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二面(ふたおもて)の探偵たち 第一章:テスト

仁紫子をソファに座るよう促した後、那智野は年季の入ったコーヒーメーカーを起動し、豆を挽いた。荒々しい機械の作動音が響いた後、香ばしい香りが部屋に広がる。

二人分のコーヒーをマグカップに用意し、仁紫子に片方を手渡した。

仁紫子は「ありがとうございます」と丁寧に答えて受け取ったが、そのコーヒーには手を付けない。その後那智野が自然に飲むのを見て、初めてそれを口にした。


「・・・用件をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

テーブルを挟み、丁度仁紫子と対面する位置に座った那智野は、開口一番そう切り出した。

「一体なぜここが分かり、何を目的にここに来たのか。まずは教えていただきたい。」

矢継ぎ早に、那智野はそう尋ねた。


仁紫子はマグカップを持ったまま、那智野の目をしっかりと見据えている。そして落ち着き払った様子で、少しふっと息を吐いてから、口を開いた。

「・・まずはどこから話しましょうか。実は祖父の引退と同時に、私があの事務所を継ぎました。それについては、祖父はあなたには告げていなかったようですね。」


那智野は口を堅く結び、話を聞き続けた。

「あなたのことを知ったのは、祖父が残した資料を整理しているときです。身辺調査を主として、祖父に仕事を依頼するあなたの名前が、何度も出てくるのに気が付きまして。その量が量なので、気になって少し調べさせて頂きました」


「その対象となった相手の素性、現在の居場所や様子・・。仕事の合間を縫って、できる限り調べました。時には直接会って、時間をかけて交流し、酒の力を借りて、直近で何がその人に起きたのかまで、聞き出しました。流石にこれは、骨が折れましたよ」


淡々と語る仁紫子であったが、その内容はいわば那智野の”ビジネス”の核心に迫りつつあった。無意識に体を前のめりにし、当惑した表情をメガネの下に隠しながら、那智野はその話に聞き入った。


「共通点は2つ。1つは、長い間借金を抱えていたのに、それをつい最近清算したこと。2つ目は、何者かに拉致され、拘束されるという被害を受けていたこと。このことを知ったとき、祖父とあなたは何かしらの協力関係にあり、これらの事件に関わっているのだと確信しました。きっと、表沙汰にできない類のものなのでしょう。―私の推理、どこまで当たっていますか?」


ひとしきり聞き終えた那智野は、持っていたマグカップを机に置くと、力無くソファに背中を預けた。そして吐息を漏らすように、力無く、仁紫子に語りかけた。

「・・・そこまで知った上でここまで来たってことは・・俺を逮捕しに来たとか、そういうことか?」


それを聞いた刹那、仁紫子は邪悪な笑みを、その顔に浮かべた。

「違います。私がその仕事を継ぎ、あなたと組みたいと、伝えに来たのです」



「・・・なんだと?」言葉の真意を掴み損ねている那智野の目を見ながら、微笑みを湛えた仁紫子は、話をつづけた。


「実のところ、私の事務所は自転車操業。馬車馬の如く働いても、薄利多売であがったり、なのです。だから一つ、リスクを取ってでも新しい仕事が欲しかった。それも定期的に依頼があって、なおかつ単価が大きいとなれば、事務所の会計に安定性が生まれる。祖父がまさか裏でこういうことをしていたとは知りませんでしたが、あなたの名前と素性の一部を知ったことで、なぜ彼が長年探偵事務所を続けられたか、しかもそれなりに裕福な暮らしができていたか、漸く腑に落ちました。だからこそ・・私もその仕事のお手伝いをしたいのです。ちょうどお顔から察するに、さぞお疲れのご様子ですしね」


那智野は、目を輝かせながら嬉々としてそう語る仁紫子に圧倒されていた。


「それに・・・もしあなたを告発すれば、必ず祖父も巻き込まれるじゃないですか。つまりそれは、私もそうなるということ。何一つ得することがない。私たちは、今日が初対面ですが、既に一蓮托生なのですよ」


そう言い切ったその顔は、はっきりと野心に燃えていることが分かった。その爛々とした輝きを見て、那智野は自然と、仕事に邁進する芳須西二郎の姿をそこに重ねた。


そしてすぅと深呼吸すると、那智野は再び前のめりになり、机の上に両肘を置き、手を組みながら、仁紫子に告げた。


「俺と本当に組みたいのなら、一つ”テスト”がしたい。あなたにどこまで能力や適性があるのか、それを確かめられるようなものを。ただ、しくじればお互いムショ行きだ。さぁ、どうする?」


それを聞いた仁紫子は、姿勢を正すと、微笑を浮かべ、那智野にこう答えるのだった。


「仔細を教えてください。そのために来たのですから」


―続く


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