趣味で描いている絵本原稿の2冊目です。
大方描き終わった1冊目は印刷•公開するのが嫌になってしまったので、2冊目はちまちま公開しながら描こうかという試み。
1冊目は世界観の説明に使ったようなものなのであらすじさえ分かってればここからでも読める!筈。こっちも勇気が出てきたら加筆してちまちま公開しますね……
1冊目のあらすじ
眩しい真夏の太陽の下、海辺で目覚めた青年は自分が記憶喪失に陥っている事を知る。鎖国中につき余所者にめちゃくちゃ厳しい国で彼は身元不明人「ジョン・ドゥ」として新聞で悪し様に書き立てられ、一方的な裁判の末一度は目潰しの上、地下にある牢獄世界での終身刑を言い渡されるも、執行直前に駆けつけた女王の特赦を受け、すんでのところで救われる。
女王によって国1番のホテル「グランド・ホテル・エルドラド」の一室を与えられ、一生遊んで暮らせる待遇を受けたジョン・ドゥ。しかし暇すぎ &流石に申し訳なすぎにつき使用人として地下のバーで働く事に決めたのだった……。

息抜きにちまちま描いていたうちの子春服コレクション。私自身が春の色が苦手なため言うほど春服か…?秋服コレクションの方が春っぽくなかった……?って感じだけど、可愛いからよし。 今回のコレクションは丁寧めに書いたのでキャラ紹介も兼ねて記事にします。 ○グランドホテル・エルドラド 王室御用達のグランドホテル。...
人物紹介。
雑相関図。
2冊目はホテルの3人と画家とメイド……あと強いて言えば新聞記者だけ分かればなんとかなる。ヴィオラ、リスト含めその他の子はちらっと出てくる程度です。
偶然の再会は惜しみなく降り注ぐ眩しい初夏の日の下、冗談のように同じ曲がり角で起こった。
シグルーンの口聞きで始めたグランドホテル・エル・ドラド地下のバーでの仕事にも段々と馴染んで、最初はむず痒く感じたボーイの蝶ネクタイ姿も板に着いたように思う。女王の鎖国政策によりホテルの宿泊客は疎らで客室係は閑古鳥と仲良くしているようだったが、地下のバーについては街での労働を終えた中流階級から物見遊山の貴族階級まで広く親しまれている為その煽りは受けず、仕事は毎日山のようにあった。最近ますます磨きをかけるシグルーンの歌声も噂され、この幼く美しい地下の歌い手の歓待を受けるのはこの街の富裕層の間で一種の流行のようになっていた。
私はそんな彼らの眉の動きひとつで馳せ参じ、オーダーを受け、グラスを運び、床を磨き、氷を削り、更に運の悪い日には本来睡眠時間である日中に眠い目をこすりながら市場へ買い出しに出なければならなかった。
国一番のホテルたるグランド・ホテル・エルドラドの品位にかけて、ネクタイの歪みやシャツのよれは一寸たりとも許されない。全て完璧に、お客様の安らぎのために。ほとほと気疲れする。
つまるところ私の生活は激務だったのだ。それを言い訳にするつもりは無いが。
バーの営業は深夜三時までだ。短針が水平に傾いたらすぐに、睡魔に勝てずソファで船を漕ぐシグルーンをクラウスの部屋に抱えて行ったり、酔いつぶれた客を上階の客室へ届けたり。あまりに素晴らしいソファの座り心地故かこれがやたらと多いので支配人の頬は緩むが、彼らを運ぶボーイ達はたまったものではない。
それが終わるとフロアの片付けと、仕込みをするクラウスの手伝いがある。不運な日には自室に戻る途中に上階からお呼びがあって、人手が足りないレストランの準備に駆り出される。丁度朝食の準備が忙しなくなる時間帯にぶらぶらと廊下を歩いている方が悪いという事だ。仕事を全て終えるとスタッフ専用の食堂でまかないの食事をとる。仕事前の軽食と合わせて1日に2食という点もなかなか厳しい。寝支度が済んだ頃には短針はとうに下を向き、空は紫がかった朝の色を見せていた。
ベッドサイドテーブルに鎮座する小さな置き時計は、物の少ない私の部屋の中で主人の様な顔をしてちくたくと時を刻んでいた。この生活習慣にまだ不慣れだった頃、朝寝坊ー正確には朝ではなく夕寝坊になるのだろうかーを繰り返す私のためにクラウスが裏通りの時計屋で買い求めて来たものだ。代金は翌月の給料から引かれていたが……この目覚まし時計は毎日律儀に午後三時をうるさく喚き私を起こした。今日に限っては海辺の酒屋まで足りない酒類を買い足しに行かなければならないため、午後一時に鳴るように仕掛けた。
目覚まし時計は今日も正確に仕事をこなした。
彼を黙らせて二度寝の誘惑に負けそうな体をベッドから無理やり引きずり出す。遮光のため分厚く何層も重ねたカーテンを開けると、外は目が灼けるような眩しさだった。部屋も重い瞼を開けたように、埃をきらきらと舞わせた。
急いで身支度を済ませて裏口から通りへ出る。昼下がりのこの時間大通りは影が少ないので、涼し気なせせらぎを求めて川沿いの道を選んだ。テオに連れられてこの道を初めて歩いたのはもう1年近く前になる。働き始めた当初、買い出しに使わされる度に迷子になっては道行く人にホテルの場所を尋ね歩く羽目になり、ついには王都を遊覧していた宿泊客に帰り路を尋ね、手を繋いで連れ帰って頂いた時は、氷のように無表情なあのクラウスが激怒を通り越して失笑していた。今となっては慣れ親しんだ街だ。方向音痴の頼りない新人ボーイというレッテルに描き変わったことにより、お尋ね者ジョン・ドゥの汚名も雪がれ……たのだろうか。どちらにせよ、露店の商人に挨拶をしてもらえる位にはここに溶け込んでいる。
「ジョン。忙しいのはわかるが、接客業なんだから寝癖は直した方がいいな」
カウンターでエル・ドラド・タイムズを読んでいた店主が、ドアをくぐった私を一瞥して言う。
酒屋の店主とも馴染みになった。基本的にバーで提供する飲食物は定期的に卸売りに発注をかけてホテルまで配達を頼んでいるものの、在庫切れというものはいつ起こるともしれないもので、昼間にこうして昨晩空になった瓶をまとめ買いに来る事もあれば、珍酒を偏愛するVIP客の来店など喫緊の事態に迫られ夜中に大急ぎで駆けてきて扉を叩くこともあった。迷惑な客として記憶に残るのだろう。
「はぁ、地毛の癖が強くてなかなか……このリストの分欲しいんですけど」
「あぁ、今日もクラウスのお使いか?この暑いのにご苦労な事だね」
店主は言いながらクラウスのメモに目を通し、棚から酒瓶を集めてくれた。様々な瓶やラベルが極彩色を輝かせ所狭しと立ち並ぶ中から、酒に疎い私が目当てのものを見つけるのは殆ど宝探しの域になる為、店のドアをくぐってから先は全て彼に任せている。
「ジョン、お前籠か何か持ってきてないのか?」
「あ、まずい。寝惚けてて忘れた……」
ベッドの下に買い出し用の籠を置いていたのを、すっかり忘れていた。
「仕方ない奴だなぁ。古い籠だけど、店に余ってるのがあるから使いなよ」
「すみません、わざわざ」
また明日にでも返しに来ます、と申し出たが、店主は手を振って「もう壊れかけみたいなものだから」と言う。有難く厚意に甘えた。
確かに今にも底が抜けそうな藤のバスケットに、メモ通りの酒瓶を7本詰めて店を後にした。とうのたった持ち手が指にぐっと食い込み、籠がぎしぎしと苦しそうな悲鳴をあげた。重心を右に左にふらふらと眩しい街を往く。
海辺の街は相変わらず人が多い。その騒がしさときたらいつも祭りをやっているみたいだ。売り買いや噂話をする人の声に、波の音、船の汽笛、鴎の羽が風を切る音。その上、何か催し物があるのか道のあちらこちらに何やら旗やリボンが飾られていて余計に賑やかだ。なんの知らせだろう、用品店の入口に掲げられた旗に目を凝らしてみる。海風に煽られてたなびくそれは、どうやら王立美術館の宣伝のようだ。新気鋭の若手から巨匠と呼ばれる玄人画家まで、国中の絵描き達による今年最大級の作品展……初日は女王陛下もご来場なさるご予定で云々……
よそ見をしていた肩に誰かがぶつかり、石畳を踏みしめるはずだった右足は左足にひっかかり、背中が代わりに地面に叩きつけられた。どんがらがっしゃん、とでも言おうか、いっそ滑稽な音がする。呆然としていると、体の後ろについた手がひやりと何かに濡れた。そしてツンと香るこのアーモンドのような匂い……振り向いて見ると酒瓶が割れて、特に粉々に大破したアマレットの瓶が私を馬鹿にするかのように陽射しをきらきら反射して輝いていた。バスケットの底がとうとう抜けたのだ、きっと私が何かにぶつかって転んだ拍子に。
「あぁ、本当に壊れかけだったんだ」
酒屋の店主に何も非はないのだ。割れた分の酒代は私の給料から差し引かれる事だろう。後悔しても仕方が無い。これに懲りて次からは絶対に籠を忘れないはずだ……と、私の上にかがみ込む影に気づく。
「あの、貴方もしかして、あの記憶喪失の……」
切りそろえられた暗い色の前髪に、白いエプロン。何より印象的なのは猫のように大きく茶色い三白眼。見覚えがある。
「あっ!えっと……レナーテさん!」
1年前、私が浜辺で目覚めた日に十字路で鉢合わせして大惨事を引き起こした、あのメイドの少女だった。偶然にも同じ道角であった。
「お怪我はありませんか?ごめんなさい、今回は絵を運んでた訳でもないのに」
「いや!私が悪いんですよ、こんな古い籠で、しかも余所見して歩いていたから……」
言いながら、おかしさが込み上げてきた。私たちはこんなびっくり仰天な出会い方しか出来ないのか。
それは彼女も同じようで、私と顔を見合わせて、くすくすと押し殺したような笑いを漏らす。
気にしないでほしいと伝えたが、彼女は私と一緒にガラス瓶の破片を拾い集めて酒屋へ戻り、買い直した酒を詰めるバスケットを貸してくれた。酒屋の店主は私の話を聞くと腹を抱えてげらげら笑い、自分の籠のせいでもあると言って代金を三割引にしてくれた。
「このままじゃ悪いから、バーまでついてきてくれませんか?何かお礼が出来るはず」
「良いんです。去年、ジョンさんが私のせいで捕まって大変な目に合っていたのをずっと心苦しく思っていたので」
そういって固辞する彼女に無理を言って、開店前の地下のバーのカウンター席に座らせた。彼女はこういった店を訪れた事もない様子で、舞台やシャンデリアを物珍しそうにきょろきょろと眺めていた。
「ジョンさん、グランドホテルで働いているんですか?」
「下働きだけどね。レナーテ(彼女が敬称は不要だと言い張ったのだ)、このホテルのこと知ってるの?泊まったことある?」
「まさか!王室御用達の高級ホテルに、メイド風情の私なんかが泊まれる訳ないでしょう。でもグランド・ホテル・エルドラドを知らない国民なんて居ませんよ……それに、昔母がここで働いていたんです。事故で亡くなっているので、お会いになった事はないでしょうけど」
そう答えるレナーテの口調はあっさりしていて、その事故にも亡くなった母親にもあまり執着はなさそうに見えた。しかしこういったデリケートな事は触れないに限る。私は話題を逸らした。
「メイドだからどうって事はないよ。例えば君のご主人様の旅行のお付きとかでさ……ほら、近郊のお金持ちが王都に来る時にはよくここを使うんだ」
そう言うと、彼女はおかしそうにくすくす笑った。
「まあ、先生がこんな立派な所になんて……天地がひっくり返っても来るわけがありません」
「先生?」
「取調べの時、私、ブラックウッド領の森の奥に住んでると言ったでしょう?とっても変わり者の画家先生に雇われて、そんな辺鄙な所に住まわされているんです。彼女は『ご主人様』と呼ばれたり、慇懃な態度でお嬢様扱いされるとご機嫌斜めになるので、『先生』」
それで一年前のあの日、レナーテは何枚もの絵を運んでいたのか。彼女の口ぶりは雇い主の説明をするというよりも、仲の良い友達の話をする様に聞こえた。
「もしかして、今度王立美術館で催されるサロンに、君の先生も出展なさるの?」
「私はそうしてほしいですけど、彼女は嫌がるでしょうね。そもそも先生は全く無名の画家ですし、今まで絵を持ち込んだ画商は二束三文でしか買ってくれませんでしたから、あんな大きな展覧会には出典出来るかどうか……」
「画商に絵を売ってるんだ。お屋敷持ちのご主人様なのに?」
「正直少し家計の工面が厳しくて……いえ、お金には全く困っていない人なんですけど、色々難しくて」
彼女は困ったように言葉尻を濁す。こちらの方向の話も避けた方が良さそうだ。1年ホテルで人に揉まれながら働いて、ようやく突っ込んではいけない話題が見えるようになった。最初は見えている氷山に舳先から突っ込んで沈没していたのだ。私は彼女の『先生』の話に舵を切る事にした。
「いい絵を描く画家さんなの?」
「私に絵の善し悪しは分かりませんけど、素人目には天才に見えます」
レナーテは自分の話でもないのに少しはにかみながら断言した。この話題はいけそうだ。何か飲み物を出した後、レナーテの先生について聞くことによう。
無理を言って連れてきたものの、せいぜい仕込みを手伝う程度の私には殆どバーテンダーの技術はない。クラウスに頼もうにも、彼はまだ寝ているだろう。時計は午後3時半、6時の開店までまだまだだ。小難しいカクテルは諦めて、クラウスが作り置いていたレモンと蜂蜜のシロップを拝借して冷やしていた瓶の炭酸で割り、簡単なレモネードを出した。
彼女は恐縮しながらそれを一口飲み、話し始めた。
「私が先生に出会ったのは、もう4年も前になります」
次回⬇️

前回⬇️ 王宮から城下の街へ続く橋の方まで足を伸ばしたのは久しぶりだった。決められた規則通りに生活していると、おのずと女学院の外に出る事も少なくなる。ブラックウッド領から王都まではそう離れてはいなかったけれど、学院の生徒に路面電車の運賃に充てる余分な金を持っている者などほとんど居なかった。家政専門学...
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