【全体公開版】誰が初めてを奪ったのか
Added 2025-09-19 11:00:00 +0000 UTC【依頼内容】
ユラン×タラタネラのユラン脱童貞回
彼らの日常が垣間見えるショートストーリー
【本編】
これはおれが殺された事件の、少し前の話になる。
「ねえ、そろそろ押し倒さないの?」
おれがそう声をかけたのは、大きなリカオンの騎士だ。騎士服の胸部を窮屈そうに膨らませたタラタネラは、あからさまに目を泳がせて困ったように耳を伏せた。
「押し倒すって誰のことだい……?」
「誰ってユランだよ。童貞をもらうって息巻いてたでしょ」
「そ、そうだったね……そんなことも言ってた気がするな……」
あ、この人、禁欲状態が解除されたから今更冷静になってる。ユランに童貞が欲しいって迫ったこと、普通に恥ずかしがってるぞ。
あの時はおれと契約したことがバレたばかりで、それぞれ謹慎していたからエッチなことができなかったしね。このむっつりのリカオンは本人が思う以上に淫乱だから、相当たまっていたらしい。
「それに、アスモ……」おれの名前を小声で呼んで。「今はほら、仕事中だから、そういうのはね? 控えてくれると嬉しいなって……」
近衛の隊長を務めているタラタネラは周囲を伺いながら注意喚起をしてきた。確かに王宮の廊下でするには品のない会話かもしれないけど、今はおれらしかいないから大丈夫。
王宮の中でも限られた人しか入れない深部は閑散としている。悪魔による変装と暗示の事件があったせいで、人を入れないというのが一番の解決策になったからだ。だからこそ近衛であるタラタネラの仕事がより大事になったんだけどね。
まあ、タラタネラを操るのは人には不可能だから、ちょうどいいかも。オーラマスターまで行くと、防御力が高すぎて並大抵の魔法が効かないんだよ。
「でもユランのことだから、絶対覚えてるけど無視を貫いてる。タラタネラが押さないと、ユランはこの先ずっと童貞のままなんだよ?」
「私もできればほしいけど……ってそうじゃなくて、こんな話誰かに聞かれたら、私もユランも評判が下がるからさ……!」
慌てて周囲に視線を向けるけど、誰もいるわけがない。そもそもタラタネラが気配を読めない人がいたら、もうそれだけで一大事なんだよ。
魔王による悪魔召喚事件も終わり、おれは新たな契約として王太子スウェンガルといくつか取引をしている。魔法の改良とか、悪魔対策の協力とかもろもろでね。
悪魔の知恵っていうのは馬鹿にできないし、おれは魔界学園できちんと勉強しているから、結構役に立っていると自負しているよ。
本当はスウェンガルの精液が欲しかったんだけど、さすがに王族の精液は跡継ぎ問題をややこしくするので駄目だと二人に止められてしまった。
なのでいい感じの魔道具とか禁書とか、そこらへんで妥協している。難色を示す人は当然いたけど、待遇はそんなに悪くなかった。
聖獣イーラガッタのお墨付きは、おれの地位安定に寄与してくれている。おかげで魔界に帰る必要もなく、二人の傍で働ける。
今日はスウェンガルに報告することがあったので足を運んで、タラタネラに付き添ってもらった。さすがに悪魔単体で王太子と謁見するのは、いろんな意味で危ないからね。
「いいじゃん、どうせおれの姿は見えないようにしてるし。こうやって抱き着いても、誰にもばれないんだ」
いつも通りふよふよ浮かんでいるおれは、タラタネラのぶっとい首に抱き着いて頬ずりをかます。ユラン相手なら即座に引っぺがされるけれど、タラタネラなら大丈夫。
もし見えたなら、角と細い尻尾を持った明らかに悪魔の黒虎が巨乳のリカオンとべたべたしているのがバレてしまう。いつ誰かの前に姿を現してもいいようにしっかりと黒スーツを着てはいるけれど、見られないに越したことはない。
「だけど……いつまでも隠れる必要はないんじゃないかな。アスモだって、いろいろ成果を上げてるんだし」
「でもやっぱり悪魔がいるっていうのは、いらぬ緊張を振りまくだけだよ。おれとしても騒動を起こすのはめんどくさいし、あとタラタネラにこうして抱き着けるのも悪くないよ」
「ならいいんだけど。アスモはイーラガッタから祝福と研究室をもらい、スウェンガル様から魔法省に幹部の地位をもらっている。ようは、王宮と神殿の橋渡し役なんだ。しっかり働いているんだから、堂々としてもいいんだよ。私やユランが、誰にも文句は言わせないから」
「タラタネラ~!」
嬉しくなったので抱き着く……いやもう抱き着いてるや。タラタネラはおれに優しい、大事な人だ。他の誰に何を言われたって、二人が味方になってくれるならいいんだ。
「それで、今日はこれからどうするんだい? 私は部下の指導があるのだけど……」
「え、ユランの童貞を食べに行かないの?」
「行かないよ! 今は仕事中だって言っただろう!」
前回スウェンガルが悪魔に成り代わっていたこともあって、タラタネラは忙しい。本来なら近衛の責務を問われるところだけど、タラタネラと同格の騎士なんてそれこそユランくらいしかいないので、救出した功績と合わせて無罪という形になっていた。
おかげで部下の育成やら再発防止策の検討やらをするために、方々を駆けずり回っている。本人が頑強だから疲れなんて見せないけど、普通の人なら過労死してるんじゃないかな。おれも毎日回復の魔法をかけてるからね。
「でもタラタネラも働きすぎだよ。ユランの事言えないくらい、君も仕事中毒だって。少しは休みなよ」
「うーん、でも王族の方々を護衛するためのスケジュール調整もまだだし、新人を入隊させるための審査もしないといけないんだ。魔王は輪廻に帰ったけど、反乱分子に悪魔召喚の方法が広まったのは変わりないから、まだ気を抜けないんだよ」
「それはわかってるけどさあ……」
「悪魔の成り代わりを見抜けなかった私をかばってくれたスウェンガル様のためにも、これ以上の失敗は許されない。私なら大丈夫だよ。アスモから魔法をもらってるしね。心配してくれてありがとう」
ちょっと前まで怪我をしたユランの代わりに悪魔討伐に明け暮れて、さらにベルゼと戦ったのにも関わらず、タラタネラは十分な休息をとったとは言えない状態だ。おれは普通に心配だよ。
ユランもユランで、悪魔召喚の方法を手に入れた反乱分子が悪さをする前に検挙する必要があるからって、治安維持に忙しそうだしさ。ちょっとは自分を労わってほしいよね。
「たまには休もうよ、趣味でもしてさ」
「趣味……悪いけど、私はこれといった趣味がなくて……平民の身でここまで来るのに、死に物狂いだったから……」
「そっか……だからエッチなことしか趣味がないんだね……」
「それは別に趣味じゃないからね!」
二人に付きまとっていてうすうす感づいていたことなんだけど、多分ユランにも趣味ってものがないと思う。
タラタネラは境遇を考えれば納得なんだけど、ユランはただ単に責務に明け暮れて趣味を作らなかっただけだよ絶対。だからこそ人の身でこんなに強くなれたんだろうけどさ。
こうなったら無理矢理にでも休ませようと、リカオンを引っ張って廊下から中庭へと連れ出してベンチに座らせる。部下の指導は顔を出すだけでいいんだから、ちょっとくらい休憩してもいいはずだ。
「何か飲む? 魔法で何でも取り出せるよ。もしものために、いろんなものを保管してるからね」
「それじゃあ何か食べるものもあるかな? 実をいうと、お昼もあんまり取ってなくて……」
「ええ……食事はちゃんとしないと駄目だって!」
「アスモがスウェンガル様と謁見する時間を作ろうと思ったら、ここしかなかったからさ……」
「無理に詰めなくてもいいよ。おれはいつでもいいんだから」
なんだかんだタラタネラもユランと似たような真面目さなんだよなあ。勤勉じゃなかったら近衛とか絶対無理だろうし、わからなくもないけど。
しょうがないので郊外の屋敷にいるジギタリスに連絡を入れて、料理人に作ってもらうことにした。それを転移で運んで、何が何でも食事をとらせよう。屋敷にはおれの研究室があることから、イーラガッタからも料理は好きにしていいって言われてるんだ。
もちろん対価はちゃんと払ってるよ。おれは公平を尊ぶ悪魔だからね。
本来王宮は守りが硬くて空間転移系の魔法は阻害されてるんだけど、悪魔からしたらちょっと練度が足りてない。おれが補強してあげたけど、自分の魔法だからどうでもなる。
それからベンチの前にテーブルを呼び出してグラスに冷たい水を注ぐと、タラタネラが苦笑した。
「そこまで本格的にしなくても、つまめるものさえあればいいのに」
「いいから。ただでさえ忙しいんだから、食事はちゃんとしなさい」
「まさか悪魔に正論で諭されるとは、昔の私なら全然想像もできなかっただろうなあ」
リカオンは嬉しそうに顔をほころばせて、一言お礼を述べてから水をあおる。
人気がないとはいえ中庭は細部まで手入れされている。木漏れ日の下には涼風が吹き、褐色の毛皮がたなびいていた。タラタネラは肩の力を抜いて、風を感じながら気持ちよさそうに目を閉じた。
「悪い気分じゃないね。王宮でこんなにリラックスできるなんて、アスモのおかげかな」
「タラタネラっていつも肩ひじ張ってるもんね」
「そうじゃないと舐められるんだ。特に私はね」
常に人より頑張らないといけないなんて大変そうだ。だから、なおのことちゃんと休んでほしいんだけどさ。料理が来るまで暇なので、おれも隣に座っておしゃべりでもしようかな。
「息抜きは大事だよ。趣味なら今から探してもいいじゃん。おいしいものを食べるとか、遊ぶとか、いろいろできることあるよ」
「おいしいものは……確かに今は食べれてるね、けど趣味にできるかはちょっと、うーん……遊ぼうにも友人なんてそれこそ君らくらいだし……」
「んー、逆にさ、なんでタラタネラはそんなに一生懸命出世しようと思ったの? 良い暮らしがしたかったとかじゃなく?」
「あー……それは、ちょっと……恥ずかしい話で……」
今更おれらの間に恥ずかしいも何もないと思うのだけど、タラタネラは歯切れが悪い。本当に言いづらそうだ。
別に無理して聞きたいわけじゃないので流そうかな。って口を開く前に、硬い声音が割り込んできた。
「近衛隊長になる前のタラタネラは、かなり尖っていたからな」
颯爽と現れたのは金色の犬。全身鋼のような筋肉を膨らませた騎士の中の騎士、ユランが毅然と近づいてきた。
「ユラン、どうしてこんなところに?」
「スウェンガル様に報告することがあったんだ。そしたらお前らも来ていたと聞いたから、近衛の訓練場に向かえば顔を見れると思ってな」
垂れた耳を持つ美丈夫は冷たい視線をこちらに向けるが、木漏れ日の下だと本当に映える。金の毛皮が揺れるたびに、輝きに目を奪われてしまう。
「つまり、おれらに会いに来てくれたってこと?」
「どうせアスモのことだから、タラタネラにまとわりついて迷惑をかけているに決まってる。俺はもう王宮を出るから、ついでにこいつを引き取るぞ」
「失礼だって! おれは迷惑なんてかけてないから!」
そうだよね、あのユランが友人の顔をわざわざ見に来るわけないか。
「中庭を私物化しといてか?」
「それはタラタネラがお昼もまともに食べてないっていうからだよ。最近忙しいんだから、生活はしっかりしないとさ」
「毎度のことながら、悪魔とは思えない世話焼きだな。俺らは一食抜いた程度じゃ死なん」
「そういう問題じゃないって。まさかユランも食べてないって言うんじゃないよね……?」
「食事なんぞ、移動中に軽食をつまめば事足りる。これから王宮の外で適当に何か買うつもりだ」
「ちなみにこれからの予定は?」
「王都の警備をする奴らから悪魔の目撃情報がきた。これから調査に向かい、場合によっては戦闘する。その際に部下を数人連れて、悪魔に対しての実戦を経験させる。悪魔に対抗できるのは俺らくらいだから、数を増やすのは急務だ」
「はい駄目。部下を守りながらだと余計に消耗するのがわかり切ってるって。ここに座って、まずは腹ごしらえ。どうせユランのことだから、時間に余裕はあるでしょ」
「だからといって、悠長に食事をしてはもったいないだろうが」
「おれを引き取るってことは保険に使いたいってことでしょ。手伝ってもいいけど、おれはタラタネラに食事をとらせるまで絶対ここを動かないからね」
「はあ……仕方ない奴だ」
ユランがため息を吐いてからベンチに腰掛けると、タラタネラは楽しそうに笑いかけてきた。
「君もなんだかんだでアスモに甘いよね」
「無理に逆らう理由もないだけだ。集合時間まで余裕があるのは本当だからな」
こうなったら気分は執事だ。ユランの分の水もサーブして、ジギタリスに料理の追加を注文。熊は使い走りにさせられて不満そうだったけど、後でおっぱいをしゃぶらせてあげるから許してほしい。
そうして料理がテーブルに並べば、ピクニックみたいだ。どうせならと魔法で視覚阻害をしてあげて、邪魔が入らないようにしよう。
「ありがとうアスモ。それじゃあいただこうか」
「いただきます」
二人は礼儀作法もしっかりしているので、食べる姿が綺麗だ。ナフキンを付けた姿はまごうことなき上流階級の品格を持っている。
持ってきた料理はしっかりお腹が満たされる量で、ちゃんとしたコースになっていた。明らかに軽食じゃないんだけど、よくこんなのすぐに用意できたね。プロってすごいや。
おれは執事のまねごとをしながら、さっきから気になっていたことを聞いてみることにした。
「それで、タラタネラがとがってたってなに?」
「覚えてたんだね……」
「そりゃもう。気になってしょうがなかったから」
「ユラン……余計なことを……」
恨みがましい目を隣に向けるが、金色はどこ吹く風だ。
「隠すことじゃないだろう。昔からこいつは自分の才能に絶対の自信を持っていた。実際その強さは騎士の中で飛びぬけている」
その若さでオーラマスターだもんね。うぬぼれるのもしょうがないよ。
「うぬぼれ……うぅ、耳が痛い……」
「だから生まれのせいで出世できないことにいつもいらだっていて、俺も何度愚痴を聞かされてきたことか」
「それについては申し訳ないと思ってるよ……あの頃はいつも周りから陰口ばかりで本当に気が立ってて……」
「スウェンガル様がお前を近衛隊長に抜擢して、少しは落ち着いたがな。とはいえ、婚約者から振られた時とか、それはもうひどい有様でな……」
「もういい……もういいから……」
すごい、タラタネラのでかい体がどんどん小さくなっていく。おれが召喚される前って、本当に大変だったんだね。
「卑しい血筋の自分は今後一生もてないんだーとか叫びながら酔いつぶれてたぞ、俺の家で」
「本当にやめて……お願いします……」
「大丈夫。今はユランだけじゃなくて、おれもいるから。ずっと一緒だよ」
「アスモ~」
肩を叩いて慰めたらむぎゅうと抱きしめられた。大きな胸や太い腕で形作られたリカオンの肉感は、いつ味わっても安心感と興奮をくれるから大好き。
最初会った時もタラタネラは剣技以外の自信がなかった。そう思うと、今はかなり前向きになったよ。
「よかったじゃないか。これで酔っ払いに絡まれなくて済む」
上品な手つきで料理を食べながら、ユランがしれっと言い放つ。本当にいい性格してるよ。横でむっとしてるタラタネラの視線なんてまったく気にしてないし。
でもそう言われれば、タラタネラがお酒を飲んでるところ、全然見たことない。
「あまり飲まないからね。付き合いで飲むか、やけ酒するかくらいしか……」
「俺も酒は好かん。自分の能力を低下させて何が楽しいのか。時間の無駄だ」
……となるとやっぱり、話は趣味に戻るんだよね。
「一応聞くけど、ユランって趣味とかある?」
「ない。そんなことをしている暇もないからな。俺もゆくゆくはオリーブ家を継ぐ身だ、領地運営に関しても勉強を進めておく必要がある」
「うわ……今でさえ忙しいのに、さらに勉強するの……。人生楽しい?」
「昔よりはましだ」
「おれがいるから?」
「黙れ。うぬぼれるな。殺すぞ」
「照れ隠しがナイフっ!」
まあいつものユランだけどさ。
でもやっぱりというか案の定、この二人は自己鍛錬と仕事だけで生きているらしい。だからこその強さなのはわかるけど、もうちょっと人生を楽しんでほしい。
「……昔から、あの阿呆は俺を目の敵にしていたからな。隙を見せるのは得策ではなかった」
「それは……」
あの父親のことを思い出すと、納得せざるを得ないなあ。カラレスは何かあるたびにユランのこと蹴落とそうとしてたし。
「でも、趣味はあった方が良いって。一度きりの人生、もっと楽しまないと」
「うーん、悪魔に言われる正論じゃないんだよねえ。とは言ったところで、これといって……」
「興味ないな」
て、手ごわい……ユランなんか話を聞いてもくれない。
「じゃあ二人は悪魔になったら何をするつもり?」
「そうだねえ……私はのんびりしたいな。今はほら、働きづめだから」
「魔法の習得だな。今はオーラの鍛錬に忙しいが、悪魔になるころには少しは様になっているだろう」
「あ、それはいいね。私もアスモやイーラガッタみたいに颯爽と魔法を使ってみたいよ。学ぶ時間はたくさんあるだろうしね」
もうそれ趣味が勉強なんだわ。しかも、マスターのユランが様になってるくらいって、そこまでの力を欲するのは魔界議席狙いなのか疑うよ。最終的にどこまで強くなるんだろうな、この二人……。
「悪魔になったらアスモに魔法を教えてもらおうかな」
「だが、ずっとこっちの世界にいたら魔界の発展に置いていかれてるかもしれんぞ」
「それはないよ! おれだって研究は怠ってないし、たまに帰って父さん母さんから手ほどきを受けてるから!」
大事な人を守るためにも、おれも頑張ってるんだ。前の魔王騒動ではあんまり役に立てなかったしね。
悪魔としてはまだまだ若輩だけど、魔王に褒められるくらいには魔法が得意だ。いくら二人がオーラの天才だからって、魔法で負けたくはない。
でもそれはそれとして、二人の教師になるのはいいかも。父さんに頼んで、魔界学園の教室を借りよう。
なんて話しているうちに、ユランがフォークを置いていた。
「ご馳走様。金は後で払う。今は仕事に向かうのが先だ」
「おいしかったよ。イーラガッタのところの料理人はいつもいい仕事をしてくれるね」
よし、ちゃんと食事を取ったことを確認して、おれはテーブルを片付ける。
するとユランはそそくさと立ち上がり、視線だけで行こうと発破をかけてきた。休憩する気がなさすぎる。いくらオーラに熟達していても精神的な疲労は……いや、ユランはメンタルも全然大丈夫そうだけど。
「わかったわかった、行きますー。じゃあねタラタネラ。そっちもお仕事頑張ってねー」
「ありがとうアスモ。そうだ、今夜はどっちに行けばいいかな?」
「今夜は……」
おれの研究室があるイーラガッタの屋敷か、入り浸っているユランの屋敷か。タラタネラはセックスのお誘いもこんな感じで婉曲的なんだ。自分から言ってくるくらいなのにね。
でもタラタネラにはそろそろユランの童貞を……あ。どうしようかと考えていたら、すごくいいアイデアが浮かんできた。
「ねえユラン、今日は一緒に寝ようよ。イーラガッタからもらった部屋でさ」
「なんだ急に。もう契約内容が変わったのだから、射精五回分もないだろうが」
「それはそれだよ。今日は三人で寝たいんだ。タラタネラもそれでいいよね?」
「もちろん、ユランもたまには夜にぐっすり休むべきだよ」
「俺はいつ悪魔の目撃情報があるかわからんから、自分の部屋で寝る。盛りたいのなら二人でやれ」
ユランはいつもつれない。どんどん淫乱になるタラタネラを見ているから、自分が防波堤にならないとって思ってそうなんだよね。
だけど今回ばかりはおれも本気だ。
「お願い。緊急招集が来たらすぐに諦めるから! それに寝るだけ! 一緒に寝るだけだよ!」
「え?!」
セックス無しの発言にタラタネラがこっちを二度見したけど、まあ任せてよ。
普段は取り付く島もないユランだけど、こんなに頼むとさすがに折れる。根はやさしいからね。セックスしないという言葉もあって、しょうがないとため息をつく。
「やったりはしないのか?」
「おれはしないよ! 誓うから!」
「そうか……それならいい」
「ええ……」
タラタネラ、そんなあからさまに残念そうな声を出すから、君はドスケベなんだよ。だけど踏み込んではこなくて、ちらちらとうかがって期待をにじませている。
ふふふ、だけど3Pがしたいのはおれもなんだ。
その仕込みをさっそく始めようじゃないか。今のおれ、すごく悪魔っぽいよね。
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「えっと……ここは?」
「見たことない部屋だな」
二人が目覚めたのは見知らぬ部屋。イーラガッタの屋敷とは全然違う内装に、首をひねっている。リカオンと金犬は薄い寝間着姿で、昼間は分厚い騎士服で隠れていた肉体の隆起が鮮明だ。
騎士服越しでも大きいと思っていたけど、やっぱり寝間着だとさらに大きく見えるよね。特にタラタネラのおっぱい。
「確か、アスモと三人で同じベッドで寝たんだよね」
「となると十中八九あの馬鹿のせいだな。やけに頼み込んでくると思ったら、こんなふざけたことを企んでいたのか」
ユランは白けた視線で周囲を見渡してから、付き合いきれないと言わんばかりにまたもベッドにもぐりこんだ。さすがにそれはひどくないかな!
「俺は寝る。どうせ朝には戻っているだろう。無断欠勤でもさせようものならどうなるのか、あいつが知らないわけがない」
「私はせっかくだし、調べてみようかな。アスモは意味もなくこんなことをしないからね」
「好きにしろ」
やっぱりこういう時はタラタネラだね。ノリの良さが全然違う。
結構広い部屋には本とかお菓子とか、後ビリヤードとかのスポーツも用意した。魔界の実家で埃をかぶっていたいろんなものを持ってきたよ、二人に楽しんでもらうためにね。
「なるほどね……どうやらアスモは、私たちにここで遊んでほしいみたいだよ」
「はあ、趣味の話をしていたと思ったらこうなるのか。つくづくお節介だな」
「それがアスモらしいけどね。どうせなら遊んでみるかい?」
「睡眠時間を削ってすることとは思えんがな」
よし、ここだ。おれは魔法を起動して、部屋に声を響かせる。
「それなら大丈夫! ここは時間の流れが遅いから、外だとまだ深夜だよ!」
「アスモ? どこにいるんだい?」
「おれは部屋の外で魔法を維持してるんだ。さすがに異空間に部屋を作るのは大仕事だからさ」
「……なんか思ったより話がでかくないかい?」
「しょうがないでしょ、こうでもしないと二人はゆっくりできないんだから!」
それにおれの力だけじゃ無理なので、イーラガッタに協力してもらった。時間の流れの違う異空間に部屋を作るなんて、普通の悪魔じゃ絶対不可能だよ。おれが魔界学園の禁書をたくさん読みこんでいたおかげだね。
……まあそれでもかなりきついんだけど。おれでも朝まで保たせられないなあ。
「つまりだ」ユランがしぶしぶ起き上がって。「お前は俺らに何をさせたいんだ」
「それはもちろん……セックスだよ!」
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