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倍々世界22



8月25日


「はっ……イグッ………!!!」


 育人の巨大な肉の塔から、白い奔流が勢いよくふきだしていく。もう何十回目の射精にもかかわらず、その量と濃さは一回目とそん色ない。日をまたいでも育人のオナニーは止まらず、半島どころか周囲の海まで育人の精液で真っ白に埋まっていた。途中で膝立ちになったりうつぶせになったりしたものだから、育人の身体は泥と精液でぐちょぐちょだ。先ほど仰向けに寝転んだままの射精が落ち着いたところで、育人はゆっくり両手を投げ出した。


「やりまくった……」


 チンコはまだギンギンなものの、性欲を全開放した育人の顔は満足感にあふれていた。その顔どころか投げ出された小指の爪にも届かない小さな人間たちは億単位で犠牲になったものの、育人にとっては存在すら認識できないサイズなのでどうでもいい。


(……ん)


 ずぐっ、と臍の下あたりが熱くなった気がして、育人は寝ころんだままゆるく目をつむった。火山のような心臓が脈打つたびに、血流が増えていく感覚。呼吸のたびに大胸筋がぐむぐむと膨らんでいく。投げ出したままの脚は、踵が瓦礫も地形も関係なく、深さ数キロの溝を作りながらすさまじい速度で伸びていく。増える質量に地殻が悲鳴を上げるようにビシビシと音を立て、いたるところでマグマが噴き出している。血流は股間の巨塔にも届いて、育人の、片手で街すら押しつぶせる巨大な手が三握りしても覆えないようなサイズに成長する。腹筋の上の方で溢れた我慢汁が横に垂れてわき腹から地面に滴り落ち、マグマに触れて白い煙が上がっていた。その煙も育人の成長とともに押しつぶされる。数時間――育人にとっては長く、その巨大化規模からすればあまりに短い時間の成長が止まる。


「また、デカくなったんだろな……」


 ここ最近はほぼ倍々に巨大化しているのだが、もうこの規模になると育人にとってはあまり違いがわからなくなってくる。ゆっくりと横を向いても、自分の精液で覆われた半島とその先の海も平坦にしか見えないのだ。


「じゃあとりあえず……」


 巨大化後の力が張った状態で、育人はゆっくりと立ち上がる。足裏に今まで以上の不安定さを感じながら腰を上げる。視界に広がるのは、数日前から青空ではない。


「……地球も小さくなったな……」


 まるで人工衛星から見たような、丸い地球の水平線。その向こうには青みがかった黒い宇宙が広がっている。高度100㎞近くでしか見れない景色は、流石に美しかった。人間なら即座に酸欠し凍り付くような場所でも育人は平然とその光景を見つめている。しばらくして、育人は下に目を落とした。足元は泥と精液で覆われていて、先ほどまでの美しい景色との落差に思わず吹き出す。


「ま、仕方ない」


 俺はどんどんでかくなるんだから、と、街数個分のサイズの足を前に踏み出す。さらに増えた質量で地盤が崩壊し、傷だらけの半島が砕け始めた。柔い地面に育人はバランスを取りながら「先」へ向かう。この半島は大陸の端も端。まだ泥にも精液にもまみれていない場所はたくさんある。

 身長130kmもある育人の歩幅は驚異的で、10分もしないうちに国境を越えて次の国にたどり着いてしまう。もちろん、半島の惨状はその国からも見えており、育人による地震で大きな被害を受けていた。そんなものがそよ風にしか思えないような衝撃。急に周りが暗くなったと思ったら、上空が、視界に入らないほど巨大な足に覆われている。飛行機よりも高い場所から落ちてくる足は長さ20km。街を軽々と覆うそれから逃げられるわけがない。上から空気が押し付けられ、爆風のような風が車も建物も吹き飛ばしていく。実際、育人の足に触れる前に、地上は竜巻が通った後のようになっているのだ。この時点でまだ生存者がいるのは丈夫な地下施設ぐらいだが、それも誤差といって差し支えない。風圧ですべてを吹き飛ばした足が地面に触れ、その地殻すら歪ませる質量が押し付けられる。人が掘った程度の地下空間など、周囲の地盤ごとキロメートル単位で圧縮される。もちろん生き残った人間がいるはずがない。

 そしてその質量が着地した衝撃は大きく広がって、足の何倍もの面積を破壊していく。地面すら掘り起こすそれは、踏まれなければ……という人々の願いすら蹂躙していく。着地地点の半径100kmはすべてが土くれになり、衛星が観測した育人の侵攻した跡は、幅300㎞ほどの巨大な茶色の道に見えた。振り返った育人がそれを見て、面白いものを見つけたかのように口角を上げる。


「……ぜんぶ、茶色にしてみるか」


 育人は足元に視線を戻した。脛の下の方にたなびく雲のさらに下にある地面は緑色をしている。育人は右足をゆっくりと上げて、その緑に踏み下ろす。真下はもちろん、衝撃が周囲の地面を掘り起こし、高さ数キロにも及ぶ土煙が巻き起こる。収まれば今まであったみどりはどこへやら。赤茶けた地面が残るだけだった。


「――ははっ」

 育人はゆっくりと歩き始めた。自分が歩いた跡がすべて茶色くなるように歩幅を調整しながら、柔い大地に足を下ろしていく。押しつぶされるせいぜい数千メートルの山々。埋め立てられる川や沼。地下シェルターは地盤ごと掘り起こされ砕け散る。大陸の先っぽや少し離れた島々なども丁寧に踏み潰され、海と混ざって茶色い泥となる。人々はもう逃げ惑えもしない。大地の揺れで動くこともできずに、衝撃波が建物ごと肉体を吹き飛ばす。隠れる地下は掘り起こされて意味がなく、何とか飛んだ飛行機も育人の頭上どころか膝すら超えられない。育人の脚がかき回す気流であっけなく墜落していく。数時間もせずに多くの国が更地になるなんて、車も家も道路もビルも畑も川も池も森も草原も丘も山も谷もない、ただの茶色の地面になるなんて、誰も思いもしなかった。


「―――やっと三分の一ってとこか」


 自分の所業を見渡して、育人は多少満足げにつぶやく。画用紙を絵の具で塗りつぶすような行為だが、存外に面白い。――と、育人は、残りの大陸に目を落とした。


 ぜんぶ茶色になるまで、そう時間はかからない。


倍々世界22

Comments

コメントありがとうございます! 実際そろそろ人工衛星とかが飛んでる高さなんですよね~ もう今の育人にとって人類はほぼ細菌サイズなので被害もヤバいんですよね~ でも育人にとってはちょっとした砂遊びと変わらないという……

ichiya / ichiarrow

いよいよ宇宙にも目がいくようなスケールになってきましたね…… そしてふとした思い付きのようなノリで地上を全部茶色にしてみちゃおうっていう 気軽な感じと、地表の人間にとっての絶望的な感じとのギャップがたまらんですね(*´Д`) 残りの3分の2もあっというまに塗り替えられそうだし、 なんなら地球丸ごと犠牲になっちゃう日も近いでしょうね……!

曹達(ソーダ)


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