ルブス王国――国境を魔界と面しており、長く魔界と戦争を続けてきた国のひとつである。二十年前、魔王の代替わりをきっかけに魔界と和平条約を結び、長きにわたる戦争は終わりを迎えたが、いまだ反魔物感情を持つ者は少なくない。エメリ・ バレスもそんなひとりだった。
「まったく、魔物の給仕を雇うなんて、どうかしてる。汚らわしい」
エメリは寝支度をしながら、自室でひとり毒づいた。
名門貴族バレス家の出であるエメリは、両親から反魔物思想を徹底的に植えつけられて育ってきた。婿養子の夫であるアロンも、元軍人であり、エメリと同じく反魔物主義者である。魔物は敵、魔王は悪。エメリはそう信じ、疑わなかった。
「王都一番の名店なのに……もう行けなくなっちゃったじゃない。世も末ね」
寝る前の日課のスキンケアにと、エメリは三面鏡の前に座った。
保水ポーションをはたき、化粧水、乳液と、慣れた手つきで顔に塗り込んでいく。
美容のために大金と手間暇をつぎ込んできた甲斐あって、エメリの美貌は40に差し掛かろうとしているとは思えないほどに美しい。
ショートボブに切りそろえられた黒髪は、内側にくるんと跳ねるクセがチャームポイント。
意志の強そうな切れ長の瞳には長い睫毛が縁取られている。
肌は白く、すっとした薄めの唇は桜色。
口元のほくろも色っぽい。
寝巻の胸の部分を大きく押し上げる双丘は、はちきれんばかりの質量を誇っており、安産型のヒップラインと共に、熟れに熟れた大人の女性の肉体を見事に体現している。
同年代の貴族夫人たちの中にあっては、美貌は群を抜いているとエメリ自身も自負している。
しかし、それでも。
エメリは自身の衰えを感じずにはいられなかった。
年の割には若く見える、というだけで、鏡に映った自分の姿に、かつての若さはない。
徐々にハリツヤを失っていく肌、たぷたぷと肉がついてきたウエスト、そして、重力に逆らえなくなった胸やヒップ。
若かりし頃、王都一番の美人とたたえられた美貌も、陰りが見えていた。
人間である限り、避けようのない老いという現実が、エメリの心をヒリつかせる。
夫が議員として多忙なこともあり、セックスレスがもう1年近く続いていることも、エメリのコンプレックスに拍車をかけている。
やがて来る未来の自分を想像して、エメリの焦燥感は増していくばかりだ。
「ああ、もう。年なんて取りたくないわ」
鏡を見るたび、エメリはそう思わずにはいられなかった。
目元口元の小皺には特に丁寧に乳液を塗り込み、ため息をつくと、エメリはベッドに入った。
******
翌日、エメリは行きつけのカフェに来ていた。
友人のマリベルと、ひさしぶりにお茶の約束をしていたのだ。
エメリは約束の時間よりすこし前に着き、紅茶を口にしながら昔馴染の到着を待っていた。
「ハアイ、エメリ」
「遅かったじゃない……の?」
ちょうど窓の外を眺めていたときに、後ろからマリベルの声が聞こえた。
エメリが振り返ると、そこには記憶の中よりも遥かに若々しいマリベルの姿があった。
ウェーブがかかった栗色のロングヘアは艶やかで、陽光に照らされ、まるで天使の輪のように光沢を放つ。
ぱっちりとした垂れ目は愛らしさを醸し出し、豊かな睫毛が優しく揺れている。
肌はきめ細やかで透き通るように白く、口元は上品なローズピンク。
ともすれば冷たい印象を与えるエメリとは対照的に、おっとりとした印象で、ふっくらとした顔つきは可愛らしい。
40代とは思えないほど美しく、まるで20代の娘のように若々しいマリベルの姿に、エメリは目を丸くして驚いた。
「どうしたの、マリベル……その、随分変わったじゃない」
エメリは驚きを隠せないまま、彼女をじっと見つめた。エメリの質問に、マリベルは嬉しそうに頷いた。
「ええ、ちょっとね。エステのメニューを新しくしたの」
マリベルはエメリの対面の席に座ると、誇らしげに胸を張る。
その胸も、以前よりも一回り、いや二回りは大きくなっているように、エメリの目には映った。
「エステ……?」
「そうよ。魔物のエステティシャンを雇ってね」
「魔物?!」
エメリは驚愕した。
マリベルもエメリと同じく反魔物主義者のはずだ。
にも関わらず、魔物のエステティシャンを雇ったと言う。
「そんな……!魔物なんかに身体を触らせるなんて!」
エメリは声を荒げた。
マリベルはエメリの激昂に驚いた様子もなく、むしろ、穏やかな笑みを浮かべたままだ。
「まあ、聞いてちょうだい。確かに最初は私もそう思ったわ。でも、年上の知り合いに最近そのエステを受けたって人が居てね……彼女、見違えるくらいに綺麗になってたのよ。ビックリしちゃった。孫と並んでもおかしくないくらいに若くなってるんだもの。その人に誘われて、私も試してみることにしたのよ。そしたらね……」
「そしたら?」
「このとおり♡」
マリベルの表情が輝く。
うっとりと頬に手を当て、肌の感触を確かめるように動かす。
「シミもシワも消えて……お肌もハリが出てツヤツヤ!ウエストも引き締まって、胸は大きくなって、お尻もキュッと上がって、本当に魔法みたい。見て、わかるでしょ?」
マリベルは手で胸のふくらみを強調するように持ち上げた。
ゆさゆさと揺れるその胸は、かつてのマリベルのものより明らかに大きくなっている。
「20歳は若返った気分よ。いや、それ以上かも……。おかげで、夫ともね……♡しばらく、ご無沙汰だったんだけど、最近は毎晩、ね♡」
「ま、毎晩?」
「そ♡彼ったら、若い頃みたいに元気になっちゃって……私も青春時代に逆戻りしちゃった気分♡」
マリベルは幸せそうに顔を緩ませ、手を頬に添える。
その表情はまさに、恋する乙女そのものだ。
エメリの脳裏に、マリベルとその夫がベッドで睦み合う姿が浮かぶ。
若々しく美しくなった愛妻に夫は夢中になり、若返った肉体を貪る。
瑞々しい裸体のマリベルが、一心に愛を受けて悶える。
「うふふ……♡」
エメリの妄想を後押しするかのように、マリベルはうっとりと笑う。
まるで、自身の若い肉体が夫を虜にしている様子を思い浮かべているかのように、エメリには思えた。
(羨ましい……)
エメリは衰えていく自身の肉体に焦りを感じ、夫が求めてくれないことに寂しさを覚えている。
マリベルのような瑞々しい肉体を持てば、夫は喜んでくれるだろうか。
またかつてのように情熱的に抱いてくれるだろうか。
そんなことを考えずにはいられなかった。
(私だって……!)
テーブルの下で、エメリはぎゅっと手を握りしめた。
「こんなことなら、もっと早くやってもらえばよかったわ。こんなに若返っちゃったら、施術師が人間か魔物かなんてどうでも良くなっちゃう。ねえ、エメリも試してみない?」
「えっ?」
深く考え込んでいたエメリは、マリベルの言葉に我に返った。
「あなたも例のエステ受けてみたらって言ってるの。ほら、これあげる」
マリベルはバッグから一枚の名刺を取り出し、エメリに渡す。
そこには、住所と店名らしい『Succubus & beauty』の文字が書かれている。
「その名刺があれば、初回の施術はタダなの。行ってみたら?あなたもきっと若返れる……いや、生まれ変われるはずよ♡」
マリベルは名刺を渡すと、ニコニコと笑顔でエメリに勧める。
エメリは受け取った名刺をじっと見つめ、自分の心が揺れ動くのを自覚した。
******
「……ここ、よね」
数日後、遂に意を決したエメリは店の前に立っていた。
『Succubus & beauty』と書かれた看板の下には、小洒落た外観の建物が見える。
エメリは帽子を目深にかぶり、スカーフを首に巻き、伊達眼鏡までかけて変装している。
万一にも知り合いに見られないようにという、甲斐甲斐しい努力だった。
緊張に胸を高鳴らせながら、エメリは意を決して店のドアを開いた。
「いらっしゃいませぇ~~」
やや間の抜けた甘い声と共に、長身の女性が出迎えた。
シニヨンにまとめられたピンク色の髪に、長い睫毛に縁取られた赤い瞳。
肌は白く滑らかで、まるで陶磁器のよう。
愛らしい童顔は、人形を思わせるほど整っている。
その美貌は同性に恋愛感情を抱いたことのないエメリですら、一瞬心臓が跳ねるほど。
飾り気のない半袖の白衣越しにも、その豊満な肉体が見て取れ、乳房の膨らみは本人の頭よりも大きいほどだ。
さらに、人並外れた魅惑のプロポーションは、人外の器官に彩られていた。
こめかみの上あたりから銀髪をかき分けて生えるねじくれた角。
背中のコウモリのような羽。
足元でくねくねと揺れている先端がハート型になった尻尾。
その姿は紛れもなく、エメリが忌み嫌っている魔物――それも淫魔のものだった。
人の精気を奪う邪悪な魔物だと聞いていたが、実際に目の当たりにすると、そんな噂が信じられなくなるほど愛らしい。
「ようこそおいでくださいましたぁ。当店をご利用は初めてですよね?お名前を伺ってもよろしいですか?」
愛嬌たっぷりの笑顔で、淫魔はエメリに声をかける。
エメリが抱いていた魔物への警戒心や敵愾心すらも霧散してしまうほどに、その笑顔は自然で魅力的だった。
「え……ええ。私はエメリ。マリベルから紹介してもらって……」
エメリはマリベルから貰った名刺を淫魔に手渡す。
「あ~!マリベル様の紹介ですねぇ。なるほどなるほど。それでは今回の施術は初回サービスということで無料となります。こちらにどうぞ~」
淫魔は手際よくエメリを案内し、施術室へと招き入れた。
施術室は香でも炊いているのか、ミルクのような甘い香りが立ち込めている。
部屋の中心にはベッドが置かれ、そのわきには二つの椅子がある。
壁際の棚には薬剤入りと思しき瓶や用途不明の道具が整然と並んでいる。
エメリは案内されるままに、椅子の一つに腰かけた。
「私は当店のオーナー兼施術師のレレと申します。本日はよろしくお願いいたします~」
淫魔――レレはエメリに深々と頭を下げた。
抱いていた魔物のイメージとはまったく違う、礼儀の正しい姿に、エメリはまたも面食らう。
「お客様、今回はどのようなご用命でしょうか?要望や困っていることがあればお聞かせください。お客様に合った施術コースを提案させていただきます」
レレはにこやかに微笑みながら尋ねる。
「マリベルと同じ施術は頼めるかしら?……私も、彼女みたいに若返りたいの」
エメリは少し恥ずかしそうに頼む。レレはうんうんと頷いた。
「当店自慢の『リヴァイタルコース』ですね。きっとエメリ様にも満足して頂けるかと!では、さっそく施術と参りましょう。お服をお脱ぎくださいませ~」
「え?」
レレの言葉に、エメリは戸惑いの声を上げた。服を脱げとはどういう意味だろうか。
「お客様の全身に施術を行いますので、裸になって頂かないと……ああ、もちろんお客様のプライバシーには配慮させて頂きますので、ご安心ください。デリケートなエリアは、魔法で見えなくすることができますから」
「ちょ、ちょっと待って。いきなりそんな、裸になるなんて……」
突然の事態に狼狽えるエメリに対し、レレは優しく説明する。
「当店では全てのお客様に最高のリラクゼーションと効果ををお届けすることをモットーにしております。そのためには、全身への施術が必要なのです。それに……」
レレは微笑みを浮かべながら続ける。
「マリベル様も、このコースで大変喜んでおられましたよ?」
「マリベルが……」
「はい。お客様の肌を徹底的に磨き上げ、ハリ・ツヤを取り戻すためには、このコースが最適です。きっとエメリ様も、施術後には別人のようにお美しくなっておられるはずです」
レレの自信に満ちた言葉と微笑みに、エメリは少しずつ心を動かされていく。
マリベルが若返った様子を思い出し、レレの言葉を信じてみようという気持ちが湧いてくる。
「わ、わかったわ。じゃあ、そのリヴァイタルコースをお願いするわ」
エメリはやや緊張しながらも、決心を固めて言った。レレは満足げに頷き、再び微笑んだ。
「承知いたしました。それでは、お脱ぎ頂いてもよろしいでしょうか?」
レレがパチンと指を弾くと、黒い霧のようなものが現れ、エメリの周囲を包み込んだ。
これで着替えを見られることはない。
エメリは覚悟を決めて、服を脱ぎ始めた。
******
「ああ……いい感じ。すごく気持ちいいわ」
エメリは心地よい刺激に身を委ね、うっとりと呟いた。
ベッドにうつ伏せに横たわり、目を閉じたエメリの肌に、レレの指先が滑らかに触れる。
指先は優しく、それでいて力強く、エメリの身体を揉みほぐしていく。
レレの指先が肌に触れるたびに、温かな感覚が全身に広がる。
緊張がほぐれ、全身から力が抜けていくのがわかる。
「リヴァイタルコースでは、まず全身の血行を良くするためにマッサージを行います。特性の香油を使ってマッサージすることで、新陳代謝を高め、肌の再生を促進させるのです」
レレは丁寧に説明しながら、エメリの肌を丹念にマッサージしていく。
「ううん……」
腰元から背骨に沿って指圧が進められる。
背骨のくぼみや骨盤周りを丁寧に刺激され、エメリは思わず吐息を漏らした。
「はあん……っ」
レレの巧みなマッサージは、まさに天にも昇る心地だった。
美容効果がなくとも、これだけのマッサージを受ける価値がある。
エメリはそう思った。
「首周りのこりもしっかりとほぐしましょうね~。肩こりは万病の元ですから」
レレはエメリの首筋に手を這わせ、優しく力を加える。
「んんっ……はあ……」
頭の先から足の先まで、全身が溶けるような快感に包まれる。
「ううう……あ…あぁん……」
思わず声が漏れ出してしまうほどに、心地よい刺激に身を委ねているうちに、いつしかエメリは眠りに落ちていた。
******
「ん……んん……」
エメリはゆっくりと目を開けた。
いつの間にか眠っていたようだ。
どれくらい時間が経ったのか。
施術はもう終わっていたようで、エメリの裸体には薄い毛布がかけられていた。
「お目覚めですか?エメリ様」
ベッドの隣の椅子には、レレが座っていた。
「お客様、マッサージの途中でお休みになってしまったんですよ~。お疲れでしたか?」
「ええ……あまりの心地よさに眠ってしまったみたい」
エメリは身体を起こした。
身体が羽根のように軽く、全身の血行が良くなったせいか、肌が内側から火照っている。
「それは良かったです~。では、マッサージの効果をお確かめになってください」
レレがまた指を鳴らすと、エメリの目の前に鏡が現れた。
「これは……!」
エメリは鏡に映った自分の姿を見て驚愕した。
マッサージの効果で、血色の良くなった肌は艶やかで、生まれ変わったかのように輝いていた。
さらに、エメリの気になっていた二の腕やお腹周りの贅肉も、マッサージで引き締まったのか、心なしかすっきりとしているように見える。
「すごい……2~3歳は若返った感じね。たった一回のマッサージでここまで変わるなんて」
エメリは自分の顔を撫でながら言った。
「えへへ……そうでしょう?繰り返し施術していけば、もっと若返りますよ。次回を予約なさいますか?」
レレは得意げに笑みを浮かべながら、エメリに尋ねる。
「もちろん。次はいつ来ればいいの?」
「次は一週間後がおすすめです。効果の強い施術ですから、あまり頻繁に行うと、逆に肌へ負担がかかりますので」
「わかったわ。一週間後ね」
エメリは迷うことなく返事をした。
******
家に帰り、バスルームでシャワーを浴びながら、エメリは日中のことを思い返した。
魔物のエステティシャンなんて、と最初は疑っていたけれど、その施術の効果は本物だった。
「本当に……魔物のエステがこんなに効くなんて」
エメリは自分の肌に触れながらつぶやいた。
肌の手触りは滑らかで、色艶も良くなっているように見える。
それに、マッサージで揉みほぐされた筋肉は柔らかく、全身が軽くなった気がした。
いままでしてきたどんな美容よりも劇的な効果を、一回のマッサージで感じられたのだ。
もしかしたら、魔物だからこその秘術があるのかもしれない。
「ふふ……楽しみだわ」
エメリはこれからの期待に胸を膨らませながら、身体を洗った。
「ん……はあ……っ」
マッサージの後の火照りが残っており、エメリは身体の奥底にじんわりと熱を感じていた。
胸や太ももを洗うために泡まみれの手を滑らせると、むず痒い感覚が沸き起こり、エメリは思わず吐息を漏らした。
「んん……っ」
腰の奥に感じる熱。
なにかを欲するような、もどかしい感覚に襲われる。
エメリはすこし若返ったように見える鏡の中の自分を見つめながら、昼間のマリベルの言葉を思い出していた。
このまま若返ることができれば、夫もまた自分を求めてくれるだろうか?
また若いころのように、毎晩激しく愛してくれるだろうか?
「んっ♡あなたぁ…♡」
夫とのセックスを妄想すると、エメリは本格的に身体の奥が疼いてくるのを感じた。
「あっ……ああ……っ」
自然と、手が胸に伸びる。
重力に負けて下垂し始めた豊乳を揉みしだき、肉厚の乳頭を指で転がす。
ひとり娘を育て上げた乳首はややくすんだ色をしており、乳輪からぷっくりと盛り上がっている。
大きな乳房に見合った大ぶりのパフィーニップルは、エメリの性感帯のひとつだ。
「ああん……♡」
乳頭を摘まんだり弾いたりしていると、すぐに硬くなり、エメリの息は荒くなる。
はしたない。
そう思っても、湧き上がる肉欲は抑えられない。
「あ……っ♡あんっ♡あなたぁ……♡もっと触ってぇ……っ♡」
マリベルのような若々しい肢体を取り戻し、夫に抱かれる自分を妄想し、エメリは腰をくねらせた。
片手を股間に滑らせると、そこはもう愛液で濡れていた。
包皮を剥いて露わにしたクリトリスを撫でるように愛撫すると、びりびりとした快感が走る。
「あ……ああっ♡」
敏感な肉芽をくりくりと優しく愛撫し、もう片方の手は乳首を摘まむ。
「はぁあん……っ♡ああっ……♡」
妄想はさらに加速し、夫の男根を自らの秘裂に導き挿入する場面が浮かぶ。
愛蜜が溢れる膣口に指を入れて、潤んだ肉壁を刺激すると、強い快感に腰が浮く。
エメリの膣はもう一年も夫を受け入れていない。
自慰すらも久しぶりだ。
久しく味わっていなかった肉欲の味。
エメリの形の良い眉は悩まし気にひそめられ、快楽に耐えるようにぎゅっと目を閉じる。
「んっ♡あっ♡あなたっ♡あなたっ♡」
頭の中で夫に抱かれている自分を想像しながら、エメリは絶頂へと昇り詰めていく。
豊かな乳房を揉みつぶすように刺激し、濡れそぼった膣口の浅い部分を掻き回す。
「あああっ♡あなたぁ……っ♡好きっ♡好きっ♡大好き……っ♡」
夫の逞しい肉体に抱かれ、激しく腰を打ち付けられ、中に出される感触を想像しながら、エメリは果てた。
「んんんっ~~~~っ♡♡♡♡♡♡」
一際大きな声を上げて、エメリは絶頂を迎えた。
乳房に深く指を喰い込ませ、背中を反らして痙攣すると、膣内が収縮して指を締め付ける。
身体がビクビクと震え、腰が大きく跳ねる。
浴室の床に、愛液がぽたぽたと落ちる。
「はぁ……はぁ……」
荒い息を吐きながら、エメリは余韻に浸った。
わだかまった熱や欲求不満が解消され、心地良い疲労感が全身を包む。
エメリはしばらくそのままぼんやりと放心していたが、やがて我に返った。
これほどに昂りを感じたのはいつぶりのことだろうか。
心までも若いころに戻ったかのようだ。
(早く一週間経たないかしら……)
そう思いながら、エメリは再びシャワーを浴び始めた。
******
一週間後、約束の時間ぴったりに、エメリは店の扉を開けた。
「いらっしゃいませ~」
レレは相変わらずにこやかな笑顔で出迎えた。
「今日も『リヴァイタルコース』をご利用ですね~。お待ちしておりました。ささ、こちらへどうぞ」
エメリは前回と同様に案内され、施術室へ向かう。
「では、前回と同じようにお洋服を脱いで頂けますか~?」
今回、エメリは素直に従い、服を脱ぎ、ベッドにうつ伏せに横になった。
「今日は軽いマッサージに加えて、特性クリームを使用します。これはお肌に潤いを与え、シミやシワを取り除く効果があります。まずはマッサージから始めますね」
レレは言いながらクリームを手に取り、エメリの背中に塗り始めた。
甘く、しかしどこか青臭い独特の匂いが漂う。
冷たいクリームはエメリの肌に触れるとすぐに体温で溶け、滑らかな感触が広がる。
「んんっ……ああ……いいわ……すごく気持ちいい……」
相変わらずのレレの巧みな手つき。
背中や腰、そして脚へと、丁寧にクリームを塗り込むレレの指先が肌を這うたびに、心地よい刺激が全身を駆け巡り、エメリはうっとりと目を細めた。
「ふふ、お喜びいただけて嬉しいです。このクリームには特製の美容成分がたっぷり含まれているんですよ。じっくりすり込ませていただきますね」
首、肩、背中、腰……レレはエメリの肌の隅々まで丹念にクリームを塗り込んでいく。
「肌のハリを増し、衰えた筋肉を活性化する成分もたっぷりです。お尻のリフトアップにも効果がありますからね」
レレの指先が臀部に触れると、エメリの背中がぞくぞくと震える。
「んっ……あっ……」
「ふふ、敏感なところですね。もう少し力を入れますよ……」
尻肉が揉みしだかれ、指が谷間に沈み込むと、エメリの口から艶めかしい喘ぎ声が漏れる。
たぷんと重量感のあるエメリの尻肉は、年齢によって低下した新陳代謝の影響で、余分な脂肪が蓄積し、形が崩れてしまっている。
それを再形成するかのように、レレの指先が尻肉を揉み、丹念にクリームを塗り込んでいく。
「んん……っ♡ああ……っ♡」
エメリの漏らす声に、徐々に甘いものへと変わっていく。
凝り固まった肉を揉み解される快感に、それとは違う性感が混ざり始める。
レレの技前に意識を蕩けさせられてしまっているエメリは、二つの快感の区別をすることができない。
ときおりピクピクと身体を震わせながら、ただ快楽を受け入れる。
「次は太ももですよ~。ここはリンパが滞りやすい場所ですので、しっかりとほぐしていきますね」
レレはクリームを足し、エメリの太ももに手を添える。
肉付きの良い太ももに手を這わせ、ゆっくりと揉みほぐし始めた。
両手で輪を作るようにして、太ももの付け根から膝裏に向かって押し流すように揉みほぐしていく。
「んん……あぁ……っ♡そこぉ……♡♡♡」
レレの指先は優しく、それでいて的確にエメリの性感帯を刺激し、絶妙な力加減で揉みほぐす。
脚の付け根、股関節のあたりを指圧されると、特に鋭い快感が走り抜ける。
「んっ♡あっ♡そこぉ……っ♡だめぇ……っ♡」
敏感な内ももや脚の付け根を刺激され、エメリの腰はわずかに浮いてしまう。
思わず声が漏れてしまうほどの快感。
弱々しい制止の声が施術室に響く。
「だめじゃないですよね~?だって、こんなに気持ち良さそうですもん。もっともっと、存分に気持ち良くなっちゃってください♡声も我慢しないで良いですよ~♡その方がホルモンバランスが整って、美容に良いですからね~」
レレは耳元で囁きながら、エメリの反応を楽しむ。
魔力の籠った囁きが、エメリの抵抗心を溶かし、羞恥心を薄れさせていく。
「はぁ……はぁ……♡ああっ♡んっ♡きもちいい……っ♡♡♡いいのぉ♡♡♡そこっ♡もっとぉ♡♡♡♡♡」
レレの言葉に促され、エメリは声を抑えることをやめる。
その声はすっかり甘く蕩けた、恍惚とした声に変わっていた。
レレの指先が際どい所を弄ると、エメリの腰がビクビクと震える。
「はあっ♡ああっ♡あああ~っ♡♡♡」
エメリの膣口はとめどなく溢れる愛液で濡れそぼり、太ももを伝ってシーツを湿らせる。
「ふふ、いい声ですねぇ。このまま全身のリンパを流していきますよ。次は仰向けに寝ていただけますか?」
「え、ええ……♡」
言われるままに、エメリは仰向けに寝転んだ。
豊かな乳房が重力に引かれて、まるでパン生地のように広がり、左右に別れる。
柔らかに流れる乳肉の先端には、硬く尖った大ぶりの乳首。
淫猥な爛熟熟女の身体に、レレは妖艶な笑みを浮かべた。
「次はおっぱいですね~。特に老化の影響を受けやすいところなので、重点的にケアしていきましょう」
レレはそう言うと、エメリの乳房に手を伸ばした。
「んんっ……!」
レレの手が乳房に触れた瞬間、エメリは声を漏らす。
豊かな乳房を掴まれ、揉みほぐされる。
指の動きに合わせて、乳房がむにむにと形を変える。
「んっ……あっ……」
「エメリ様のお胸は大きいですね~。これだけボリュームがあると、どうしても垂れてきちゃいますよね。でも大丈夫ですよ。しっかりとケアしていけば、ハリのあるお胸を維持することができますから」
レレはエメリの乳頭をあえて避けながら、乳房全体にクリームを塗り広げていく。
乳首は触れられなくても、乳輪やその周りを刺激されれば、十分すぎるほどに感じる。
もどかしい刺激に、エメリの乳首はビンビンに勃起し、もどかしい疼きを訴える。
「ああっ……♡♡♡んっ♡そこぉ……っ♡♡♡」
レレの指先が乳首に触れそうで触れない。
エメリは切なげに眉を寄せ、腰をくねらせる。
レレはエメリの反応を楽しむように、乳房のマッサージを続ける。
乳房の根元から、乳を搾るように揉み込む。
スペンス乳腺のあたりを指圧し、乳輪をくるくると円を描くように撫でる。
しかし、決して乳首には触れない。
レレの巧みな愛撫に、エメリは悶え苦しむ。
「ああっ♡ああっ♡だめぇ……っ♡♡♡もっとぉ……っ♡♡♡そこぉ……っ♡♡♡もっとぉ……っ♡♡♡」
焦らされ、追い詰められていくエメリは、とうとう我慢できずに懇願の声を上げた。
「どうしました?エメリ様。何かお困りですか?」
レレは悪戯っぽく笑いながら、わざとらしく尋ねる。
「んっ♡ああっ♡♡♡乳首っ♡乳首弄ってぇ♡切ないのぉ♡このままじゃ、おかしくなっちゃうぅ♡♡♡」
エメリは涙目になりながら、恥も外聞もなく叫ぶ。
いやいやをするように、エメリは頭を左右に振り乱す。
「すみません♡エメリ様があまりに可愛いものですから、いじわるが過ぎてしまいました♡ちゃんと乳首もマッサージして差し上げます♡存分に乳首イキしちゃってくださいね~♡」
レレはそう言って、エメリの乳首をきゅっと摘まんだ。
その瞬間、エメリの身体に電流のような快感が走り抜けた。
「んぁっ!?♡♡♡あ゛っ!!♡♡♡あ゛あぁあああ~っ!!!♡♡♡♡♡♡♡♡」
待ち望んでいた刺激に、エメリは身体を仰け反らせ、絶頂を迎えた。
硬く勃起した乳首を指先で転がされ、弾かれると、そのたびに身体がビクビクと痙攣する。
「あ゛っ♡あ゛っ♡あ゛あっ♡イクっ♡♡♡乳首イク♡イッグぅぅぅぅ~っ!!!♡♡♡♡♡♡♡♡」
散々焦らされた乳首からもたらされる鮮烈な快感。
エメリはこれまでに感じたことのない快感に、目を見開き、口からは唾液を垂らしながら悶える。
しかし、レレは手を止めることなく、エメリの乳首を責め続ける。
「ふふ、こんなにたくさんイッちゃって……可愛いですね~♡♡♡」
絶頂に達しても、レレの指先は止まらない。
肉厚の指先で挟んで扱き上げ、引っ張り、捻る。
「あ゛っ♡あ゛っ♡あ゛っ♡♡♡まらイクっ♡♡♡イグぅ~っ!!♡♡♡♡♡♡♡♡」
絶頂の余韻が収まらないうちに、次の絶頂へと導かれる。
エメリは悲鳴に近い声を上げながら、何度も連続で絶頂を迎える。
チカチカと明滅する視界。全身を覆う強烈な快感。
エメリの意識は徐々に遠のき、やがてぷつりと途切れた。
******
「……ん。あれ?私、いつの間に……」
次に目を覚ましたとき、エメリはベッドに横たわっていた。
身体には薄い毛布が掛けられている。
ベッドの脇には、椅子に腰掛けたレレがいた。
身体が軽く、心地よい火照りが全身を包んでいる。
また眠ってしまったらしいが、よく覚えてはいない。
ただなんとなく、気持ちよかったという記憶だけが残っている。
「あら~?お目覚めですか?エメリ様。また施術の途中で寝てしまわれたんですよ。では、マッサージの効果をお確かめになってください。お肌だけでなく、体型にも変化がありますよ~」
レレがまた指を鳴らすと、エメリの目の前に鏡が現れた。
「ああ……すごい……」
鏡に映った自分の姿を見て、エメリは驚いた。
前回とは比較にならないほど、エメリの肌は艶やかに輝いていた。
シミやシワはほとんど消えており、いっそう血色の良くなった肌は艶やかで瑞々しく潤っている。
豊かな乳房はハリを取り戻し、一切垂れ下がることなく、重力に逆らうようにつんと上を向いていた。
後ろを向き、自分の臀部を見ると、垂れていた尻肉がキュッと持ち上がり、引き締まっているのがわかる。
10歳、いや20歳は若返ったかのような自分の姿に、エメリはうっとりと見惚れた。
「すごいわ……!あなたって本当に凄腕のエステティシャンね。ああ……本当に信じられない……」
若返った自分の身体を確かめるかのように、エメリは乳房や腰を触り、肌の質感を確かめる。
肉が付き始めていた腰周りも、明らかにスッキリしていた。
円熟した魅力はそのままに、若々しい瑞々しさが加わった肉体美は、若かりし頃よりもなお美しく見える。
「うふふっ♡これならきっと、あの人も……♡」
「あの人?」
「ああ、ごめんなさい。夫のことよ。その……私たち、最近あまりうまくいっていなくて。夫は私のことを昔のようには求めてくれなくなったの……。でも、これならきっと……夫も興味を持ってくれるはず♡」
エメリは期待に胸を膨らませ、鏡の前でポーズを取った。
腕を身体の前で交差し、自慢の豊満な乳房を寄せて上げてみせる。
肘を上げ、脇を見せながら腰を捻って、引き締まったウエストを強調する。
たわわな乳房と、ぷりっと上向いた尻が、起伏に富んだボディラインを成して、淫らに揺れる。
「毎晩あの人と愛し合えるようになるかも……♡」
そう思った途端、エメリはまた身体が火照り始めるのを感じた。
若返った肉体。それを夫に見せつけるときのことを考えると、身体の奥が疼き始める。
「そういうことでしたか。エメリ様がその気になれば、いくらでも旦那様を魅了することができますよ~♡きっとうまくいきます!だって、こんなにも美しいのですから♡」
レレはにっこりと言う。
レレの言葉に、エメリは嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう。あなたのおかげよ。本当に感謝しているわ」
「いえいえ。仕事をしたまでですから~。そうだ、そういうことならお渡したいものが……」
レレが懐から小さな紙片を手渡す。
その紙片にはハートマークを基調としたどこか淫らな紋様が描かれていた。
「これは?」
「これは『淫紋』と呼ばれる、夜の生活を豊かにするちょっとしたおまじないです~。これを下腹部に貼ると紋様が写って、一週間ほど効果を発揮します。避妊効果もあるので、ヒト同士でも気兼ねなく愛し合えますよ♡ぜひお試しください~」
「へぇ……♡そうなのね。ありがとう。試してみるわね♡」
エメリは紙片に描かれた紋様を見つめながら、今夜のことに思いを馳せるのだった。