この日のロケ地は、山奥の廃墟。聞けば、使われなくなって久しいホテルだという。 カメラマンと監督、そしてアシスタントの男2名に付き添われ、有紀子は爪をいじりながら、その中を進む。 真夏の昼下がり、嫌でも水着の下に汗が滲む。 「(面倒だわ・・不快だし、早く終わらないかしら)」 壁はところどころ剥がれ、割れたタイルが散らばっている。歩く度に、埃が足跡を残していく。窓ガラスは枠を残し、全て割られていた。 朽ちかけた階段を慎重に上り、全員二階へと向かう。 「有紀子さん、こちらです」 若い男が、軽くお辞儀をしながらその方向を手で示す。 「はいはーい」 有紀子はあしらうように返事をした。顔もロクに見ず、髪をくるくると遊びながら、指定された場所へ向かう。 ―有紀子は違和感を覚えた。 壁に鎖が3つぶら下がっている。しかも先端は輪になっており、さながら手錠のようである。 こんなところに何でこんなものが? その時だった。彼女は突如、後ろから羽交い絞めにされた。同時に口も手で押さえ込まれ、声も出せない。 あとはなされるがままだった。バスローブを剥ぎ取られ、身体が何かで縛られていく。 拘束が終わると、有紀子は無理やり壁に立たされ、両手首と脚に、先ほど見た拘束具が嵌められた。 そして首にはロープが巻かれ、しゃがむことすらできなくなった。 「ふぐぅううう!」 十字架に張り付けられたような格好で、水着姿の有紀子は壁に拘束された。 全力で引っ張るも、全く解ける気配はない。 ―必死で暴れる由紀子の前に、誰かが歩み出てきた。 それは、この撮影の監督だった。長年彼女の撮影に携わってきたベテランである。 50前後の年齢だが、顔に刻まれたしわと、白髪交じりのオールバック以外、老いを感じさせるものは無い。 彼は顎に生えた白い無精ひげを撫でながら、絞り出すように語り掛けた。 「この業界は才能に溢れている。それだけでは勝てぬ。―天狗になったら終わりなのだ。さりげなく伝えてきたつもりだったが、お前には響かなかったらしいな。」 抵抗を止めて、由紀子は彼の顔を見つめている。頬を幾筋かの汗が伝う。 「だから、乱暴な手に出ることにした。―抵抗できなくしてからいうのもおかしな話だが、今から説明しよう。」 皮肉な笑いを浮かべ、彼は顎をしゃくり、あるスタッフに指示を出した。 そしてその男が持ってきたものに―由紀子ははっきりと慄然するのだった。 ―続く