まだ三か月も経過していない新品の畳が敷かれた和室には、畳に使用されるイ草特有のリラックス効果がある若草の香りが微かにする。室内には長方形の座敷机とそれを囲うようにふかふかな座布団が置かれており、襖で仕切られた奥にある木綿の和布団が敷かれた寝室も含めて、旅館の一室を思わせる造りをしていた。
ここは和室でないと落ち着かない和鯖系サーヴァント達のために、使用されていない部屋を改築して用意された内の一室となっている。日本人の遺伝子に刻まれた安心感を覚える空間、そこでは男女が二人だけの”酒盛り”をしっぽりと開いていた。
「んぐっ、んぐ……っ。ぷはぁーーっ。にゃははっ! やっぱりお酒は良いものですねぇ。この”生中”なるものも天下一の越後のお酒とはまた違った良さがありますっ」
「ははは……本当に”景虎”さんはお酒が好きですね。それにしょっぱい物も」
「はいっ! お酒のあてには塩と梅干が一番ですから。一舐めするだけで沢山のお酒が進みますっ」
対面するように座った方がスペース的には余裕が出る筈なのだが、黒髪の青年と所々に黒いメッシュが入った長い銀髪の美女が肩を寄せ合うように並んで座っている。
塩や梅干しをつまみにして豪快に生ビールをゴクゴクと飲み干している彼女こそ戦乱の世で日本無双の武将と謳われ、死後には"軍神"と称された越後の戦国大名——”上杉 謙信”その人であった。真名としている”長尾 景虎”は元服後における初名であり、自分の死因になったアルコールと塩分を口にしている訳だが、全く懲りていないのか日本酒や洋酒を並べながら飲酒という行為そのものを楽しんでいる。
景虎は古今東西の英霊達の中でも屈指の酒豪であり酒好きを集めて五時間にも及ぶ飲酒をぶっ通した結果、他の面々が死屍累々となっても変わらずお酒を飲み続けられる傑物であり、誰が言ったか『SAKENOMI』と称されるのに相応しい人物であった。
「バレンタインの時に酔わないって言ってたから、本当にお酒の味が好きなんだね。俺はまだ味の良さは分かってないけど、景虎さんを見てると美味しい気がしてくるよ」
「むふふぅっ。そうでしょう、そうでしょうっ! お酒と戦いは”楽しい”ものですからっ」
このように三度の飯よりお酒と戦いが大好きである景虎と主従の契約を結ぶ青年——”藤丸 立香”は、彼女の飲酒に付き合う形でチビチビと舐めるようにお酒を嗜んでいる。
半ば拉致される形でカルデアに連れて来られた当初は、マスターもまだ法律的に飲酒することが出来ない年齢であった。だが、七つの特異点からなる人理焼却や断続的に発生する亜種特異点の解決に奔走する間に月日は経ち、気付けばお酒を飲める年齢となっていたのである。
他愛の無い世間話から景虎にお酒を飲めることがバレてしまい、それからは半ば強引に晩酌に付き合わされる形となり、休肝日以外には二人で飲むことが習慣化していったのだ。
「んぐっ、ふぅ……っ。生前はうさみんに見付からぬよう隠れながら一人で飲むことが多かったですが、今は其方と共に杯を酌み交わす方がより美味しい気がします」
「それは嬉しいな。……召喚した頃より信頼して貰えたんだって」
どれだけお酒を飲んでも酔っ払うことが無い体質である景虎とは異なり、頬を赤らめて酔い始めているマスターは彼女を召喚した当初のことを思い出している。
『——思うに、この”長尾景虎”をサーヴァントとして使役するとは、其の方、まさに天をも恐れぬ不埒者よな……あははははは! なーんてね、戯言です、許しにゃさい』
普段通りの笑みを浮かべながらも瞳のハイライトが消えている景虎は冗談という体にしていたが、当初はただの弱き人に使役されるという状況に少なくない不満を抱いていた。
景虎は生まれ付き本当の意味では”人”というものが分からず、自身が人間として欠如していることも自覚している。毘沙門天の化身を名乗っていたように神に近しい視点を持っているからこそ、彼女は弱くて理解することが出来ない人間に使役されることを快く思えなかったのだ。
いつも通り笑ったままの表情をしている景虎だが、マスターの言葉に驚いたのか僅かに目を開いている。
「——っ、気付いていましたか」
「こうやって親しくなったからこそだけどね。実際に俺は景虎さん達の力を貸して貰ってる側だから当然だと思うけど」
人理の危機という緊急事態だからこそ英雄や王、神まで力を貸してくれていると理解しているマスターは、出会った当初の景虎が自分との関係に不満を持っていたことも当然と受け入れている。どちらかと言えば冗談ということにしながら進んでも戦いが好きなため力を振るってくれる彼女に対して、彼は感謝の気持ちしか抱いていなかった。
気付けば空になっていた景虎の杯にお酒を注ぎながら、マスターは改めて日頃の感謝を伝えたのである。
「いつも戦ってくれてありがとう。景虎さんには本当にいつも助けられてるよ」
「————っ、あは……っ! あははははははははっ!!」
どのような感情であっても”笑う”ということでしか出力出来ない景虎は、大好きなお酒が零れることさえ気にせず大声を上げて笑い続けた。決してお互いのことを完全に理解する日は来なくとも、自分という存在を受け入れ傍で笑ってくれるどうしようもなく”か弱い人間”を愛おしく思ったのである。
「はははっ! ふぅ……っ。ほっ、本当に我が身の全てを賭けるに不遜の無い”人”ですね」
「んっ? 良く分からないけどこれからも力を貸してくれるってことかな」
「えぇ、存分に力を振るいましょうっ! 其方のために全てを捧げますにゃぁ♡♡ ささっ、もっと飲んで下さい今夜は無礼講ですっ」
自分の中で燻っていた積年の思いが弾けた景虎は、元から距離感が近かったがマスターにしな垂れ掛かるようにくっつきながらお酌をした。テンションが上がっているのか猫のような声を上げており、もっと傍に居たいという思いが行動として表れている。
動物のマーキングのように肢体を擦り付けている景虎の良い匂いや身体の柔らかさを感じてしまい、酔っている状態であってもマスターはどぎまぎして異性として意識してしまう。
「————っ。かっ、景虎さんっ。そっ、その……当たってます」
「むふふぅ……っ♡♡ 何が当たってるんでしょうか? んっ、ふぅ……っ♡♡ 私にはてんで見当が付きませんっ」
善意から指摘するマスターの背中や肩、二の腕などに十分過ぎる程に大きくて柔らかく、それに形も良い美乳を押し当てる景虎は、彼の反応を楽しみながら動物のように自分のニオイを擦り付けている。異性として意識して下腹部に血流がドクドクと集まってしまいそうになるマスターは、戸惑うことを止めておっぱいが当たってることを伝えるのであった。
「おっ、おっぱいが当たってるんですっ」
「ふふっ、それは気が付きませんでしたっ♡♡ ですが良いでは無いですかっ♡♡♡ 嫌では無いのでしょう?♡♡」
「うっ、それはそうだけど……っ」
「それよりお酒を飲む手が止まっていますよっ。ついでに私にも飲ませて下さいっ♡♡♡ にゃーっ♡♡」
元から押しの強さでは他の追随を許さない景虎にマスターが勝てる筈も無く、柔らかくて良い匂いのする女体を擦り付けられながら更にお酒を飲まされていったのである。彼はズボンの上からでも丸分かりな位に巨大なテントを張ってしまうのだが、彼女はそのことは指摘せずに口元に持ってきた貰った杯からお酒を飲んで楽しむ。
「こうやって身を寄せ合うのも悪くないですねっ♡♡♡」
「そっ、それはそうかも知れないけど……っ」
それ以外にも景虎はマスターの首に両腕を巻き付けたり、ピンと伸ばした人差し指で身体の輪郭をなぞるように滑らせた。面白い位に反応している彼に楽しくなってしまったのか、腕をおっぱいの谷間で『むにゅぅっ♡♡♡』と挟み込んだり太ももを撫でたりする。
異性として意識しないようにマスターはお酒を飲んで誤魔化すのだが、気付けば普段よりも飲酒量が進んでしまう。首筋が赤くなり視線の焦点が定まらなくなり見ただけで酔っ払っていると分かる状態となっている彼は、理性が蕩けているのか我慢し切れなくなり、景虎のおっぱいや白くて眩しい太ももに視線を外せなくなっていた。
「はぁ……っ、ちょっと飲み過ぎたかも」
「ふふふっ♡♡ 私も飲み過ぎてしまいました♡♡♡ それに身体も火照ってきましたね……っ♡♡」
「な——っ」
そう口にした景虎は僧兵を思わせる和風の戦装束を纏っていたのだが、肩やお腹の辺りを守っている鎧部分を外して、身体を覆う白布をしゅるりと解きながら身軽であり露出面積が増える格好となっていく。突然、脱ぎ始めてしまう景虎に対して注意することも視線を外すことが出来ないマスターは、その女性的であり美しい肢体に見惚れてしまっている。
最終的にレオタードのような黒いインナーだけの姿となり、抜群のスタイルや白くて滑らかな肌が晒されるのであった。
「ふぅ……っ♡♡ これで大分涼しくなりました♡♡♡ 何だか熱い視線を感じる気もしますけどっ♡♡」
「そっ、そのごめん」
「全然構いませんけどねっ♡♡♡ ふぅっ♡♡ ……それよりも酔っ払って眠くなってきましたねっ♡♡」
景虎は露出度の高い恰好をしたまま立ち上がって、明らかに酔っ払っていないしっかりとした足取りのまま、襖に仕切られた奥にある寝室に向かったのである。黒のメッシュの入った艶やかな銀髪と共に左右にふりふりと揺れる形の良い桃尻にマスターは視線を奪われるが、襖を跨いだ時に彼女は振り返って自分の状態を口にするのであった。
「酔い過ぎて”何をされても起きない”ですっ♡♡ 多分、身体を触られても気付かないですからっ♡♡♡ 後は好きなだけお楽しみ下さいっ♡♡」
「————っッ!??」
期待しているという気持ちが籠もっている流し目を景虎にされ、明らかに夜這いのお誘いにマスターの血液は沸騰してしまいそうになる。閉じられた襖の先には自分を待っているメスがいるという俗に言う”据え膳”であり、ほんの少しだけ迷った彼だが立ち上がって襖の前まで移動した。
これまでの誘惑と飲酒により理性が蒸発していたマスターは、僅かに躊躇したが結局は閉じられた襖を開けたのである。
「景虎さん、入るよっ」
「————っ♡♡♡ すぅっ♡♡ すぅーーっ♡♡♡」
間違いなく起きている景虎は狸寝入りを決め込み、布団の上で仰向けの体勢になっていた。
【お年玉企画 第一弾】 長尾景虎は誘惑した後に狸寝入りを決め込み、 マスターにお仕置き酔姦でハメ潰されてしまう 前編