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弐宮幽二@R18小説
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(R-18)進捗【オリジナル】イヌ娘6 04

イカやりたいけど、まだそのときではない……。


――――――


 渡辺は山容ノ湯へ行ってみることにした。

 途中で会うかもしれない。その考えは当たらずといえども遠からず。

 湯殿に続く階段は、曲がりくねりながら上へと続いている。それは下の廊下の窓からも窺うことが出来る。渡辺はなんとなしに見上げ、自らの目を疑った。女将が、肝田に肩を抱かれるようにして降りてくるところが見えたからだった。

 いったい、なぜ、どうして、なにがあった、いつの間に……。

 ぐるぐるぐるぐる疑問が頭の中で渦を巻く。喉がぎゅうっと締め上げられる。胃が、鉄の塊でも飲み込んだように重くなる。渡辺はハッとして、来た道を戻ると廊下の角に隠れた。もう二人が下に着きそうだった。見つかったら困る。そう思った。でも、よくよく考えてみれば、なにが困るというのか……。

 じゃあ「やあ」とでも声を掛けに行く? まさか。

 出られず、かと言って、二人も気になり、渡辺はじっと息を潜めて覗き続ける。

 それも長くはなかった。

 階下に着くと肝田は、霜華の腰に腕を回し、ぐっと引き寄せ、唇に吸いついた。貪るようなキスが、ねちゃねちゃと粘液の音を夜の静寂に響かせる。霜華も霜華で彼の背中に両腕を回し、腰をくねらせていた。

 ここにいてはならない――渡辺は、調理場まで静かに駆けた。逃げ出したのだった。いずれ、その逃げ込んだ先に彼女がやってくることはわかっていた。それまでに、破裂しそうな心臓をどうにかこうにか落ち着かせた。嫌な汗で濡れた背中が冷えて、気持ち悪い。

「ごめんなさい、少し遅くなっちゃった」

 と、調理場にやって来た彼女は、いつもと変わらぬように見えた。

「……あら? 渡辺くん、どこか調子悪い?」

 従業員の些細な変化にも、すぐ気が付くところも。

「今日は、先に休んでもらっても」

 その優しさも。

「……いえ、大丈夫です」

「そう? 無理はしないでね? 明日もあるんだし」

 涼やかな微笑も。

「それじゃあ、ぱっぱとやってしまいましょうか!」

「です、ね」

 それは本当に、自分を気遣っての言葉なのだろうか。

 あの光景を見た後には、渡辺は素直に喜べなかった。

(霜華さんの唇……濡れてなかった……)

 掃除の最中も、どうしても、あれが脳裏をチラついてしまう。

(どうして、あんな男と……)

 見間違いのしようもない。

(キスだけ、か? まだ、それだけ、なのか? ねえ、霜華さん……)

 渡辺はちらりと背後を窺う。

 彼女はお尻をこちらに向けて、シンクを磨いている。着物に包まれた丸いお尻は、むっちり大きい安産型。それが左右にフリフリと揺れている。亡き夫にだけ許してきたはずの、その体。それを、もう、あんなブ男に明け渡してしまったのだろうか。

(だ、だったら……!)

 渡辺は意を決し、彼女に抱きつこうとして――出来なかった。

 出来るはずがない。そんなレイプまがいのこと。

(……あ、そうだよ!)

 それが彼に、こんな気付きをもたらした。

(レイプだ! レイプされたんだ! あいつ! 記者だから……旅館の評判を盾に!)

 でなければ、亡き夫に操を立てている霜華が、キスするはずがない。

 ましてや、それ以上のことだって。

 渡辺は確信していた。今までずっと霜華を見てきたのだ。霜華はそういう|女性《ひと》なのだ。

(霜華さんを……あの野郎! 許せない!)

 そうこうしているうちに掃除は終わった。

 明日の客室のチェックも本当はする予定だったが、

「それは朝一にして、今日はもう、休みましょう」

 こんなときにも体調を慮ってくれる霜華を思って、渡辺はますます肝田への義憤を募らせた。

(絶対に証拠を掴んでやる!)

 仮眠室に戻ると、彼は耳を澄ませた。

 思った通り。すぐに隣の仮眠室のドアが開く音がした。

 彼もまた、ひっそりと部屋を抜け出し、霜華の後を追いかける。

 行き先はやはり、肝田のところだった。

 しばし間を置いてから、合鍵でそっとドアを開ける。靴を脱ぎ履きするためのスペース――踏込には女将のスリッパが無造作に脱ぎ捨てられていた。前室と主室とを隔てる襖がわずかに開いている。渡辺はスマホのカメラを起動させて、そこから中を窺った。天井から吊るされた行燈の、ほのかな橙色の明かりのもと、二人の姿が浮かび上がる。


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