ね虎れ!~ガチムチふたなり虎ラガーマンの恋人が体育会系ちんぽに寝取られるなんて~
Added 2019-05-27 10:35:20 +0000 UTC憧れの場所。 冬の太陽。眼が眩みそうな青空。 でも、冬空よりももっと眩しいものがフィールドにはあった。 スクラムを組む選手たち。泥だらけのユニフォーム。擦り傷だらけで、でも少しも格好悪くは見えない。 スタンドから響く大歓声。 選手たちの為に奏でられる吹奏楽。 そのどれもが熱くて、眩しかった。カラカラに乾く喉を潤す為に飲んだ水もあっという間に蒸発するような熱気。 幼馴染の父親に連れられて行ったラグビー全国大会、決勝。 今までの努力をぶつける為のスタジアム。 骨が軋みそうな勢いで身体をぶつけ合うプロップ。 ボールを抱えて駆けるバックス。 見ているだけで瞳から涙が溢れた。スタジアムで視線を浴びる選手たちには、自分には無い熱があった。 死んでも勝て。ではなく殺す。相手を殺して勝つ。鬼気迫る迫力。 子どもなら怯えて泣きわめいてもおかしくないその光景に、おれは惹きつけられた。自分たちのすべてをぶつけて戦うその姿に憧れた。 幼いおれは、熱い試合をスタンドから転がり落ちそうなほどに身を乗り出して見ていた。おれはテレビでやっているヒーロー番組じゃなく目の前で繰り広げられる試合に心を奪われた。 自分もあんな風に戦いたい。 あのスタジアムで汗だくになって戦いたい。 チームメイトと一緒に泣いて、吠えて、笑いあいたい。 ラグビー選手に――なりたい。あんな風に格好いい男になってみたい。 ラグビーをやれば、おれなんかでも本当の男になれるんじゃないかって、そう思えた。 季節は冬、風は冷たく。でも少しも寒くなくて。 澄み渡る青空の下でおれの夢は決まった。おれもあの場所に行くんだって決めた。 「おれ、ぜったいにラグビー選手になる!そんで、本物の男になるんだ!」 そう、隣に座っていた幼馴染に宣言したんだ。 おれを見つめる幼馴染の瞳には鼻息を荒くするおれが映っていた。まだまだ毛皮も柔らかく、爪も牙も大したことのない虎のガキ。でも、夢を叶えようと瞳をきらきらさせていた。 あのグラウンドに立つのがどれほど大変なのか、自分の身体でそれを叶えるのがどれだけ難しいのか。そんなことは何一つ考えもしないで夢をまっすぐに見つめていた。 「だったら、僕もなる!」 そんなおれに突き動かされたのか。おれの大事な幼馴染の夢もその時決まったんだ。おれの手を握りしめながら、幼馴染である竜は高らかに告げた。 「二人で行こう!おれたちなら絶対にすごい選手になれるよ、グンジ!」 「うん、約束だぞ!ぜったいに諦めないからな、ユウダイ!」 *** 6/14 「はー、ちょっと休むか……」 十週のランニングを終えたおれは、疲労のこもった声を夏の空気に溶かした。 炎天下、という言葉が相応しい青空。土ぼこりが舞うグラウンドには太陽を遮る物が無く。鉄板の上で焼かれているような日差しがおれを照りつけている。 おれ以外にも、グラウンドの上では幾人もの筋骨逞しい獣人たちが太陽でジリジリと焼かれている。おれと同じラグビー部員たちが、カラフルなラグシャツに身体を包んで駆けまわっていた。怒鳴り声とホイッスルが響く中、むさくるしい男たちが身体をぶつけ合う。見ているだけで熱中症になっちまいそうな光景だ。 蜥蜴や鮫のような毛が生えていない奴らはまだ余裕そうだが、おれと同じ毛皮持ちは今にもぶっ倒れそうな顔でトレーニングをしている。まあ、本当にやばくなったら監督かキャプテンが休ませるだろう。今だって声を張り上げながらも目を光らせている。逆に言えば限界ギリギリまで休ませては貰えないってことだが。まあ、おれは休めって言われても休む気は無いから関係無い。それは他の奴らも同じだろう。休めって言われて素直に休む奴は、この高校に来ない。ここは、人生を賭けてラグビーに取り組んでいる奴しかいない。選手も、そして監督も。 「最後まで気合抜かずに走れよぉ!インゴール前で足を緩める奴は試合でも同じように手を抜くぞ!」 あそこで吠えている熊の男は熊代 重伍。 このラグビーチームの監督であり、過去に名ラグビー選手として活躍した人だ。学生時代はチームを幾度も優勝に導き、卒業後は社会人ラグビーチームで活躍。日本代表メンバーにも選ばれて海外でも高い評価を受けたラガーマンだ。 しかも、現役引退後はトレーナーとして若手の育成に励んでいる。名選手は教師として優秀とは限らない、なんて言われたりもするが熊代監督は指導者としても完璧だ。才能に頼らず理論だった指導でチームの成績を格段に上げていて、監督の指導を求めてこの学園に入る奴は多い。かくいうおれもその一人だ。 ――ここは、私立明城学園。 ラグビーの名門校で、全国大会の常連。 おれが十年前、夢を決めたきっかけになった学校だ。充実した設備にしっかりと考えられたトレーニング。ラグビー選手を目指すのであれば最高の環境で、県外からも多くの学生たちが集まって来る、まさしくラガーマンの為の学園。 十年前にこの学校が優勝を果たしたあの試合を見て、おれはずっとずっと過酷なトレーニングを積んできた。クラスメイトが遊んでいる時にはタックルの練習をして、寝る間も惜しんで走り込みをして。おれは普通の男とは違ったから、その分を補う為にも努力した。 そして、ようやくこの学校に入ることができた。一年の時はベンチにすら入れずにスタンドで試合を見ているだけだった。 そして二年目。毛皮の柔らかかったガキはすっかり立派なラガーマンになり、レギュラーにも選んで貰えた。今年こそ全国大会優勝だって意気込んで練習をしているわけだ。 だから休んでいる暇なんて無いのだ、が。あまりの熱気に頭がぼんやりとする。たっぷりとスポーツドリンクを補給したんだが、飲む先から出ていくみたいだ。 「畜生、こんなことでヘバってたらレギュラー落ちしちまうぞ、おれ!」 レギュラー争いは苛烈を極める。おれよりも上手い奴、体格が良い奴、このラグビー部にはいくらでもいる。ガキの頃から有名スポーツクラブに所属していた奴もいる。そんな奴は、ガキの頃は友人たちと遊びみたいなラグビーしかしていなかったおれとは土台が違う。死ぬ思いで学園に入ったおれは、どれだけ自分が劣っているのかを思い知った。 正直言っておれがレギュラーに選ばれたのは何かの間違いなんじゃないかって思う。おれが他の奴より優れているのは練習時間ぐらい。周りのチームメイトを見ても、おれとは骨格の時点で差があるように思える。あいつらが重戦車ならおれはしょぼいフレームの自転車。運動部じゃない奴らからは筋肉を褒められるけど、もっと男らしい身体に生まれたかった。おれは本当は女に生まれるべきだったのに、何かの間違いで男になっちまったんじゃないかって。自分の身体を見下ろすとそう感じて、ため息を吐いてしまう。 「どうした軍司。もうバテたのか?」 「んなわけねーだろ。ただ、その。クールダウンだクールダウン!」 後ろからかけられた声に対し、振り向きもせず答える。 練習で疲れていたってこいつの声は間違えない。そもそもおれを軍司って呼ぶのは両親以外にはこいつだけ。 「お前こそ練習はどうしたんだよ、勇大。フォワードはまだタックルの練習じゃねえのか」 振り返ると、当たり前のように翡翠色の竜がいた。おれの親友で、チームメイトで、幼馴染で、一番大事なやつ。明石 勇大が顔をくしゃっとさせて笑っていた。それだけで女の子が参っちまいそうな、魅力的な笑顔。おれと違って、男らしい身体。 「おれはもう少し続けたかったんだがな。少し休めと怒られてしまった」 鮮やかなボーダーシャツに真っ白なラグパン。鱗に包まれた脚はおれよりも一回りほど太くて凸凹している。汗で濡れた鱗は陽光を照り返して健康的な美しさを放つ。男らしく逞しいくせに、宝石みたいに綺麗な脚。そいつを惜しげも無く曝け出しているせいで目のやりどころに困ってしまう。ラグパンのサイズが合ってないんじゃないかと思うんだが、こいつ曰く一番大きなサイズを選んでいるらしい。 こいつの肉体のすさまじさを見れば嘘ではないと分かる。バックスのおれとは違って、フォワードのこいつは縦にも横にも馬鹿でかく分厚い。ラグシャツを引きちぎりそうな大胸筋も、バスケットボールみたいなけつもその逞しさを強調している。ゲイなら見ているだけで唾が溜まる、脂が乗った男の身体。こいつと比べるとおれの身体なんて貧相で雌みたいに思える。小学生ぐらいからラグビーを続けた身体は鍛えられてはいる。四肢も胸板もぶ厚く太い。 ――でも、こいつを見てると自信がへこたれる。毎日トレーニングをして、死ぬ気でメシをかっこんだってこいつには追い付けない。 「何だ?やはり疲れたのか?なら無理をしないで休むか?」 「だーかーら、違うって言ってんだろ。ただ、おれの身体は全然育たねえなって」 「ああ、なるほど。それでいつものようにへこんでいたわけか。情けない」 「ぐ。仕方ねえだろ。おれは他の連中とは違ってさ……」 「またそれか。いつも言ってるだろう、お前は他の奴に劣ってなんかいない。お前は『普通』だよ」 おれの手を握りしめる感触。硬くて、ゴツゴツして、大きい手。おれとは違う、勇大の手。 それから空いた方の手でおれの頬を撫でた。その男らしい撫で方は正直雑だ。でも、鱗の冷たさが火照ったおれには心地よかった。 勇大はいつもこうしておれを慰めてくれる。休めって言われたのもきっと嘘だ。おれがしょげてるのを見つけて声をかけてくれたんだろう。小学生の頃からいつもそうだ。おれが自分の身体のことで悩んでいればすぐにおれを助けてくれる。一緒にラグビーをやってからずっと変わらない。その優しさに胸がうずいて、手を握り返したくなる。 でも今は駄目だ。練習の真っ最中。おれなんかの為にこいつの時間を奪えない。それに、こうして身体を触れ合わせている姿を見られるわけにはいかない。おれはそっと手をのけると、尻尾を大きく振り回した。 「へっ! ちょっと悩んでだけだってのにおせっかいな野郎だなーお前は!」 「随分な言い草だな。幼馴染が喝を入れてやりに来たのに」 「おれぁお前と違って頭を使ってるからな。悩むことも多いだけだよ!」 「成績はおれの方が上なのに何を言っている。頭を使ってるんじゃなくラグビーの事しか考えられないだけだろう」 「うるせぇ!おれはラグビーで進学するんだから良いんだよ!」 「赤点を取ったらそれも危ういのだが?この前のテストで泣きついてきたのはどこの誰だ?」 「てめぇ!それ言い出すのはずるいぞ!」 こいつと言いあいをしていると劣等感も卑屈な感情もすっかり消えてしまう。顔も口調も怒ったフリをしているが、本当は笑っている事をこいつもおれも分かっている。おれたちはいっつもこうだ。どちらかが泣いたり落ち込めばすぐに片方が助ける。もっとも勇大が泣く事なんて最近はほとんど無いんだけどな。いつもおれが助けられている。 今だっておれが落ち込んでいるのを察して声を掛けてくれたんだ。こいつがいなかったらおれはラグビーを続けられていたか、いやこの年になるまで生きていられたかも分からない。おれが身体について悩み苦しんでいた時にこいつが助けてくれたから。そのおかげでおれはちゃんと生きられたんだ。 「やれやれ、口の減らない奴だな」 「お前こそ口うるさいんだよ。早く練習に戻れよな」 「そうしても良いが、どうせなら二人で練習しないか?タックルを練習したいんだ」 「ん? 良いけどよ、フォワードの奴らとやった方が良いんじゃねえか?おれだと力不足だろ」 「ついさっきまでぶっ通しで練習していてな、おれ以外は限界だと言って休憩中だ」 「あー……で、お前は暇になったって事か」 こいつらしいと言えばらしい。おれとは違って体躯も体力も人並み外れたこいつは、他のチームメイトがぶっ倒れても良くピンピンしている。フォワードの練習ができなくなった時はグラウンドからいなくなっているが、きっと一人で練習しているのだろう。戻ってきた勇大は汗臭いし呼吸が荒い。どんな練習してるんだ?と聞いても教えてくれないのが不思議だが。 だからこいつと二人で練習するのは滅多にない機会だ。断る理由も無いからと頷こうとしたら、またもや後ろから声がした。 「休めと言ったんだが、自主練か?二人とも」 「か、監督っ!お疲れ様です!」 おれと勇大、二人して背筋を正す。 勇大の声を間違える事は無いが、この声は聴いたら脳みそが自動で反応するように刷り込まれている。 「ああ、そう硬くなるな。あまり根を詰めすぎんように見にきただけだからな」 そう言って壮年の熊、熊代監督は腕組みをしながらおれたちを見つめる。熊人といえばどこま丸々として可愛らしいイメージがあるが、熊代監督には全く当てはまらない。ガチガチに鍛え上げられて無駄な脂肪の無い肉体は現役のラガーマンに見劣りしない。その顔も肉体に相応しいようにいかつく男らしい。鋭い眼光に射すくめられると呼吸すら怪しくなってしまう。 うちにはガラの悪い不良みたいな奴もいたが、監督の薫陶を受けてあっという間に従順なラガーマンになってしまった。ブン殴るわけでも、理不尽なパワハラをするわけでもない。ただ凄みのある声で指示をされているだけで反抗する気力なんて消え失せてしまうのだ。 「ふむ……タックルの練習か」 「は、はい!勇大のやつ、他に練習相手がいなくって」 「おれの他のフォワードが全員ダウンしてしまいました」 「今日は少しハードだったからな。お前の練習はどうした?」 「言われたメニューは終わって走り込みしてたんですが、終わったんで勇大に付き合おうかなって」 「ハードワークは感心せんぞ。おれが付き合ってやるからお前は少しクールダウンしろ」 「えっ!か、監督が一緒にやってくれるのは嬉しいですけど。そんなの申し訳ないです」 他の部員は練習メニューをこなしているみたいだけど、だからといって監督に一人だけ指導をして貰うなんて恐れ多い。おれはレギュラーとはいえ他の部員みたいに磨かれて光る才能は無いのだ。 それにおれが休んだら勇大の練習相手がいなくなってしまう。勇大は監督から目を背けながらラグシャツを握りしめ、何かを言いたげに口を開いては閉じている。勇大もおれがいなくなったら困るのだろうけど、監督が相手では言い出せないのだろう。やはりおれが遠慮するべきだ。 「遠慮してんなよ虎縞ぁ!監督はお前を気に入ってるから世話焼きてぇんだよ!」 「そうそう。竜野くんは僕たちが相手しておくからさ」 おれが口を開こうとしたその時に新たな声がした。 片方は野太く豪快。もう片方が鈴を鳴らすような軽やかな声。 返事をする前におれの首に太い腕が回されて、ぐしゃぐしゃと頭の毛を掻きまわされる。ついでに腹のあたりを指先でくすぐられて。 ちょっぴり激しいスキンシップに悶えながら視線を向ければ、猪と狐の先輩がにやついていた。 片方のでっぷりした猪は猪狩先輩。このラグビー部のキャプテンであり、脂肪と筋肉で構成された肉体はロードローラーのように敵チームを粉砕する。このチームの大黒柱だ。 もう片方の狐は伏見先輩。猪突猛進気味なところのある猪狩先輩を支え、おれたち後輩も気にかけてくれる優しい先輩だ。ラグビー馬鹿が多いこのチームの中で、冷静に全体を見てくれている。 二人とも実に良い先輩だ。でも、首をロックしながらくすぐるのはやめて欲しい。 「ちょちょ、先輩!止めてくださいよ!」 「ガハハ!いいじゃねぇか、頑張ってるお前へのご褒美だ!」 「止めて欲しいなら大人しくコーチとクールダウンしてようねー?」 「分かった、分かりましたからっ!」 ようやく解放されて、改めて二人の身体を眺めてみる。猪狩先輩はみっちりと肉が詰まった丸い身体。なだらかで大胸筋もケツもでかいが、女性的な印象は全く受けない。大きく張った腹は男らしさの象徴で、触ってみると恐ろしいほどの弾力で押し返してくる。 反対に伏見先輩はすらりとしたシルエットをしている。筋肉が豊富に実った身体は逞しいのに、手足も背丈も長いのでスリムに見えるのだ。甘いマスクと合わせて実に男前。女の子には非常にモテて、毎週のように違う女の子と街中を歩いているのを目撃されている。 「分かりゃいいんだよ! お前は頑張りすぎだからな、休めって言われたら素直に休んどけ」 「きみが倒れたりしたら次の大会困っちゃうからね。僕らにとっては最後の大会なんだ。しっかりしてくれよ?」 二人ともおれとは違って男らしく、そして優しい。勇大と同じようにおれが落ち込んでいると励まして、悩んでいると喝を入れてくれる。練習の時は厳しいけれど、決して理不尽じゃない。他のチームメイトの相談にもちゃんと答えて、親身になってくれる。だからこの先輩たちはみんなに慕われている。 「って事だからよ。勇大はおれらと一緒に来い。しっかり稽古つけてやる」 「あれ?タックルの練習って、ここでしないんですか?」 「どうせだから他のメニューもして貰いたいからね。体力はあるけど、細かいテクニックはまだまだだから」 「だからおれらが身体に叩き込んでやるよ。オラ、行くぞ」 「は、はい!よろしくお願いします!」 勇大も嬉しいのか、頬を赤らめて先輩たちに付いていった。そういえばこの前も先輩たちとトレーニングをしていた。やっぱり、先輩たちも勇大には期待しているのだろう。現時点でもラグビー部内トップクラスの体格をしているのだ。来年になれば部を支えるエースになってくれるに違いない。 全くおれとは大違い。おれにも勇大の男らしさを少しでも分けて欲しかった。 「軍司。身体を休めるのも練習の一部だ。しっかりやるぞ」 「はい!了解っす!よろしくお願いします!」 でも、こんなおれにも監督や先輩たちは気にかけてくれるのだ。うじうじ悩んでいるわけにはいかない。 おれはグラウンドに座り込むと脚を伸ばして座り込み、ぐっぐっとしっかりと力を込めながら筋肉を揉み解していく。特に痛めやすいのはアキレス腱や内ももの筋肉。肉離れを起こさないよう、翌日に疲労を残さないように筋繊維を伸ばす。 背中や肩は監督が丁寧にマッサージしてくれた。無骨で太い指なのに、少しも痛みを感じさせずに硬い筋肉をほぐしてくれる。じんわりと暖かい手から伝わる熱は夏の熱気とは違い刺刺しく無くて、ほんのり甘い。あまりにも心地よくてまどろんでしまいそうになる。 「どうした?眠くなったか?」 「す、すいません。気持ち良くって」 「眠いなら寝ても構わんぞ。部室まで運んでやる」 「寝ませんよ!そんな子どもじゃないんだから」 「おれにとってはガキみたいなモンだ。お前は頑張り過ぎるからな。甘えるべきところはおれに甘えろよ」 監督の言葉に視界がぼやけた。監督から流れ込んできた熱が、おれの中から湧き上がってきた熱と混ざって全身から溢れ出しそうになる。太ももをつねりあげて、喜びのしるしがこぼれないように堪える。 監督が、理想のラガーマンであるあの熊代監督がおれなんかを気にかけてくれている。頑張っているって言ってくれた。その事に身体が打ち震える。 「監督。おれ、もっと頑張ります!」 「――そうか、お前には期待してるからな」 泣きそうな顔のせいで監督の顔は見られなかったけど、きっと優しい顔なんだと思えた。 熊代監督とならばおれでも強くなれる気がした。いつか見たあの格好いいラガーマンのような、男の中の男になれるんじゃないかと思えた。 勇大や先輩たちに比べれば貧弱なおれでも。死ぬ気で努力して、どうにかレギュラーに入れたおれでも。 普通の身体をしてないおれでも、本物の男になれるんじゃないかって。この時はそう思えたんだ。 *** 「今日もしんどかったなー」 「身体バッキバキだ。明日死ぬぞこれ。部活も休みだからいいけどよ」 「お前は良いじゃねえか。監督にマッサージしてもらったんだからなー」 「そーだそーだ。羨ましい!」 「でもよぉ、緊張しすぎてかえって身体硬くなった気がするわ」 練習が終わるころには空一面が濃紺色に染まっていた。太陽が山の向こうに隠れて、雲が月の光を吸い込んで仄かに瞬いている。夜空の光がおれたちにわずかな影を作っていた。 練習終わりにはこうしでだべりながらチームメイトと帰る。レギュラー争いのライバルだけど、大事なチームメイトでもある。みんなタフなラガーマンで男らしい。こうしているとおれも普通の男になれたみたいでなんだか嬉しい。うちの部活はハードだが、隔週で土曜日と日曜日が休みになっている。おれたちはまだガキだから、しっかりと休息を取るようにって監督から言われている。そのおかげで大きな怪我もせずにラグビーを続けていられるんだ。 「休みがあるのはいいけど、そのぶん普段はキッツイよな。全身筋肉痛だ」 「へー、そんな酷いんならマッサージしてやるか?」 「ああ?駄目に決まってんだろ。お、男なんかに触られて何が嬉しいんだよ。監督は別枠」 「お前そーいうトコだけノリが悪いよな。着替えも隠れてやってるしよ」 「……なんていうか、恥ずかしいんだよ。他の事ならいいけど」 「まーいいけどな。ラグビーやってりゃ見せたく無い傷とかもできるし」 チームメイトは勘違いをしてくれるけど、おれは傷を負ってるわけじゃない。身体を触って欲しくないのはおれの身体の異常に気付いて欲しくないから。こそこそ着替えるのはおれの身体を見られたら困るから。ちんぽやケツならいくらでも見せてやるけど、でもあの部位を見られたら全てが終わってしまう。 だからちゃんと隠さないといけない。でも、そんな事は言えないし言う必要も無い。幸いチームメイトたちはおれの秘密に入り込んでこない。おれは話の流れを変える為に適当な話題を振った。 「来週は小テストなんだよなぁ。ダリィ」 「軍司はいいよな。勇大に勉強見て貰えんだろ?」 「おう。あいつ頭良いからな。週末は泊まりこみで一緒に勉強すんだ」 「休みに勉強ってお前らマジメくんだな。んじゃ、お前はあっちの道か」 「だな。あいつ、一人暮らしだからコンビニでオカズでも買ってくわ」 「りょーかい。んじゃまた明日な!」 チームメイトに手を振って別れた後、自分の姿が見えなくなったのを確認してすぐに駆け出す。 コンビニにも寄らないで、真っすぐに向かうのはボロいアパート。おれも勇大も遠く離れた地方から通っているから一人暮らし。おかげで仕送りに頼って暮らさなきゃいけない。親父やお袋とも離れて、粗末なメシと隙間風の吹く家。 しんどいと思う時もあるけど、こんな時は一人暮らしをして正解だったと思える。親の目を気にしないであいつに会いにいける。アパートの前で待ってくれている勇大の顔を見て、喜びで心臓が爆発しそうになる。 「軍司、待ってたぞ」 おれを見つけて、手を振ってくれる勇大を見たらもう駄目だ。 全身が熱くなって、スピードを緩めないまま勇大の胸の中へと飛び込んだ。おれよりもずっとぶ厚く、盛り上がった胸板。抱きとめられると鼻をくすぐる汗の匂いがした。ちっとも不快じゃない、おれの大好きな匂い。 ぐりぐりと胸板に顔を擦りつけると、勇大は嫌がる事なく頭を撫でてくれた。相変わらず繊細さの欠片も無いが、それ良い。ぎゅっと抱きしめる背中はうっとりするほどに筋肉が隆起していて、おれとは違う雄性に胸がときめいちまう。 「へへぇ」 「こら、いつまでも抱き着くな。中へ入ろう」 「ん。その前にさ、ほら」 鼻をくっつけそうなぐらいに近づいて、いつものおねだりをする。 勇大は困ったように周囲を見回すが、仕方ないなといった感じでおれの後頭部に手を回す。大丈夫、周囲に人がいないのはちゃんと確認済みだ。じゃないと、こんな事なんてできやしない。 「ん、うっ」 「んっ……」 おれたちのマズルがそっと触れ合う。 虎と竜。種族の違うおれたちはキスをするのも容易じゃない。でも、軽く口を触れ合わせるだけのものでも満たされる。キスはただの証で無いから。快楽を得る為でも、欲情を示す為でもない。おれたちに確かな愛がある事を確かめ合う為の証。 何度も口を啄み合いながら。 みずみずしい肌を撫でながら。 勇大の家の中へに入るその間もずっと身体を触れ合わせたまま。 愛しい恋人の匂いをいっぱいに吸い込んで。強く強く吸い込んで。興奮によって勇大の匂いが変わるのを感じて、おれの胸がきゅんきゅんと疼き出す。 「軍司、軍司っ……!」 「ゆう、だい」 白いシーツの海に投げ出され、互いの身体をまさぐり合う。言葉なんていらない関係だから、どこが感じるのか、何をすれば喜ぶのか互いに分かっている。 おれは勇大の身体をくすぐり、感じる箇所にキスを落とす。薄闇の中であっても竜の巨体は圧倒される存在感を誇る。騎士が王に忠誠を誓うように、犬が飼い主を舐めるように。おれとは違う雄々しく逞しい肉体に、羨望と敬愛を持ってキスの雨を降らせる。 勇大はおれの愛撫に目を細めていたけれど、やがておれの手を掴んでゆっくりとうつぶせにさせる。勇大のスリットから飛び出した太く逞しい逸物に、おれはこれから起こる快楽を想起する。何度も抱かれた身体が快楽を求めて反応してしまう。ちんぽと、肛門。そして、忌々しいあの部位が。 「軍司……尻、向けてくれ」 「ん……分かった」 促されるままにでかいけつを持ち上げる。ラグビーをやっているから当然といえば当然だけど、おれはこのでかいけつも嫌いだ。なんだか、女のけつみたいで。勇大の胸板や太ましい腰も男らしく見えるのに、おれは自分の身体の全てが雌に思える。 「あ、ひぅっ!」 畜生。何よりも『こいつ』が嫌いだ。 おれの意思とは無関係に濡れそぼり、空気に撫でられるだけで快美な刺激が駆け巡る。どれだけ抑え込もうとしても、無視しようとしても、おれが普通の男ではないのだと知らしめる。ちんぽと肛門の間にある会陰が意識の大部分を占領している。 勇大の視線から遮るように手で隠しても『こいつ』は物欲しげに伸び縮みを繰り返す。どれだけやめろと願っても、言う事を聞いてはくれない。 「軍司。大丈夫、か?無理なら良いんだぞ」 「……大丈夫だ。いいから、早くやってくれ。でも――」 「分かってる。大丈夫、お前はそんな所に触ったりはしないさ。だから、そのままでいろ」 勇大はそっと囁いておれに覆いかぶさる。 逞しくて大きな身体。 おれとは違って完璧な身体。 おれを包み込んで欲しかった。完璧ば男でおれを覆い隠して、醜いおれの身体を見えなくして欲しかった。おれを、勇大の一部にして欲しかった。勇大や監督みたいな完璧な男じゃなくていい。せめて、普通の男になりたかった。 ――なんて愚かな願いだろう。 勇大に抱いて貰ったっておれは『普通』にはなれない。どれだけ鍛えたってまともな男にはなれない。 ラグビーを続けたって、おれはおれのまま。なんて愚かなんだろう。 何をしたって『こいつ』は。身体に付いた女のマンコは消えてはくれないのに。 『こいつ』が厭わしく思えたのは、確か小学校の高学年の頃からだ。 まだ何も分からなかった時はなんともなかった。親父が『それ』は皆にばれないように隠していなさい、と言っても良く分からないまま従っていた。 学校にはこっそり話を通しておいたのか、健康診断なんかでバレる事は無かった。着替えの時も、わざわざ金玉とけつの間を見る奴なんていなかったからな。 でも、おれの中で疑問の種は育っていった。だって、おれはみんなと明らかに違うんだから。 何でおれは友達と違うモノが付いてるの?何でその事を隠さなきゃいけないの? 『こいつ』が女の子に付いてるモノなら、おれは男じゃないの?でも、おれは女の子の身体とも違う。 (おれって、いったい何なんだ?) 分からないまま身体だけが大きくなって。両親に何度聞いても帰ってくるのは『ごめんなさい』って言葉だけ。 親父とお袋の辛そうな顔を見ているうちに分かったんだ。おれは普通じゃないんだって。普通の身体に生まれることができなかったんだって。 おれは普通の男じゃない。 みんなより劣っている。 こんな気持ち悪い身体に生まれたくなかった。 そう考えながら育った。触れただけで変な気分になるマンコに泣きそうになり、子どもの頃はベッドで丸くなって泣いていた。おれが泣くと親父とお袋が悲しむから涙さえ隠さなきゃいけなかった。きっと、あのままでいたらおれは死んでしまったと思う。 そんなおれは救ってくれたのがラグビーと勇大だ。 初めてのラグビーはおれに憧れをくれた。あんな格好良い男になりたい、おれでもなれるかもしれない。女のマンコが付いていても、頑張れば本物の男になれるんじゃないか、そう思えた。 『軍司、おれと付き合って欲しい』 勇大はおれに居場所をくれた。 こんな気持ち悪い身体をしたおれを好きだって言ってくれたんだ。 おれにとって勇大は大事な幼馴染だった。そりゃ勇大の事は大好きだったけど、まさか男同士で好き合うなんて考えもしなかったんだ。一緒にラグビー選手になろうと誓いあい、ずっと一緒にいた親友が告白するなんて想像できなかった。 『ごめん、ちょっとだけ時間をくれ』 ちょうど一年前、告白された時はショックで何も考えられなかった。 男から、親友から告白された驚きよりも恐怖と不安で足元が崩れ落ちるような恐怖に陥った。だって、恋人だぞ?恋人になるって事は、おれの何もかもを見せなきゃいけないと思った。おれに付いているマンコを、おれが本当の男じゃないって事を曝け出さなきゃいけないって事だった。 ――おれは悩んだよ。悩んで、悩んで。毎日続けたラグビーの練習すらできなくなり、メシも喉を通らなくなった。それでもおれは勇大の告白に応えた。いや、応えたって言い方もおかしいか。おれは全部を見せる事にしたんだ。 おれの身体を見せて、それから決めて貰う事にした。今みたいにベッドの上で、おれの全てを勇大の前に曝け出した。あの時は怖かったな。勇大に拒まれるだけなら良い。だが、言いふらされたりしたらおれは終わってしまうから。せっかく入れた学校も辞めて、二度とラグビーなんかできなくなる。泣きそうになりながら勇大の答えを待って。その答えは――言うまでもないだろう。 「軍司、大丈夫か?」 「ん……だいじょぶ」 今、こうして勇大の腕に抱かれている。それが答えだ。 背中に感じるのは胸板の硬さ、逞しさ。 ぴったりとくっついていると勇大の熱が伝わってきて心地よい。 今、おれは勇大と繋がっている。もちろんマンコなんか使わないで、勇大のちんぽに貫かれている。でっかくて男らしいちんぽだから少しだけ苦しい。でも、それ以上に勇大と繋がっている事実が幸福をくれる。 「勇大、おれ幸せだ」 「何だ急に。知ってるよ」 お互い全裸で、身体を重ねながらする会話じゃないな。 二人でくすくす笑い、互いの指を絡ませ合う。後ろから抱きすくめられているせいで勇大の身体を撫でられないのがもどかしかった。 その代わりに細長い尻尾を脚へと絡ませ、後頭部をぐりぐりと擦りつける。今のおれは主人に甘える飼い猫だ。ほんのちょっぴり恥ずかしいけれど、勇大の手つきが淫靡なものへと変わるにつれて恥じらいなんて消え失せていく。互いの熱が溶けあい、喘ぎ声と衣擦れだけが響くころにはただ悦びだけがおれたちを埋め尽くす。 勇大と一つになっていると、いつも思うんだ。 こいつといれば大丈夫。おれは本物の男になれるって。 ラグビーはおれに夢をくれた。勇大はおれに居場所をくれた。だから、大丈夫。マンコなんかついてたって、おれは普通になれる。 監督も先輩たちも優しくて、チームメイトともうまくやれている。何も心配はいらない。いつかあのグラウンドに立ち、日本一のラガーマンになるんだ。そうすればおれはまともな男だって証明できる。親父もお袋も悲しんだりしないような。 大丈夫、大丈夫。 何度も心の中で呟きながら逞しい腕に身を委ねる。 いつか、消えてくれるはずなんだ。心の中にある恐怖や不安も、勇大とラグビーをしていれば。一緒にいればいつか消えてくれるはずだって信じながら、おれは快楽の海に溶けていった。