした存在になった」

「だけど、硬く硬くかためたものほど、鋭く一点を突かれると、あっけなくひび割れるんだよ」

「ひび、……」

「そう、そしてお前たちの弱点は、とても、とても、わかりやすい」

 魔物が言う弱点とは何なのか、ナイトは理解した。ナイトは笑う。

「快楽が、私たちの弱点だと言うのか? はっ、面白い。それは、我々から一番無縁の――」

 そう言って、ナイトはその論理の大きな穴に気づいた。

「気づいたみたいだな。さすが、賢い。そう、お前たちの弱点は快楽だ。お前たちはそれを何よりも遠ざけて鍛錬に励んできた。

 だから。

 だからこそそれが弱点なんだ。

 だって――お前たちは、それを一度も感じたことがないんだから」

 大きな不安がナイトを襲う。頭がぼうっとして、かんがえがまとまらない。

 この体に湧き上がる、奇妙な熱は何なのだろう?

 それは経験したことのない感覚だった。

 魔物が言う。

「それが、快楽」

 はぁ、はぁ、とナイトの呼吸が荒くなる。

「だいぶ回ってきたみたいだね。それじゃあ」

 魔物は、ゆっくりとナイトのちんぽを持ち上げた。

「あなたを、いただきます」

 そう言って、文字通り魔物はナイトのちんぽをぱくりと咥えた。

「う、ぉッ……」

 ナイトが声を漏らす。普段なら何も感じないはずのそこが、快感を伝えてきている。頭が鈍くなる。体が熱い。

 未知の感覚がペニスを襲う。ナイトは股間を見下ろした。魔物が自らのペニスを咥えている。それだけで十分すぎるほどにおぞましかったのに、何より恐ろしかったのは、

「な、んだ、これ、はぁッ……ッ!?」

 ナイトのペニスが形を変えていた。ビキビキと固くなり、そそり立ち、存在を主張している。そこに巻きついた紋章は、引っ張られて軋むように紅く光っている。

「これが、勃起だよ。聞いたことはあるだろ?」

 口を離した魔物が、右手でナイトのペニスをしごきながらレクチャーする。

「これが……勃起……?」

 グロテスクなまでに膨れ上がった自らのペニス。見たこともないその姿に、ナイトは言い知れぬ恐怖を感じる。

「私の……ペニス、が」

「おっと、ペニスなんて言い方はなし、なし。これは、ちんぽ。おちんぽ様だよ。それが、お兄さんがこれから仕える新たな神の名前」

 ぐちゅ、ぐちゅ、とペニス――いや、ちんぽをしごく魔物。手慣れた手つきで、しっかりとナイトを気持ちよくさせている。

「神が自分の体にくっついているなんて、サイコーにステキでしょ? 遠く離れた神じゃない。いつだって自分の中に神を感じることができるんだ」

「ふざけたことを、……言うなぁ……ッ!!」

 必死に抵抗するナイト。

「ほら、お兄さんのちんぽから、いやらしい汁がどんどん垂れてきたよ? えっちなにおいがする汁、嗅いでごらん」

 魔物はてらてらと光る手を、ナイトの眼前に持って行った。ナイトが顔を背けると、

「わからずやには、こう」

 そう言って、強制的に顔に先走りを塗りたくる。すっぱいような、しょっぱいような、嗅いだことのないにおいがナイトの顔から漂った。

 びくん! びくん!

「あは、お兄さんのちんぽびくびくしてる。先走り塗られて興奮した?」

 魔物が言った次の言葉が、ナイトの中にぐさりと刺さる。

「お兄さん、結構淫乱だね」

「私が……淫乱……?」

「うん、だって普通の人こんな風にならないよ」

「そん、な」

「お兄さん、変態なんだね」

「ちが、ちが……」

 魔物はナイトの体を優しく愛撫する。その触れるか触れないかの感覚に、ナイトは思わず声をあげた。

「えっちな声出して。やっぱ淫乱じゃん」

「ちが、ちが……あっ♡」

「ねえ、射精したくない?」

「射精……」

「ちんこから射精するのって、今よりずっとずっと気持ちよくなれるんだ。お兄さんが望めば、そこから射精、できる」

 ナイトは想像した。これが、射精をする。

 それは恐ろしい想像だった。

 ナイトは思う。

 ――そんなことはしてはならない。そうなったら、私は力の全てを失ってしまう。聖なる力。神の加護。

「私は、そんなことは望んでいない……」

「ふうん」

 つまらなそうな顔で、魔物はナイトから離れた。

 ナイトはそのとき、自分でも気づかないくらい少し、残念だと思った。

「じゃ、いいや。おもちゃであそぼ」

 そう言い、神父の元へと歩み寄る。神父は起き上がり、聖衣にべっとりといろいろなシミをつけたまま直立した。

「オナニーして」

「はいッ! 私、オナニーさせていただきますッ!」

 ぐちゅっぐちゅっと、ちんぽをしごく神父。

「もっと見せつけるように。せっかく観客がいるからね」

「はっ、はぁい! ありがとうございますッ! 変態神父の淫乱オナニーをご覧くださいィ!」

 変態。

 淫乱。

 その言葉がナイトの頭の中で踊る。

 ――お兄さん、結構淫乱だね。

 ナイトは神父に、自分を重ねてしまう。

 私も、私もああなのだろうか。

「はぁ! ちんぽ気持ちいですぅ! ちんぽは私の神様です! 私はちんぽの奴隷です!」

 腰を前後に振り、あまりの快楽に唇を噛みながら神父が叫ぶ。

「あぁーオナニーきもちいーきもちいー! いいー! すごいぃー!」

 右手を自らの胸にもっていき、痛くなってしまいそうなほど強く乳首をつねっている。

「あぁご主人様ァ……射精、射精したいです、ザーメンぶっぱなしてもっとばかになりたいですぅッ!」

 間の抜けた顔で、裏返った声で、魔物に、惨めに射精を乞う神父。

 魔物は、嬉しそうに言った。

「いいよ、さあ、イけ!」

 がくがくッと痙攣するように神父の体が悦びに震えた。

「ああっありがとうございますっっ! 射精! 射精! 射精しますぅ! ああ、ああ、きもちいい! きもちいですぅ!」

 びゅーっ! びゅるるるっ

 勢いよく溢れ出した精液が、ナイトの上半身の隊服を汚した。

 濃度の濃いそのザーメンは、深緑色の隊服からぽたりと垂れた。

 魔物は座っていた机から立ち上がると、再びナイトの前にやってきた。

「ね? 射精って、こんな感じ。すごく気持ちいいんだよ」

 ナイトは、魔物が自分に話しかけていることがわからなかった。彼は朦朧としていた。

「はは、触ってないのにずっと勃起してたんだね。しかも、先走りが床まで垂れてるよ……ほら、えっちな汁」

 魔物はそれを掬い上げると、わざと、つん♡ とナイトのペニスをつついた。

「ひっ、」

「ねえ、射精したいんじゃない?」

 ナイトは朦朧とした意識で思う。

 射精、射精、射精。射精。

 ――それはどれだけ素晴らしいことだろう。

 ナイトのちんぽがびくんと震える。ぶるっと先走りが散る。

 そして思う。

 私も、普通の人間のように、射精をしてみたい。

 ――あ、と思った。

 ――私は今、なんて思った?

 そう思うころには、手遅れだった。

 悪魔がそれを見逃すはずがない。

 悪魔は指をパチンと鳴らし、

「――解錠」

 とだけ言う。

 瞬間、しゅるしゅると蔦が動き、ちんこから外れていった。

「あ、あ、あ」

 それは、神の加護が失われる瞬間。それは彼にとって、すべてが失われることを意味する。背筋が冷えるような恐怖に包まれたナイトを――次の瞬間、

「うあ゙あ゙あ゙あああぁぁぁあぁぁぁッッッ♡♡」

 まさしく、経験したことのない快楽が襲った。

 そのときの彼には知る由もなかったが、それはそれまで押さえ込まれていた性的な刺激や性欲が、すべてまとめて襲いかかる膨大な快楽だった。

 ナイトのちんぽが暴れる魚のようにびくびくと脈打って、そのままの勢いで射精した。

 ナイトは二十六歳にして、はじめての射精――精通を経験したのだ。

 びゅるるるるるっ♡

 と、ゼリーのように濃厚なため込まれた精液があふれ出る。それは濃密にもかかわらず、あまりの勢いで遠くまで飛んでいく。

「ひぎ、ひぎ、ひぎいいいぃぃぃっ♡♡♡」

 ナイトはその理知的な顔を、苦痛にも思えるほど強烈な快楽にゆがめ、唾液を垂れ流しながらうめき散らした。

「あはは、いっぱい出てる」

 魔物が嬉しそうに言う声も、ナイトの耳には全く届いていない。

 射精は、数分にわたって続いた。金玉に溜め込まれていた十数年分の精液をすべて出し切る作業だ。すぐには終わらない。

 ナイトはまさに地獄のような快楽に溺れていた。

 ――気持ちいい! 気持ちいい! ちんぽ! ちんぽが! ちんぽ! ちんぽ! ちんぽ! ああぁ♡ 気持ちいいぃ! 

 ――ダメだダメだダメだこのままじゃああああああああきもちいいきもちいきもちいい射精ッ射精ゅ射精ぃぃいいいいいい♡♡♡

 彼の脳に、快楽と快感が、不可逆的なまでに残酷に刻み込まれた。頭の中が真っ白になって、ナイトは世界が終わってしまったのかと思った。それほどまでに、気持ちよかったのだ。彼はもう絶対に、この快楽を忘れられないだろう――神に仕える喜びなど、毛ほどの価値もないと思えるほどに圧倒的な快楽だった。それが、彼の魂へ、刻み込まれた。

 涙と鼻水とよだれがだらだらと彼の顔を汚した。どさりその場に膝をついても、まだ精液は溢れ出していた。

 周囲が、猛烈な精液の臭気に満たされるころ――徐々に、彼の射精も収まってきた。

 体は相変わらず痙攣するようにびくびくと震えていたが、彼は最後に、

「いぁ、いぁ……アッ♡」

 ぷびゅっ……♡

 そう呻き、断末魔のように、精液が情けなく小さく飛んだ。ナイトはその体をぐらりと傾け、自らの作った真っ白な精液だまりの中にどさりと倒れ込んだ。

 その顔は、彼の人生で間違いなく一番幸せそうな――人間のものとは思えない、微塵の知性も感じさせない表情だった。

 その顔を覗き込んだ魔族が言う。

「いい顔、するじゃん」


 ナイトは、倒れ込み隊服を精液塗れにしながら、白目を剥いて痙攣していた。

 その服の捲れた腹部には、行き場を失った紋章がまだ残っている。

「まだ残ってるんだ。本当に強力だなあ」

 そして閃いたように、

「そうだ! その呪いを、逆に利用させてもらおうっと」

 そう言い、彼の紋章へ指先から力を送った。すると、ちんぽから離れ、腹部にとどまっていた紋章が、しゅるしゅると動いて彼の首への巻き付いた。

 それは、神の加護だったはずのその紋章が、悪魔の意のままになったことを現していた。そして意のままになったのは、その紋章だけではなく、それが刻まれた人間もだった。

 その紋章は、ズュンデ王国の優れた聖職者たちが編み出した、非常に強い効力を持つ秘術であった――与えられた場所全てを管理する能力を持つその紋章は、ペニスに刻まれその機能を制限していたが、今は彼の首へと移動し――彼のすべてを支配する首輪になったのだ。

「あ♡ あぁ……っ♡」

 寝転がっていたナイトは、仰向けになりうっとりとした顔で宙を見つめた。その黒目がぶるぶると左右に震え、ぼんやりと開いた口から覗いた肉厚な舌が、何かを求めるように蠢く。

 従来の彼がしたことのない、淫乱な痴女のような表情。

 頬を赧らめ、何かを求めるように体をくねらせる。

 しかし彼はまだ意識を手放したままだ。

 紋章が完全に首に定着し、光が落ち着く頃、魔物が言った。

「さ、目覚めて」

 ゆっくりと、ナイトの目が開く。ナイトは首元へ手を持って行った。

「これ、は……」

「それは、契約の首輪だ。お前はその契約によって、ぼくの従順な奴隷となった。――自分がずっと頼りにしていた聖なる紋章に、身も心も支配される気分はどう?」

 ナイトはまるで自分の首輪を確認するかのように首筋にいやらしく両手を這わせ、

「はぁっ……♡ サイコー、です♡ 身も心も支配されるのが、こんなに素晴らしい気持ちなんて……♡ ああ、ああ、素晴らしい……」

「気持ちいいだろ?」

「はいッ……きもち、いい……ああ、快楽の素晴らしさを、私は体で、そして心で正しく理解しました。なぜ今までこの素晴らしさを知らずにいたのか……私は本当に愚かでした」

「わかってくれて嬉しいよ」

 そう言いながら、魔物――いや、今は彼の主人となった存在は、股間を指差した。

 それだけで何を求められているのか理解したナイトは、四つん這いで主人のもとへと向かった。ちんぽを目の前にし、うっとりと目を細める。

「はぁ……おいしそう、です……♡」

 それは、本心からの呟きだった。魔物の黒ずんだ大きなそれが、どんな料理よりも、そう、今までフェレライが作ってくれたどんな料理よりも、うまそうに見えたのだ。

「どうぞ」

「失礼、しますッ……」

 むぁ、と口を開けてナイトはちんぽにしゃぶりついた。

「うん、うん、初めてにしてはなかなかうまいじゃないか。やっぱりぼくの見込んだ通り、お前は淫乱だね」

「ありまもう、もまいまふ……♡」

 そんな屈辱的なことを言われているにも関わらず、ナイトは嬉しそうに、本当に幸せそうに目を細め、より一層強くちんぽにしゃぶりついた。

「お前が本物の魔族になるために、なにをしなければならないかわかるよなぁ?」

 ナイトの黒い髪をよしよし撫でながら主人が言う。

 聡明なナイトはすぐに理解した。

 自分がしなければならないこと。

 それは、堕落。

 快楽に耽る。欲望に素直になる。

 そして、その究極は――仲間を売る。

 それはナイトにとって福音だった。仲間を売れば、仲間たちも堕落すれば――再び私たちは一つになることができる。

 再び?

 いや、今までの団結は、偽物だった。あんな、偽物の神の元での団結など、なんの意味もない。

 我々は堕落し、本物の神のもとで、真に一つになることができるのだ。

 魔物が語りかける。

「そう、文字通り一つになることだってできるんだよ、ここを使えばね」

 魔物が足先でナイトのちんぽを弾く。

「ひぅッ♡」

 ナイトは間の抜けた声を漏らし、刺激を与えられた腰を引いた。

セヴンス・ソドム 第壱章 セヴンス・ソドム 第壱章 セヴンス・ソドム 第壱章

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