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煉瓦
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屋敷視点の嫉妬の話(2500文字)

 天気予報で寒気団がくると言っていた通りに寒くなった日の放課後、屋敷昴はいつも通り、自分のバスケ部の部活動が終わるまで恋人である中野聡司を体育館の隅で待たせていた。準備運動のあと、簡単なパス回しやシュートの練習を経て、ふたチームに分かれ練習試合を行う。それを二回行えばもう部活動が終了する時刻に近くなっていた。  練習や試合の合間に昴は聡司を気にしていたが、彼は大人しく膝を抱え、昴が命じた通り、邪魔にならないよう体育館の隅に座り続けるのみだった。視線はこちらを見ているようで、その実、見てなどいない。副部長である昴はその役職を任せられただけあって、それなりの実力を持っているのだが、そんな彼の活躍を目にしても聡司の表情は何も変わらなかった。  部室で手早く着替え、体育館へと戻る。毎回、部活のある日は体育館の入り口で待つように言いつけていた。この日も当然そうで、昴は足早に体育館の角を曲がり、入り口へと向かう。と、そこで足が止まった。 「……じゃあこれ、俺がやっておきます」 「え、でも……」 「や、俺がやりたいんで。それじゃあ、先輩」 「あ、う、うん。ありがとう、佐々木くん」 「いえ。それじゃあ」 「うん、また明日」 「はいっ」  後輩らしき男子生徒と聡司が話していた。聡司は控えめな笑顔を見せ、佐々木とかいうらしい後輩に手を振っている。それを見た昴の胸にチラチラと苛つきの炎がゆらめいた。  見れば佐々木は聡司と同じく地味な外見をしている。しかしその表情は明るく、受け答えもハキハキとしていた。聡司にしてみれば、自分と同じカテゴリーの人間だからか話し易く、そして向こうから色々と話してくるから気安い存在、といったところなのだろうか。去り際の会話しか聞いてはいないが、昴はそんな印象を持った。  見送った聡司の表情は先ほど体育館にいたときとはまるで異なり、晴れやかなものだった。それを見た昴の表情は冷たいものへと変わった。 「聡司。今の誰だよ? 後輩?」 「あ……」  後ろから歩み寄った昴が肩に手をやり、同時に声をかけると、聡司は肩をビクンと跳ねさせてこちらを見上げる。明るかった表情は引き攣り、顔色も悪い。 「なにビクついてんの。ハハ」 「あ、あの、……」 「なあ。アイツ誰だって聞いてんだけど?」  口籠る聡司の肩を抱き寄せ、昴は少し強い口調で再度そう聞いてやった。  聡司は目を見開き、慌てて震える唇を必死に動かし答える。 「さ、佐々木くんっていって、一年で、同じ図書委員をしていて、そのっ、プ、プリント……あ、つ、次の委員会で使うプリントなんだけど、それを」 「ふーん……分かった」  言い訳をするかのように早口で説明する聡司の言葉を途中で遮ると、彼は絶望したような表情を浮かべた。  恐らく聡司は、月に一度開催している必要の無さそうな委員会で使うどうでも良いプリントの作成を押し付けられたのだろう。そして気の利く後輩がそれを引き受けてくれたのだ、と昴は推測していた。そしてその推測は恐らく外れていない。  いらぬ用事を引き受けてくれた後輩には感謝するべきだった。無駄な時間が減り、その分、聡司との時間が増える。しかし昴の感情には、丸めた紙屑を広げたように不機嫌の皺が残っている。一度ついたそれは簡単に消えない。  部活動がとうに終わったこの時間、体育館の周囲に人はいない。部室棟から見て昇降口は体育館と反対の方向にあり、着替え終わった生徒は皆そちらへ向かうからだ。それを確認すると、昴は抱き寄せた聡司の肩を更に自分のほうへと近づけ、強引に唇を重ねた。 「んっ、んんっ」  いつもとは違い、焦ったように抵抗する聡司の体を強く抱きしめた。逃げる舌を追いかけて絡めとり、吸ってやる。 「んむっ、んっ」  いつもならばそれで抵抗を止めるのに、聡司は腕の中でもがき続ける。それが更に昴を不機嫌にさせた。 「ぷはっ、はぁっ、はぁっ……」 「後輩に見られるかもって心配してんの、お前? ハハ、余裕じゃん」  唇は離したが、腕の中からは逃さない。  大体、後輩の佐々木など、とうに体育館の角を曲がって校舎へと戻って行ったのに、いつまでもそんな奴のことを気にしている聡司がおかしいのだ。  目の前にいる自分よりも、すでに去った後輩を気にしている時点で、それは重大な裏切りであると昴は感じていた。腹が立つ。けれど、聡司が愛おしい。相反する感情は昴の苛立ちを増大させた。 「今度アイツにヤッてるとこ見せつけてやろうか。昼休みか放課後、呼び出してさ」 「……っ、ご、めんなさ……」 「俺よりアイツのほうが気になんだろ?」 「ちが、違う、ごめんなさい、き、気にしてないっ」 「どうせお前のことだから、キスしてるとこ見られたら困るとか気にしてんだろ? ならさ、俺らが恋人だって理解してもらおうぜ」  ニヤニヤと偽悪的な笑みを浮かべて言ってやると、聡司は昴の顔を見上げたままガタガタと震えた。 「佐々木だっけ? アイツ何組だよ?」  教えろ、と言いかけた唇は、しかし、聡司のそれによって塞がれた。 「…………っ」  首に両手を回され、強引に前屈みの姿勢にさせられた昴は、聡司に口付けられている。おずおずと下唇を舐められたあと、舌の先を少し舐められた。驚き、閉じられなかった目には震えるまつ毛が映っていた。 「…………」  背中を抱きしめ、唇を少し開いて舌を引き入れてやる。ヒクンと反応し、逃げようとした後頭部に手をやり、それを許さない。クッタリと力の抜けた聡司の体を抱きしめると、昴は恋人の甘くてたまらない舌を存分に貪った。  唇を離したあともしばらく、昴は聡司の体を離さなかった。離したくなかったからだ。聡司もまた、されるがままとなっている。頭を撫でてやると上目遣いにこちらを見たから、今度は触れるだけのキスをしてやった。 「……す、好き、昴くん……」 「知ってる」  聡司が好きだと言う相手が自分だけだということくらい、昴は既に知っている。それでももう一度聞きたくて、昴は再び聡司の唇へ自分のそれをゆっくりと重ねた。


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