「えっ、じゃあご家族の誰も知らないの?」 手元の書類を見ていた中年男が驚いて顔を上げた。 「自信はあるんですけど落ちたら恥ずかしいかな・・・って。夏休みだし、友達にも誰にも言わずに来ました、えへ」 事務室の片隅に据えられた応接テーブルの向こうに立っていた大きな瞳を輝かせた少女は、少し緊張気味にはにかんだ。 かつてこの芸能事務所は有名な俳優やモデルたちが多く所属し、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いで知られていた。だがいくつかの不祥事が重なりそれに伴い所属タレントたちのほとんどが離れてしまったことで、そんな栄光もすっかり過去のものになっていた。しかしそんな業界の現状も知らずどこかで見た昔の記事か何かでここを知り、いまもたまにこうして地方出身の若い娘らが夢を手繰り寄せようと売り込みに来る、こともある。 たいていはせいぜい「クラスの人気者」とか「読者モデル気取り」程度の勘違いの田舎娘が万歳三唱の応援とともにやってきて対応に苦慮するものなのだが。 「そっか、誰にも知らせてないのか・・・」 中年男の顔つきが少し変わった。この事務所、いまは栄光の時代のツテを頼った小さな仕事で表向きはなんとか維持しているようにみえるが、実際の売上の殆どはもっと裏の業務で成り立っていた。あらためて目の前の少女を全身じっくり眺める。地方都市出身者らしい素朴な容姿はそうわるくない。いかにもジュニアファッション誌から切り抜いてきたような量産型のコーデに包まれたスレンダーな身体つきもそういう嗜好には刺さるだろう。このごろはジュニアアイドルも際どいことをやらせるには親やら世間がうるさいのだが、それもまあうまくごまかすことができそうだ。さらに裏の裏に流す企画には手頃な素材かもしれない。中年男の頭の中に、売出しのイメージが出来上がってきた。 「うん、いけるかもしれない」 思わず声に出したそれを聞いて、少女の表情が一気に明るくなった。 「えっ、じゃあ合格ということですか?」 うんうんと頷く中年男。傍らの男に目配せしながら指示を出す。 「じゃあ奥でカメラテストするから準備して。俺も参加するから」 ひとりの少女を複数の男たちで・・・シリーズ。事前、最中、事後の複数シーンを1枚の中に詰め込む。