丑三つ時の体育倉庫に、一組の男女が居た。 片や真面目そうな黒縁眼鏡をかけた、線の細い男子高校生。慌てて駆け付けたのか、寝間着であろうジャージ姿のままで息を切らしている。 片や汗に濡れた体操着姿の少女。大量のテープが散らばる中、時折鼻をすすりながら、座り込んでいる。 「・・警察にはもう知らせてある。どっか、怪我とかしてない?」 しゃがんでから目線を合わせ、彼は努めて冷静に話しかけた。 一刻間を置いて、少女が喋り始める。 「大丈夫・・。でも、どうしてここが、わかったの?」 その顔は汗と涙でぐずぐずになっていた。 「俺の母さんとお前の母さんって友達だろ?それ絡みで、お前が帰ってこないと相談があってさ、俺の耳に入って来たんだ」 彼女は次の言葉を待っている。 「色々俺の方でも調べていると、部活が終わって、体育倉庫に向かうお前を見たというヤツがさっきそれを教えてくれてさ、もしやと思って駆け付けたんだよ」 ―良かった、間に合ってと、その彼は誰に言うでもなく呟いた。 刹那、彼女は彼に飛び掛かった。 咄嗟に地面に手を突き、彼は何とか倒れずに踏ん張る。 色んなものが決壊したのか、彼女はそのまま思い切り泣き始めた。 汗のにおいがして、言い知れぬ申し訳なさを彼は覚えた。 大丈夫、大丈夫と声を掛けながら、彼もまた、彼女をそっと抱きしめるのであった。 「(不思議なもんだよな、需要さえありゃ、なんだって売れるんだからよ)」 男は指でくるくると覆面を回しながら、酒の入ったコンビニ袋を片手に夜道を歩いていた。 ふと道の端に灰皿を見つけ、立ち止まりタバコに火をつける。 一息吸ってから、空に浮かぶ満月目掛け、ふーっと強めに煙を吹いた。 「(第3のオプションが『救出する権利』なんて、あの娘は想像だにしないだろうな)」 そしてまた、煙を吹く。 「(しかも途中まで見てたが・・ありゃ同級生か誰かだな。もがく姿の配信を観てるじゃ飽き足らず、ヒーローになってあの娘をモノにしようってとこか)」 そこまで考えると、男はふっ、と独りで笑った。 「(歪んだ欲望も、あそこまで健気だと応援したくなるな。まぁ払い込みもちゃんとあったし、これで色々ウィン・ウィンだな。幸せになれよ)」 ―そして袋から缶チューハイを取り出すと、ぷしゅっとそれを開けた。タバコを消してから、それをぐびっと飲む。 「不思議なもんだぜ、ホント」 男はそう呟くと、再び夜道を歩き始めるのであった。 ―完