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【全体公開版】花婿の資格

【依頼内容】

世界観:ヒーローもの

内容:求婚の能力を持つヴィランによって花嫁化(求婚したヴィランに添い遂げ、子を宿したくなる状態)していく

希望:ヒーローは肉体的精神的な陵辱行為を受けてください ベテランの竜人ヒーローを中心に物語を進めてほしいです 入れていただきたい属性はカント、クリチンポです。


【本編】


 人生はままならない。そんなありきたりな言葉はすでに使い古されすぎていて、耳から入っても逆方向に抜けていくだけの雑音でしかなかった。

 だけど今、こんな状況になってしまったからには、その言葉を胸に留めておくべきだったと後悔しかしていない。


「ほら、休むな。後三十分走れ。そんな不摂生な体では長生きできんぞ。俺が面倒を見るからには、QOLもしっかり向上させてやる」


 一言も頼んでいない。全く。これっぽっちも。

 ランニングマシーンで拷問のような運動を強いられているおれは、今にも死にそうな顔で世の中の不条理を嘆いていた。狸のやぼったい体はフォームが崩れたゾンビのようで、姿勢を維持する能力は筋肉の反乱によって機能不全を起こしていた。

 大体、不摂生な体とか言うが、おれは普通体形だ。確かに少し腹は出ているかもしれないが、あくまで普通の範疇だと自負している。

 

「し、死ぬ……もう、無理だってぇ……」

「大丈夫だ。この程度なら人は死なん」


 だが、確かに隣の赤竜に比べたら、おれなんてだらしがないの一言で片づけられてしまうだろう。

 全身の筋肉という筋肉をパンプアップさせた肉体は、立っているだけで格の違いを知らしめるには十分すぎる。首の太さから胸の豊満さ、それに電柱かと思うほど太い脚を支えるでっけえ尻。すべてがおれを一回り以上大きくさせた存在だ。

 自宅だからラフな格好をしているせいで、瑞々しい雄々しさをまるで隠せていない。赤い鱗はおれにとって淫靡な知恵の実そのもので、今すぐにでもかぶりつきたくなる魅力に満ちていた。


「よし、あと十分。その調子だ」

「あの、もう……速度、落としても……? せめて、傾斜を下げても……」

「駄目だ。五分後からウォーキングでクールタイムを入れてやるから、あと少し気張れ」

「お、鬼……だ……」

「何を言っている。俺はヒーローだぞ、そして……」


 巷ではガトリアングとして有名なヒーローは、誇るように口角を上げる。

 いつだって自信満々で、臆せずひるまず、最前線で拳を振るう肉体派のこいつは、恥じるということを知らない。


 だから次の言葉を放つ時だって、いつも通りに勝気なもので。


「お前のお嫁さんだ♡」


 ああまったく、どうしてこうなったんだ……。


****


 おれの能力は『相手を花嫁にする』という一風変わったものだ。

 指輪を渡して求婚すると、された相手はおれを旦那だと慕うようになる。いわゆる洗脳型に属している。

 渡した指輪の価値に応じて能力が強まるという何とも使い勝手の悪さが玉に瑕だが、一度決まれば効果は絶大だ。

 なにせ花婿は人生の伴侶。それを強制的に決めるのだから、字面だけでも凶悪さがわかるだろう。


 実際おれはこの能力に目覚めてから、クズ同然の生活をしてきた。能力で言いなりにした相手に寄生し、効果が切れたら離婚して次の獲物を探す。

 おかげでバツがいくつ付いたのかもわからないが、この能力があれば今後も困ることはない。


 ……なんて思っていたのに。


「よくやった。これで今日のメニューは終了だ」

「ぜえ……はぁ……」


 偉そうな竜がふんぞり返って褒めてくれるが、ランニングマシーンのサイドバーに寄りかかっているおれはそれどころではない。全身が悲鳴を上げていて、立っているのがやっと、いやもう無理だ。

 ベルトの上でふらりと傾いだ気がするが、自重を支える力すらない。このまま眠ったらどれだけ楽だろうと思い、すべてを投げ出そうとしたのだが。


「おっと、全身全霊を尽くしたのだな。いいことだ」


 傍で見ていた筋肉に抱きしめられて事なきを得た。汗まみれの毛皮を厭うこともなく、ぶっとくて逞しい腕でおれを支えてくれる。


「お前は想像以上にやる気がある。この調子でいけばきっとすぐ更生するだろう」

「別に……更生、したいわけじゃ、ないんだが……」

「だったら収容所に行くか? ヒーローを洗脳した犯罪者として俺が通報すれば、お前はすぐにでも逮捕だ。そしたら今以上に厳しい生活が待っているだろうな」

「それは、嫌だ……」

「なら俺と暮らせ。お前は俺をお嫁さんにした責任を取る。俺はそんなお前を更生させて社会復帰させる。そうすれば俺らは晴れて公認夫婦だ」


 なんでおれ、ヒーローに脅されてるんだろう……いやおれが悪いんだけどさ……。


「荒加々良 タライ(あらかがら たらい)、これまでに何度も能力による洗脳で金銭をむしり取り、もとい生活援助をさせてきた小物のヴィラン。ヒーロー本部としては、そこまで注視はしてないものの、能力の悪用ということでリストには入っていた」

「脅すなって……わかってるよ、お前が過去の被害者全員に頭を下げて金銭の補填をしたことも、本部に啖呵切っておれを引き取ったことも、全部わかってますぅ……」

「それならいい。俺らの明るい未来のためにも、お前には更生してまっとうになってもらわないとな!」


 溌溂に言い切ってからおれを抱く腕に力を籠め、か弱いヴィランを筋肉で包みこむ。そうするとこいつの匂いが鼻孔をくすぐって、ドキドキしてしまう。運動後だから余計に。


 こいつはおれの能力にやられた瞬間に、お嫁さんになると宣言した。

 それはいいんだ。そういう能力だから。だけど問題はその後で……こいつは速攻で俺の能力を解除して、なぜか自分が洗脳された自覚を持ちながら、おれに対して便宜を図り始めたんだ。

 被害者たちの救済と、本部への陳情。おかげでおれはこいつの家に軟禁状態。規則正しい生活と拷問みたいな運動によって、たるんだ根性を叩き直されている。


「なんで……洗脳されたってわかってて、お嫁さんになりたがるんだよ……」

「前も言っただろう。この状態を俺は悪いとは思わない。いいじゃないかお嫁さん。俺は今幸せだぞ」

「いや、だから……それは能力のせいだって……」

「だったらお前は俺のことが嫌いなのか?」


 なんて言われると答えに窮する。おれだって能力で好きな雄を食えるとはいえ、わざわざ嫌いなもの選んで食べたりはしない。

 ヒーローガトリアングは凛々しい竜の顔に膨れ上がった肉体を持つ雄性の塊だ。肩幅なんて画像加工かと思うほど盛ってるし、相対的に腰が括れて見えるくせに実際はおれの倍ほど胴が太い。

 こうして抱えられている間も、腕のたくましさやら顔の精悍さやらに好感度が勝手に上がるくらい、こいつはいい男だ。


「嫌いじゃ、ねえけど……」


 嘘でも言えるわけがない。だったらわざわざ結婚相手に選ばねえんだわ。こちとら能力で好き勝手に結婚してきた男だぞ。


「ならいい。相思相愛だとするなら、何も問題などないだろう」

「わっかんねえ……なんでお前、おれのこと好きなんだよ……」

「しつこい男だなお前は。何度聞けば気が済むんだ。俺はお前のプロポーズを受けてから考えて、こうして好きになったのだ。これ以上理由がいるか? この指輪がある限り、俺たちは夫婦だろう?」


 おれを抱える手には、能力を使用するために渡した結婚指輪が控えめに輝いている。前の嫁に追い出された時から苦労して買った大事な指輪だ。これでヒーローをはめるんだと下卑た妄想をしていたが、こんな結果になってしまった。なんでだよ。


 トップヒーローからしたらたいした値段じゃねえだろうに、こいつは大事につけてくれている。仕事の時は壊したくないからと外し、家にいるときは律儀につける。その仕草は完全に新婚のそれだ。

 あろうことか同じ指輪をおれに買い与え、お揃いにしてきた。今おれの指にある指輪を能力の触媒ではなく、本物の結婚指輪にしちまったんだ。


 でもこいつにかけた能力はもう解けてるんだよな……まじで意味がわからない。


「やはり結婚式を挙げるべきだったか。お前が嫌がるものだから籍だけにしたが、退路を塞ぐという意味でも形に残すべきだったかもしれん」

「だからなんでお前はおれを脅すんだよ……」

「ふむ、お前もおいおい知るだろうが、俺は嫉妬深い。俺の夫となったからには、貞淑を強要する。俺以外を抱くなど、断じて許さんからな」

「は、はあ……?」


 あのヒーローガトリアングが? 肉弾戦型で誰よりも前に出て、敵を薙ぎ払う豪快なヒーローが嫉妬深い? あまりに想像できなかったので、思わず呆けた声が出てしまった。

 でも実際今、軟禁されてるみたいなもんだからな……。おれの所業を考えたら観察処分にしてくれただけでも御の字ではあるんだが、結果としてさ。


 トップヒーローは懐も熱々なようで、今いるここはこいつ専用のトレーニングルームだ。ヒーロー本部に備え付けられている高層ビルの上層階、まさに選ばれし者しか住めない家はおれの想像をはるかに上回る生活水準だった。

 夜景が綺麗すぎる……ヒーローって思ったよりいい生活してるんだな。


「今までは家などセキュリティがあればどうでもよかったが、新婚になるのだからある程度の広さは必要だろう。やはりマイホームの問題は早急に解決すべきだ」

「はあ?! ってことはおれのために引っ越したのか?!」

「ああ。お前の経過観察を進言すると同時に、転居手続きを出しておいた。とはいうものの、下層階から上がっただけだからそこまで手間ではなかったぞ。俺はもともと、ここを使えるだけの功績は上げている」

「ひ、ひえ……」


 なんか、おれ以上に結婚する気満々じゃね? ガチの気迫を感じて、思わず喉がひきつる。本気でおれの嫁になるつもりだこいつ……。

 そんなおれのドン引きを見て何を勘違いしたのか、雄々しい竜は憮然とため息を吐き出した。


「はあ、結婚を申し込んだのはお前だろうに。なぜ妻たる俺を信じられんのか」


 それからグローブみたいな手がおれの腕を引っ張り、自身の短パンの中へと導いてくる。内皮のしっとりと艶やかな肌触りを下っていけば、そこにあるのは縦に割れた穴。本来なら男性器を納めていたはずのそこは、いつの間にかぬるりと湿っている。

 世間では豪快なヒーローとして知られる竜は、夫に性的アピールをしながらなお尊大だった。


「お前のために、ここを女性器にしてやったのだ。その意を少しは汲んでくれねば、俺とて不貞腐れるぞ」


 そう、全身筋肉の塊で雄の極致のようなヒーロー、ガトリアングにはちんぽがない。

 正確に言えばものすごく矮小化されている。大きいクリトリスのようなものが、割れ目に収まっているだけ。

 こいつの能力は『自身の肉体を改造する』というもので、妻になったからと自らの性別を変えたのだ。いや、戸籍上は雄だし、見た目も完全に雄なんだけど、孕めるようになってる。

 ちなみに、おれの能力が速攻解除されたのもこれのせいだ。おれの能力は永続するものじゃないから、こいつは代謝をあげることで暗示とかそういう類も全部薄めることができるらしい。厳密には代謝というか本人限定時間加速とかなんとからしいが。

 それを知らずにプロポーズをしたおれは見事、かごの中の狸になったわけだ。


「お前の能力は相手を花嫁にし、子どもを宿したくなるよう洗脳するものらしいな。今までは相手が男ばかりだったから叶わなかったが、俺ならできる」

「お、お前、本気……か?」

「冗談で自分のちんぽを無くす馬鹿がどこにいる。一言くれれば、一発で着床させてやろう」


 ぐっと腕を寄せられると、おれの指がこいつのマンコに食い込んでいく。この中を想像するとちんぽが立つ。いまだ清純を保っているタテワレは、ヒーローにあるまじき淫乱さでおれを誘っていた。


「だが、それも経過観察期間が終わってからだ。お前の本気と決意を本部の奴らにも示せ。そうすれば俺の子宮で子作りさせてやる。何人だろうと、俺が愛情をもって育ててやるとも」


 男であることを止めても、ガトリアングから凛々しさは失われていない。ただ真剣な目で、おれの更生を求め続けていた。

 今までおれの能力の影響下にあったやつらは、何も言わなくても媚びを売って股を開いてきた。だけどこいつは違う。妻としての自覚を持ちながら、おれを決して甘やかさない。


「気張れよタライ。あの時俺にしたプロポーズが嘘ではないと証明してみせろ。お前はこのヒーローガトリアングを娶ったのだ、それ相応の覚悟を胸に生きていけ」


 気高いヒーローの目はあまりにまぶしすぎて、おれは直視できない。

 こいつの中でおれのどんなところが評価されたのか知らないが、本気だけは十二分に伝わってくる。能力をかけた本人であるおれがビビるくらい、こいつは大まじめにお嫁さんになっていた。


 でも、もしここで頷いておけば、真面目に心を入れ替えていたら。


 ――――こんなことにはなっていなかったはずなのに。


****


 薄暗い部屋に赤い体躯は良く目立つ。光の差さない埃っぽい場所は、ヒーローの敗北を匂わせるにはうってつけだろう。


「これでいいか? わかったら素早くタライを解放しろ」


 頼みの綱である通信機を投げ捨て、竜は吐き捨てる。射殺さんばかりの眼光を湛えた相貌は怖くも凛々しく、惚れ惚れするくらいにかっこいい。

 全身を覆う黒を基調としたスーツには筋肉の隆起が鮮明に浮かんでおり、起伏の強さが格の違いを知らしめる。肉体改造による負荷を耐える伸縮自在の素材でできていると聞いていたが、そのせいで雄の強さを見せびらかしているかのようだ。


 ガトリアングが対峙するのは複数のヴィラン、おれを人質に投降を呼びかけるくずの集団だ。その中でリーダー格らしきタンクトップ姿のサメ男が、おれの肩を抱き寄せて耳障りな声で笑いだす。


「おー本当にこいつの能力にかかっちまってんだな。あのガトリアングが嫁気取りかよ。こいつはおもしれえ」

「気取りではない。俺は事実タライのお嫁さんだ。籍も入れている。勘違いするな」


 おれの嫁であることをむしろ誇るように断言して、竜は得意気だ。

 実際は能力なんてとうの昔に解けているのだけど、おれのことを知ってるやつからすると、そうとしか思えないよなあ。あのガトリアングがまさか自分から進んで嫁をやってるなんて、自分でもいまだに疑ってる。


「アブク」それでも一応友人のサメに口をとがらせて。「あんまりガトリアングを舐めない方が良い。っていうか、久しぶりに呼び出した友人にする態度じゃねえだろ」

「あははっ! 悪い悪い、あのガトリアングを出し抜けるって考えたら、お前を人質にするのが手っ取り早いと思ってな。あいつには収入源をいくつか潰されてんだ、お礼してやらねえと気が済まねえのさ」


 気軽な口調でも、おれを解放する気はないらしい。ヴィランの友人なんてこんなものだと知ってたはずなんだが、飲もうなんて誘いに乗ったおれが悪い。軟禁生活に嫌気がさして、息抜きのつもりで来ちまったんだよなあ。

 監視の目をかいくぐってわざわざ来たってのにさ。一応友人だから捕まった時に売らなかったが、こんなことになるのならとっととアジトの場所くらい吐けばよかった。


「悪い、ガトリアング」

「気にするな。ヒーローの夫というものは、常に危険と隣り合わせだ。それを守るのもまた、妻である俺の務めでもある」

「それは妻関係ねえだろ……」

 

 とはいえ、おれを人質に取られてガトリアングは手が出せねえし、応援を呼ぼうにも通信機はさっき投げ捨てた。誰にも言わずに来いなんて脅迫状、こいつが真に受けているとは思えねえけど……いや、どうだろうな。律儀に従ってても驚かねえわ。


 つまり、ヒーローガトリアングは絶体絶命というわけだ。


「アブク、今ならまだ間に合うぞ。とっとと解放しろ」

「やなこった。こいつを捕まえて売っぱらえば、当分遊んで暮らせるぜ。ヒーロー、それもトップクラスのベテランなんだ、どんな組織も目の色変えて買ってくれるに決まってる」

「相変わらずせこい小悪党やってんな」

「お前ほどじゃねえよ。誰であれ洗脳で自由にできるくせに、結婚生活にこだわる変態が。だからお前の能力は手籠めにしたやつを骨の髄までむしゃぶり尽くすためにあるんだって、俺は何度も言ってんだろ」

「趣味じゃねえんだよ。大体、そんな大っぴらにしたらすぐ捕まるに決まってる」

「だからどこかの組織に入れって言ってんのによ。まあいいさ、ヒーローに捕まったんなら、もう年貢の納め時だろ。俺と一緒に来いよ、ガトリアングを手土産にすれば、いい組織に入れてもらおうことだって出来ちまうんだぜ」


 サメは凶悪な笑みを浮かべて、おれにすり寄ってくる。ちんけな小悪党であるこいつからしたら、ベテランヒーローを嫁にしたおれはまさに金の成る木でしかねえ。

 鍛えた体は嫌いじゃねえが、品性のなさは論外だ。一緒に暮らせる気がしねえし、能力を使う価値もない。それにこいつはおれの嫁にならないと思い込んでいるからこそ、こんな態度が取れている。


「貴様っ! 俺の前で夫を誘惑するとはいい度胸だな! どうやらよほど死にたいと見える」

「明らかに怒る所はそこじゃねえだろ……」


 竜から怒りの気配を幻視できるほど、目がマジだ。誰が見たって能力の影響下だと思うだろうよ。


「あははは! ガトリアングもこうなりゃ形無しだな。んで、どうすんだタライ。このままヒーローに軟禁された生活を送るか、俺と一緒にヴィランで華々しく返り咲くか」

「いや、その話なら前も断ってるだろ。お前とヴィランする気はねえって」


 アブクは普通に付き合う分には気の良い奴だし、嫌いじゃねえけど、ヴィランとしてはかなり格下だ。能力はまあまあ強いが、街にはびこるチンピラから抜け出せない。少なくともガトリアングと正面から戦ったら速攻で負ける。


「つれねえやつ。ったく、よくこんな状況で落ち着いてんな。ヒーローが助けに来てくれるとか信じちまってるのかよ。お前を痛い目に合わせて、無理矢理引きずってもいいんだぜ?」


 そう言いながら、アブクは大きな手でおれの喉をつかみ、ぎりぎりと締め上げてきた。おれの足が浮き、息苦しさにもがきだす。アブクとはそこそこ付き合いがあるが、こんなことをされるとは思わなかった。


「が、は……!」

「悪いが、今回ばかりは本気だ。お前のことは嫌いじゃねえが、俺だって部下の面倒をみねえといけないからな。こいつに収入源を潰されちまったせいで、なりふり構っていられねえんだ」


 サメの冷たい視線を感じて、こいつの本気を知る。やられたらやり返す、単純な行動原理で、こいつはガトリアングを憎んでいた。

 

「貴様……タライを放せ!」

「おっと動くなよガトリアング。こいつの細い首なんざ、俺にとっちゃ軽く一ひねりなんだ」

「タライは関係ないだろうが! 大体、貴様らの収入源とやらも違法なもので、結局は自業自得に他ならない。恨むべき相手を間違えている、八つ当たりがしたいのならサンドバッグでも買えばいい」

「正論は求めてねえんだ。そんなもんに納得するような人格なら、ヴィランなんてやってねえ。有難い講釈なら学校でやってこいよ」


 アブクが手を放したというのに、おれの体は宙に固定されたままだ。『手の残像を作り出す』というアブクの能力によって、首にはしっかりとこいつの手形が食い込んでいる。

 つま先で立って、ようやく呼吸ができるかどうかだ。しゃべるのは難しく、おれのプロポーズを封じられてしまった。無理に能力を使おうとすれば、容赦なくぶん殴られるだろう。


「アブク……お前、馬鹿なことを……」

「ほっとけ。ヴィランなんてのはな、力を見せねえと舐められるんだよ。お前ら、いいぞ」


 ボスの許可が下りて、ガトリアングを取り囲むヴィランの輪がどんどんと狭まっていく。いつもならこんな人数も敵ではないヒーローも、今はなすすべがないようだった。


「言っとくが、手の残像はある程度操作できる。つまり、俺の気分ひとつであの狸の喉を潰すなんて簡単だってことだ」

「……俺に何を望む」

「話が早くて助かる。そうだな……ひとまずスーツを解除しろ」

「……」


 しぶしぶと武装をほどき、鍛え上げられた裸体が衆目にさらされる。その造形は見事で、赤く映える鱗の輝きを前にアブクも一瞬だけ言葉を無くすほどだ。

 煌びやかな鱗は発達した背丈と筋肉によって天然のアクセサリーとなっていて、こんな薄暗い場所にあってもなお人目を惹きつける魅力に満ちていた。

 何度見ても完璧な肉体美。だけど、その股間にはただ筋が一本あるだけで、雄の証はどこにもない。普通ならスリットと思うだろうが、こいつは違う。


「すげえ体だな。これなら好事家どもも放っておかねえだろ」

「ふん、ヴィランに褒められたところで嬉しくはない。それで、これで終わりか? タライを解放してもらおうか」

「これで終わるわけねえだろ……やれ」


 部下たちが近寄って、紅玉に手垢を付ける。ガトリアングは不愉快そうに眼を細めるが、歯を噛み締めて嫌悪を抑え込んでいるようだ。


「俺を辱める気か。汚らわしい。とっとと済ませろ」


 だが、凌辱を前にしても竜は揺らがなかった。それも想定内と言わんばかりに、肌を這う手を自由にさせている。むしろ竜に触る部下どもの方が興奮している始末だ。

 まるで王と乞食だ。もちろんガトリアングが王であり、まとわりつく有象無象でさえ絵になっていた。


 ヒーローたるもの、こういうことも覚悟していたんだろう。でも申し訳なくなって首を横に振って否定するが、竜の視線はまっすぐにおれを見据えている。


「お前が申し訳なく思う必要はない。すぐ終わらせる。待っていろ、タライ」


 竜はおれを安心させるように頷くと、部下の手を取って自ら股間へと導く。空洞となっている、雌の穴に。


「……はっ」開かれたそこを見てサメが嘲る。「マジかよ。お前、自分から雌になっちまったのか。そんなクリみてえなちんぽしやがって、あのガトリアングが、こりゃおもしれえ」

「妻だからな。当然だろう。男性器の大小など、ヒーローとしての価値を何も揺るがせない些末事だ」

「そうかそうか、そうだったな、お前は自分の体を改造することができるんだ。だったよぉ……」

 

 サメがにやりと笑って、鋭い歯を光らせた。


「感度を上げろ。そんなすました顔ができなくなるくらい、感じるようにてめえで改造しやがれ」

「……っ」


 ガトリアングは自分の体を改造する能力だ。だから一発で着床するようにもできるし、感覚を遮断することも、逆に鋭敏にすることだってできる。


「……タライ」


 それを誰よりもわかっている竜は、堂々とした態度に少しの陰りを見せて。


「目を閉じていてくれ。お前には、見られたくない……」

「わかった」

 

 おれのせいでガトリアングはこんな目に合っているんだ。さすがにクズの自覚はあるが、良心の呵責くらいはある。

 そして、瞼を閉じたのと低くも上ずった声が聞こえてきたのは同時だった。


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