狼と武虎がはじめて出会った時の出来事を、SSとイラストにしてみました。
どちらが勝つのか、ぜひ想像しながらご覧いただければと思います。
登場人物
① 武虎…突然ジムにやってきて、試合に出させろと言ってきた頭の悪いヤンキー
② 狼 …感情表現の乏しい、顔のきれいでまじめなジムの練習生。
窓の外から、雨の降る音が聞こえる。
『シーサイドジム』の窓の先には国道が伸び、さらにその先には海が広がっていて、波は穏やかだが、空の色が映り込む海面は、薄暗い灰色に染まっていた。
そんな金曜日の夕方の、まだジムが開く前の時間、
他のジム生よりも早めの練習を希望した狼は、コーチの配慮で特別にジムを開けてもらい一人で練習していた。
新学期が始まり、今日で中学3年になった狼。
クラス内に仲の良い友達もいないため、今日も学校が終わり、家に帰ってからすぐに「シーサイドジム」へ行き、キックボクシングの練習をすることは、前日のうちに決めていたことだった。
ジムへ向かう道の途中には、満開のソメイヨシノが雨粒で花を散らし、地面は桜色に染まっていた。
少しだけ湿ったジムの室内、外が薄暗いせいか蛍光灯の青白い光が強く感じる。
狼は普段通りにストレッチを行った後、鏡の前に立ち、シャドーで動作確認を行った。
「シュッ、シュッ、シュッ」
パンチやキックの基本動作を丁寧に確認する狼は、体にフィットした黒のトレーニングウェアを着ていて、汗で少しだけ湿り気を帯びていた。
そのとき、突然入り口のドアが開いた。
「すんませーん」
誰だろう、聞いたことのない声だ、と狼は思った。
狼が入り口を見ると、金髪で肩を少し濡らした学生服の青年が立っていた。
背は高く大きな体をしているが、自分と同じくらいの年齢のように見える。
一瞬動きを止めた狼だったが、再び鏡に向き直り、シャドーの続きを行う。
すると、金髪の青年は、入り口に傘を置き、ズカズカと中に入ってくる。
そして、狼の脇までやってきて「なあ、あのさ、ここのジムって試合出られんの?」となれなれしい口調で聞いてきた。
唐突な質問に、狼は首をかしげる。
「まあ、出られるだろうけれど。てか、誰?」と、狼は練習を止め、目を細めながら少し不快そうな声色で言った。
「あ、悪りい、オレ武虎っていうんだけれど、試合出たいんだよ、ボクシングの」
狼は再び首をかしげる。
意味を図りかねて言葉を返せずにいると、武虎は「別に、練習とかいらなくてさ、オレ、ケンカめっちゃ強いから。とにかく試合出たいんだよ、試合」と言って、狼に向かって軽いパンチの動作を数発見せてくる。
動作が大きく無駄があるものの、動きにキレのあるパンチだ、と狼は思った。
武虎と名乗る青年は、さらに相手をつかんで膝蹴りをする動作や、ボディにアッパーをかます動作を狼に見せる。
狼は、近くで見ると武虎は自分より体は一回り大きいと思った。
袖のめくられた腕の筋肉はかなり太く、学生服を着ていてもわかるほど胸板は厚かった。
野性味あふれる風貌や圧のある話し方から、確かにケンカ慣れしていることが容易に推測できた。
「で、練習しないでいきなり試合に出て勝つつもりなのか」と、狼はつぶやくように言うと、「そう、それ!」と、武虎は元気よく狼に向かって指をさした。
しかし狼は「それは、無理だ。キックボクシングは、ケンカとは違う」と言った。
「あ?なんで」と、武虎は怪訝そうな表情で狼に詰め寄る。
「わっかんねーかな、お前。見ろよオレの体」と言って、武虎は着ていた学生服を脱いで、床に投げ捨てる。
すると、真っ赤なタンクトップから、筋肉質な腕や胸が立体的に盛り上がり、狼の想像していた以上にたくましいごつごつとした体が現れた。
「よし、せっかくだから、オレの強さ、見せちゃいますか」と言って、武虎は突然その場で、学生ズボンを脱ぎだし、カバンからハーフパンツを取り出し履き替えはじめる。
「よしオッケー。じゃあオレの強さ、実際に見せてやるよ。ってか、あれ?ここの偉い人って、どこにいんの?」
「今はオレだけ。でも後で来るはず」
「ふーん」といって、それから武虎は狼の体を舐めるようにじーっと見つめる。さらに、顔を念入りに眺めるので、狼は一歩後ろに下がった。
「なるほど、確かにお前もそれなりにいい体しているんだな。よくトレーニングした、引きしまった体しているよ。でも、そんな色白できれいな顔してちゃ、試合で闘うってわけにもいかねーんじゃねえの。お前さ、その顔殴られても耐えられるのか?その点オレはさ、めちゃくちゃ体もでかいしケンカ強えーし、ダメージ受けても耐えられるし、だから、試合出て勝つのも余裕ってわけ」
「ふーん…」と、興味のなさそうな返事を返した狼。
「は?てか、なにお前。なんで笑ってんの?」と、武虎はイラついた表情で狼をにらみつける。
いや、別に、と言いながらも、狼はほくそ笑む口元を軽く手で隠す。
「なに、お前。ここのジムの生徒?ぜんぜん覇気がねえけれどさ、強いの?」と、武虎は少しバカにしたような、狼を見下すような言い方をして腕を組んだ。
「まあ多分、お前よりは強い」冷静な物言いで、狼は答えた。
「はあ?オレよりお前の方が強いって!?お前、本気で言ってんのか!」
武虎の語気が荒くなる。
「別にオレは強くない。けれど、お前よりは、強いと思う。なぜなら、」と、狼は続きを言い終える前に、武虎の目つきが変わったことに気付いた。
見かけによらず良い根性してんじゃん、と小さく呟き、武虎は狼に向かって顔を近づけ威圧感を放つ。
「誰が、お前より弱いって?もう一度言ってみろよ、オラ」と、武虎は威圧しながら狼に睨みをきかせ、顔を近づける。
その態度にムッとした狼は、武虎の目をじっと見たまま、ぐっと顔を無言で近づける。
その態度に、武虎は一瞬ひるんだ。
え、なんだよこいつ。
オレが威圧してんのに、なんで怯まねえの?と、武虎は思った。
てか、オレに向かってさっきから態度がエラそうだし、すっげえむかつくんだけれど。
「悪りいけれどさ、お前、マジでやっちまうぞ」と言って、武虎は狼に向かって顔面すれすれに怒り顔を近づけ、眼光するどくメンチを切る。
だが「弱い犬ほど、良く吠える」と静かに言って、狼も武虎にさらに顔を近づけ、睨み返す。
冷静な瞳の色。
けれど、内側から湧き出る闘志を感じた武虎は、さらに狼に顔を近づけ、とうとうお互いの額や鼻がくっついてしまう。
けれど、それでもお互い引き下がらず、武虎は狼の額に自分の額を擦り付けながら「んだよ、てめえ」と言い、負けずに狼も、武虎の額を自分の額で押し返す。
そうやって、顔を動かすごとに頬や鼻が触れ合うが、お互い一歩も譲らず、にらみ合いはしばらく続いた。
そして武虎は、狼の胸元をつかんで「そこまで言うんなら、そこのリング使って勝負するぞ」と言った。
狼は黙って武虎の手を振り払い、それから「わかった、受けて立つ」と答える。
そして、棚に置かれたレンタル用のグローブやファールカップを取り出し「これ、使え」と、武虎に渡して、リングの上に入っていった。
しかし、リングに上がった瞬間、狼は頭が冷静になった。
やばい。
本当はコーチや大人たちの許可のないままスパーリングをするなんて、このジムでは認められていない。
だが、そのことに気付いたところで、武虎はすでにグローブをはめて、狼の立つリングに入ってきてしまった。
どうする。
狼は、壁にかかった時計を見る。
5時32分。
6時前にコーチが来ると聞いている。
つまり、それまでに適当に目の前の金髪を追い払えばいいだけの話か。
そう思い、狼は小さく息を吐いた。
ただ、目の前の金髪のヤンキーは、ケンカ慣れしていてもキックボクシングの経験はない様子だ。さすがに、本気で闘うわけにもいかないだろう。
適当に数発蹴ってダウンさせれば、力の差が分かって、帰ってくれるだろうか。
そんなことを考えている狼に「てか、こんなのが必要なんだな、キックボクシングって」と言って、武虎は自分の股間に装着したファールカップを撫でたりかるく小突いたりしはじめる。
「ああ、安全に闘う必要があるからな」
「安全に、ねー」といって、自分のファールカップを楽しそうにリズムよく叩く武虎。
「でもさ、叩くと割とちんこ痛てえのな、これつけても」といって、ニヤリと笑った。
さっきまでものすごい形相で怒りをあらわにしていたのに、今はへらへらと自分のファールカップをたたく変な奴が目の前にいる。
どうやら武虎は、グローブやファールカップを付けるのは初めての様子で、それで思わずテンションが上がってしまったように見える。
「早く、はじめるぞ」と、楽し気な武虎に水を差すように、狼が声をかける。
狼の押し黙る表情を見て、闘志がうっすらと見えた武虎は「だからその目だよ、気に入らねえな。お前。もう、泣いても許してやんねーぞ」と言って、拳を狼に向かって突きつける。
そんな武虎を黙って一瞥くれ、そして目をそらす。
「あっ、お前今、オレのことバカにした目をしてた!」と叫ぶ武虎。
なんでこんな奴相手にしているんだっけと、狼は小さくため息をついた。
次回から、二人のガチバトルが始まります。
かなりバチバチにやりあいますよ!
ショウ
2021-04-03 11:12:22 +0000 UTCdaipin
2021-04-03 09:24:33 +0000 UTCショウ
2021-04-03 08:14:43 +0000 UTCdaipin
2021-04-03 05:04:24 +0000 UTC