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ささやかな願いごと ショートストーリー

七夕のショートストーリーです。

※お兄ちゃん大学進学後くらいの時系列です


■■■ささやかな願いごと■■■


夜空を埋めるように、頭上で笹の葉やカラフルな短冊がひしめき合っている。

「わぁっ!きれーい!!」

浴衣姿の唯がカラカラと下駄を鳴らして会場の入り口まで走る。

「唯!こけるなよー!」

「もうっ、大丈夫だってばー!お兄ちゃんと霞さんも早くー!」

唯が振り返って僕と叔母の霞さんを呼ぶ。


「七夕祭り限定の御守りが良縁に効くって噂でね~!でもお一人様でお祭りなんて流石の私も寂しいじゃない」

そう言う霞さんに連れられて、今日はわざわざ地元から離れた七夕祭に来た。

祭りなんて、最後に唯と行ったのはいつだろう。

こういう関係になってから必要以上に気を遣ってしまって、一緒に遊びに出る機会も減っていた。

……その分、毎晩のように触れ合ってはいるのだけれど。


祭り会場の中心にある神社へ向かうと御守り目当てに長蛇の列が伸びていた。

「うそっ!?こんなに並ぶなんて知らなかったわよ!?」

「列の進み遅いし、これは時間かかりそうだな…」

「ぐぬぬ…唯ちゃ~ん、一緒に並ぶ?良縁ゲットしよ?」

仲間が欲しさに唯を列に引き込もうとする霞さんを慌てて引きはがす。

「ゆ、唯にはそういうの早いからっ!」

「うん…唯はいらないよ、御守り」

ただの御守りとはいえ思わず焦ってしまった。唯の”いらない”の言葉に少しホッとしてしまう。

「そうよねぇ…仕方ないわ、おねーさんはここで並ぶから2人はお祭り遊んでらっしゃい」

霞さんはそう言うと財布から5千円札を取り出し渡してきた。

「いいよ、お金なら持ってきてるし――」

「ううん、イカ焼きあったら買ってきて。長期戦になりそうだから!」

「はいはい…」


神社の行列を離脱して屋台へ向かう。

その途中に来場者向けの短冊記入コーナーがあった。

「お兄ちゃん、お願いごと書こうよっ」

「そうだな、折角だし」

記入台の上で願いごとを書いていると唯が覗き込んできた。

「ええ~~、お兄ちゃんそれだと工事現場みたーい」

”健康第一”と書いた僕の短冊を見て唯が笑いだす。

「いや、だって健康が一番だろ。母さんにも唯にも元気でいてほしいし」

「お兄ちゃんらしいね。ふふ」

「そういう唯は何て書いたんだよ」

いつまでも笑っている唯の短冊を仕返しに覗き込む。

「あ~~ダメっ!唯もたいしたことないからぁ」

短冊を隠そうとする唯の手をどけて、息を飲んでしまった。


”ずっといっしょにいられますように”


恋人同士のありきたりなよくある願いごとの一つだ。

きっとこの会場にも同じ文言が沢山溢れているだろう。

それでも、その一文に胸がひどく締め付けられた。


3年前に唯が聞いてきた言葉が頭をよぎる。

『大人になったら一緒にいられなくなる?』



僕が離さないから――あの頃は簡単に言えたのに、軽々しく口にできなくなったのは少しずつ社会が、現実が見えてきたからだ。

就職してその先もずっと家に居続けられるとは限らない。ましてやこの関係を隠し続けたままなんて……


「お兄ちゃん?どうしたの?」

唯の言葉でハッとする。心配そうな唯の頭を撫でて、もう一度ペンを取った。

「僕も、その願いごとにするよ」

短冊に『章・唯』と2人の名前を書き足す。

「お兄ちゃん、これ誰かに見られるかもしれないのに――」

「大丈夫だよ、地元じゃないんだし……ちゃんと叶えてほしいからさ」

僕がそう言うと唯は短冊を両手でにぎりしめ、祈るように目を閉じた。


なるべく高く見えにくい位置に短冊を結ぶ。

重なり合ったそれぞれの願いごとの中に、早速同じような文章を見つけて笑ってしまう。

きっとこの中なら、僕たちのこともうまく隠してくれるだろう。



「じゃあ霞さんのリクエスト通りイカ焼きでも買いに行こうか」

「唯、かき氷食べたいー!!」

人ごみの中ではぐれないように――もし霞さんに見られてもそう言い訳すればいいやと、唯の手を握り締める。


夜風が笹の葉と共に数えきれないほどの願いごとを揺らす。

ざあざあという音の中に僕たちの願いも当たり前の一枚として紛れていると思うと少し心が晴れるような気がした。


唯の手の温かさを感じながら、あの一文を反芻する。

ずっと一緒にいる、離したくない――


ささやかでありきたりなこの願いが、どうか叶いますように。


(end)





※SS内でお兄ちゃんが思い返してるのはこのシーンです。

(「おはようせっくす」 おでかけせっくす総集編に収録されてます)


あの頃は若くて、簡単に言えた言葉だったのに…


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Comments

てぇてぇ✨

鐵千代

七夕ということで来ました。 この二人の関係が尊い!

ゆう

thank you!

三上ミカ

I love Yui!

Mike3149

ありがとうございます!幸せになるところまで描きたいです~!

三上ミカ

二人とも段々と大人になっているのだな、と改めて感じました それゆえに、兄の表情に見える複雑な感情が… 二人が幸せになれることを願います

妖夢=みょん

ありがとうございます〜!!

三上ミカ

素敵なストーリーを ありがとうございます……!(´;ω;`)

ぐるめが🦉💙

ありがとうございます〜!この願い叶えてあげたいです…!!

三上ミカ

泣けてしまうじゃないですか……(;_;)。負けるな二人‼️

ユウノ


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