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【小説】レスリングの試合で歯科衛生士さんに敗北した話②

前回↓↓

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「じゃあ、私と戦いませんか?」


「はい。……え!?」


一瞬意味が分からなくて反射的に返事をしたけど、遅れて驚きがやってきた。


私と戦うって、俺が栗宮さんとスパーリングするってこと???

え、どういうこと?


「あの、栗宮さん、戦うっていうのは、どういう……?」


俺の問いかけに栗宮さんは全く当たり前のことであるかのように笑顔で答えた。


「だから、山上さんもスパーリングする気で来たんですよね?お互い相手がいないんなら丁度良くないですか?」


正直丁度良くはない。

俺はXAGに入会してかれこれ3年になる。それに対して栗宮さんはまだ入会して3ヶ月。

ていうか、そもそも俺は男だけど栗宮さんは女だ。

勝負になるはずがない。



けど……断りたくない自分がいる。



いや、分かるよな?

すげぇかわいい歯科衛生士さんとレスリングだぞ?

試合とはいえ抱き合うようなもんだ。

絶対に……絶対に、やりたい。


いやいやいやいや、だめだろ。

こんな下心MAXで試合なんかしたら、色々反応して色々バレる。


落ち着け……!落ち着け!俺!



「いや〜、俺は今日はちょっと遠慮…」


しとくよ、と続けようとしたその瞬間、



「ねぇ、トレーナーさん、良いですよね?」


なんとトレーナーさんに許可を得ようとしている!

いやいやいや、流石にそれは悪手だろ!

絶対止められるって!


いや、まあ俺はそれで全然有り難いんだけど、トレーナーさんに許可もらえると思ってるあたり栗宮さんちょっとアホの子すぎ……いや、それも可愛いんだけど……!


しかし、トレーナーさんはこの栗宮さんの暴走に対して意外な反応を示した。


「あ〜……ん〜……トレーニーズスタイルなら……有りかぁ。」


「え…!」


思わず驚愕の声が出た。

まさか、認めるのか?!



XAGではフリースタイル、グレコローマンスタイルの2つに加えて、もう一つオリジナルのレスリングのスタイルがある。


それがトレーニーズスタイル。


このルールでは、選手同士が右手を相手の首元、左手を相手の右肩に置いて組み合った状態で試合を始める。

もちろんレスリングなので、締め技、関節技、打撃技はなし。

加えてトレーニーズスタイルでは投げ技と後ろからのタックルも禁止されている。


XAG会員の8割はレスリング選手を目指しているのではなく、筋トレ、フィットネスを目的としている。

トレーニーズスタイルは、そういった会員に向けて、怪我を避けつつ実践的トレーニングを積み、かつレスリングを楽しめるように決められたルールだ。


しかし、いくら怪我が起こりにくいルールとはいえ、トレーナーさんが少しでも俺と栗宮さんのスパーリングを許すような仕草をしたのは少しショックだった。


ついさっきは、筋力が落ちててスパーリングはオススメしないと言ってたのに、栗宮さんが相手ならオッケーって、まるで今の俺の力が女と同等だとでも言われている気がした。


栗宮さんに対戦要求された時こそ下心で舞い上がったが、それが第三者に認められるというのはやはり悔しさも込み上げてくる。



「トレーナーさん、流石に冗談ですよね?栗宮さんと俺じゃ実力差があり過ぎますよ。」


俺はどうしてもトレーナーさんの口から俺の方が強い旨の言葉を聞きたくて確認した。


しかし、トレーナーさんの口から返ってきたのは俺が期待する物とはおおよそ異なる内容だった。


「ん〜、どうですかね?山上さん、しばらくジム来てないから、栗宮さんの実力知らないでしょ?良い機会だし、ちょっと組み合ってみても良いかもしれないですよ?最悪、危ない場面があれば、アタシがすぐ止めますし。」


まじかよ…。

正直、マジで悔しかった。俺も俺で3年間ここで鍛えてきた自信があった。


なら、俺の実力を見せてやる。


「分かりました…。ホントに危険な場面があればすぐ止めてくださいね。」


俺は栗宮さんとのスパーリングを承諾した。


すると、栗宮さんが嬉しさと緊張の入り混じったような表情で言った。


「山上さん、戦ってくださるんですね!…私、男性の方とするのは実は初めてなので、自信ないですけど、全力で頑張ります!」


そんな栗宮さんはすごく可愛い。

だけど、今はその栗宮さんの言葉も俺の力を舐めているように感じる。


栗宮さんにも、トレーナーさんにも俺の力を見せつけたい。


「じゃあ…栗宮さん。よろしくお願いします。俺に挑んだこと、後悔しないでくださいね。」


冗談っぽくハニかんで、それでも俺は本音でこのセリフを言った。



俺と栗宮さんの男女対決がスタートする。


☆☆☆☆☆


俺と栗宮さんはマットに上がって向かい合うと、お互いに右手を相手の首元、左手を相手の右肩に置く。

試合時間は3分間。

その3分の内により多くのポイントを取るか、相手の両肩を1秒以上マットにつけてフォールした方が勝ち。


「レディ……ファイト!」


トレーナーさんの掛け声とともにスパーリングがスタート。


それとともに俺は両腕に力を入れ、栗宮さんの体を引き寄せようとした。


しかし、栗宮さんはいきなり跳び上がると、俺の腰に両足を巻き付け、俺の頭を胸に抱えるようにして飛びついてきた!


「え……うわっ!」


全く予想していなかった栗宮さんの行動に思わず、足の踏ん張りが効かなくなってしまう。

そしてその状態のまま栗宮さんは俺を引っ張るような形で後ろに重心をかけた!


「わっ…わ、わっ!」


試合開始後わずか1秒。

俺は間抜けな声を出しながら栗宮さんにマットに引き込まれてしまった。


体勢は俺が上で栗宮さんが下だけど、ポジションを取る上で重要となる腰を栗宮さんの股に捕らえられ、頭を抱き抱えられている。

上のポジションではあるが、体を支配されているのは俺の方……!


まずい……女だからって完全に油断した。


俺はマットに膝を立て、栗宮さんの両手首を掴んでとりあえず頭を抜こうとした。


しかし、当然栗宮さんも安々と俺を逃がすハズがない。

俺の頭を更に強い力で抱き絞めた。



むにゅっ



すると栗宮さんの大きな胸が俺の顔面を覆い尽くす。


やばい…っ!


クリニックでは頭に軽く当たる程度の栗宮さんの巨乳。しかし今は顔面全体で堪能させられてしまっている。


こうなると俺の股間が反応してしまう。

いくら対戦相手と言えど、かわいい女性の柔らかくて大きな胸を顔面に押し付けられてはどうしようもない。


理性では抜け出さないといけないとは分かっているが、どうしても本能が邪魔をして、両手に上手く力が入らない。


「どうしたんですか?山上さん、女の子のホールドから抜けられないんですか?」


そんな訳ねぇだろ。

実際抜けるのは簡単なはず。

だけど、抜けられないというか、抜け出したくないというか...。


ただ、このまま顔面に胸を押し付けられ続けるのもそれはそれでかなりまずい。


栗宮さんの胸は想像以上の柔らかさで、俺の顔面の凹凸を隙間なくぴったりと覆い尽くしてしまっている。


鼻や口も塞がれてしまい、現時点で呼吸が全くと言っていいほどできていない。

試合が始まって間もなく、体力も十分に残っているため、今は栗宮さんの胸を堪能する余力がまだあるが、このままでは窒息してしまうのも時間の問題だ。




もしも女性の栗宮さんにレスリングで敗北でもしたのなら...

ジムにも、そしてクリニックにも顔を出せなくなる。



ここは本能を抑えて、どうにかこの体勢から抜け出さなければ...。



俺は栗宮さんのホールドから再度抜け出そうと試みる。

しかし、腰を股で、そして頭を両腕でガッチリとホールドされており、全く抜け出せない!


総合格闘技やプロレスならこの体勢からでも打撃を打つことで抜け出すことができる。

しかし、打撃が禁止されているレスリングでそれは不可能。


つまり純粋な力比べで栗宮さんのホールドから抜け出すしかない......。

それなのに、抜け出せていない...。



俺、栗宮さんに力負けしてる......?



のか?



一瞬、そんな思考が頭を駆け巡る。



いや、違う。そんな訳がない!

絶対にそんな訳がない!

まだ試合が始まって30秒ほどしか経ってない。

落ち着け俺、落ち着け!


まず栗宮さんの腕が片方だけでも外れれば、頭を抜くのは簡単なはずなんだ!



...いや、でも待て。腰を相手に捕らえられてしまってる以上は、頭を抜いてもまた捕まってしまうんじゃないか?

ここはまず先に腰の自由を手に入れないと...

いや、やっぱり頭か?!



体力はまだ残っている。だから、なんとか自分に落ち着くよう言い聞かせるが、呼吸ができない焦りから、考えがまとまらず頭が抜けないままただ時間が過ぎていく。


...やばい...ちょっと呼吸がやばくなってきた...!


まずい、まずい!

このままだと、本当にやばい...!


これだけはやりたくなかったけど仕方がない!



俺は負けたくない一心で、栗宮さんの胸を鷲掴みにした。


「きゃっ!」


栗宮さんの悲鳴が聞こえるが、もうなりふり構っていられない。

いくら俺がしばらくトレーニングから離れていたとはいえ、女性に負けたら洒落にならない。


俺は指で栗宮さんの胸をグッと押し込んで、鼻と口の呼吸をするスペースを作った。



呼吸が出来た途端、思考が少し落ち着き、ホールドからなんとか頭を抜くことができた。



「はぁッ...はぁッ...はぁッ!」



ヤバかった。

試合開始後まだあまり時間が経ってないけど、すでにかなり消耗させられてしまった気がする。


なんとか頭は抜けたけど、まだ油断はできない。

腰には栗宮さんの脚が巻き付いたままだ。


栗宮さんこの動きを警戒して見下ろすと、彼女は両手で胸を覆って俺のことをキッと睨みつけた。


「女の子に負けるのが怖いからって、こんなことするなんて最低ですっ...!」


追撃を警戒していた分、栗宮さんの反応に驚いた。


「あッ...いや。その......すみません。」


「女の子のおっぱいをあんな力で掴むなんて、痛いに決まってるじゃないですか!」


試合中、対戦相手に怒られるなんて初めてのことで、一瞬戸惑ったけど、こっちも戦っている最中でアドレナリンが出ていたこともあり、思わず言い返してしまった。


「そんなこと言ったって...。だいたいあんなの反則ですよ?俺たちはレスリングやってるんです。故意にギブアップを狙うような技はレスリングじゃ認められない。」


「は?別に私、普通にホールドしてただけじゃないですか!ギブアップを狙ってるつもりなんて無いんですけど。トレーナーさん、別に反則じゃ無いですよね?」


栗宮さんが審判をしているトレーナーさんに問いかけると、トレーナーさんは困ったような顔をしながら頷いた。


それを見た栗宮さんは俺の方に向き直ると、得意げな顔をして「ほら」と呟いた。


「自分が下手クソでホールド抜けられなかったのに、それを人のせいみたいに言わないでくださいよ。」


「...は?」


流石の俺も今の栗宮さんのセリフにはカチンと来てしまった。


まだジムに通い出した新人のくせに3年やってる俺に下手くそだと?


「もう手加減しねぇからな!」


俺は怒りに任せて仰向け状態の栗宮さんに抱きついた。


「いや!」


栗宮さんが叫び声を上げる。

ザマ見ろ。

この体勢ならそのままフォールして勝負ありだ。


そんなことを考えたが、俺は栗宮さんの体をフォールすることはできなかった。


俺の腰には依然、栗宮さんの脚が巻き付いたまま。

栗宮さんは下半身の力を使ってフォールしようとする俺の体の軌道をずらしたのだ。


「なっ?」


俺の口からそんな声が漏れてしまう。


やっぱり腰を相手にコントロールされてしまっている以上、フォールは容易ではない。


俺達は横向きで抱き合っているような状態となった。



俺の胸板を包み込むように、栗宮さんの柔らかい胸が当たる。


栗宮さんと抱き合い、その感触を全身で堪能できるなんて、普通なら至上の喜びだ。


だけど今の俺には癒しに浸る余裕なんて無い。


この女に男の力を見せつけ、なんとしてでもさっきの「下手くそ」という発言を撤回させたい。


俺は再び上のポジションを取るために足でマットを蹴った。

男女の筋肉量の差を考えれば余裕で上を取れると思ったけど、意外にも栗宮さんは耐える。


「この...オラっ...っオラァ!」


「んっ...!んんっ!」


お互い声を出して、全身に力を入れて力比べをする。

さっき胸で呼吸を封じられ、体力をかなり消耗してしまったことと、腰をコントロールされてしまっていることで、普通なら絶対にあり得ないけど、俺と栗宮さんの力が拮抗してしまっている。


「くそ...なんでだよっ...!」


「...っ女の子を...押し倒すことも...できないんですか...っ?......私、勝っちゃいますよ...!」


「...っるせぇよ」


やばい...。

まじで女と互角なのか?くそ、どうしたらいい?


焦る気持ちが強くなり、冷静な状況判断ができない。

本当ならホールドから抜け出すことを優先して距離をとって仕切り直すべきなんだろうけど、俺の思考は女に力負けしたくないという気持ちでいっぱいで、この勝負から逃げられなかった。


そのままどちらもマットに背中をつけることなく抱き合った状態で時間のみが過ぎていった。



「はぁ...はぁ...はぁ...」


くそっ、体力が...。


「山上さん...っ限界、ですか...?」


「んな訳...ねぇだろっ!」


「分かりました...。じゃあ、今度は私の番ですっ!」


そう言うやいなや、栗宮さんはあろうことか俺の腰に巻き付けていた脚を解いた!


「え...?」


これはむしろ好都合!腰の自由を手に入れた分、ポジションの有利をとりやすくなる!


と思ったのも束の間、栗宮さんの押し込みが強くなり、俺の背中がジリジリとマットに押し込まれ始めた。


抱き合った状態でどちらかと言えば攻め手にいた俺と、俺の押し込みに合わせて必要最小限の力で耐えていた栗宮さん。

栗宮さんは、俺が体力を使い切ったタイミングで、拘束を解くことで、足でマットを蹴り、一気に攻勢に転じた!


「うおああああ!」


やばい!


俺は今ある全ての力を使って栗宮さんの抑え込みを押し返そうとする。


だけど、全く栗宮さんの体を押し返すことができない。


嘘だろ嘘だろ嘘だろ!?


右肩はすでにマットに付いているが、左肩もどんどんマットに近づいていく。

負けたくない一心でどうにかブリッジをして、少しでも左肩がマットにつくまでの時間を稼ぐ!


試合開始後もうけっこう時間もたった。

もうそろそろ前半終了のブザーがなるはずだ!


必死にブリッジをするが、もうすでに栗宮さんに上に乗られてしまっている。


「山上さん...っやばそう......じゃないですかっ?......女の子にっ...力で、負けちゃってますよっ!」


うるせぇ...。

うるせぇけど、言い返せない。言い返す余裕もない。


この体勢で今もう既に5秒が経過した。

レスリングでは、マットに対して両肩を90度以上近づけられた状態が5秒以上続けばデンジャーポジションといって、相手に2点のポイントが行く。


ポイントは現時点で2-0で負けている。

だけど、ポイントのことなんて考えている場合じゃない。

このままフォールされてしまえば強制的に負けが決まってしまう。


ジリジリ、ジリジリと腰も肩も落ちていく。


やばい...っ。もうっ......無理だっ...!!



俺の気力も体力も限界を迎えたその時。



ビーーーーっ!



前半終了を伝えるブザーが鳴った。



ドスン。



その0.5秒後、俺の両肩がマットについた。


「はぁ、っはぁ!っはぁ...っはぁ!」


危なかった。

本当に危なかった。なんとか耐えたけど...。

まさか女の栗宮さんにここまで追い詰められるなんて。


押し潰すようにして俺の上に乗っていた栗宮さんは起き上がり、俺を見下ろした。


「ブザーに助けられましたね。」


そう言って、自分のコーナーに戻っていった。




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