捕えられた真白は幹部らしい女の前に突き出された。両端には屈強な男が二人構えている。
魔力を封じられた魔法少年はただの非力な子どもである。椅子に縄で括り付けられ腕を縛られただけで身動きは封じられた。床につかない足が頼りなく空を掻く。
妖艶な姿をした女は見下げながら真白へと話しかけた。
「あらあら~、こんなにかわいい小ウサギちゃんが私たちの邪魔をしていたなんてねぇ…大丈夫よ、そんなに身を固めなくても~。正直に言えば何もしないから~。」
「…」
彼らは平穏な日常を壊す。だから真白はそれを阻止する。それだけのことだった。
だから自分を苦労して生け捕りにしてまで話したいことはなんだろう、と彼は疑問だった。女は同じ調子で続ける。
「××のありか・・・知っているでしょう?私たちの計画にはそれが必要なの。教えてちょうだい」
「…?」
聞いたこともない名前だった。それがなんなのか、自分がどう関わったことがあるのかさえ身に覚えが無かった。
「…知らない」
口数の少ない真白に言えたのはそれだけだった。
「まあ、素直に言うわけないわよねェ。アレはあなたたちにとっても大事なものでしょうから…。でも、あなたが知らないはずがないのよねぇ。」
「…??」
知らないことについて聞かれても答えられるはずがない。ただただ首をかしげる。
「そうねぇ、言わないと、あなたの白くて柔らかいほっぺがぱんっぱんに腫れあがって真っ赤になっちゃうかもねぇ…?やだぁ、せっかくの色男が台無しよぉ?」
女は真白の頬を両手で包んで引っ張ったり揉んだりした。長い爪が頬を引っ掻き、真白は今にも肌が裂けるのではないかと思った。
「…やめてください。ぼくには分からないから、解いて」
女は一歩下がると、男に目配せをして言った。
「話してくれれば、ね」
あれからどのくらい時間が経っただろうか。真白は男たちからひたすらに殴られていた。執拗に、顔だけを集中的に。
彼女の言った通り、輪郭が変わるほど頬が腫れていた。目の上にできたこぶは重く、左目を開くことができない。
鼻血が垂れ、切れた唇からも血が流れていた。
顔中が熱い。鈍痛がする。変身した際に現れる兎のような耳も遊ばれ、ヒリヒリとしている。
「耳ヲ裏返すと、オモシロイ」
片方の男は殴るだけの作業に少し飽きてきたようだ。
「あらあら・・・こ~んな不細工な顔になっちゃって~、ひどいわぁ~」
「コイツ、効いてるンですかネェ?ナントカ言えってノ、オイッ!」
「ッ・・・!」
何度目か分からない男の拳が飛ぶ。真白は一瞬息を止めてそれに耐えるしかなかった。
「っふー・・・ふー・・・・・・」
鼻が詰まっているため口呼吸だ。口内が出血し腫れているためそれすらもやりづらい。
「カタい男は嫌いじゃないケド・・・、痛みが足りないのかしら。」
真白はただ黙っていたわけではない。殴られる合間にも説得を試みようとしたが、言葉を発している途中で殴られるため、まともに会話することもできなかったのだ。
「…、ふうっ・・・、あ、の・・・だからっ…こんなことしても、いみ、ない…」
「そうだ。ねぇ、子どもは歯医者さんが嫌いなんでしょう?」
やはり自分の声は届いていないようだ、と真白は察した。いつまでこれに付き合えばいいのだろう、と考えていると、女は質問を続けてきた。
「あなたに虫歯はあるかしら?」
はいしゃ、むしば。非日常に突然現れた日常的な言葉にこれまでの経緯と関連性を見出せず、何も言葉が出なかった。
「どんなことをしたらあなたのその生意気な表情を崩せるかなって考えたの。だってあなた、怒られてるのに反省もせず内心早く終わらないかなって待ってるみたいな退屈そうな顔だったものぉ。
だから、一番子どもが怖がることをしてみようと思ったのよぉ。それにこんな簡単なことも喋れないなんて、悪い歯があるのかもしれないわぁ。」
そう言うと女はどこからかペンチを取り出し、隣の男に渡した。
何から何まで、言っていることの意味が分からなかった。しかし男の手に握られたペンチが唇の先を突きこじ開けたとき、何をされるのか直感が半分ほど理解した。
「ぇ…」
「悪い歯ハ、こうしてヤル」
それはあまりにも唐突だった。
真白が呼吸を整える暇もなく、男は無造作に手前にあった歯を掴み、力任せに引き抜いたのだ。
「~~~~~っ!?!?っ、がっ…、ぁ…!!」
目の裏から脳天まで電撃のような痛みが突き抜けた。骨と骨、肉と神経が無理やりに引きちぎられる。真白は顔の中心をまるごと剥ぎ取られたように感じた。
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続きは8/3(日)に投稿します!
麻酔無しどころか歯を抜いたこともないので分かりませんが、顔の中心には三叉神経というとても敏感でデカくて大切な神経が通っているのでこれはかなりヤバいことをしています。歯を抜くときは必ず歯医者さんにやってもらいましょう。