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自分より強いかもわからない、得体のしれない男にいきなり何もかもを指図されたくはない。弱肉強食を胸に抱く学生ゆえの反抗心もあったが、なによりも、同期との差を生むために「教官」をねじ伏せたという結果が欲しかった。
だが、紛争学園の教官は、それゆえに生徒から興味本位で狙われる危険も帯びており、その対策も強いられる。もちろん、教官に手を挙げること自体は厳罰に値するが……。
「ぶご、ぁぁ……っ!!」
幾度目か。キレイに突き刺さった拳が引き抜かれ、セイタの鼻から血が跳ねた。
セイタが突っかかる形でリングに誘われたサガヤだったが、案の定、二人の実力の差は圧倒的だった。とりわけ紛争学園OBであるサガヤにとって、自分よりも弱い後輩に大きな顔をさせていることが我慢ならなかった。
「なぁ、お前。本気で、現役の軍人倒して、仲間に自慢する気だったのか?」
「がぁぁぁあ……」
今まで教官として、いろんな局面で自制を強いられていた分、一線を越えた後は危険そのものだった。
サガヤは普段は温厚に見えても、一度限界を迎えた後は問題行動も多かった。
膝をついて苦しげにせき込むセイタを蹴り飛ばす。セイタはコーナーまで転がり、そのまま背中からぶつかっていった。
「本気で、現役の軍人相手に何かできるとでも思ったのか?」
「はぁ……はぁ……!!」
「なんとか言えや、オラ」
……ドボオオオォォォ!!
「ぐぉ……ぁぁ……っ!!」
サガヤは荒々しく近づいていくと、容赦なくセイタの髪をひっつかみ、そのままコーナーにその顔面をたたきつけた。
サガヤは全く表情を変えない。頭の中で何かがぷつりとはち切れた後は、狩りに挑む獣の如く瞳孔も開きっぱなしだった。
「手を出せねぇとでも思ってたか? 調子に乗ってんじゃねぇぞ、クソガキ」
「クソ……ハゲがぁぁ……っ!!」
グボオオオォォォ!!
ドガァッ!!
だが、セイタも全く譲らなかった。枯れかけた声で罵られたサガヤはセイタを無理やり引き起こし、その腹に膝蹴りを見舞い、顔面を殴り潰す。
普通、年上、しかも自分よりはるかに大柄で筋肉隆々な男にここまでされれば、腰が引けて動けなくなっても可笑しくはない。だが、セイタは引く気配を見せなかった。
「はぁ……はぁ……!!」
「…………」
「テメェ……、先輩風吹かしてんじゃ、ねぇぞ……!!」
乱暴に掴まれて崩れた髪を、震える指でかき上げる。そして、飛び起きるようにして……殴り掛かった。
どれだけ痛めつけられても。実力の差をみせつけられても、セイタはおびえて逃げようとすらしない。それが、サガヤにとってはささやかながら、唯一の誤算だった。
サガヤが身を引くことで、セイタの拳は外れ、セイタはそのままリングに倒れた。もはや無様を晒すことに全く躊躇いなどない。勢いが先回りし、一発でも打ち込もうと必死だった。
「雑魚ガキが、すぐ殺してやる」
自分だって我慢したのだ。どちらにしても潰す。ここまできたらもう後の始末なんて考えられない。
だが、口先だけだと思っていた後輩が、案の定、そうでもなかったことにサガヤは舌打ちした。別に何かの期待などしていなかったが、鼻っ柱を潰しただけで半泣きで逃げ出すようなガキじゃない分、厄介ではある。
……ストレス解消のサンドバックを確保できたとも考えられるが。
元、とはいえ、自分もこの学び舎の最強候補だった。それを知ったうえで、あれだけの真似をした。つまりは命など惜しくないということだろう。
サガヤは両の拳を打ち鳴らし、再びセイタへと近づいていった……。
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