木星の衛星ガニメデ――。
テラフォーミングされた人類の前哨基地である。カイトとその両親は、木星の薄暗い光が氷と岩の地表を照らす居住ドーム内で暮らしていた。ガニメデはまだテラフォーミング途上で、住民たちは全て科学者や資源採掘の労働者だ。
カイトが9歳の時、突然、異星人の艦隊が木星周辺に現れ、襲撃が始まる。地球人類と地球外生命体の遭遇は、戦争だったのだ。
カイトはテラフォーミング技師長である母と一緒に、ドーム内の小さな部屋で木星の絵をスケッチしていた。木星の大斑点を、赤い色鉛筆で雑にぐるぐると塗っていた。飽き始めて、ふと窓の外に広がる氷の平原を眺める。
「お母さん、いつか僕も外で遊べるかな?」
と笑顔で尋ねた。生まれた時からずっと、ドームとその間をつなぐ通路、地下鉱山の中をうろうろするばかりだった。しかし、小さかった頃より、作業員の大人たちが軽装の宇宙服で地表を歩く姿を目にするようになった。母は優しく微笑み、頭を撫でる。
「そうねぇ。もう少しテラフォーミングが進めばね。早くてもあと3年くらいかなぁ」
と笑って答えた。
その時、基地全体に赤い警報灯が点滅し、けたたましいサイレンが鳴り響く。母の顔が強張る。
「カイト、隠れて!」
母が叫ぶと同時に、ドームの天井が轟音と共に吹き飛び、冷たい風と破片が部屋に流れ込んだ。
カイトは簡易防護服に着替えると机の下に潜り込み、震えながら母を見上げる。外では見たこともないタイプのジェットドローンが低空を飛び、青い光線が居住区を次々と破壊した。父が作業から戻る。
「正体不明の敵からの攻撃だ! 避難するぞ! どうやら地球外からの攻撃らしい」
父は母とカイトを抱えようとするが、窓が割れ、鋭い金属の触手が室内に突き刺さる。
「父さん! 母さん!」
金属製の触手が父の胸を貫き血が床に飛び散る。母はカイトを庇い異星人の光線に脇腹を撃たれた。
カイトが最後に見た母の姿は、息絶え絶えに脱出ポッドにカイトを押し込み、発射ボタンを押す後ろ姿だった。
気を失ったカイトが目覚めると、そこは地球防衛軍の巡洋艦の中だった。
敵の奇襲攻撃の第一波は既に終了しているようだ。カイトの耳の奥に響くのは、住民の叫び声と爆発音、そして異星人の機械的な唸り声。怪我を負った体を起こして、船内の窓から遠ざかるガニメデの地表を見る。ガニメデ基地は廃墟と化し、沢山の遺体が氷の上に散らばっていた――。
「うわあああっ!!」
カイトが飛び起きる。
訓練生室の仲間が驚いた顔でカイトの方を見たまま固まっていた。地球防衛軍のエリート部隊『特殊作戦チーム』就任の日になんて悪夢をみてしまったのだろう。カイトは顔を赤くして頭を掻いた。
幼い頃に救出され、地球の訓練施設に連れてこられたカイトは、孤児として他の少年少女と共に戦士候補生となっていた。どんな過酷な戦闘訓練も、怒りと憎しみを糧に乗り越えた。両親の仇討ちと異星人の殲滅だけがカイトを突き動かす。大人たちはガニメデで生まれ育ったカイトの「特殊能力」に気付き、13歳という最年少で特殊作戦チームの隊員として任命したのだった。
カイトは支給された特別な「ヒーロースーツ」を身に付けた。そのスーツこそ、地球を防衛するエリートの証である。そして、カイトの潜在能力を引き出すための特製戦闘スーツだ。
訓練施設の屋上で一人、木星の方向を見つめる。訓練の成果で体は引き締まり、眼光は鋭さを増している。彼の手には、ガニメデで描いたスケッチの破れた紙片があった。
「母さん、父さん。俺、きっと……」
と呟き、涙を拭う。
遠くで訓練仲間が笑い合う声が聞こえ、彼は立ち上がった。訓練施設の鬼教官から特殊作戦チーム配属の通知を受け「カイト、お前ならやれる」と背中を叩かれた。
「はい! 俺、頑張ります! 奴らをこの手で残らず倒して見せます!」
と笑顔で答え、と決意を新たにするのだった。
その裏で動く『強化兵士プロジェクト』の真意も知らぬままに――。
カイトは特殊作戦チームの一員として、地球軌道や小惑星帯での小規模な任務をこなしてきた。初陣では敵ドローンの群れをカイトの電磁波で混乱させる。仲間たちは「ガキのくせに頼りになるな!」と少年を大絶賛し、カイトは信頼を勝ち取っていった。実戦の経験を積み、戦士として成長するカイト。
しかし、防衛軍の戦況には暗雲が立ち込める。
地球側の艦隊は次々と撃破され、生存者の報告からは異星人の侵攻が依然続いていることと、各方面の地球防衛軍敗退の報が伝わる。カイトは基地の窓から火星の赤い光を見つめ、
「俺、もっと強くならなきゃ」
と焦りを募らせ拳を握った。訓練で培った能力も、局所戦では成果を発揮するものの、異星人の戦力には遠く及ばない。心に無力感が忍び寄る。
ついに、敵の前線は火星圏にまで及んだ。
火星地上で異星人の大規模攻勢が始まる。もう、地球に後は無い。敵戦力から概算して、月軌道に到達すれば地球人の敗北は確定だった。
特殊作戦チームは撤退中の部隊を援護する任務に就くが、敵のプラズマ砲と無人機の猛攻に圧倒される。更に悪いことに、火星上空に異星人の母艦がワープアウトしてきたとの報告がチームに入った。奴らはもう勝ちを確信しているのだ。
「俺がなんとかしなきゃ」
隊長が「下がれ、カイト!」と叫ぶ中、カイトは小型戦闘機に乗り込み、単身敵母艦に突進していった。
カイトのナノマシンラバースーツをモニタしている研究所に、上層部からの冷たい命令が届く。
『絶好の機会だ。実験体ゼロ号のスーツを解放しろ。プロジェクトの≪戦果≫と強化兵製造のためのデータの収集を最優先とする』
研究主任が遠隔で制御装置にコードを入力する。
敵母艦内に潜入し、戦闘していたカイトの「ヒーロースーツ」のベルトの制御コアが光り、砕け散った。
「なっ、何なんだ!?」
戦闘中だというのに、体が重くなる。スーツが振動し始め、ダークブルーのスーツの表面が波打ち始めた。カイトの体に熱が走る。
「うあっ、な、何なんだ、どうしたんだ!?」
スーツの繊維が溶けてタールのような粘液に変化し、それが皮膚に食い込みはじめる。
「ぐあああっ!!」
カイトは体を捩って振り払おうとするが、ナノマシンが毛穴から体内に侵入し始め、青黒く光る液体が血管に沿って広がる。
「あ、熱いっ! 体が、体が……焼けるッ…!!」
カイトは床に膝をつき、喘ぎながら壁を激しく叩いた。下腹部でスーツが脈打ち、体内に侵入したナノマシンがペニスに到達した。感じたことのない痛みに身を捩る。カイトは絶叫にも近い声を上げるが、その手が無意識に股間に伸びる。ペニスが膨張し、長さと太さが急激に増していった。
「い……やだ……。こんなの、おかしいっ……!」
ビクンビクンと体をくねらせ、喘ぎながら股間を押さえるが、皮膚に癒着したナノマシンスーツが外側からの圧力でペニスを締め付け、内側からはナノマシンが彼の生殖器を改造していく。ペニスの表面にナノマシンの光る脈が浮かび、棘のような刺激が内側に食い込む。
「がはっ! 痛てぇえ、がああああっ!」
混乱した声が漏らし、激痛に抗う。尿道口が拡張して血と混ざった液体が噴き出す。ナノマシンが神経を刺激し、強制的な射精を幾度となく促す。
「……とっ、止まらねぇ……。こ、壊れる……ッ!」
カイトの体がよじれ、激しい苦痛と、そして『快楽』とが交錯した。
ペニスが肥大化し、体積と重み急激に増す。ナノマシンの生殖器強化改造が加速しているのだ。カイトがスーツ内で射精すると、ナノマシンはその精液を即座に分解し、良質なタンパク質とエネルギーを抽出する。このエネルギーはスーツとカイトの肉体を更に強化し、戦闘のエネルギーとなる。射精のたびに彼の筋力や耐久力が跳ね上がり、カイト自身が持つ特殊能力も向上させるのだ。
スーツが首から頭部へと這い上がる。
ナノマシンが口、耳、鼻腔から侵入し始めた。
「……頭ン中に……イやだ……入っテくる……! まさか、オレ、このタめに……ッ!?」
カイトは頭を掻き毟る。ナノマシンラバーが顔に広がり、頬の皮膚が溶けるようにラバーに覆われる。両手で顔を押さえるが、ナノマシンは眼球にも侵入し、視界が暗転した。口の中にまで流れ込んだナノマシンラバーは舌と声帯を締め付ける。
「うぐっ……あごあゴアッ…!」
カイトの声が途切れる。窒息しそうな勢いで頭部全体が青黒い光沢を帯びたラバーに覆われ、目が赤いスリット状に変化、口は閉じたまま獣のような唸り声を上げた。
カイトの顔面は人間の形を失った。
完全にナノマシンラバーに全身を覆われたカイトは床に倒れ込み、全身が痙攣する。
「俺……? 気持ち……イい…?」
呟きが途切れ、カイトの肉体とスーツが一体化を完了する。
彼の体は、逞しい筋肉のシルエットを露わにし、光沢を帯びた異形の怪物となった――。
ナノマシンは装着者の戦闘中の思考をリアルタイムで読み取り、彼が必要とする能力に応じて形状を変化させる。飛行が必要なら背中に巨大な翼が生え、スピードが必要なら足を大型ネコ科のような獣脚に変形させる。この変形はスーツの外装だけでなく、カイト自身の骨格、筋肉、内臓の細胞をDNAレベルで急速に再構築する。
カイトが空中の敵を狙おうと考えれば、背中から激しい変形が始まる。ナノマシンラバーが肩甲骨の下で膨らみ、骨が砕ける音と共に皮膚が裂ける。
「ぐああああっ! 背中が……っ⁉」
絶叫しながら、カイトの体が跳ね上がる。ナノマシンが骨を溶かし、再構築する過程で、鋭い翼の骨組みが皮膚を突き破り、血と黒い液体が噴き出す。筋肉が引きちぎられ、ナノマシンが翼の基部を形成するたび、ケダモノのように咆哮し、両手で床を抉る。
敵の数が増えて速度が必要となれば、大腿部でナノマシンラバーが蠢き、骨が軋む音が響く。喘ぎ、倒れ込むが、ナノマシンは素早くカイトの肉体を改造する。大腿骨を溶かし、獣脚の形状に変形させると、皮膚が破れ、血と肉片が飛び散る。鋭い爪が内側から突き出し、獣じみた叫びが漏れる。筋肉が異常に隆起し、腱が引き伸ばされて千切れる音が響き、彼は這うように体を動かす。痛みを快楽に変換し、戦闘を継続した。
「痛いノに……きもちいイっ!!」
カイトの肥大化したペニスは何度も脈打ち、射精する。その生暖かさが瞬時に吸収され、全身に力が漲っていく。
この変化は一時的な「獣化」状態ではない。もし戦闘が終了し、ナノマシンラバースーツを引きはがしても、彼の肉体は人間の姿に戻ることはない。
カイトは命と引き換えに、強力な力を次々と獲得していった。
異星人への破壊衝動とナノマシンラバーに支配されたカイトは、波のように押し寄せる敵の機械兵やドローンを撃破して進む。その戦い方はまるで意識と自我、そしてヒトとしてのカタチと命を犠牲にしているようだった。まさに悪鬼そのものだ。母艦の中枢部へと侵入したカイトは、敵軍の機械生命体を統括するユニットに遭遇し、これを破壊した。宇宙空間の敵軍はコントロールを失い、次々と暴走し、自滅していく。
特殊作戦チームの隊員がカイトの救護に向かうが、彼らが敵母艦中枢で見たモノは、仲間ではなく「怪物」だった。
「こ、これがカイト……なのか……?」
その震える声と眼差しは、既に同胞を見る目ではなかったのは言うまでもない。
仲間によって「回収」されたカイトは、電磁抑制装置で拘束され、地球防衛軍研究施設の隔離室に幽閉される。
そこで防衛軍上層部よりカイトに下された決定は、彼を単なる戦力として使い続けるのではなく「生きた研究標本」として転用し、ナノマシンのさらなる研究に利用することだった。防衛軍の戦略AIは、地球外生命体が操る機械生命体の独立先発軍であり、当面、地球外生命体の再侵攻は無いと判断したからだ。それまでに強化兵士製造のノウハウを蓄積し、彼らに対抗しうる十分な軍備――強化兵士を整えるということだ。
ナノマシンラバースーツの強制剥離が実行される。
カイトに知らされぬまま、スーツの強制剥離が準備される。
研究者は、意識がもうろうとするカイトの前に立ち、
「データ収集は十分だ。スーツを剥がし、生体標本として解析する」
と告げた。
「ま、待ってよ……! 俺、まだ……戦え……るよ……!」
カイトの消え入るような声をかき消すように、研究員は分解液を注入する。青黒いラバーが泡立ち、皮膚に癒着した部分が溶け始める。言うまでもなく、ナノマシンラバースーツはカイトの細胞と複雑に融合している。
「うっ、ぐおおおおおっ!!!」
カイトは喉が潰れるような悲鳴を上げ、体が跳ねる。
背中の翼が溶解し、骨格が露わになる。血と黒い液体がカイトの全身から噴き出す。
「……やべてぇ……おで……こっ、壊れるぅ……」
肉が裂ける音が響く。獣脚の爪が引き抜かれ、大腿骨が露出、筋肉が千切れる。
ペニスは剥離に対して特に激しく反応し、分解液で外皮が剥がれると血と精液が噴出する。その様子はまさに、生きたまま生皮を剥がされるケダモノのようであった。
「あぁ……そこ……ああああっ! 熱い……気持ぢいいぃっ……!」
混乱した声が漏れ、神経が焼き切られる感覚に白目を剥く。全身の剥離が完了すると、彼は傷だらけの生身に翼の残骸、爪の痕、異形に変化した歪なペニスが残った。
意識が朦朧とし、実験体の全身の力が抜けるのが目視で確認された。
「……お、おで、……痛い……ぐるじぃ……たすけで……かぁさん……」
剥離後、カイトは無菌室に移され、研究者によって「生きた標本」として管理されることとなる。体にセンサーが取り付けられ、ナノマシンの残留反応や肉体の変形痕が解析される。
「おれ……みんな……守った……の……に……」
掠れた声で呟くが、研究者の耳には届かない。
研究施設への移送が完了し、カイトは地球を救った英雄から完全な「実験用生体標本」と成り下がった……。
ねじゅみ
2025-03-23 16:46:08 +0000 UTCげるげる
2025-03-23 00:29:20 +0000 UTC