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「決戦前夜 ~アラトVSAクラスの最強ボクサー~」 3


「はぁ……はぁ……!」


「ふはっ! いいざまだなぁ、アラト。

 どんだけボコられても、下半身だけは元気なのな?」


 最初のダウンの時に、より因縁の相手を恥辱の底に追い詰めようと、カイチはアラトのパンツを剥ぎ取ってしまった。


 現在、グローブを除いて全裸に剥かれたアラトは屈辱に呻きつつ、尚も敵意をにじませてカイチを睨みつける。そして……下半身にそびえる性器は、凛々しいカイチの裸体と相対し、また勝負の高揚感も合わせすっかり勃起しきっていた。


 倒すどころか、裸の自分を嘲笑うカイチに対し怒りは堪えきれなかったが、勢い任せに殴りかかったところでカイチに届かないのは、もう何度も迎撃を味わって理解していた。


「く、そぉ……この、俺が……テメェ、なんか、に……っ!」


「はははっ! おいおい、もうグロッキーかよ。これじゃスパーリングにもなりゃしねぇ。もっと気合入れて遊ぼうぜ、なぁ?」


「ぐ、……っ……っ!!」


 ロープに肩を預け、息も絶え絶えのアラトを見て、ぱすぱすとグローブを叩き合わせたカイチが笑う。


 半ばボクシングの流れになってからは、アラトにとってみるも無残な展開となった。カイチの培ってきた経験則と動体視力によりあらゆる攻撃が見切られ、おちょくるようにジャブで甚振られる。かと思えば、ストレートにアッパーと惜しみなく繰り出していく。

 アラトの有り余る体力を逆に利用し、弄ぶようにその肉体を追い詰めて、現在に至っていた。


「ぐっ、ぁ……はぁ……はぁ……! うっせぇ……っ!」


「おいおい、まだやる気か? 俺との力の差がまだ理解できねぇらしいな?」


(く、そぉ……これじゃ、マジでコイツのサンドバックじゃねぇか……っ! けど、殴り合いじゃ分が悪ぃ……!)


 立ったまま戦えば、おそらく確実に負ける。認めるのは悔しかったが、アラトはその現実を直視せざるを得なかった。


「はっ、そろそろサンドバックをいじめんのも飽きたし……トドメをくれてやるよ」


 カイチは低い声で言うと、体を揺らし、アラトに迫る。


 アラトにはもう、キャンバスを跳ねまわって避ける力は残されていなかった。拳を握って迫りくるカイチを睨みながらも、無防備に受け入れるしかなく。


 ……だが、アラトは膝を少し曲げ、さりげなく体勢を低くする。同時にカイチのストレートが迫る。


「……オラァッ!! こいつで終わっちまえ、アラトっ!!」


「はぁ……はぁ……、……終わんのは……テメェだっ!!」


 華麗にフィニッシュを狙うカイチの拳が、頬をかする。アラトは前のめりに倒れ掛かり、そしてカイチの腰を掴んでいた。


「っなっ!?」


 はっとしたカイチが即座に拳を戻しても、アラトは組み付いたまま離れない。


 立ったままならば勝負は明白。ボコボコになるうちにアラトが殴り合いを嫌うのは戦う前から読めており、カイチは今までアラトのタックルやクリンチを警戒しつつ、自分の得意を押し付けるよう一方的にサンドバックにしていた。


 殴り合っていれば圧倒できる勝負だと自覚しており、寝技に持ち込まれないために……。だが、ここにきてアラトに組み付くことを許したことに、カイチは勝利を確信したがゆえに生まれた己の油断を痛感し、背筋を震わせた。


(チッ……、顔にも腹にも100発ちょいは弾いたはずなのに……、まだ、こんな余裕が……っ!?)


 並みの相手なら、とっくにKOされて然りだったろう。弄ぶ余裕はあれどさほど手は抜かず、それだけ殴り続けたつもりだった。

 だからこそ、アラトがここにきて組みついてくるなど予想もできなかった。その執念を警戒しつつ、カイチは反射的に引きはがしにかかる。


「くっそ……放し、やがれっ!!」


「はぁ……はぁ……、ぜってぇ、放さねぇぞ……っ!」


 必死にアラトの頬を押しのけ、引きはがそうとする。だが、同じクラスで睨みを利かせてきた男に負けられないのはアラトも同じであり、必死さも言わずもがな。


 ここで逃がせば、今度こそ全身を殴りつぶされ、終わりだ。なればこそアラトは必死にカイチの肌に指を食い込ませ、ふらつきながらも押し倒そうと組み付き続けた。



「っぁ……っ!!」


「……おらあああぁぁぁぁっ!!」


 ついに、カイチがアラトの体重に引かれるようになって、バランスを崩す……。アラトはすかさずカイチの胴に腕を回し、抱きつくように密着を強めた。


 そこからは、これまでの攻勢が逆転したようだった。ボクシンググローブではうまく寝技に対応できず、カイチは必死にもがき続ける。

 その点、アラトはグローブを意に介せず順当に背後を取ると、呻くカイチの顔を無理やりそらし、その首に腕を回す。



「っ! がぁ……っ!」


「はぁ……はぁ……、人の腹ぁ、散々甚振ってくれやがって……っ! ボクサー野郎……っ!!」









 散々に殴られたダメージや痛みは消えない、その悔しさを倍返しにするように、アラトはスリーパーに極めた。


 鍛え抜かれたアラトの剛腕がカイチの首に食い込み、それはさらに締め上げるように太く隆起する。圧迫感はすぐに増して、カイチは息を詰まらせた。


 だが、やはり重ねたダメージの差は大きいらしく。その激情とは裏腹にアラトが本気を出しきれていないことも察することができた。よって隙が無いわけではなく、カイチは息苦しさに悶えつつも、アラトの脇腹を殴りつけたりして脱出を狙う。



「へっ……寝技にかけりゃ、テメェも呆気ねぇなぁ……? 好き放題に俺をボコって、笑いやがって、今からどうなるかわかってんだろうなぁ……?

 オちて痙攣したって、放してやんねぇぞ、コラ……っ!!」


「く、そ……放し、やがれっ……KO寸前の、死にぞこないがっ……っ!」


「はぁ……はぁ……、うっせぇ……っ!! 黙って、失神しろや……おらぁぁっ!!」


「っぁ……がぁ……ぁぁぁ……っ!!」



(や、っべぇ……この、ままじゃ……負け……っ!)


 筋を立てて隆起するアラトの二頭筋により首が圧迫され、じわじわと呼吸が滞る中……、カイチの意識は刻々と遠のいていった……。


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