その日、彼は妙に昂ぶっているようだった。 何も知らず無垢な顔を晒して穏やかな寝息をたてる貴方の胸元に跨ると、鎌首をもたげて下着を押し上げるそれを貴方の柔らかな頬に押し付けた。 息苦しさと頬に当たる熱に気づいた貴方が薄っすらと目を開けると、そこには獲物を捕食するかのような爛々とした目つきで見下ろす海人がいた。ただの一言も発さず、呼吸をゆったりと繰り返し、硬度を増した屹立を無遠慮にぐいぐいと押し付けてくる様はさながら「咥えて」と言わんばかりであった。 寝起きのぼんやりとした思考は酩酊にも近いものがあり、彼の仄暗い支配欲めいた異様な雰囲気に困惑しながらも、同時に思惑の読めぬ欲に火照りがこみ上げてくるのを感じる。貴方が僅かに口を開けると彼はそれを同意とみなしたようで、布の下で苦しそうに脈打っていたものをやおら取り出し、貴方の唇にあてがった。 熱い。 頬張るには難儀な大きさが否応なしに口内に侵入してくる。円い先端が舌を擦ると、僅かな粘度を帯びた塩辛い味が口に広がった。 彼はいつもこちらの反応をうかがってほくそえんでいるような男だったが、決して無理強いはしなかった。だからこのような行為に及ぶ時も、激しく見せかけて一定のラインを超えないよう注意を払い、その配慮すらも極力相手に悟られないようにしている抜かりなさがあった。 だから彼がいつもは踏み込まない境界線を超えて、さらに膨らみと硬度を増したそれを押し込んできた時、予想外のことに貴方はむせて喉奥で嘔吐いた。図らずも涙が滲み、彼に目線で侵犯を訴える。 しかし彼はそれを見て、目を細め、緩慢な動きでさらに腰を進めた。奥に奥に進む肉竿が口内をみっちりと満たすと、粘膜に波打つ血流が響く。 貴方が縋るように海人の手に触れると、彼は指と指の股を絡めるようにして握り返し、握っていない方の手で貴方の頭を優しくなでた。苦しさに喘ぐ喉元と対するちぐはぐな甘さに貴方の頭は処理が追いつかない。 奥にずっぷりと埋め込まれてもなお根本までは飲み込みきれず、彼は些か残念そうな表情をしたが、気を取り直したようにゆるゆると抽挿を始めた。押し込まれるだけで苦しいというのに、奥の壁を突かれて唾液が吹きこぼれるような音をたてて溢れ、うめき声が漏れた。 にわかに彼の呼吸が荒くなる。 舌を使う余裕すらない緩やかな刺激にも関わらず、彼は貴方を組み敷き咽喉を犯して苦しみ喘ぐ姿を見ることで十二分に興奮しているようであった。 ほとばしる欲を抑えきれなくなったのか、彼は先程まで添えていた手で貴方の頭をつかみ、自らの陰部に押し付けるようにして抜き差しを強めた。頂点に向けて早まる動きに、貴方はぐちゃぐちゃとした頭で考えることをやめ口内を蹂躙する欲望にひたすら意識を注いだ。 刹那、先端からどぷんと勢いよく精液が放たれる。 堰を切ったようになだれこむ夥しい量のそれを、貴方は必死に喉を鳴らして飲み込んだ。まるでポンプのようにどくんどくんと送り出される種は濃厚で喉に絡みつく。彼の手は貴方の頭を強く押し付けたままで、頭上から獣のような深い息遣いだけが聞こえた。 溺れる――貴方は彼の手を更に強く握りしめ揺すって危機を訴えると、海人はようやくズルリとなお怒張したままのものを引きずり出した。そして、だらりと開いたままの貴方の口に向け、手で絞り出すように最後の一滴までを注ぎこんだ。 耐えきれず咳をすると、どろっとしたものが僅かに逆流してくるのを感じる。まるで舌の先から胃の底まで彼の本能に満たされたかのようだ。貴方はやっとの思いで息を整えると、恨めしそうな顔でじっと彼を見つめる。 彼は先程の蛮行が嘘のようにいつもの穏やかな顔で貴方を抱き寄せ、頭をなでながら顔にゆっくりと甘いキスをいくつも落とした。ざり、と彼の髭が擦れて痛痒い。絆されまいと貴方が訴えかけたその口を彼は唇で塞ぎ、慈しむように指の背で頬をなでて微笑んだ。 そう、彼は知っている。 貴方自身が知らない意識の底で求めていることを。 彼は決して超えないのだ。