Chapter01
植谷 有栖(うえだに・ありす)はスマホをいじりながら、アパートの前で、ある人物を待っていた。
その人物と有栖は同じ大学の同じ水泳部であり、学年も同じ大学2年生である。共に今日から夏合宿を控えているのだが、部長からの指示で【現地集合】と伝えられたため、車を持つ有栖と一緒に向かうことに決めていたのだ。
それにしても・・・
「宿所は廃校、か」
有栖はそう独り言を呟いた。予算の関係で、使用するプールも、宿所も、山奥にある廃校となった学校のそれを使うのだという。
ただし廃校とはいえ、きちんと自治体に管理はされているらしく、プールは清掃されており、水も綺麗なのが出るそうだ。
そんなことを考えていると、有栖を呼ぶ声があった。
「うーす」
ーマスクから見える目元が少し腫れている。恐らく寝起きだ。流石遅刻常習犯、裏切らない。有栖はそう思った。
「遅刻だ、棗」
有栖は抑揚のない声で表情も変えず、その人物ー橘 棗(たちばな・なつめ)に吐き捨てた。
「ごめーん、じゃあ、はよ、いこ」
そういうと、棗は止めてある白い軽ワゴンに真っすぐ近付き、そそくさと助手席に乗り込んだ。
ふぅ、と有栖はため息をつき、運転席に乗り込んでエンジンをかけた。この間柄も、腐れ縁がため。特にそれ以上考えず、二人を乗せた車は・・・・。
罠が待ち構える場所へ向けて走り出すのであった。
ーつづく