SS_神罰代行サービスとの出会い(後編)
Added 2022-12-29 10:30:00 +0000 UTC後編、今月中に間に合いました。
前編はこちらです。
https://th-chara-gts.fanbox.cc/posts/4924555
前編・後編あわせて約20,000字となりました。
ここまで書いたのは初めてですね……
ちなみに、今回の設定のようなものを
後日軽く出してみたいと考えています。
~追記~
出しました、こちらです。
https://th-chara-gts.fanbox.cc/posts/5103340
~追記ここまで~
それでは本題。
神罰代行サービスの取り消しのためには、神罰執行者になる必要があるようで……?
(約11,500字)
※無断転載禁止
------------
「あの、執行者というと……
もしかして、私があの悪魔の人みたいになるということですか?」
『はい、その通りです。
……といっても、なんのことかさっぱり、ですよね。』
私は大きく頷いた。
執行者はあまりにも大きく、圧倒的な存在。
私には神さまという言葉でしか表せないほど現実離れしている。
その執行者を私がやるというのは全然想像がつかない。
『いくつか説明しますね。
はじめに、執行者になるのは実は簡単で、
これも私たちが提供するサービスのひとつです。
神罰執行者体験サービス、とでも言えばいいでしょうか。
あの悪魔の人も、実はこの体験サービスで初めて執行者になっていたんですよ?』
「本当ですか?
そうは見えなかったですね……」
『素人と思わせないように見せるのも私たちのこだわりのひとつです。
さらに言えば、あの人も神罰代行サービスを利用したものの、
リセットしたいとおっしゃっていたので、今回執行者をやっていただきました。
もちろん、今はあの人の世界は何もなかった状態に戻っています。』
あの悪魔の人も私と同じように神罰をお願いして、
やっぱりリセットしたいと思って執行者になっていたんだ。
それにしても異世界の別の種族の人でもそういう不満はあるなんて、
案外夢のない話かも。
『ちなみに、悪魔の人とおっしゃっているあの人は、実際には悪魔ではありません。
さらに言えば巨人というわけではなくて、人間の身長と変わりません。
こことは異なる世界の住人ではありますが、
あの姿は執行者用の容姿のひとつです。
形から入るという意味もありますし、素性を隠せるという利点もあります。』
「あれコスプレだったんだ……
でもたしかに、この姿のままで執行者っていうのは
ちょっと気が引けるかも……?」
『容姿の種類はそれなりにありますので、好きにお選びください。
それと、執行者として神罰を下す世界ですが、
良くも悪くも今後一切関わることのない世界でが舞台となります。』
「つまり……今回しか私はその世界に行けないし、
その世界からこっちの世界には誰も来ることができない、ということですか?」
『そうなりますね。
そもそも執行者に不利益になるようなことがあると
心の底から楽しむことができませんよね?
イメージとしてはゲームの世界、
仮想空間に飛び込むと考えてもらえばよろしいかなと。』
要するに、私みたいなただの人間でもゲーム感覚で簡単にできる。
コスプレすれば見た目はそれっぽくなれるし、
そのキャラクターになりきれば大丈夫、かも。
昔の特撮で小さな街のセットを組んで着ぐるみ撮影をするイメージなのかな。
……大きくなる方法は分からないけど、
たぶんコスプレの一環でなんとかできるみたい。
悪魔の人が実際できていたんだからいけるはず。
『あとは実際に行う際に説明しますが、いつ行いますか?
最初に容姿を決めて、その姿で軽く練習を行って、実際に神罰を行う……
おおよそ1時間半ほどかかるかと思います。
最速ですと……40分後の枠がありますね。』
「そんなすぐに出来るんだ……それなら、そこでお願いします。」
『かしこまりました。
それではまた40分後によろしくお願いします。
ここでお待ちになっても構いませんが、
今のうちに軽く食事を済ませておくといいかもしれません。
40分後から1時間半ほどかかるので、2時間はこの後お食事できませんので?』
「そうですね、一旦家に帰ります。」
私は小さく頭を下げると家へと戻った。
自分で望んだことではあるけど、こんな世界になるとは思っていなかった。
でもリセットすることができるなんて、なんて運がいいんだろう。
家に着くと私は軽く食事を済ませる。
ネットニュースを確認すれば、相変わらず神罰後の混乱を伝えるニュースばかり。
死者や行方不明者の予想は140万人近くにまで増えている。
他にもいろいろあるけど、どれも暗いニュースばかりでうんざり。
私が神罰を指示したから私のせいと言われている気がするのも仕方ないけど……
そういえばニュースといえば普段から暗いニュースばかりを見かける気がする。
明るいニュースの方が見ていて気分がいいと思うのだけど、
もしかして暗いニュースの方が見られやすいのかな?
つまり、暗いニュースの方に興味のある人が多い……?
そのあたりはよく分からないけど、
こんなつまらないニュースたちとも今夜でお別れできそう。
頑張らないと。
軽めの夕飯を済ませると私は改めて佐藤さんのところへ向かった。
『おかえりなさいませ。
準備、できたようですね。』
「はい、大丈夫です。
よろしくお願いします。」
『こちらこそよろしくお願いします。
では、こちらへ?』
個室へと案内された。
昨日、神罰代行を依頼した個室だ。
そういえば、どこにそういう施設があるんだろう?
あるとしたら地下な気がするけど、
もっとファンタジーな感じで瞬間移動とか?
『それでは、準備をするための部屋に案内しますので
こちらに立ってください。
移動はすぐ終わりますが、目を瞑っておいてください。
おそらく眩しいかなと?』
「わ、分かりました……」
指示された場所には小さな魔法陣が描かれている。
本当に瞬間移動するやつでは?
神罰執行以前からいろいろと貴重な体験をしている気がする。
これはラッキー、なのかな?
……いや、ここから床が抜けるパターンもありそう。
とりあえず言われたところに立って目を閉じる。
『……141万と4580人。』
「えっ?」
『昨晩の神罰でこの世界から消えた人の数です。
これだけの人と街と世界を元通りにするためにも、頑張っていきましょう。』
「……頑張ります。」
私の過ちを清算するため。
私の日常を取り戻すため。
執行者として頑張らないと。
------
佐藤さんが指をぱちんと鳴らす。
すると、浮いているような不思議な感覚に包まれた。
目を閉じていても周りが明るく、目を開ければ間違いなく眩しいはずなので
どうなっているかは分からないけど落ちている感覚ではない。
『……はい、目を開けてください。』
「んっ……ここは?」
浮遊感は5秒くらい続いてから収まった。
この間に移動が終わったらしい。
あっという間だった。
ゆっくり目を開けると、私は服屋さんのようなところに居た。
『まずはここで執行者用の容姿をお選びください。
サイズなどは調整できますので好みにあったものをどうぞ。』
「分かりました。
結構ありますね……」
服屋といえば服屋だけど、コスプレ服ショップの方が正しいかも。
天使や悪魔の衣装、イヌやネコなどの動物系の耳や尻尾。
しかも怪獣の着ぐるみまである。
……まあ、コスプレ服ショップは行ったことないんだけど。
とにかく、イメージどおりの景色が広がっている。
それは置いといて、どのコスプレがいいかな。
神罰執行というと、やっぱり女神のイメージが強いかも。
この衣装は白が基調で、聖なる力~って感じの雰囲気がある。
私のイメージにぴったり。
でもこの手の衣装ってわりと常識的じゃない胸の大きさじゃないと難しそう。
あと髪の色とかも黒だと似合わないかな……?
このあたりはウィッグでなんとかなるとは思うけど、どうなんだろう?
『こちらのものが気になっていますか?』
「あっ、えっと……はい。
ただ私には着こなせないかなと……?」
『そんなことありませんよ。
一度試してみましょう。』
そのまま試着室に連れられる私。
背伸びしないで程々のものがいい気もするけど……
まあ試着できるならやるだけやってみよう。
『では目を閉じておいてくださいね。』
「えっ? あっ、分かりました。」
そういえば魔法が当たり前だから着替えもやってくれるんだ。
魔法、便利だなぁ。
佐藤さんが指をぱちんと鳴らす。
『はい、目を開けてご確認ください。
お似合いですよ?』
「んっ……えっ、ええっ!?」
思わず大きな声が出てしまった。
たしかに衣装はさっき見た私の中の女神のイメージぴったりのものになっている。
髪の毛も金髪でロングになっているけど、これはウィッグで出来るから分かる。
問題は、体型。
この衣装が似合う体つきになっている。
胸を下から支えて胸の上側が露出するような衣装。
これが綺麗にフィットしている。
要するに、私の胸がとても大きくなっている。
よく見ると瞳の色も変わってる。
カラコンはつけたことないけど、それだけでなんとかなる変化でもないような?
「これって、コスプレのレベル超えてる……」
『理想の容姿を選ぶ、ですので。
衣装だけでなく、必要に応じて髪の色や胸の大きさ、頭身なども調整できます。』
もはやコスプレではなくて変身だ。
もし怪獣を選んでいたら、着ぐるみに入るのではなくて
あの怪獣そのものに変身するということらしい。
それにしても、すごい。
胸や髪を触ってみると本物みたいな感覚がしっかり返ってくる。
鏡に映っている女神が今の私の姿であり、私の身体であり、私なんだ。
これは執行者としてのやる気がわいてくる。
『お似合いだと思いますが、これでいきますか?』
「はい、是非これでいかせてください。」
『かしこまりました。
次は身体ならしや練習を行いますので、こちらへ?』
佐藤さんに連れられて私は別の魔法陣の上へ移動する。
たしかに歩くだけでも普段と違って少し変な感じ?
これが変身の影響なのかな。
佐藤さんが指を鳴らすと、また浮いているような不思議な感覚。
それにしても、こういう非日常の体験というのはわりと楽しい。
『どうぞ、目を開けてください。』
目を開けると私は外に居た。
月や星の明かりが降り注いでいるけど、
それ以上に私自身がぼんやりと光っているみたい。
女神さまオーラみたいなものかな?
そのおかげで周りがある程度見える。
『私の姿が見えないかと思いますが、今は遠隔で声をかけています。
テレパシー、といえば伝わりますかね?』
「そうなのですね?
とりあえず聞こえています。」
『それならよかったです。
執行中もこうして繋いでいますので。
そちらも話そうと頭に浮かべるだけでこちらには届きますよ。』
どこかで見守ってくれているらしい。
でもそのおかげで安心して動けそう。
悪魔の人も黙々と神罰執行していたけど、
裏ではこんなふうに繋がっていたのかな。
『早速ですが、少し歩き回ってみてください。
ゆっくり始めてみましょう。』
「分かりました。
……あ、あれ?」
足を1歩前に出そうとしたその瞬間、大きな違和感があった。
身体が重いというわけではないのだけど、きびきび歩けないというか、
どうしてもゆっくりになる。
ずずぅぅぅぅん……
なんとか足を下ろした瞬間、地響きが聞こえた。
この感じ、どこかで見たことがある。
もしかして。
『神罰執行用に貴女の身体は約600メートルにまで大きくなっています。
歩くだけでも最初は大変かもしれませんが、
急いで動こうとしないことがコツですよ。』
「なるほど、やっぱり……」
やっぱり、いつの間にか大きくなっていた。
周りに比較できるものが無いから分からないけど、
約600メートルというと相当な大きさだ。
そのくらいの建物は数えるほどしかなかったと思う。
それにしても、大きいと体を動かすだけでも案外大変。
小さな建物やミニチュアの街のスタジオを用意するのとは全然違うみたい。
重りをつけているのとも水の中を歩いているのとも微妙に違う。
この独特な感覚は大きくなることでしか味わえないとすれば、
これはこれでいい経験かも。
大きいといえば、胸の大きい人が足元を見ようとするとこうなるのか、
という気づきも得たというか、分からされたというか……
とにかく、1歩ずつ1歩ずつ、身体をならすように歩き回っていく。
『……そろそろ慣れてきたみたいですね。
これなら問題ないと思います。』
5分くらい歩き回ったかな。
たしかに独特の感覚にも慣れてきた。
胸で足元が見えにくいこともなんとかなりそう。
執行者として、女神として頑張れそうだ。
『それではこれから本番です。
場所を移動しますので、両腕と両手を軽く開いて立ってください。
天から降臨するポーズといえばいいでしょうか?』
「分かりました。
それっぽい姿で街に降り立てばいいんですね?」
『はい、その通りです。
移動先はタロナロヤ市というところです。
着地したら好きに移動して神罰執行を始めてください。』
知らない都市名だ……
まあ異世界の都市なんだから知らなくて当たり前か。
異世界だと全然知らない街並みなのかな。
『始める前に、やってほしいことを2つお伝えします。
ひとつは特定の建物を破壊すること。
こちらはタロナロヤ市に着いてから場所をお伝えしますね。
もうひとつは神罰ポイントを200万ためること。
人が多そうなところや賑わっているところを狙うと
ポイントが早くたまりますよ。』
「ポイントをためる……本当にゲームみたいですね。」
『少しでも気を紛らわせたり楽しんだりしてもらうための工夫です。
それに、この件も神罰代行サービスの依頼を受けてのことですし?』
そういえばそうだ。
誰かは分からないけど、タロナロヤ市に神罰を下してほしいと依頼した人が居る。
特定の建物を破壊というのは依頼人のリクエストのはず。
私は私で、神罰執行をすることで私の世界を元に戻す。
そして神罰執行とは、たくさんの人をこの世界から消し去る行為だ。
とんでもないことをしようとする私を気遣って
ここまで楽しませてくれたりゲーム感覚で気負わないようにしてくれたり。
私は本当にラッキーだ。
『神罰代行によって何を得られるか、分からせてあげましょう。
よろしくお願いしますね。』
私は小さく頷き、目を閉じる。
その直後、また浮いているような不思議な感覚。
3回目だからさすがに慣れてきた。
いよいよ、私の世界を取り戻すための神罰執行が始まる。
------
『……どうぞ、目を開けてください。
地面に降り立ったら、移動を始めてくださいね。』
ゆっくり目を開けると、目の前には街並みが広がっている。
これがタロナロヤ市らしい。
海沿いに近くて栄えている様子はなんとなく黄兵沐市に似ている。
建物もビルなど比較的見慣れたものである。
ただ、規模は黄兵沐市より少し小さいかもしれない。
そして私はまだゆっくりと地上に降りている途中のようだ。
私のところには空から光の柱が降り注いでいる。
夜の暗闇の中に眩しく輝いている。
周りから見ればまさに降臨、という感じだと思う。
雰囲気しっかり出ていると嬉しいな。
『破壊を依頼されている建物の目印と、神罰ポイントが見えていると思いますが、
いかがでしょう?』
「えっと、たしかに何か見えていますね。」
市の中心地のようなところに目印がある。
依頼人がリクエストした建物はアレのことみたい。
そして視界の隅の方に数字が見える。
これが神罰ポイントらしい。
こういう見え方はなかなか新鮮。
そうこうしている間に足が地面についた。
そして光の柱が消えた。
降臨完了だ。
『それでは、いってらっしゃい。
質問は随時受け付けていますので、必要な際はどうぞ。』
「分かりました、いってきます。」
私が降臨したのはちょうど海岸沿い。
工場地区や港があるみたい。
まずはこのあたりから襲ってみよう。
足を軽く持ち上げて……
そのまま踏み下ろす。
どすぅぅぅぅん!
足元にあった工場の建物や倉庫などを簡単に踏み抜いてしまった。
紙で作られた箱を踏みつぶすくらい、それ以上に簡単かも。
「このくらいならたしかに私にもできそう。
どんどんやっていかないとね。」
ずがぁぁぁぁん!
バキバキバキ……
私は近くにある建物をどんどん踏み荒らしていく。
クレーンのような大きな機械も、ガスタンクみたいな球体の建物も、
何かが入っていそうな円柱状の建物もまとめて踏みつぶして蹴散らしていく。
足元で爆発が起きているのは目や耳で分かる。
でも実際に爆発させた足にはほとんどそういう感触がなかった。
それだけ私が神罰執行者として特別な存在になっているということかもしれない。
「……あれ、ポイント思ったより増えてない。」
10歩くらいは踏み荒らしたと思うけど、神罰ポイントはまだ3桁だ。
200万がゴールだから、このペースだと夜が明けてしまう。
たしかに夜の海辺の工場エリアにはそんなに人は居なさそうだ。
「まずは中心地に行って、どれくらい増えるかたしかめてみようっと。」
ずずぅぅぅぅん……
どすぅぅぅぅん……
高層ビルの見える地区まで最短距離で向かっていく。
この距離なら15歩くらいでたどり着けるけど、
1歩進むにつれて少しずつ栄えているのがよく分かる。
踏みつける建物の数、ひとつひとつの建物の大きさ。
そして神罰ポイントの増え方。
私の住んでいるところもそうだけど、都市に人が集まりすぎている気がしてきた。
「さて、このあたりだとどうなるかな?」
1分前後で高層ビルの建ち並ぶ中心地に着いた。
高層ビルといっても、今の私にとっては膝の高さ以下のものばかり。
草むらならぬビルむら……って言えばいいのかな。
とにかくうっそうと生えていることには変わらない。
早速軽く足を振り上げて……
ずがぁぁぁぁん!
ガラガラガラ……
思いっきり足元のビルをまとめて蹴りつけた。
私の足でビルの下半分が一瞬で崩されてそのまま上半分が落ちていったもの。
根元から抜けてそのままなぎ倒されてしまったもの。
たったのひと蹴りでポイントが1000以上増えた。
「これはすごい。
どんどん神罰与えちゃおう。」
ずしぃぃぃぃん!
どがぁぁぁぁん!
歩くのに邪魔な周りに生えているビルたちをどんどん蹴散らしていく。
屋上に足をかざしてそのまま踏み下ろせば、
屋上から1階まで、さらには地下までひとつ残らず踏み抜いて
ぺちゃんこにできてしまう。
道路沿いに建ち並ぶビルたちを蹴散らすように歩けば、
ビルがドミノ倒しのように倒れたり、私が前に進む力だけで崩れ去ったり。
ビルに紛れて数階建て程度の建物もそれなりに多い。
駅だったり商業施設だったり。
そういう建物を襲っていくと神罰ポイントが一気に増えていく。
むしろ高層ビルよりそういう建物を狙う方がいいのかも?
「ふーっ、蹴散らすだけだけど、
これだけ大きいと簡単だと思ってたけど、案外大変だね。」
5分ほど歩き回っただけで中心地の建物の半分近くを壊滅させてしまった。
道路には大量の瓦礫が広がっていてところどころで火事が起きている。
やっていることは同じような場所で何度も足踏みしたり蹴飛ばしたり。
だけど、よくよく考えると、普段はこういう動作をしないから楽ではない。
とはいえ、このあたりを蹴散らしたおかげで神罰ポイントは6桁に突入している。
「そろそろ依頼されている建物を壊してあげようか。」
その建物は歩いて5歩のところに建っていた。
見たところ、この辺で一番大きな建物みたい。
早速隣まで移動してみる。
やっぱり大きい。
こぶし2つ分の高さがあれば私の足の付け根まで届く。
「どうやってあげようか悩んでいたけど……
こうしてあげるね。」
私はその建物の真上に立ってみせる。
屋上に立つという意味ではなくて、股下にその建物が来るように立っている。
こうすることで両脚が建物のすぐ横に来る。
そして、このまま脚を閉じていけば……
ミシッ、バキバキッ……
太もも同士、膝同士が近づくことで依頼されている建物の上層部が挟まれる。
そしてゆっくりとさらに力を入れることで少しずつ挟みつぶされていく。
「つぶれちゃえ……!」
グシャァァッ……
とどめに力を一気に入れると膝より上の部分がくっつき、
建物の上層部が完全につぶされてしまった。
ずりずり……
そのまま内ももを擦りあわせていくと、つぶれたところはすりつぶされ、
砂になって地上へと降り注いでいく。
「少しは見ごたえあったかな?
これでとどめ、っと。」
どしぃぃぃぃん!
残っていた建物の下側を簡単に踏み抜いてみせた。
これで依頼されていた建物の破壊は完了、ノルマひとつ達成。
「あとは神罰ポイントだけだね。
まだまだ頑張らないと。」
ずどぉぉぉぉん!
がしゃぁぁぁん!
また手加減なしに周りの建物をめちゃくちゃにしていく。
足での攻撃だけでは少し飽きたのもあって、
今度は少し屈んで手も使っていくことにした。
さすがに足首に届くかどうかの建物相手に手を伸ばすのは大変だけど、
この辺にある高層ビルなら膝くらいの高さまであるから楽に届く。
手で上層部を掴まえてから地面に叩きつけるように倒してみれば
ビルは簡単に傾きそのまま崩れ去ってしまった。
引き抜くようにすれば根元から抜けたり掴んだあたりから抉り取れたりする。
それを適当な地区に投げることで簡易隕石となって、
そこにある建物も投げた建物も大惨事になる。
この街の高層ビルは私の手でみるみる壊されて無くなっていく。
「うーん、これは困ったかも……」
神罰を始めて15分ほど。
街の中心地の大体の建物をめちゃくちゃにしたところでイヤなことに気づいた。
タロナロヤ市の栄えている地区だけを滅ぼしても神罰ポイントが足りなさそう。
今のところ100万は超えているけど、
全滅させても120万くらいにしかならない気がする。
200万にするには、郊外、つまりベッドタウンになっている地区も
狙う必要がありそう。
ただ、あっちこっちに散らばっているというのと、
大きな建物がなくてあんまり面白みがなさそうというのであんまり気が乗らない。
『栄えているところは大体めちゃくちゃにしていますね。
さすがです。』
「あっ、ありがとうございます。
あの……」
『はい、分かっていますよ。
そろそろ仕上げにしましょうか。
巨大化か光線かを選んで使ってください。』
巨大化はこれよりもっと大きくなること……ってことだよね。
光線はビームのことかな、怪獣がたまにやってるあんな感じ?
でも巨大化したところで結局踏み荒らすだけになりそうだよね。
それなら、ビームという非日常も体験しておきたいかも。
ということで、光線を選ぶことにした。
『かしこまりました。
それでは、指先から撃てるようになりましたので
どんどん使ってください。』
「えっ、もう使えるようになったんですか?」
相変わらず早いというか、急だなぁ。
あと、どうやったら撃てるかくらいは教えてほしいんだけど……
指先から撃ちたい~って念じてみればいいのかな?
うーん……
と、念じてみると右手の人差し指の先に小さな白い光の球ができあがっていく。
親指の先と人差し指の先をくっつけたときにできる丸くらいの大きさになった。
「えっと……じゃあ、ビームで焼き払っちゃえ!」
そのままビームを当てたい場所を指さすと、白い光線が放たれ始めた。
光の当たった場所は爆発……しなかった。
その代わり、そこにあった建物などが蒸発するように消え去ってしまった。
光線が当たった場所には何もない地面だけが残っていて、
小さな光の球がふよふよと浮いているだけになった。
「思っていたのと違う……けど、
これはこれで神々しいかも?」
そのままゆっくりと指先を動かしていき、
周りのまだ無事な地区を光で照らしていく。
照らされたところにあるものは音もなく蒸発していき無へと化していく。
まるで神さまが地上を浄化していくようだ。
ビームも結構遠くまで届く。
歩けば20歩くらいかかりそうな場所にも簡単に届いて、
そこにあった建物たちがあっという間になくなっていく。
そしてなにより、神罰ポイントが一気に増えていく。
ここから動かずにビームを撃つだけという簡単な行為で
こんなにも神罰を下せるという全能感。
世界を自分のものにできるという力。
借り物ではあると分かっているけど、こんなにもドキドキしちゃうなんて。
「……あっ、もう200万の目の前になっちゃった。」
ビームをあちこちに撃ち始めて1分くらいで神罰ポイントが199万を超えていた。
これは反則的な力だ。
ただ、爆発とか火事とかが起こらないからか、やった感はちょっと足りないかも。
『あとわずかですし、最後になにかひとつ壊してみるといいかもしれません?
例えば、5歩先にあるお城とか?』
「お城……あっ、あれですね。」
お城といえば今では観光地のひとつ。
昔は昔で重要な建築物のひとつ。
……この世界ではそうなのか知らないけど。
とにかく、それを壊すのはちょっと特別な感じがあるかも。
早速お城に近づいて、屈んで眺めてみる。
高台の上に立っているとはいえ、
さすがにひと踏みで簡単につぶせてしまうほど小さい。
「手とか足では結構やっちゃったし……
最後に、これでやっちゃおうかな。」
ずずぅぅぅぅん……
屈んだ状態から四つん這いになって、ゆっくりと前に進む。
そして、お城の上に胸があるところで止まって……
「痛くないといいけど……えいっ!」
ごしゃぁぁぁぁっ!!
ずどぉぉぉぉん……
重さに任せて胸をお城に叩きつけてしまった。
さすがに大きさの差もあって胸の重みでお城はあっという間にぺちゃんこに。
女神の胸はお城にぶつかった衝撃をしっかり吸収してくれて
私は全然痛くなかった。
さすが女神の身体、なのかも?
「ふーっ……
あっ、200万超えた。」
胸についた土を払いながらゆっくりと立ち上がる。
もうひとつのノルマ、神罰ポイント200万以上を達成。
つまり、私の世界を取り戻すための神罰執行が終わった。
『200万と758ポイント……無事完了ですね。
お疲れさまでした。
これで今回は終了なので、また降臨のポーズをお願いします。』
「分かりました。
えっと……私の世界のリセット、よろしくお願いします。」
『もちろんです。
すぐに準備しますので、今夜じゅうには終わると思います。』
両腕と両手を広げると空から光の柱が降り注ぐ。
そしてゆっくりと体が浮き始める。
不思議な時間だった。
この数十分の間、私は女神になっていた。
そして初めて来る世界で神罰ポイントを200万獲得した。
このポイントのことはよく知らないけど、
少なくとも大きな都市をひとつめちゃくちゃにした。
それなのに、ぜんぜん罪悪感がない。
私の世界で神罰を依頼したという過ちをリセットするためなのに。
この神罰を別の誰かに依頼されたから?
神罰のときに襲われる住人を見ていないから?
私ではなく女神という仮の姿で神罰を下したから?
理解が追いつかなくてまだ現実だと思えていないから?
分からないけど、ひとつだけ言えることがある。
これで、私の過ちは精算させてもらえる。
日常が、戻ってくる。
『改めて本日はお疲れさまでした。
おそらく体力は限界かと思うので、
明日のお昼ごろにでもまたお話しましょう。』
光が強くなる。
別のところに瞬間移動する魔法が発動する。
目を閉じても眩しい……
いや、眩しくない?
もしかして、これは眠気?
相当体力を消費していたみたい。
瞬間移動の魔法の浮遊感で一気に眠気が増していった。
------
「……あれ、ここは……?」
目が覚めると、横になっていた。
この感触、安心感。
私の家のベッドだ。
いつの間にかここまで運んでもらっていたらしい。
まあ魔法ならそのくらいは簡単か。
昨日の佐藤さんの発言を思い出すと、
たしか夜のうちにリセットしてくれているはず。
そして昨日は三連休最後の日、月曜日だから……
「……やばっ、遅刻!?」
つまり今日は今までどおりの世界の火曜日。
平日、出勤日。
思わずスマホを見ると勤務開始時間まであと15分。
移動時間を考えれば確実にアウト。
やってしまった……
「……あ、あれ?」
改めてスマホをよく見てみる。
月曜日と表示されている。
つまり、三連休最後の日。
祝日、お休み。
「よかった……助かった。」
そういえば、明日のお昼ごろにでもまたお話しましょうって
昨日佐藤さん言ってた。
なんで今日も月曜日なのか分からないけど、
とりあえず助かった。
朝ご飯を食べて、日曜日に買っておいたココアを飲みつつ
念のためニュースを調べてみる。
神罰に関するニュースが本当にない。
電車も普通に動いている。
破壊されたはずの地区をお天気カメラで確認しても普通に建物がある。
本当にリセットされたらしい。
「もしかしたら、人生で一番濃厚な2日間だったのかも。」
その後、佐藤さんのところへ向かって、しばらくお話をした。
ここでの用が済んだから店じまいするらしい。
本当に私のためだけに来たんだって。
あと、今後一生関わることがないだろうということで
いろいろすごい話を聞くことができた。
佐藤さんと別れて、改めて振り返る。
世界はリセットされたから手元には何も残っていない。
だけど、私はとても大きなものを手に入れることができた気がする。
世界は広いと感じることができた。
今の生活に不満はあるけど、今度はもっと別のやり方で変えてみようと思う。
これだけ広い世界なのだから、やり方はそれなりにたくさんあるはず。
ただ、怪しいはがきに乗るのはさすがに止めるようにしよう。
------
おしまい。