「この森には魔女が住んでいる。みだりに近づくのはやめた方がいい。」
そんな言い伝えが、森の周囲の集落ではあるとか…ないとか。魔法の存在が公に認められるこの世界において、魔女という職業においても、なんら珍しいものではない。ただ、ここら一帯で噂されている魔女は異質中の異質だった。彼女が住んでいると言われる森は、通称「お腐れの森」と名付けられた曰く付きの森だったからだ。
冒険者たちに話を聞けば、その森の深さたるや、最奥は光が届かないとされている。そのため、植物も周囲とは全く植生が異なり、暗所でも育つような魔法植物が多く、大体が苔、菌類で覆われている。じめじめと湿度が高い上、もはやゲル状となっている沼が見つかっただの、太い触手の食人植物に襲われただの、そこら中甘ったるいお菓子のような香りがしたと思えば、下水道のような汚臭が立ち込めていた…と立ち入った者は様々に証言をしているらしかった。
しかし、そのような噂だけで人も寄り付かぬような壮絶な環境にいるとされる魔女は、冒険者の誰一人としてその姿を見たものはいなかったということであった。
そんな腐臭が立ち上る鬱蒼と茂った「お腐れの森」の中心部。別段豪華というわけでもない古い屋敷があった。外見は御伽噺に出るあの「お菓子の家」のような、見た目から甘そうな装飾品が施されているが、その外壁の色はくすみ、植物のつるやつたが一面を這っている。
ぼうっと暖色の照明が点いているが、それでもまだ照度が低い部屋の中。様々な試薬の入った瓶に囲まれて、件の魔女は片肘をついてため息をつきながら佇んでいた。
「はぁ…ヒマだにゃ~」
如何にも魔女然とした大きな三角帽、胸元には手紙の封蝋をモチーフとした襟飾り。見た目にもわかりやすく魔女である。毛色は紫に毛先がオレンジ色の不思議なツートンカラー、頭上に猫の耳が備わっていることから獣人であろう。豊満なのは大きすぎる胸だけではなく、主張する出張った腹、肩幅よりも大きな腰回りが見た目にもずんぐりむっくりとした体格を自覚させられる。しかし、魔女本人にとってはこれが最も都合の良い状態だということだ。
「ヒマだけど、平和な一日はいいもんだよねぇ~」
独り言のように言うが、この屋敷には魔法生物やら、精霊やら、はたまた使い魔やらが各所にいる。独り身のように見えて、多くのものに囲まれている。魔女はそれらに話しかけるようにわざと声を出すのだ。
「ん~、もうこんな時間になってる~。それじゃ今日のルーチン始めちゃおっかにゃ~にしし~」
怪しげな笑みを浮かべながら、横幅の広い体をゆさゆさと揺すりながら、魔女は庭へと繰り出す。
「おまたせ~アタシのハーブちゃんたち~むふふ~」
魔女の住まいはお腐れの森の中でも比較的光が入る方の立地であった。冒険者は正に樹海といった箇所、この森の表面上で捜索を断念しているようなものなので、人が住まうような拠点になり得る場所を見たことも想像もできないのは当然のことだった。
屋敷の外の庭には、家庭菜園用の畑があった。魔女としての研究を行うための材料に使う植物や、自給自足のための食料をここで育てている。彼女のルーチンワークのうちに、それらの手入れが含まれているのだ。
「じゃあ早速…みんなにはおいし~いとびっきりのごはんをあげなきゃねぇ~」
にやり、と顔を歪ませながら魔女は言った。心なしか、植物たちが喜んでいるかのように、森がざわめく。
おもむろに、するりと穿いているスカートを脱ぎ始める魔女。立派な大きさの、思わず触ってみたくなる見事なハリツヤの臀部が顕になった。下着は穿いていない。魔女には必要ないものだからだ。なぜ必要ないのかは、今行うルーチンワークに秘密が隠されている。下半身を剥き出しにした魔女はその場にしゃがみ込んだ。
「ふぅ~ん、んんん~~~~っ」
なにやら全身に力を込めて息む魔女。すると…
ブオォッ ブビィ ブリリリリリッ ブウゥ~~~~
静かな森に響き渡る4発の破裂音。魔女の放屁だった。むっちりとした尻から突風のように吹き荒れる臭気。庭園の草を大きくなびかせ、吹き飛ばすかの勢いだった。風圧もさることながら、その臭いも凄まじい。およそ人間の生理現象として生じたものとは思えない渋い糞便臭が色濃く交じる重い腐卵臭。屋敷の周囲は次第に魔女の屁に覆われた。
「んっ…んあぁ~、出る、出てくるよぉ~召し上がれぇ~~~」
モリリッ ニチッ ミチミチミチミチィ ブリュッ
脱糞。尻穴から大層立派な一本糞が頭を出し、ゆっくり、ゆっくりと連なっていく。しなやかかつ剛性を伴った大便は途中で折れることなくうねうねと蛇のようなくねり地面に生み出されていった。その太さも量も人間業ではない。ゆうに1kgはあろうかという糞便がその場に横たわった。こんもりと鎮座するそれは、ほかほかの熱気を伴い、匂い立つ湯気を発していた。
魔女のルーチンワークの一つ、それは自前の植物を育てること、手入れを行うだけではなく、それらに新鮮な自分の放り出した肥料を与えることであった。本来人間が農作物を育てる際は、糞便をそのまま肥料として使うことは好ましくなく、肥料として使えるよう然るべき処置を行って使用するのだが、魔女の育てる植物や畑はこの森由来の特別製であり、なおかつ魔女の大便には彼女を母体とするゆえの豊富な魔力が含まれており、これらの要因が噛み合い一番良く育つ肥料として使用できるのだった。
ひとしきり脱糞したあと、一息つくかのようにプスッと屁を空打ちする魔女。
「はふぅ~、お外でするウンチはやっぱり気持ちいいもんだよねぇ~きひひ~」
魔女は恍惚とした表情を浮かべ、うっとりと自分の生んだ大便を眺めた。汚らしくも健康的な茶色が、照りを帯びて表面をぬらぬらと濡らしていた。
「すんすん…はぁ~~~~~~♡これこれ!これだよねぇ~この香ばしい臭いぃ…」
鼻を大きく動かし肥溜めに勝るとも劣らない己の糞便臭を堪能する。
「あぁ~今日もいいウンチが出せる幸せぇ…これだから魔女はやめられないにゃ~むふふ~明日天気がよかったらぁ、久々に全裸で肥料あげちゃおっかにゃ~にしし~」
魔女はスカートを履き直しながら、怪しげに頬を染めながらにやついた。
もうお分かりであろうが、このお腐れの森の魔女、兎にも角にも異常性癖を拗らせた、とんでもない変態であった。
その名をソルシエール:ロシェ=ショコレッタ。「チョコレートの魔女」の通り名を持つ、そこそこの歴史を持つれっきとした魔女である。
彼女が如何にして魔女になったかというのはまた別の話であるが、その専門性、精神性は別として、力のある魔女として一応名は通っている。チョコレートの魔女とはある種名ばかり、人の世に不都合しないためのもので、実態は最早糞便の魔女と言って差し支えない、排泄物知識を専門とする変わり種の魔女だった。
「ふ~む、明日はバレンティーンの日だったのかにゃ~…うっかり新しい便秘薬の開発で頭から抜けてたねぇ~むむむ~」
魔女はトイレの中でバレンタインを思い出した。あれほど出してまだトイレに居るのか、という常人には理解し難い状況に間違いはないが、彼女はチョコレートの魔女。無尽蔵に脱糞できるほどの体質も、魔法も、システムさえも備わっている。今、トイレで気楽に排泄しているのは、あくまで遊びの一種だった。トイレの排便時に考えをまとめることも、彼女のルーチンワークのひとつで、この瞬間は普段よりもよく頭が回るジンクスがあるようだった。
「じゃあ明日のために準備しておくことにしよぉ~っと。うふふ~…ふんっ」
ブビィッ ボドンッ
ロシェはそう言うと気合一発、最後の便塊をひと放り便器に放ち、キッチンへと向かうのだった。
「よぉ~し、それじゃチョコのお菓子作り、はじめていこぉ~」
ふんす、とロシェは大きな胸を張って気合を入れた。料理の際はきちんとそれ専用の服に着替える最低限の文化的思考はあるようだが、そこは魔女。エプロンを着用してはいるがそれ以外は全裸、つまり裸エプロンが料理時の正装だった。魔女というよりは痴女なのではないか、との疑いをかけたくもなるものだが、おそらく痴女で間違いはないので、そのツッコミも野暮であろう。
「じゃあまずは手作り生チョコトリュフからぁ〜」
そういうと、ロシェは足元にまな板を用意した。なぜ足元なのかと言えばもちろん…
「ふぬぅ〜、ん、くうぅ〜ぬぬぬぬぬぬ」
メリメリメリ ブスゥ プゥ ムチィ
肛門から今回作るお菓子の材料の先端が現れる。未だ腸にパンパンに詰まる便の隙間を縫って激臭のガスが漏れ出し、そろりそろりと内容物が這い出てくる。
ある程度の長さになったところで、ロシェは肛門をギュッと締め付け、球状に大便を成形していく。
ムリムリィ ボトッ ニチニチニチニチ ボド…
魔女の肛門は、己の強靭な質の糞便すら千切ることができる強さを持っている。しかし、巨大な便が通ることも可能な柔軟さも兼ね備えた、とても良質のアナルと魔女の間でも定評があるほどの逸品であった。ふわふわの柔らかい肛門に包まれながら、力強い括約筋に甘噛みされ、大便は次々とまな板に転がっていった。
キッチンには調理器具はあれど、チョコレートや牛乳は存在していない。つまりは、そういうことである。この魔女は己の糞便をチョコレートに見立てて料理しているのであった。
「うぅ〜ん…これだけあればいいかにゃ〜にひひ〜」
十分量の脱糞を終え、すっきりした気分でにこやかに微笑むロシェ。
「あとはめんどいから魔法でちょちょいのちょ〜い」
ロシェが目を閉じると、普段のおっとりと間の抜けた雰囲気が一転し、黄土色のオーラを纏い、足元に魔法陣らしきものが出現する。ブツブツと何かを呟いたかと思うと、別世界の言語のように聞こえる呪文を詠唱する。魔女の本領発揮といった趣である。
続いて周囲に変化が現れる。目の前のまな板にあった大便はみるみるうちにチョコトリュフに変わっていき、テーブルに唯一あった粉砂糖が、宙に浮いたチョコトリュフに均等にまぶされていく。そのまま、そばにあった包装紙がチョコトリュフを包み込み、まな板の上にきれいに整列しつつ着地した。
「ふぅ〜、あ〜つかれた〜手作りするより楽だけどぉ〜これはこれで疲れるよねぇ〜…」
一通り魔法の発動が終わったのであろう、足元の魔法陣やオーラ
も消え、いつもの調子に戻るロシェ。疲れたと言いながらも息を切らすこともない様子は、こんな者でも一応は力のある魔女であることを物語っている。
「さぁ〜て、味見しちゃおっか〜にひひ〜」
笑顔でお手製のチョコトリュフを一つつまみ、包装を解いて口に運んだ。
「ん〜〜〜〜〜 あまぁ〜〜〜〜い♡ちょっぴりビターで…歯ごたえの中にとろける舌触り…やっぱりチョコは最高においしいにゃ〜うしし〜」
チョコの魔女たる者、当然チョコは大好物である。手前味噌ながら、ロシェはそのチョコの出来を褒めずにはいられなかった。
製法を見ていたら、絶対に口にしたくはない代物であるが、その味も香りも甘いチョコそのものである。彼女のこの手の魔法に失敗はなく、飛び抜けた質を持っている。紛うことなき本物のチョコがそこにあった。
ロシェは排泄知識を専門とする魔女であるあまり、その延長にある魔法だけはマスターしているのだった。今しがた使っていた魔法も、それにカテゴライズされるもので、ロシェ曰く「ウンチをチョコに変える魔法」とのことだが、そもそも役に立つかどうかといえば怪しく、誰もせっかくの魔法をそんなことのために習得しようとは思わないだろう。ただ、ロシェは違ったのだ。彼女は自分の得意分野が関わる知識だけは、天才的な能力を発揮できた。
「よ〜し、じゃあ明日はこれ持って〜変身魔法使ってぇ〜、街に繰り出しちゃおっかなぁ〜むふふ〜」
どうやらロシェはバレンタインデーにお手製のチョコを配るつもりらしかった。殊勝な心がけであるが、誰がこのチョコが元は彼女の大便であることを知る由があろうか。大変クオリティの高い美味しいチョコトリュフだけに、知らぬが仏とはこのことだろう。
(みんながアタシのウンチ食べるなんて…興奮しちゃうよぉ〜…このままゆっくりウンチ好きになっちゃうようにぃ…していっちゃおうねぇ〜…くふふ…)
魔女の気まぐれに潜む邪悪な企みに気付くことができる者はいない。
お腐れの森は今日も魔女の発する悪臭で満ちていた。
ニス
2023-02-14 15:21:40 +0000 UTC