【全体・NSFW】ヒーロー陵辱映像作品化計画—零— 第一話
Added 2021-01-28 11:28:22 +0000 UTC——この世界には、秩序≪ルール≫がある。 人々が暮らしていく中で自然と形成されていったそれは、お互いがお互いを害さないように、不平等が産まれないように、誰かひとりが得をしないように、と、先人達が取り決めていったものだ。それらは、時として不公平や不平等や不利益を産むことさえあったが、それでもその秩序に守られている限りは少なくとも平和的に世界が営まれていくように、と祈りを込めて作り上げられていった一つの形だった。 しかし、それは時として閉塞感さえ産んでしまうものだ。 その閉塞感をよしとしない者たちがいた。社会に張り巡らされた秩序という網を振り解き、自らの利益を貪ろうとする者たち。世界の秩序から外れた存在であるが故に、その存在を認められなかった者たち。窮屈な世界のありように、息苦しさを感じてしまった者たち。 それが故に、他者を侵害し、破壊的な活動をし、世界に混乱をもたらそうとする者たち。 そこには、大義名分としての正義はあったのかもしれない。だが、その行為は他方で他の者たちの利益を奪い、安寧を奪い、平和を奪い、そして幸福を奪うものであることも、また事実だった。 故に、そんな反社会的な行動を繰り返す彼らを人々はこう呼んだ。 『ヴィラン』と。 「キャーっ!!!」 「へへっ、大人しくしろぉーっ!」 「有り金全部よこしなっ!!ほら、さっさとしねぇかっ!!」 今日も街の一画で上がる悲鳴。 揃いの黒いボディ・スーツ——それは、正確にはパワード・スーツと呼ばれるもので、着用者の筋力を補助し常人以上のパワーを発揮する事ができるようにする代物なのだが。それを身に纏った黒ずくめの集団が現れたのは、終業業務をしていた銀行だった。 集団のリーダーと思しき男が、銃のような物を受付の白い毛並みをした犬族の女性に突きつける。その傍らで、カウンターにどかっ、どかっ、と置かれる大きなボストンバッグ。警備のサイレンが鳴り響くのにもお構いなしに、10人程度のその集団は強盗行為に及んでいた。 その時だった。 「「待てっ!!」」 突如として周囲に立ち込めた白煙が、彼らの視界を遮った。催涙ガスの類ではない。例えるならばそれは、雲の中にいるような感覚だった。 「ちくしょうっ!?なんも見えねぇ!?」 「なんだっ!?何者だ!?」 ガヤガヤと騒ぎ立てる男達。彼らの視界を覆っていた霧は、突如として晴れた。 「なっ!?なにっ!?」 霧が晴れた先にあった光景に、男達は目を見開いた。 銀行員達はカウンターから離れた壁際に避難し、その周囲を取り囲むように形成されていたのは氷の透明なシェルター。氷、と言ってもその透明度は高く、その奥にいる銀行員の怯えた表情もよく分かるほどだ。こんな氷は当然銀行になどあるはずはなく、にわかには信じがたい話だがつまりは今ここで形成されたものだ、ということだ。 そう。彼らによって。 「て、テメエらはっ!?」 「お前達の好きにはさせないぞっ!!『ヴィラン』どもっ!!」 「覚悟しやがれ!!」 銀行員達を守るように、壁の前に仁王立ちになるふたつの影。 白と青を基調としたヒーロースーツ。胸で輝いているのは、水色の球体をした宝石。そこから伸びる水色のラインが輝き、彼の全身に漲るパワーを与えているようだった。バイザーで素顔は隠されているが、白い毛並みに覆われた顔や身体的特徴から、彼が白熊族の少年であることは明らかだった。 ヒーローネームは、『ラピスブルー』という。 そして。 『ラピスブルー』と対になるように、黒と赤を基調としたヒーロースーツ。胸で輝くのは、燃えるように紅い球体の宝石。全身を巡る赤いラインが輝き、彼もまた全身にそのパワーを漲らせていた。特徴的な顔の模様や、赤茶色の毛並みは、彼が小熊猫族の少年であることを示していた。 ヒーローネームを、『スピネルレッド』という。 その声音から察するに、まだ歳若い――いや、幼ささえ残る彼らは、しかし『ヒーロー協会』から活動を正式に認定された『ヒーロー』だ。認定されたのは半年前。だが。 「ち、ちくしょうっ!?なんでアイツらがっ!?」 「か、構うもんかっ!!いくらランカーだからって相手は二人だ!!野郎どもっ、やっちまえっ!!」 すでにその活躍は協会の先輩たちと引けをとらないものがある。 「スピネルっ!!」 「応っ!!」 ファイティングポーズを取ったスピネルが、ダンッ、と床を蹴る。 カウンターを飛び越したスピネルは、そのまま天井を蹴ると、フロアに着地。 「うぉぉぉぉぉっ!!」 「なにっ、速いっ?!」 「ぐぉぁっ!?」 出入り口を塞いでいた二人組に燃える拳を突き立て戦闘不能にしていく。 「ちくしょうっ!?」 「怯むなっ!!やっちまえっ!!」 スピネルに襲い掛かろうとする男達。だが。 「なっ!?なにっ!?」 「足がっ!?」 その足は、フロアに縫い止められるようにして固まってしまっていた。 振り返った彼らの視線の先には、指鉄砲を構えたラピスの姿が。 「『フロスト・バイト』!!」 その指先で凝結した氷の結晶が、スピネルが倒した男達の身柄を次々と拘束していく。フロアにいる戦闘員の足下を狙い澄ました一撃は、彼らの動きを一瞬でも奪い、隙を作る。 「くそぉっ!?ぐへっ!?」 「させるかぁっ!!ぐあっ!?」 ラピスが作った隙を、スピネルは逃さない。小柄な体躯で次々と男達の懐に沈み込むと、強烈な一撃を彼らに見舞っていくのだ。パワードスーツによって軽減されているはずの衝撃ですら、彼らが胃液を撒き散らしながら白眼を剥いて倒れるほどの一撃。 「ちくしょうっ!!喰らいやがれ!!」 「スピネルっ!!」 「!!」 その背後から銃を向ける男達だったが、その銃弾はスピネルを取り囲むようにして発生した氷の竜巻によって阻まれる。 「ちぃっ!?」 「うぉぉぉぉぉおっ!!!」 竜巻が晴れた瞬間、弾けたスピネルの肉体が男の懐に肉薄する。銃を向ける男だったが、その銃口はすでに凍り付いていた。 「ぐおぉ……、ぅ……ぁ……」 スピネルの一撃を受け、膝からフロアに沈み込む男。 そして、銀行を襲った男達は、ものの数分で敢えなく全員がその身柄を拘束されてしまうのだった。 「サンキュー、ラピス!」 「ありがとう、スピネル」 接近戦を得意とする『スピネルレッド』と、マルチレンジで戦う『ラピスブルー』。 2対多、圧倒的な数的不利であったはずの状況は、抜群のコンビネーションにより瞬く間に覆された。 ——時として。 高度な科学技術を悪用した者、超常的な力を有した者、人ならざる者さえ現れた現代。今までの警察組織だけでは対応できない『ヴィラン犯罪』が増えてしまった現代。『ヴィラン』の野望を阻止し、世界の秩序を護らんとする者達がいた。 そんな彼らの事を、人々はこう呼んだ。 『ヒーロー』と。 * * * * * 「おや、難しい顔をなさって。いかがなされたのですか?」 「……『クラウン』」 廊下を歩いていた長白衣を引きずる科学者風の小柄な犬族の男は、声を掛けられて声の主を見上げる。 彼の身長の倍以上あるその男は、種族はおろか性別さえも定かではない、この組織の中でも謎が多い男。他の者からは『クラウン』と呼ばれているが、本当の名前さえ定かではなく、自ら名乗ったこともない。何をしているのかもよくわからない男だが、実力は確かなようなので、他の者たちも別に彼に口出しすることはなかった。最近はお気に入りが出来たようで忙しそうにしているらしい。 あまり他者と連んでいるところも見たことがないが、自分から話しかけてくるとはどういった了見か。 「別に」 「なんとも淋しいご返答ですね」 「お気楽なキミには分からないだろうよ、私の悩みなど……」 「ふふ、それは申し訳ありません。私とてプラプラと遊んでいる訳ではないのですが……ご気分を損なわれたのならお詫び申し上げます」 「……最近は忙しいみたいじゃないか。また新しい『お気に入り』でも見つけたのか?」 「ふふふ、生きがいを見つけるのは楽しいものですよ?毎日が刺激に満ちていますからね」 「相変わらず、いい趣味だな」 「お褒めに預かり光栄です。」 科学者は皮肉のつもりで言ったのだが、この男はそれを知ってか知らずか、ふふっ、と笑い声を溢して会釈するだけ。 暗い廊下をしばらく並んで歩いていたのだが、この男は本気で一体何を考えているのやら。訝しみながら科学者はチラリと道化を見上げたのだが、すぐに顎に手を当てると考え事を再開する。したところで、道化は何を思いついたのか「あぁ、そうです」と突然ぽんっ、とその手を叩いた。 「なんだ?」 もしかして本気で邪魔しに来ているのではないかと半ば睨むように道化を見上げるが、道化は気にする素振りなど微塵もないらしい。仮面の下でふっと口許が歪んで、そのひと差し指を立てるとこう言った。 「『都合が悪いなら、塗りつぶしてしまえばいい』そうは思いませんか?」 「……なんだと?」 「一度染め上げてしまうと、楽しみというのは薄れてしまうものです。しかし、塗りつぶされて汚れたキャンバスも、白く塗り返してしまえば、また新たな絵を描ける。いつでも新鮮な反応を得られる。それは素晴らしい事だと思いませんか?博士殿?」 「…………」 「あぁ、お忙しいのにお引き留め致しまして申し訳ありませんでした。私の戯れ言ですので、お気になさらず。それでは、失礼致しますね」 どうやら科学者の歩くペースに合わせて歩いていたらしい道化は、そう言い残すと、弾むような足取りでその場から去っていくのだった。そんな背中を呆れたように見送りながら、科学者はふと道化の言葉を繰り返した。 「……塗り潰す」 つまり、道化の言いたかったことはこういうことか。「お気に入りの記憶を何度でも無くしてしまえば、毎回新鮮な反応を楽しむ事が出来る」と。 「……ふむ。とんだ戯れ言だ。相変わらずいい趣味をしている。」 しかし、口ではそう悪態をつく科学者の頭の中では、情報がつながっていく。 安定した資金獲得源、現在研究中の生体ナノマシン、洗脳装置…… 「……まったく、いい趣味をしている」 ——この世界には、少なからず『ヒーロー』が陵辱される様を望む者達がいる。 インターネットのビッグデータから、それは明らかだった。だが、それは世間的にはタブーで、そんな映像は滅多に出回る事などなく、仮に出回ったとしてもすぐに情報統制がかかり、即座に削除されるのだ。つまり、もしもそんな映像を定期的に供給する場があったとしたならば、それが例え有料のコンテンツであったとしても、少なからず金銭を叩いたとしても、観たいと思う者がいても何一つ不思議な事ではなかった。 では、その映像を供給することが出来たのなら。 それはこの組織にとって、安定した資金の調達源となることは間違いなかった。 しかし、科学者の思いついたこの計画にはいくつかの問題点があった。その最たるものは、『ヒーロー』の確保だった。 科学者を中心としたプロジェクトチームは、標的となる『ヒーロー』の選定を行う。 さらにビッグデータからマーケティングを続ける科学者達。『ヒーロー』活動の長いベテランは知名度もあり、ターゲットとなる市場の人気も高い。しかし、ベテランは経験値も高く隙が少ないため手に入れるのは難しい。ある程度の規模を誇るこの組織だったが、『ヒーロー』を捕獲した経験は少なく、そのノウハウの蓄積はなかった。経験値の少ない、かつある程度の知名度を有する『ヒーロー』…… 「『彼ら』などいかがですか?博士」 「ふむ……悪くない」 そこで目に留まったのは。 「『ラピスブルー』と、『スピネルレッド』、か」 画面に表示された、二人組の少年ヒーロー。先日も彼らの組織の構成員を戦闘不能にし、資金調達を阻止されたところだった。 「計画を始めよう」 ——こうして、秘密結社『デモンズ』による『ヒーロー陵辱映像作品化計画』は動き出した。二人の『ヒーロー』の、知らない場所で。