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オメガバースでいじめっ子×いじめられっ子 大学生編(その3)

 セックスが終わり、横になったまま抱きしめ合う。

 中へと出された精液を掻き出さないまま、聡司は屋敷の厚い胸に頬を寄せて目を閉じた。彼からは、高校生だった頃と変わらず爽やかな香りが漂っている。三年が経ち、それは聡司にとって最も好きで安心出来る香りとなっていた。

 帰宅してすぐに聡司を抱いたのか、彼からはフェロモンの他に、アルコールの臭いと、それから少し香水らしき匂いがする。頸を噛まれた聡司はもう屋敷以外のフェロモンを嗅ぎ取ることはできないが、もしかしたら香水の主のフェロモンが彼にまとわりついているのかもしれない。

 少し寂しい気持ちになりながらウトウトしていると、聡司を優しく抱きしめたままの屋敷が首筋に鼻を埋めてきた。


「匂い、上書きできたな」

「え?」


 顔を上げて聞き返すと、その唇を塞がれる。舌を入れられたから聡司もそれに応え、屋敷の体にしがみついた。


「どっかのαに匂いつけられてたんだよ、オマエ」

「あ……」


 唇を離し、唾液に濡れた聡司の唇をペロリと舐めた屋敷がそう言う。思い当たる節のあった聡司は小さく反応した。その声に屋敷は片眉をクイッと上げ、じっと見つめてくる。


「なんだよ、覚えがあるのか?」

「あ、う、うん……でも、う、浮気じゃなくて」

「分かってるよ。オマエ、俺のこと大好きだもんな」

「……うん。大好き……」


 自分の気持ちを分かってくれているのが嬉しくて、番としての確かな繋がりを感じた聡司の胸が暖かくなる。

 思わず目に滲んでしまった涙を拭い、聡司は安藤のことを説明した。

 黙って聡司の話を聞いていた屋敷の目が半眼になる。フェロモンは付けられたけれど、それ以外は何もされなかったのだと必死に説明したが、屋敷の不満げな表情は変わらなかった。


「……ふーん。そいつはオマエの番が俺だって知ってんの?」

「ううん。……僕に番がいるってことも知らない……と思う」

「おいおい、それはキチンと言っておけよ。無駄に狙われたりしたら面倒だろが」


 面倒。その言葉に聡司の心は大きく傷ついた。


「ご、ごめんなさい、僕……昴くんに迷惑かけて、あの、フェロモン上書きさせたりなんて手間をかけさせてしまって」

「んなことよりも、だ。俺が番なんだってしっかり言っとけよ?」


 目を逸らして謝り続ける聡司の顎を取り、無理矢理顔を上げさせ、目線を合わせてから屋敷が言った。申し訳なさで消えたい気持ちになっていた聡司にとって、それはひどく辛いことだったが、彼は聡司の番であり主人であったので、逆らうことはしなかった。


「言っても良いの……?」

「はぁ? 言って良いも何も、事実だろ」


 自分ごときが屋敷の番だと主張しても良いのか。本人からのお墨付きを貰った聡司は、少し胸が軽くなるのを感じた。


「まあ、これだけ濃く付けとけば近づいて来ないだろうけどな」


 久し振りの中出しを伴ったセックスのせいで、聡司の体には屋敷のフェロモンが染み付いた。それは威嚇フェロモンと呼ばれるものだったが、聡司にとってみれば心地の良い爽やかで甘い香りにしか感じられない。


「あ……ありがとう」


 他のαの存在を感じたためだとは言え、屋敷が自分にフェロモンを付けてくれたことは喜ばしいことだった。少なくとも、彼には聡司を独占したいという意志があるということを確認できたからだ。


「そうだ、薬飲んどけよ?」

「あ……う、うん、分かった」


 屋敷が言っているのは事後に服用するΩ用の避妊薬だ。中に出された日は必ず飲むように言われていた。

 そんな必要はないのに、と聡司は思う。

 Ωへの変異が順調だった聡司の体は、大学に入ってしばらくすると不調に陥った。定期的に通っている病院の主治医からは、ホルモンのバランスが崩れていて子宮の生育も順調ではないと言われている。Ωに変異したのは三年前だというのに、聡司の体はまだ妊娠できるまでに至ってはいなかった。

 半年前に受けたその診断は屋敷にも知らされた。聡司の通う病院は地元のそれと同じく、屋敷の親族が経営しているのだから仕方ないのかもしれないが、聡司としては知られたくない内容だった。


 聡司はベッドサイドのキャビネットからピルケースを取り、中に収められた錠剤を一錠口へ含む。それから屋敷に差し出された飲み掛けのペットボトルの水で飲み込んだ。


 それを知られてしまった頃からだろうか。屋敷が聡司を抱く回数が減ったのは。

 聡司はΩだが、男だ。男のΩは統計的に優秀なαを産む確率が高いなどと言われているが、その機能が無ければただの男でしかない。しかも聡司はβから変異したこともあって平凡極まりない容姿をしている。先天的なΩとは違い、人を惹きつける魅力的な何かをひとつも持っていなかった。

 屋敷にとって、そんな自分と番でいる意味などあるのだろうか。


 聡司は残り少なくなったペットボトルを両手で握りしめた。

 セックスの回数が減り、朝帰りの回数も増えてきた。その事実が全てを表している気がする。

 自分と番になるまで、屋敷は女性としか関係を持ったことがないようだった。元々、女性しか性の対象にならないのだろう。自分とはたまたま事故のように番ってしまったに過ぎない。

 先週病院で受診した結果も知らされているだろう。数値は前回より悪く、子宮は全く成長していない、と。

 変異してから三年が経ってもそんな状態でしかない自分より、他の女性やΩを選んだとしても仕方のないことだ。それにαは複数のΩと番えるのだから倫理的にも問題はない。そうだ、頭では分かっている。けれど、心がついて行かない。


 俯いたまま握りしめていたペットボトルが取り上げられた。あ、と思うまも無く、残りの水を屋敷は飲み干してしまう。そして口元の水を手の甲で拭いながら彼は言った。


「シャワー浴びてくる」

「あ、ぼ、僕も」

「お前は休んでろ」


 まだ一緒にいたいとベッドから降りようとしたが、屋敷に片手で制される。番のαにそう言われてしまえば従うしか無かった。


「……僕は、……」


 浴室へと向かった屋敷が閉めたドアをじっと見つめ、呟いた言葉に続きはない。自分の首筋をなぞり、そこへ新たに付けられた酷い噛み跡だけが番との確かな絆のように感じられた。今日もこれを付けてくれたのだから、屋敷は自分をまだ番でいさせてくれるはずだ。

 屋敷との生活が原因なのか、Ωの性質がそうさせてしまうのか、βだった頃には考えられなかったほど、聡司は依存的な考えかたしか出来なくなっていた。加えてΩとして不安定な状態であることが心に負担をかけている。

 聡司は噛み跡に指先を添わせたまま俯き、ため息をついた。



「中野、おはよう」


 次の授業が行われる教室への移動中、背後から声を掛けられた聡司は驚いて肩をビクリと震わせた。驚いたのは声が大きかったせいもあるが、その声が聞き知ったものであったことが大きい。

 身構えながら振り返ると、そこには安藤がにこやかに笑いながら立っていた。


「中野、次基礎力学だろ? 一緒に行こう」

「いや、僕は……」


 断ろうとした聡司の腕を、安藤はいきなり掴んできた。


「ちょっと、あ、……」

「教室三階だから急がないと。ほら」


 まるで親しい友人のように振る舞う安藤に聡司は戸惑う。彼とはそこまで仲が良いわけではない。それに、αだと知ってしまった今となっては距離をとりたい存在だ。


「安藤くん、離してっ」

「ん?」


 非力な聡司だったが、渾身の力で腕を振り払う。そんな聡司の振る舞いを特に気にする様子もなく、安藤は少し笑って話しかけてくる。


「急がないと遅れるって」


 今度は手首を掴まれ、走り出した。聡司は引きずられるように安藤のあとをついて行くことしかできない。教室のある棟へ入り、階段を上がり、長い廊下を走って目当ての教室へ辿り着いたときには息切れがして、しばらく話すこともできないほどだった。


「中野、ここ」


 手首を掴まれたまま安藤の隣へ座らされる。番っているためフェロモンは感じないが、αらしい身勝手さを感じた聡司は安藤に対して強い不快感を覚えた。掴まれたままだった手を反対の手で外し、出来るだけ強い口調でキッパリと告げる。


「僕、番がいるから、こういうのは」

「知ってるよ。屋敷だろ? 中野から匂いがしてる」

「だ、だったら……」


 屋敷のことを言い当てられた聡司は、続きの言葉を言い淀む。威嚇フェロモンから推測したのだろうが、屋敷のことを認識しているのに何故こんなことをするのか理解できなかった。


「中野に興味あるんだよ、俺」

「……え?」

「βから変異したんだろ、中野って」


 微笑みながら告げられた言葉に、聡司は返す言葉を失った。

Comments

何回も読み返したいほど好きです!切なくて私まで一緒に苦しいですが、それも良いです。ラブラブな2人もっと読みたいです!

ありがとうございます オメガバースは夢が広がりますね😀 この世界では、二人は一生両想いなので、子供ができる日も来るのだろうなーと思います

煉瓦

オメガバ大好きです。 聡司のオメガ化が順調と思えば、ここに来てピンチがっ! でも昴は、妊娠したらエッチは控えめにしないといけないし、子供に聡司を奪われた気持ちになって、嫉妬丸出しになるから、まだ子供がいなくて安心してそうです😊 だけど時々孕ませたくて本能の赴くままに聡司を抱き潰す気もする。 子供が生まれたら、なんだかんだで二人とも子供を溺愛すると良いなぁ😍 カワイイ嫁と子供にデレる昴が見たい🤩

オメガバの2人のお話も大好きなので、しばらく続くと知れてめちゃめちゃ嬉しいです🤍😳2人のすれ違いはすごく好きなので最高です🥰🧡

ありがとうございます。 オメガバースは本編とは全然違う感じになってしまいましたが、書いてて楽しいのでしばらくお付き合い頂けると嬉しいです。 こっちでは両想いの二人ですが、やっぱり想いの方向と熱量がすれ違っている感じですね。。。

煉瓦

わぁ〜😭今回もとっても面白かったです😖😖✨続きがめちゃめちゃ気になります。。😵♡♡ オメガバでは、本編?と違って屋敷くんのことが好きになった聡司くんを見れて幸せです🥰🥰嫌ってる聡司くんも好きになった聡司くんも両方見れておなかいっぱいです🤰🏼❣️❣️ 前よりもネガティブになっちゃったので、聡司くん視点だとすごく切ないお話。。😭😥でも、屋敷くんに依存しちゃってる聡司くんいいですね~😖😖💓💓


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