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【全体公開版】スケベスキルで世界最強~やっぱ最強はちんぽっしょ~ その3

「今日の訓練もお疲れ様。お前は頑張り屋さんだな」  今日のお守り報告を聞いたジェルが弾んだ声で言う。いつも通りにセックスをしてから、少しずつ開始した訓練。その成果を聞くジェルがいつも嬉しそうだから、つい熱が入ってしまうというもの。  おれの得意スキルはスケベ関連なので、どうしたって他のスキルは習得が遅いのだけど、それでもジェルは喜んでくれる。  ……まあ、他の異世界人と比べたら無能な部類なんだけどさ。  温かな暖炉が燃えるおれとジェルだけの空間で、二人は隣り合って座っている。  前よりかは少し近くなった距離で触らないように注意しながらも、そよぐ毛皮すら見えてしまう距離にどぎまぎしてしまう。狼頭のジェルは端正な顔をほころばせ、優しい顔でおれの話を聞いてくれる。 「それでどうだった。何か得意スキルが見つかったか?」 「んー、まだかな。……ごめん」 「そうか、鍛錬を続けていけばいつか見つかるだろう。きっとお前の得意が見つかるさ。気を落とすこともない」  得意スキルはもうスケベ関係で確定なので、あいまいに笑ってごまかすしかない。  ジェルはそれを見て、おれが気落ちしてると思ったらしい。頭をぽんぽんと撫でながら慰めてくれた。 「あのさ、そういえばジェルが仕事してるのって見たことないよね」 「そうだな。付き添ってもらっている部下から話は聞いているだろうが」  王国騎士団『竜の爪』隊長というなんかすごそうな肩書を持つジェルが普段何をしているのか。おれはあまりよく知らない。  話だけは聞いているのだけど、それを実際に見たいと思うのは片思い中の身としては当然のことじゃないだろうか。  この国で最も武勲の誉れ高いジェルが、仕事場で魅せる顔。  たぶんだけど、相当のギャップ萌えで死ぬ気がするんだ。  だって、いつもはこんなにほんわかした顔なのに、きりりとした顔なんかされてみろ。  死ぬだろ。 「もう訓練も始めているころだ、少しならのぞいていってもいいだろう」 「本当!」 「ああ、何か参考になるかもしれん。明日はちょうど隊員との模擬試合がある予定だ」  喜色にはしゃぐおれが、ジェルの目にどのように見えたのかはわからない。  だけど、おれを見つめるその顔は隠し切れない嬉しさに満ちていた。  自分のことに興味を持ってもらえたお父さんって感じだ。 「だけど、あまり邪魔になってはいけないぞ」 「わかってるから。いつも思うけど、ジェルはおれのこと子ども扱いしすぎじゃない?」 「ふふっ、それはすまなかった。子どもなんかいたことがないから、つい過保護になってしまうようだ」  とか言いながら頭を撫でてくるし。そんな年でもないのだけどなぁ。 「お前の異世界人としての能力を、陛下は求めていらっしゃる」  何度も聞いた言葉だ。耳にタコができるほど。ジェルが、まるで自分に言い聞かせるように紡ぐ言葉。 「強くなり、その力を陛下のために振るうのだ……そう……」  だけど、ジェルの言葉には芯がない。ゆれて、ぶれて、撫でる手も止まってしまう。  おれはジェルにそんな顔をさせたくなくて、つい、声を張り上げてしまった。 「大丈夫、良くしてもらったから、恩は返すよ」 「……お前は優しい子だ。どうか、その心を忘れないでほしい。どれだけ強くなっても、我らの剣を振るう目的を見失わないでほしい」  炎のはぜる音に混じる、子守歌のようなジェルの声。  ジェルがしゃべるといつだって、おれはまどろみに落ちてしまう。寝ている間だけは『愛撫』常時発動スキルも発動しないから、おれはジェルの温かい毛皮に埋もれて寝息を立てられる。  幸せな時間。大丈夫、おれはジェルのそばにいる。  もうすっかり習慣になってしまった行為。まるで寝る前に物語られるおとぎ話のように、ジェルとの会話はおれを癒してくれる。  きっと、ジェルの声には人を癒す不思議な力があるに違いない。じゃなかったらこんなに眠くなるはずもないのに。  うつらうつらと船は行き、ジェルにもたれかかったまま眠りの底へ。  ジェルの大きな手がおれを抱きかかえてくれたところで、もう朝に向けて目は閉じた。 「私だけなら……」  そして、暖炉にくべられた薪のような言葉も、夜に溶けて消えていく。 「私だけなら、陛下に忠誠を誓った身として、何の憂いもなく剣を振るえるというのに……」  寝息を立てるおれに向けた視線は、どのようなものか。あいにくおれにはわからない。 「だが、この子はそうではない。それを強要することなど、誰ができよう」  ああ、子を持つというのはこういうことなのか。狼はふっと漏らす。 「願わくば、お前が好きな道に歩んでいけるように。そして、それを応援できないダメな私を、どうか許してほしい」  気を遣わせているという自覚を持ったまま、狼の足は部屋を去る。  温かい部屋は、いまだ炎が煌々と照っている。その火がいつ消えるのかは、誰にもわからないことだ。 **** 「……ふんっ!」  快晴の下、ジェルの放った一撃が相手の剣をはじく。組手ということで、何人かの相手をしているジェルは息一つ切らさずに全勝してみせた。  ――――かっこいいっ!  家で見せる優しい顔とは全く違う、凛々しい騎士の顔。しかもしっかりと鎧兜を着込んだ正装ともなれば、かっこよさはさらに倍。  百回くらい惚れ直した。 「おーおー、食い入るように見てるな。っま、ジェル様の剣裁きが鮮やかなのは間違いねえけど」  今日のお目付け役である鮫のヤードが隣で得意気に胸を張っている。すっかりちんぽ狂いのオナホ騎士志望になった今でも、やはりジェルの剣技には感じるものがあるらしい。  その気持ちを、おれは心底理解した。剣裁きのレベルが他とは圧倒的に違う。スキルレベルで言うなら、3と10くらいあるかもしれない。『剣技』のスキルとかあんまり上げてないから憶測なんだけど。  邪魔にならないようにと、遠くで見ているおれとジェルの目線がちらりと交錯する。  そして、おれを見つけるとさっきまでの形相が嘘のように柔らかく微笑んでくれるのだ。  するとおれの体の奥底から熱がわっとやってきて、指先まで伝播しては手を振ってこたえようとしてしまう。こんな授業参観で張り切るようなまね、小学生で卒業したと思ったのに。  どうやらジェルの前では感情を止められないようだ。恋とはかくも恐ろしい。 「隊長もあんな顔するんだなぁ……」 「いつもは違うのか?」 「うーん、そうだな、いつもはもっとこう、仕事中です! って感じにとっつきにくいからな。厳格で真面目、悪く言えば堅物ってやつ」 「……それは容易に想像つくわ」  なんというか、ジェルは全身から不器用なオーラが出てるからなぁ。人の好さと相まって、純朴というか、だまされやすそうというか。 「そういえばさぁ」ジェルがまたも剣を振るう姿を見ながら、言葉だけを投げかける。 「なんだよ」 「いや、ヤードって敬語とため口が混ざり合ってて、なんかキャラがぶれてるなーって思って。交尾中でもたまに口調がぶれるじゃん?」 「……人をちんぽ大好きオナホ野郎にしておいて、それはちょーっとないんじゃねえかな」  とか言いながら尻尾で人の背中をビシバシ叩かれましても!?  痛い痛い、でかいだけあって尻尾の力も強いのな。 「お前さぁ、自分の『調教』スキルいくつかわかって言ってるのか?」 「マックス近くまであるんじゃないかな」 「そういうこと。お前を前にするとたいていの奴はこびへつらうだけの肉便器になるってわけ。それでもため口で話せるおれの精神力を褒めてもいいんじゃねえかな。おれが完全に壊れてジェル様にばれても知らねぇぞ」 「それは困る」  またもジェルが勝利を収めた。見ていてハラハラすらしない、完全勝利だ。 「はーあ、おれもなぁ真面目な騎士になりたかったんだけどなぁ。お前のせいでなぁ」 「悪かったって……」  ジェルを見る鮫の目に映るのは確かな羨望で、それはおれの罪悪感を刺激する。 「今じゃもうお前に逆らえない完全便器だしなぁ。幾多の制約にがんじがらめにされて、告げ口すらできないしなぁ」 「……いや、だって……そうしないと、ジェルにばれるし……」 「はいはい。つうわけで、おれのこと責任もって面倒見ろよ。異世界人なんだし、それくらいは軽いだろ」 「それはもちろん」 「よーし、いい返事だ。んじゃ、おれもちょっとばかしお前にいいところ見せてくるかー。今日のちんぽ、たーっぷりはずんでもらうぜぇ?」  価値観という価値観が屈折した鮫は好色そうな顔で牙をのぞかせて、ジェルの方へと歩き出す。なんだかんだと言っているが悲壮感はなく、自身の中で折り合いはつけているようだ。  ヤードはジェルと向かい合い、剣を構えて空気を張りつめさせる。  おれはもっとよく見ようと近寄れば、二人の会話を拾う。 「ほう、お前が挑んでくるか。珍しい」 「おれだってたまにはやるんですよ」 「よいよい、あの子に良いところを見せたいと思うくらいには仲が良くなっているようで嬉しい限りだ」 「……なーんであんたってどうでもいいところで聡いんだろうな」 「ふむ? 何か言ったか?」 「なーんでも。油断してると、あっさりやられちゃいますよ」 「ふふ、言うじゃないか。なら、どこからでも打ち込んでくるといい」  さっきヤードは生真面目すぎると言っていたが、対面して言葉を交わすジェルには優しさが見える。立場によるものか、何らかの補正でもかかってるんじゃないかな。 「んじゃあ、遠慮なくいきますよ――っとぉ!」  先手を譲られたヤードは思いっきり踏み込んで一撃を振るう。おれの目では白銀の軌跡しか見えないほどに早いそれは、しかし、ジェルにとっては止まっているに等しい。 「なんだ、鍛錬は欠かしていないようじゃないか」  あっさりと、半身をよじるだけで交わしてジェルは言う。すでに目線はするどく、相対者を射抜く歴戦の強者としての風格に満ちていた。  剛腕をもって相手を叩きおろうとするヤードの気概に対して、ジェルはわずかに腕を振るうだけ。それだけで剣先は吸い寄せられるように鮫の体へと向かっていく。 「――――くそっ」  軽やかに振られたように見えたが、その速度はヤードを超えている。空気を切る音がすでに違う。あんなに無駄もなく、精錬された動きで、剣先が描く軌跡はかくも美しい。  ヤードは悪態を舌先で投げると、防御の構えを取ろうと身をひねった。叩き落したはずの剣を無理やりに軌道修正できるのは腕力のなせる業か。白銀の軌跡こそいびつになってしまったが、ジェルの剣へと割って入るだけの速度はあった。 「ふむ、戦い方はいまだ単調か。力任せだけではよくないと、あれだけ言っていただろう」  完全に防いだと思った。素人目から見て、ヤードの剣は間に合ったはずだ。  しかし、ジェルの剣はヤードを打ち据える寸前に、ひらりと、その軌道を変えた。 「……は?」  ヤードが力任せに切り替えざるを得なかった軌道を、ジェルはいともたやすく切り替えた。体重移動がどうとか、難しいことはおれにはわからない。だけど、ジェルがあっさりと行った所業がどれほどすごいかなんて、言われなくても理解できてしまった。  おそらくは何かのスキルに違いない。でもおれは当然として、ヤードにも察知できていなかった。  それくらいに鮮やかに、ジェルはスキルを扱うのか。  くいっと、まるで手を上げるかのような気さくさで、ジェルの剣先がぶれる。ヤードの剣が守ろうとしていたところを超え、その体幹へと迫っていく。 「こんのぉ……」  間に合わない。  おれはそう思った。のに―――― 「くそがああああああぁぁぁっ!」  牙をむいて吼えるは鮫の相貌。  そして踊るは、不器用な刃先。  無理な軌道修正に無理をさらに重ね、ヤードの剣はジェルへと迫る。  ゆがんでいびつな軌道だが、確かにそれはヤードの全力だ。 「ほう」  ジェルは感嘆するだけで、その眉が少し寄る。今までの相手は誰であっても、その冷静な仮面をはがすには至らなかったのに。  ガキンと、金属同士がぶつかる音。それは確かに、ヤードが一撃を防いだ証拠でもあった。 「いい成長だ」  無理を重ねたせいでヤードの巨躯が傾ぐ。ジェルはすでに二撃目を振るっているというのに、鮫は体勢を立て直すことさえできていない。  このままでは負ける。おれが固唾をのんでいると、ヤードと目線が交わった。  ――――見てろよ。そう言われた気がした。 「うおらぁ!」  まさか、だった。  ヤードの体は重心を支えきれていないにもかかわらず、剣を振るえたのだ。  それは寸分たがわずジェルの剣へと向かい、暴力的な剛腕ではじき返そうとする一撃だ。  どうして、とか考える余裕はなかった。今はただ、勝敗を追うのに忙しい。  剣筋に狂いはなく、正確無比にジェルを負かさんと襲い掛かる。振りかぶられたジェルの剣はいまだ速度がなく、このままでははじき返されるのが見えていた。  場の緊張は膨らみ、誰もがつばを飲むことすら忘れる時間に。  ジェルは硬く呟いた。 「――――見事」  称賛は決着と同時に流れ込む。ヤードの一撃は確かに強かった。  しかし、ジェルにとってはやはり、止まって見えるのだ。    ヤードの一撃は空を切り、体躯はそのまま重力にひかれて地面へ。そして起き上がると同時に鮫の喉元にはジェルの剣先が。  目で追えてすらいなかった。気が付くとジェルはよけていた。 「尻尾で体を支えるとは恐れ入った。不意を打つ一撃としては文句なしだ」 「……あんなに簡単にあしらわれちゃ自信もなくしますけどね」 「とっさのことだったからか、キレが甘かったからな。洗練すれば次はわからない」 「ま、おほめにあずかり光栄ですよ」  なるほど、鮫が持つあの太い尻尾で重心を支えたのか。よくそんな器用な真似を。  おれが持ってないからわからないだけで、普通のことなんだろうか。  隠し切れない悔しさをにじませて、ヤードは立ち上がる。鮫はばつの悪そうな顔だがジェルは気にしてもいない。でも、たとえ生真面目で表情の変化が少なくとも、成長を喜んでいるのがおれにはわかる。 「だが」しかしそれも次の言葉を放つまで。「最近我が隊の面々の身体能力が向上しているように感じられる。先のヤードにしても、尻尾で体を支えるなんて前はできなかったはずだ」  今の組手で確信した。表情にはありありと怪訝が浮かんでいる。  まずい。おれの心臓が早鐘のように脈打ち、冷や汗が流れ出る。  剣戟が支配した場とはまた違う雰囲気があたりを支配し、それはまるで刃物を喉に当てられているような気にさえなる。  これがジェイルラル=クリン=アーミライト。この国一番の武勇と称される剣士。  神風とさえ言われる狼の武人が放つ覇気は並大抵のものでは抗えない。 「――――誰の仕業だ?」  おれですうううううぅぅぅぅ!  と危うく自白しそうになってしまった。だってジェルの圧はすさまじいんだもん。こんなの叩きつけられて、黙秘なんて無理でしょ。  それをすんでのところで抑えられたのは、ジェルに嫌われたくなかったからだ。  性行為中に相手のスキルレベルも上げまくったせいで、全体的にレベルアップしてるなんて言えるわけもない。その恩恵として、ジェルの部下たちは身体能力が少し上がっていて、それを目ざとく気付かれてしまったのだ。  あわ、あわわわわわわわわわっ!  ばれたくないーー! 頼むぞヤード、何とかうまくごまかしてくれ!  頼みの綱であるヤードはジェルに気おされたように言葉を詰まらせたが、ややあって、何とか喉を震わせた。 「……別に、隊長の見てないところで鍛錬するのがおかしいってわけじゃねえでしょ」 「確かにその通りだ。しかし、だ、いささか成長速度がおかしいのではないだろうか」  なんでいつもはほんわか鈍感仕事一筋朴念仁なのに、こういうときにはめちゃくちゃ鋭いんだよー! そういうところもかっこいいのだけど、ばれたくないー! 頼むー! 「っていうか、隊長ならもう大体の察しはついてるでしょうに。そんな怖い顔して、泣かれても知りませんからね」 「……むぅ」  ん、なんかちらりとジェルがおれの方を見たぞ。何を言ったのかは聞こえなかったけど……え、ひょっとして、ばれた……? 「ほら、ジェル様が怖い顔をするから、かわいい息子が泣きそうですよ」 「う、うむ……」 「ただまあ、あいつは無自覚なところがあるんで、あんまり詰め寄ると嫌われますからね。これはアドバイスです」 「むぅ……気をつけよう……」  お、お、お? なんか一触即発な空気がおさまって来たぞ。  生きた? おれは生きれた?  ありがとうヤード! 今日はちんぽましましのオナホ便器コースで接待するから!  とか何とかぱぁっと無事を喜んでいたのだけど、ジェルがつかつかとおれのところまで歩み寄ってくるではないか。  あ、あれ……もしかしなくても死んでた?  おれより頭二つ分高いジェルがなんとも言いづらそうに言葉を口腔内でもごもごと濁している。  何か言いづらそうなことでもあるのだろうか。例えば、おれの得意スキルとか。  ……………………死んだ。確定的にこれは死んだ。 「その、なんだ……」  ああ、ジェルにばれてしまった。どんな目を向けられるのか。  さよならおれの恋。ジェルと幸せな家庭を築く夢。 「話がある。こちらに来てくれ」  死刑台に上る囚人さながらの顔をして。  おれは自分の恋に別れを告げたのだった。 ****  ヤーーーーーードォォォォーーーーー!  訓練に使用していた砦の一室で、おれとジェルは向かい合って座っている。おれは胸中を鮫への怒りで満たし、八つ当たりをすることで何とか気概を保っていた。  自業自得だと言われたらそれはそうなので何も言えないけれど、でも、ばらさなくったっていいと思うんだ!  くっそぉ、こうなったら前に使った『淫紋催眠』でも発動させてやる。まだ淫紋は消してなかったはずだ。起動させればすぐに浮かび上がるだろう。  どうせジェルはここだし、居残りメンツはおれの手あかつきのオナホ騎士たちだ。ちょっといたずらしたところで広がりはしないだろう。  なにせここは町はずれの砦。少しアヘったくらいじゃ誤差だろうとも!  はい、起動! 訓練後の汗だく筋肉で絡み合ってろ! 「……その、だな……」  口ごもるジェルを見て、おれはいっそのこと早く殺してくれと願わずにはいられない。期待してしまう自分を殺されたくはないのだ。やるなら一思いにやってほしい。  だから、つい自分から口火を切ってしまった。 「ジェルには、すごく、すごく申し訳ないと思ってる」  部下をオナホ騎士に調教してしまったこと。おれの得意スキルがスケベ関係だったこと。  本心から、おれは申し訳なく思ってるんだ。  ……改めて思うと、許される要素が一ミリもねえなぁ! 「いや……そうだな……もっと早く言ってほしかったが、私の信頼が足りなかったのだろう」 「違う! おれはジェルを信じてた! だから、言えなくて……」  あ、ダメだ。泣きそう。嫌われたっていう事実が痛すぎる。 「ジェルの期待に応えたかったけど、おれは……役立たずで……異世界人なのに……ジェルの、役に、たたなくってぇ……」  おれがもっと普通のスキル関係に強かったら、ジェルにも胸を張って言えたのに。そして、たくさん褒めてもらえたのに。  どうして、どうしてこんなスキルなんだ……。 「ご、ごめんなさい……おれ、ジェルに嫌われたくなくて……」 「待て、待て待て! 違う、そうじゃない!」  気が付くとおれの体はジェルに抱かれていた。汗が強かったけど、それよりも夜におれを安心させてくれる狼の匂いが、おれを落ち着かせてくれる。 「違う……えっと、そうじゃなくって……だな。ああもう、私は不器用で、こういうときに、なんて……いえば……その……」 「……怒ってない、の?」 「怒るわけがないだろう。違うんだ、なんて言えばいいのかわからないだけなんだ。決して、お前を怒ろうとしてたわけじゃない。この顔は生まれつきだ」 「え、なんで……だっておれは、ジェルの役に立たないし、まともなスキルだって使えないんだ……」  そんなことはないと、言葉よりも雄弁な抱擁がおれを包み込む。不器用な優しさを詰め込んだ腕が、慰めるように。 「すまない、言葉足らずで……私の悪い癖なんだ。お前は自分が思うほど役立たずじゃない。それに、役に立たないくらいで怒るほど……あー、えっと、だな……狭量な、父親では……ない、つもりだ……」  ジェルが、自分のことを父親だと言った。歓喜が胸に湧き、泣きはらしたはずの顔がにやけそうになってしまう。  『愛撫』のスキルがなかったらおれは迷わずジェルを抱き返していただろう。ああもう、このスキルが恨めしい。  でも、だったらなんでジェルはおれを呼んだんだ?  どうやらおれの暴挙がばれたわけではないみたいで、なおのこと理解が追い付かない。 「最近、我が隊の身体能力の向上にはお前が一枚噛んでいると思うのだが、どうだろう?」 「えーっとぉ、とは言われましても……」  セックスしまくってスケベスキルを上げたおかげで全体的にレベルアップしてます。  とかは死んでも言えない。  目線を泳がせて知らぬ存ぜんで通そうとしていたら、屈んだジェルと目が合った。  真剣でカッコイイ狼の相貌が、おれから偽りをはぎ取ろうとしてくる。だけど、ここで口を開くとすべてが終わる。何をされたとしても、吐くわけにはいかなかった。 「うむ、やはり無自覚か」 「なにが、かな?」  ジェルの中で何かがつながっているようだが、その全貌がつかめない。おれはただ、何とかこの場をやり過ごそうと必死だった。 「どうやらお前には他者をレベルアップさせる能力が備わっているようだ」  ……うん、知ってる。おかげでヤード含めジェルの部下はスケベなスキルばかりが成長してます。 「それは今まで聞いたことのない能力だ。どんな異世界人であれ、他者を強くするなんてできた話はないからだ」 「え、そうなの……?」  そんなの、ベッドで絡み合えば勝手に上がるもんだと思ってたんだけど……。 「うむ、うむ、だからお前は役立たずなんかではない。自信を持て、お前には素晴らしい才能がある」 「そ、うかな……」  いやー、でも実際はスケベスキルより普通のスキルに適性あったほうがいいと思うんだよねぇ。  身体能力の向上だって、スケベスキルの副産物だし。ジェルの部下たちが貪欲に快楽を覆うために必要だからっていうだけなんだけど。  だけどジェルがとても嬉しそうなので。尻尾も振って喜色を表してくれるから。  それでもいいかな、なんて思ってしまうんだ。 「さっそく次からそのスキルを伸ばしていこう。どういう名前がついているのかはわからないから、あとで教えてくれないか」 「うっ」  これは……嘘に嘘を重ねていかねばならないパターンなのではないだろうか……。  でも、でも、嬉しそうなジェルを裏切れない。ええい、腹をくくれ。どうせこんなスキルばれたら終わりなんだ。なら最後まで隠し通すしかないだろう!  それでも最後の悪あがきとして、話題の転換をはかる。根がチキンなのだからしょうがない。 「あのさ、ジェル。おれ、あの、役立たずじゃない、かな?」 「もちろん。それに、どんなスキル持ちであれ、私はお前を役立たずと言ったりはしない」 「じゃあ、なんでこんなところで二人で話そうって……」 「……それは、だな」  覗き込んでいたジェルのきれいな目が、少し泳いでずれていく。何と言ったらいいものか考えあぐねているようで、ジェルにしては珍しい顔だった。  狼の毛皮を困ったようにいじり、少しした後、おもむろに口を開いてくれる。 「軍隊を預かる身として、部下の前で息子の成長に勇んで喜ぶなど……これではあまりに格好がつかぬ。親ばかもここにありじゃないか」 「死ぬ」 「え、なんだ!?」  あーーーージェルが恥ずかしそうにお前を祝うために呼んだとか言うこのシチュねー!  もう無理。かわいすぎかよ。おれのお父さんが最高にかわいいのですけど!  涙まで出てきた。尊すぎて無理。 「あ、あ、どうした急に。その、私が、何か悪い事でもしたか……!」  さすがにジェルが好きすぎて泣いたとかドン引きされるので言えないだろ。 「いや、てっきり怒られると思ってたから……」  嘘ではないので、これで許して。 「す、すす、すまないっ! そこまで思い詰めていたなんて……。確かにお前は異世界人だから価値があると言われてきただろうが、私にとってはもう家族だ。心配はいらない。どんなスキルだろうと、お前を悪く言わせやしない」 「う゛え゛~~~~っ!」 「なぜだっ!」  ごめん。これはがちで嬉しすぎて泣いてるやつ。 「だっで、おれ、まともなスキルとか使えないから、いつか、ジェルに愛想をつかされると思ってぇ……」  言葉を最後まで言わせやしないとでも言うように、ぎゅうっと、狼がおれを抱きしめた。  鎧が当たって少し痛かったけど、それでも気持ちは伝わってくる。 「大丈夫だ。少しずつでいい。私がそばにいる」 「ジェル~~~~っ!」  もう好き。結婚して。  抱き返せないのが残念でならないけど、ジェルを近くで感じるだけで嬉しくなる。  ジェルは何も言わずに、おれが泣き止むまでずっと抱きしめてくれた。その大きな体でおれを安心させて、優しく教えてくれた。  おれはここにいていいのだと。ジェルの傍にいてもいいんだって。  だからおれは、心に誓うんだ。もう何度も誓ったことを、また。  いつか絶対に、ジェルの役に立ってみせるんだって。 ****  そして今、おれは最大の壁にぶち当たっている。  あんなにジェルとの感動的なシーンを挟んだすぐあとなのに、もう関係性が破綻しようとしている。それほどまでにやばい光景が、眼前に広がっているんだ!  ジェルとの絆も深まり、いざ訓練再開と意気込んで帰ってきたはいいものの。そこに広がっていたのは目を覆いたくなるような惨状。  筋骨隆々な騎士たちが絡み合う、宴があった。 「おっほぉ❤❤❤おちんぽ様ありがとぉございますうぅ❤スケベ騎士のおマンコ、とーってもきもちぃでずうぅぅ❤❤」 「我らはちんぽに完全敗北したスケベ騎士❤今日もおちんぽ様を気持ちよくすることしかかんがえられませぇん❤❤」 「おちんぽ様こそ生涯の主❤おちんぽ様ばんざーい❤❤ふっへぇ、たっまんねぇぇ❤」  さっきまで熱心に剣を振るっていた面々が、今では崩れた顔で盛りあっている現状。  その中心では淫紋作成で書いた文字を浮かび上がらせたヤードがいて、ちんぽに犯されながら嬉しそうに射精していた。  『私はちんぽに負けたスケベ騎士です』とか『おちんぽ様こそ生涯の主❤』とか書いたせいで、淫紋催眠の効果でこいつらは洗脳されてしまったんだ。  なにそれ、書かれた本人だけじゃなくて周囲にも影響するの? 効果が結構えぐくない? 「……おわった」  阿鼻叫喚な声が響き渡る中、おれは膝から力が抜けていくのを感じた。  忘れてたおれが百パーセント悪いとはいえ、ジェルに確実にばれた。絶対ばれた。しかも隊員をオナホマンコに調教したことも含めて。  これはもう死ぬしかないのだろうと絶望に浸っていたところ、ジェルから声がする。 「ふむ、私がいなくても訓練を欠かさないとは。熱心で何よりだ」 「…………はい?」  ちょっと待って。あの人道にもとりまくる惨状を見て、訓練って言った?  あ、そうか。『淫紋催眠』が周囲にも影響するなら、足を踏み入れたジェルもそれを異常だとは思わないんだ。  よかったーー! 首の皮一枚でつながったぞーー!  あとはこの事態をうまく収拾すれば、何事もなくおれとジェルの甘い生活を堪能できるはず!  やらねば、おれの未来のために! 「ジェル、あっちで少しお話があるんだけど」 「すまないな。先ほどのことで時間を使いすぎた。また後でも構わないだろうか?」  構う。大いに構う。ジェルが仕事熱心なのはわかるけど、今は相当まずいんだって。  おれから返答がないことを見て、ジェルは頭をポンポン撫でて足を進めていってしまった。お願い待って、奥に進まないで。  狼の鼻にこの場の匂いは相当堪えるだろうに、ジェルは眉一つ動かさずヤードへと歩み寄った。たくましい体に卑猥な淫紋を浮かばせる鮫と、鎧を着こんだ精悍な狼はギャグかと問いたくなるほどのギャップを見せてくれる。 「精が出るな。先ほどの敗北から、何か学ぶことでもあったか」 「はひぃ❤ジェル様に勝つために、たくっさんスケベマンコを鍛えてまぁす❤❤今度は、まけましぇんかりゃねぇ❤❤」 「それは楽しみだ。お前はどうにも斜に構える癖があるからな。出自がどうであれ、この隊の一員なんだ。胸を張って剣を振るうがよい」 「わかりましたっぁああぁああああぁぁっいくううぅぅ❤❤❤」  ジェルに話しかけられながら射精する鮫。眼前を白濁の放物線が描いても、狼に動揺は見られない。  これ、ジェルにザーメンがかかったらどう言いつくろっても怪しまれる。他の騎士ならまだばれてもいいんだけど、ジェルの体に痕跡一つ残したらまずいぞ。 「フォグ! ノイン!」 「ひゃい?❤」 「んへ?❤」  乳首をいじっていた熊と産卵にふけっていたワシが近くにいたので急いで声をかける。二人はアヘって焦点の合わない目でおれをとらえると、すぐさま応えてくれた。 「なんでしょうご主人様❤」 「お願いだ、ジェルの体にザーメンがつかないようにしてほしい! 後でご褒美でもなんでもあげるから!」 「かしこまりましたぁ❤」 「このザーメン大好きスケベ騎士にお任せを❤」  あいにくザーメンを操作するスキルなんておれは持ってない。だって中出しとかぶっかけしかしてないし!  熊とワシは汗とザーメンに汚れた体で、ジェルの傍まで近寄った。雄の臭いがさらに強まっても、ジェルは当然とばかりに話を切り出す。 「フォグ、ノイン。訓練はどうだ?」 「さいっこうにきもちぃでーす❤昼間っからセックス三昧なんて、幸せすぎます❤」 「私も、たくさん卵が産めて満足ですぅ❤どうですジェル様、私の産みたて卵をひとついかがです❤」 「ああ、ありがとう。それなら後でいただくとしよう。あの子が喜んでくれるといいのだが」  ジェルからなら何をもらっても嬉しいよ。  じゃない! どうしようこの現状!  元凶であるヤードを動かせば催眠は解けるだろうけど、その場合ザーメンだらけの騎士が残されることになる。行きつく先はバッドエンド確定ルート。  ジェルだけを避難させ、そのあとで催眠を解くしかないんだけど、あいにくジェルはしっかりと訓練を遂行する気でいる。  痕跡であるザーメンはフォグとノインがかからないように肉盾になってくれている。今のうちにどうにかジェルを遠ざける方法を見つけないと……。 「さてそれじゃあ、私も訓練に混ざるとしよう。途中で抜けてすまなかった。誰か、組手を所望する者はいないか?」  …………ん?  今、すっごいやばい予感が胸をかすめたのだけど。  さび付いた歯車のようにぎこちなく首を回し、ジェルの方を見やる。  恐怖と、わずかばかりの期待を込めて視線を動かすと。  ――――ジェルが下を脱いでいた。


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