「え?これって・・確か・・」 灯織は夫から満面の笑みで手渡された水着をまじまじと見つめた。 灯織と夫はいつもの仕事分担の一環である、浜辺の巡回に来ていた。 島の異常有無と漂流物散策。いつもと変わらぬ努めだったが、灯織は夫と二人きりになれるこの時間が好きだった。 今ではすっかり板に付いた島の言語で会話し、他愛のない話題に話を弾ませながら誰もいない浜辺をふたりで歩く。 村の話題から子供達の成長、日々の食事に狩りの上達課程。一頻りの話題を巡らせ、会話が終わると本来の努めに戻り辺りを見回す。 何度となく繰り返しているが、灯織がそれに飽きることは無かった。 その主たる要因は夫に有った。夫は散策の間、灯織の近くを離れることはせず、絶えず寄り添うように歩いた。そして話の合間合間に灯織の身体にさりげなく触れてくるのだ。 夫婦となってもうだいぶ経つが、夫から受ける刺激には未だ敏感なままだった。 夫の体臭、逞しい身体、熱く武骨ながらも優しい手つき、それらは昼間とはいえ、灯織の下腹部を熱くさせるのに十分な刺激だった。 嘗て15の小娘だった灯織の身体は紆余曲折の果て、既に一人の母として十分な成長を遂げていたのだ。とりわけ乳房は著しく、慎ましさに悩んでいた頃が嘘のようにはちきれんばかりになっていた。 (ここに来てどれくらいだっけ・・私もすっかり変わっちゃったな・・) 夫からの刺激に身を委ねながらも、灯織は少し感傷的に今の自分を見つめた。 その時不意に、夫の手が止まった。 その変化を感じ取り、灯織は夫のほうを見上げた。 すると夫は灯織が声を掛ける間もなく、一目散に走り出してしまった。 「あなt・・もう・・」 灯織はやれやれと言わんばかりに苦笑交じりの溜息を吐いた。 夫の行動には察しがついていた。何か漂流物を見つけたのだ。 夫はふざけているように見えても、いつも己の務めと部族の事を考えており、即座に思考を切り替え行動する生真面目さを有していた。 灯織はそんなところも含めて夫を深く愛していた。 灯織が遅れて夫の元へと追いつくと、夫は岩の密集している海辺に引っ掛かっていたいくらかの残骸を検分していた。灯織の見たところでは何かしら船の残骸に見えた。 灯織も夫に続いて漂流物の検分に取り掛かる。 視界に入るのはいくらかの船の残骸、積載されていた荷物、何らかの積荷、生存者や遺体は見当たらない。 灯織は少しほっとした。さすがにこの務めはもう手馴れたものとはいえ、遺体を見るのは御免だったからだ。 とはいえ、今まで一度もそれらを見つけたことは無いのだが。 狩りの許可を貰い、男たちに混じって食材調達のために野生動物を捕獲し捌く事が当たり前になっていた灯織だが、流石に動物と人間では抵抗の度合いが違っていた。人間だったモノは流石に精神に来るものが有った。 (動物は良くて人間はダメ・・よく考えたら身勝手だよね・・) 灯織の愚直ないつもの思考が検分の手を止めた。 ついつい要らぬ考えに耽ってしまい、作業の手が止まってしまう。 灯織は慌てて頭を左右に振り雑念を拂拭した。 手を動かさねば。 「ヒオリ!」 そんな灯織を呼ぶ声が背後からしてきた。 灯織は愛する夫の方に振り向いた。すると灯織の顔に何か柔らかいモノがふわりと覆いかぶさってきた。 「ひゃ!」 突然の出来事に灯織は抜けた声を上げた。 「・・なに?・・これ・・水着?」 灯織は己にかぶさってきたモノを持ち上げ、その正体を認識した。 それはビキニだった。 夫は灯織の反応を見て、少し悪戯っぽく笑った。 灯織は投げてよこされた水着を改めてよく見た。 ビキニの上半分、色は濃い赤紫が基調の花柄水着。 その柄を見て灯織は思い出した。 その水着には見覚えが有ったのだ。 「あれ?・・コレって」 それは以前、夫と浜辺の巡回をしていた時に見つけた水着と同じ柄だった。そしてその柄は嘗て自分がアイドルとして活動していた時に身に付けた事のある水着と同じ柄でも有った。 「・・・懐かしいな・・」 灯織は不意に訪れた懐古の念に複雑な気持ちになった。 アイドルの仕事に明け暮れていた日々。 苦しくも楽しかったみんなとの思い出。 そんな日常が突然終わりを告げたあの日。 この島に来て何年目だろうか? 親や事務所のみんなは元気にしているだろうか? 真乃とめぐるは無事だっただろうか? プロデューサーはどうしているだろうか? 日本のみんなはもう私の事など忘れてしまっただろうか? もう私の事など忘れてくれただろうか? 灯織がそんな思いをぐるぐると巡らせていると、不意に大きな暖かい腕が灯織の身体を包んだ。 「え?あ、あなた?」 灯織は突然の抱擁に、面食らった表情を浮かべた。 しかし夫は何も言わぬまま、じっと灯織を抱き締め続けた。 灯織は夫の想いを感じ取り、自然と己の瞳が潤むのを感じた。 過去とはもう決別したつもりでも、思い出に触れる事は堪えがたいものがある。 今の生活も大切だが、あの日々も同じ位に大切だ。 「どちらをとるか?」など無意味な事は考えたくない。 秤にかけたところであの頃に戻る事は出来ない。 だからなるだけ思い出さないようにしてきた。 灯織は手に水着を握りしめたまま、夫の身体を一層強い力で抱きしめ、溢れ出る郷愁の念を抑え込んだ。 夫はそれを全て理解しているかのように、灯織の小さい身体を優しく抱きしめ返した。 ふたりは静かな浜辺で暫し無言のまま、 お互いの身体に寄り添い続けた。 「・・で、また着て欲しいの?」 灯織は顔を赤らめ恥ずかしそうに夫へ問うた。 夫の返答は聞くだけ無駄だった。 満面の笑みで灯織に微笑みかけ、はやくはやくと言わんばかりに催促してきた。夫たちは衣類という存在に慣れていないからか、そういう存在に性的嗜好のようなものを見出しているらしかった。偶の漂着物に衣類が有ると男女問わず皆興味を示し、それらを欲した。 灯織は皆とは逆で、何も纏わない生活に自由と解放感を見出してしまった今となっては、衣類など単なる無理に身体を縛り付ける拘束具としか思えなくなっていた。なので今更衣類の着用を求められても不快さを感じるのみだった。 「・・まあ、いいけど・・」 とはいえ愛する夫の求めに応じない筈もなく、灯織はゆっくりと慣れた手つきで水着を着始めた。 「やっぱりちょっと・・キツいかな・・」 灯織は着た水着を確認するように己を見回し、些か居心地が悪そうな表情を見せた。昔の体形なら緩い位だったが、母親となった今の乳房は苦しそうに締め上げられている。 「ど、どうかな?・・恥ずかしい・・」 怪訝な表情の灯織とは真逆に、夫の眼は興奮に満ち光っていた。 その眼は部族民の例に漏れず、灯織の着衣姿に性的興奮を覚えた獣のようだった。 夫の性的興奮を刺激した事で灯織は一層恥ずかしくなった。 「も、もういいよね?」 普段から裸の生活をしているくせに、衣類を着用する事が逆に恥ずかしいなどおかしな話だ。などと見当違いな事を考えながら慌てて水着を外そうとした。 すると灯織の乳首が内部から刺激を感じた。 今ではよく知ったアレがこみ上げてくる。 そう思ったのと同時に、灯織の水着がじわりと濡れ始めた。 灯織がそれに眼をやると、二つの乳房にそれぞれ大きな染みが出来ていたのだ。 「あ!」 灯織が咄嗟の声を上げる。 締め上げたせいなのか、夫の性的興奮に当てられたせいなのかは分からないが、灯織の乳首から母乳が溢れ出始めた。 慌てて両手を抑えて止めようとするが、母乳はお構いなしに溢れ出続けた。 母乳の分泌と同時に、灯織は下腹部が熱くなるのを感じ始めた。 これも灯織の良く知る感覚だった。 (私は夫が欲しくなっている) 灯織はぼたぼたと溢れ出る母乳を抑えながら、 恥ずかしそうに夫を見やった。 それと同時に灯織は夫にぐいと肩を押され砂浜に倒れ込んだ。 「きゃ!」 灯織は倒れたまま慌てて夫に向き直ろうとすると、 不意に乳首を貫くような快感を覚えた。 「ひう゛!!」 灯織は溜まらず声を上げながら、己の乳房を確認した。 そこには水着を押しのけ灯織の乳房にむしゃぶりつく夫の姿が有った。乳首を吸われる快感に呼応してもう片方の乳首から母乳が噴水のように噴き出す。 突如訪れためくるめく快感の波に、灯織はすっかり流されかかっていた。 夫のスイッチはもうオフには出來そうにない。 それは自分も同じだ。 ならばここは夫を満足させる事こそ妻の努め。 灯織は赤子のように乳房にむしゃぶりつく夫の頭を赤子をあやすようにそっと撫でた。 今の私は妻。 今の私は母。 己の努めからは逃げたりしない。 今は今。 過去は過去。 もう振り返らない。 灯織は見えない何かにそう誓い、ゆっくりと暮れ始めた浜辺で優しく夫の求めに応じ続けた。