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あいまり
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【先行公開】盲目な愛は染められて(匂い責め・足責めIF) 後編

「う~ん……っ! 結構良い時間だし、そろそろ寝ようか」  壁に掛かった時計を見てそう言うエスラの言葉に、アイルも軽く伸びをしながら「そうだねぇ」と答えた。  夕食も入浴も終えた二人は、エスラの自室にて談笑しつつ夜が更けるまでの穏やかな時間を過ごしていた。  しかし……と、アイルはポリポリと自身の頬を掻いて「でもさ」と口を開いた。 「なんか珍しいね、ルシェが全然混ざってこないなんて。いつもだったら、私とエスラが一緒にいたら絶対に仲間に入りたがるのに」 「言われてみれば……まぁ、確か倉庫で良い本を見つけたみたいだったし、また何か勉強でもしてるんじゃない?」 「こんな夜まで……? あんまり根詰め過ぎて無いと良いけど……」  エスラの言葉に、アイルは眉間にシワを寄せて困ったような表情を浮かべながらそう言った。  ルシェは、アイルの目を治す為にと日々魔法の勉強に取り組んでいる。  アイル自身は目が見えない生活にも大分慣れてきており、そんなに無理してまで治さなくても良いと思っているのだが、他でも無いルシェ自身が頑なに聞き入れなかった為に今では見守ることしか出来ない。  真面目なルシェらしいとは思うが、それでも無理が祟っていつか体を壊してしまうのではないかと、時々心配になることもある。  たまには何か息抜きにでも誘った方が良いのでは無いだろうか……と悩むアイルを尻目に、エスラはもう一度壁に掛かった時計に視線を向けて小さく息をついた。  ──しかし……本当に珍しいな。  ──いつもだったら、アイルさんと二人きりなんてズルい~とか言って割って入ってくるのに……。  エスラは、ルシェがアイルに向ける感情を知っている。  本人から聞いた訳では無いが、文字通り人生の全てを捧げる覚悟でここまで尽くしているのだ。  むしろ、ここまでされて気付かない方が馬鹿と言っても過言では無い。 『エスラ。久しぶりに一緒にお風呂入る? 小さい頃よくやってたよね?』  夕食後、無邪気に誘ってきた彼女の顔が脳裏を過ぎり、エスラはもう一度溜息をつく。  ──私の気持ちも知らないで……我慢してるこっちの身にもなって欲しいよ。  コンコンッ。  内心呆れていた時、部屋の扉をノックする乾いた音が響いた。  それにエスラが顔を上げると同時に、アイルが「ルシェ?」と声を掛けながら立ち上がって扉の方へと歩み寄る。  ──……もしかして、ノックの音だけで分かったの?  相変わらずの耳の良さだな……と、エスラが心の中で驚いている間にアイルは部屋の扉を開けた。  するとそこでは、寝間着に身を包んで扉の前に立っていたルシェが、アイルの姿を見て「あっ、アイルさん……!」と小さく名前を呼んだ。 「ルシェ。どうかしたの?」 「えっと……実は、アイルさんに、手伝って欲しいことがあって……今、時間大丈夫ですか?」 「私は寝る所だったから構わないけど……」 「手伝って欲しいことって?」  オズオズと頼んでくるルシェの言葉に、エスラはそんな風に聞き返しながらアイルの近くへと歩み寄った。  それに、ルシェは「ちょっ、ちょっとね……!」と慌てて答える。 「大したことじゃないんだけど……ちょっと、時間掛かるかもしれなくて……」 「何それ……大変そうだったら、私も手伝おうか?」  モゴモゴと口ごもりながら答えるルシェに、エスラは自分の顔を指さしながらそう聞き返す。  それに、ルシェは慌てた様子で「だ、大丈夫……!」と答えた。 「アイルさんにしかお願い出来ないことだし……! お姉ちゃんはゆっくりしてて!」 「何それ……」 「……? まぁ、明日は特に用事も無いし、私は構わないけど……」  ルシェの言葉に訝しむような反応を示すエスラに対し、アイルは不思議そうにしながらも了承の意を示した。  するとルシェはパッとその顔を輝かせて「本当っ?」と答え、すぐにアイルの手を取った。 「それじゃあ早く行きましょっ? ちょっと長くなるかもしれないので……っ!」 「わっ、ちょっと……! そんな引っ張らなくても……!」  やけに明るい声で言いながら手を引くルシェの言葉に、アイルは驚いた様子でそう答えながら手を引かれるままに付いていった。  そんな二人の様子を呆気にとられた様子で見送る形になったエスラは、くせ毛の頭をガリガリと搔きながら何度目かになる溜息をついた。  ──まさか……二人きりになる為の口実とかじゃないよね……?  心配して損した……と呆れつつ、エスラはやれやれと首を横に振って扉を閉めた。  その頃、アイルはルシェに手を引かれて彼女の自室へと案内された。  一体何を手伝って欲しいのか、今までずっと勉強をしていたのか、魔法のことだったら自分よりもユイやエスラの方が知っているのではないか等々……様々な質問をしたが、その全てをはぐらかされてしまった。  結局、こうして連れて来られた明確な理由も分からないまま、彼女の自室へと辿り着いてしまった。 「えっと……ルシェ? そろそろ理由を教えて貰っても良いかな?」  部屋に数歩入った所で立ち止まるアイルの言葉に、ルシェは「そうですね」と答えながら部屋の扉を閉めて鍵をする。  カチャリ、と施錠する音が耳に届き、アイルは困惑したような表情を浮かべた。  ──何だろう……? 今日のルシェ、少し変だな……。  ──いつもだったら、部屋に来た時にもう少し具体的に理由とか説明してくれるし、こんなに強引なのはルシェらしくない。  ──何かあったのかな……? 「あのさ、ルシェ」 「────────」  アイルが意を決して呼び掛けたのと、ルシェが早口で何かを呟いたのはほとんど同時だった。  突然のことに、アイルが思わず驚いて口を噤んだ瞬間だった。  むわり……♡ と。  どこからか漂ってきた甘ったるい香りが鼻孔をくすぐり、彼女は思わず呻くような声を洩らしながらその場に膝をついた。  ──何だ、この匂い……ッ!? 少し嗅いだだけなのに……ッ!?  まるで、熟れた果実を砂糖と蜜で煮詰めて濃縮したかのような、噎せ返りそうなまでに甘ったるい匂い。  目が見えない分、人よりも嗅覚が敏感なアイルにとって、突然室内に充満したその香りは少し嗅いだだけでも行動不能となってしまう程の劇薬だった。  足に力は入らず、意識は朦朧としてまともに立つことすらままならない。  まるで世界そのものが揺れているかのような錯覚の中で、アイルは必死に虚空に手を伸ばしながら「ルシェ……!」と必死に声を振り絞った。 「ルシェ、大丈夫……!? この匂いは危険だッ……早く、ドアを開けて……外に逃げて……ッ!」 「ふふっ♡ こんな時に私の心配をしてくれるだなんて……アイルさんは優しいなぁ♡」  何とかルシェだけでも逃げてくれれば。  そんな思いから必死に振り絞ったアイルの声は、虚空に伸ばした手を優しく包み込むように握られながら放たれたその言葉によって遮られた。  突然のことに、アイルは息を止めることすらも忘れながら、「は……?」と間の抜けた声で聞き返す。  すると、ルシェは両手に握ったアイルの手の感触を確かめるように優しく揉み解しながら、ゆっくりと口を開いた。 「アイルさん♡ 今、凄く辛いでしょう?♡ この魔法……普通の人でも、少し嗅いだら一瞬で頭おかしくなって、気持ちいいってことしか分からなくなっちゃう劇薬みたいなものなんです……♡ しかも、アイルさんは人より鼻が良いから、ちょっと嗅いだだけでぐちゃぐちゃになっちゃってもおかしくないのに……それを必死に堪えて私を助けようとしてくれるなんて、本当に優しいですよね……♡」  ルシェは恍惚とした笑みを浮かべながらそう語り、アイルの手に指を絡めて優しく握り込む。  甘い香りで意識が朦朧とし、まともに思考を働かせるだけでやっとといった状態のアイルがそれに反応することは出来ず、甘ったるい香りに意識を持っていかれそうになるのを必死に堪えながら口を噤むことしか出来なかった。  視界は無く、嗅覚は室内を満たす甘い香りに犯されてまともに機能しなくなっている。  触覚は、腰を抜かしてへたり込んだことで膝と臀部に固い床の感触と、自身の手を握っているルシェの華奢な手の触感を脳へと伝える。  聴覚は、出来るだけ息を止めている為に浅くなった呼吸と激しくなる鼓動の音……そして、ルシェの声だけが届いていた。  一体何が起きているのか。そして、これから自分に何をされるのか。  今目の前にいるのは、幼少の頃から共に過ごしてきた大切な幼馴染の筈なのに、この不安を和らげる安心材料とは成り得なくて……床にへたり込んだまま、じわじわと血の気が引いていくかのような不安と恐怖に苛まれることしか出来ない。  青ざめた顔で黙り込むアイルの様子に、彼女の手を握るルシェはその目を柔らかく細めると、空いている方の手で冷たい汗が伝うその頬を優しく撫でた。  突然のことに、アイルはビクリと肩を震わせて硬直する。  ルシェはその様子を見て微かな笑みを浮かべると、俯くアイルの頬に手を添えて優しく上げさせて……──「ルシェ、何を……んむッ……!?」──唇を奪った。  突然唇に触れる柔らかな感触に、見えないにも関わらずアイルは目を見開く。  咄嗟に押し退けようとするも、室内を満たす甘ったるい香りのせいで手足に力が入らず、突然の口付けを受け入れることしか出来なかった。  数秒ほど唇を重ねた後、ルシェはゆっくりとアイルの唇を舐め、そのまま唇の隙間から舌を挿入した。  状況把握すらもままならず、突然のことが続いて混乱していた今のアイルでは唇を閉ざす程度の抵抗も出来ないまま、虚ろな瞳に涙を滲ませて幼馴染からの深い接吻を受け入れることしか出来なかった。  ──一体、何が起こってるの……?  ──今、これ……ルシェにキスされて……? でも、どうして急にこんなこと……?  困惑に染まる思考を綯い交ぜにするかのように、舌を絡め取られて口内を貪られる。  艶めかしい肉塊が口内を蠢き這いずり回るこの状況では呼吸すらもままならず、ただでさえ朦朧としていた意識は熱を帯び、その輪郭は蕩けて滲んでいく。  息継ぎの為に唇が離れれば、室内を満たすソレより濃厚で甘美な香りが浴びせられ、揺らぐ意識を淫熱の中へと誘う。  ──もしかして、この匂い……全部、ルシェの……? 「はぁぁぁぁ……♡」  おぼろげな思考の中でふと沸き上がった疑問に応えるかのように、ルシェが息を吐き掛ける。  その吐息を間近に浴びた途端、ぐわん……と、熱を帯びた甘ったるい匂いによって意識が飛ぶ。  誇張などでは無く、文字通り一瞬気を失った。  すぐさま我に返ったように意識を取り戻すが、その様子を見たルシェはその顔にドロリと蕩けるような笑みを浮かべて、すぐさまアイルの体を強く抱き締めた。 「あぁ~もうっ♡ アイルさん可愛いっ♡ 不安そうにしてた時も可愛かったけど、今のちょっと蕩けてきた顔も最高っ♡ もっともっとトロトロにしてあげるっ♡ 私無しじゃ生きられなくしてあげるっ♡」 「ぅぅぁッ……♡ ルシェ、やめぇ……♡ はな、してぇ……♡」  込み上げる昂りを抑えきれない様子で話すルシェに対し、強く抱き締められたアイルは呂律の回らない口で必死に抵抗の言葉を紡ぎながら、自分より華奢な少女の体を突き返そうと両手に力を込める。  しかし、散々甘い香りで蕩けきったその体では最早両手を持ち上げることすら出来ず、成すがままに抱擁されてその体から滲み出る甘い香りを受け入れることしか出来ない。 「ふふ……♡ スンスンって鼻鳴らしちゃって、すっかりこの匂いが気に入ったみたいだね……♡」 「……っ!?♡」  優しい口調で囁かれ、アイルは思わず息を止める。  胸やけして、不快感すらも抱きそうなまでに甘ったるい香り。  気を抜くと意識すら持っていかれてしまいそうで、必死に抗っているというのに……いつしか、この匂いを求めてしまっていた……?  何より、指摘されるまでそのことに気付けなかった自分自身に驚き、アイルは抱擁されたまま思わず硬直した。  そんなアイルの反応に、ルシェは鈴を転がしたような笑い声を上げると彼女の後頭部に手を添え、自身の首筋に埋めさせた。 「んむッ……!?♡」 「可愛いから教えてあげる♡ 私の使った魔法は、使用者の体臭を魔力で増幅させて、サキュバスのフェロモンと同等かそれ以上の魅了の効果を付与する魔法なの♡ 効果の強さは使用者の魔力によって変わるみたいだけど……アイルさんにはちょっと、刺激が強すぎたかな?♡」 「んんッ……んむぅッ……♡」  首筋に顔を押し付けられ、必死に逃れようと抵抗してみても力の入らない体ではその行為に意味は無く、それどころか藻掻くことで甘い芳香をより濃厚に感じる気さえした。  そんなアイルの頭を優しく撫でながら、ルシェは朗らかに続けた。 「このままアイルさんが私のことを好きになるまで、時間を掛けてゆっくり嗅がせるのも楽しそうだけど……そうなると、アイルさんが我慢して苦しい時間が長くなっちゃうね……♡」 「んむッ……なに、いってぇ……?♡」 「私もね、別にアイルさんを苛めたくてこんなことしてる訳じゃないの♡ だから、早くアイルさんが私のこと好きになって、トロトロになって……♡ 気持ちいい、幸せってことしか分かんなくなるように……私が、お手伝いしてあげる……♡」  ルシェはそう言うとアイルの体を抱き締めていた手を離し、その手で自身が穿いている靴に指を掛けた。  彼女の放つ甘いフェロモンを至近距離で浴び続けてすっかり蕩け切ったアイルは、その言葉の意味すらもあまり理解はできていなかった。  朦朧とする思考は、嗅覚から入ってくる膨大な甘味をすることで手一杯で、その他の感覚から入ってくる情報を処理する余裕など無かった。  自身の体を抱き締めるルシェの手が片方離れたことも、その手で靴を脱ぐ衣擦れの音も分からず、無抵抗に抱擁されたまま芳しい甘い香りを嗅ぎ続ける。  最早抵抗の意思などは弱々しい風前の灯火と化し、この芳香に吞まれないよう微かな理性を必死に繋ぎ止めながら、浅い呼吸を繰り返すことしか出来ない。  そんなアイルの頭を優しく撫でたルシェは、何も言わずに無言で体を離した。 「ぁぇ……?♡ るしぇ……?♡」  突然抱擁を解かれると同時に鼻孔をくすぐる香りが微かに薄れ、アイルは思わず弱々しい声を洩らしてそう呟いた。  ルシェはそれに「大丈夫だよ♡」と答えて慈愛に満ちた笑みを浮かべると、アイルの頭を優しく撫でて──その顔に、脱いだばかりの靴を押し付けた。 「んぶぅッ!?♡ んんぐぅッ!?♡」 「あはッ♡ もぉ~アイルさんってば♡ そんなジタバタしちゃだぁめっ♡」  思わずくぐもった声を上げながら力の入らぬ両手をバタつかせるアイルに、ルシェはどこか楽しむような口調で言いながらその手を押さえつけ、脱いだ靴の足を入れる部分が彼女の鼻や口を覆うように押し付ける。  まだ自分にも抵抗する力が残っていたのかと驚いたのも束の間、顔の下半分を覆い尽くすかのような仄かな温もりを感じると同時に、今まで嗅がされてきた香りなど序の口と言わんばかりに濃厚な香りが鼻腔を貫いた。  今までの香りが砂糖と蜜で煮詰めた熟れた果実の香りだとすれば、今感じているのはその果実をより熟成させてより濃縮させたかのような、この世に存在する全ての甘味を閉じ込めて凝縮したかのような甘ったるい匂いだった。  ──甘いぃッ……!♡ 甘い、甘い、甘い甘い甘い甘い甘いッ!♡  ──何これ何これ何これッ♡ 甘くて……♡ 甘くて甘くて甘い甘い甘いッ♡ 「すぅぅぅぅッ♡ はぁぁぁぁぁッ♡ すぅぅぅぅぅッ♡ はぁ……ッ♡ ふぐぅッ……♡ んんぅぅぅぅッ♡」 「あはぁッ……♡ アイルさんってば、夢中で嗅いじゃって……♡ 私の靴の匂いがそんなに気に入ったのぉ?♡」  何度も深呼吸を繰り返し、腰をカクカクと弱々しく揺らしながら芳醇なその香りを夢中で取り込むアイルの姿に、ルシェは満面の笑みを零しながらそう問い掛ける。  そこで初めて、今自分が嗅いでいるのがルシェの脱いだ靴だと言うことに気付く。  革で出来たその靴は通気性が悪く、ずっと穿いていれば蒸れやすいことは一目瞭然だった。  目が見えないアイルでも、手で触れている感触でそれくらいのことは大体分かる。  熱や匂いが籠りやすい靴の中に、少し吹き掛けられるだけでも意識が飛びそうになる程の甘いフェロモンを放つルシェの足を入れていればどうなるか……そんなことは、靴を顔に押し当てられて半ば強引に嗅がされているアイルが、一番身を以って理解していた。  否。理解させられていた。 「ん゛ん゛ん゛ッ!♡ ん゛ん゛~ッ!♡」 「そんなに気に入ったなら匂いだけでイっちゃえっ!♡ 気持ち良くなっちゃえっ!♡」  くぐもった嬌声を上げるアイルに、ルシェは楽しむような口調で言いながらグリグリと靴を押し付ける。  履き古した革靴がルシェの華奢な手とアイルの顔の間で拉げ、人より敏感な嗅覚を誇る彼女の鼻先が、靴のインソールへと触れた。 「ん゛ん゛ん゛ッ!?♡ ん゛ん゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!♡」  刹那、濃厚な香りが鼻腔から脳天を貫くような感覚と共に、アイルは激しい絶頂を迎えた。  見えない筈の視界が激しく明滅するような錯覚と共に、脱力していた体はビクンビクンッ! と激しく痙攣し、身に付けていたズボンの股間部にじんわりと染みが出来る。  性知識やそう言った経験に疎い彼女にとって、その絶頂は生まれて初めてのことであり、まるで突然体に電撃が走ったかのような未知の衝撃だった。  床にへたり込んだまま、自分に起こった出来事を処理しきれず混乱した様子で弱々しく体を震わせるアイルの姿に、ルシェはゾクゾクと背筋に嗜虐心が走るのを感じながらも彼女の顔に押し付けていた革靴を外した。  そこでは頬を紅潮させ、恍惚としたような蕩けた表情で息を荒くするアイルの姿があった。  ──イった……ッ!♡  ──アイルさんが、私の匂いでイった!♡  ──可愛い可愛い可愛すぎるっ!♡ ビクビクしちゃって可愛いっ♡ 自分に何が起こったか分かってなさそうで可愛いっ♡ もしかして初めてだったのかなっ?♡ 初めてなのに私の匂いだけでイっちゃったんだっ♡ 可愛い可愛い可愛いっ♡ 「アイルさん……ッ!♡ 可愛いっ!♡ 好きっ!♡」  ゾクゾクと体の奥底から込み上げる昂りに身を任せ、ルシェは手に持っていた靴を放ってそのままアイルに抱き着いた。  それにアイルは「ひぁッ……!?♡」とか細い悲鳴を上げるが、ルシェは気にせず彼女の体を強く抱き締める。  抱き締められることでルシェの体から滲み出る甘いフェロモンが鼻孔をくすぐり、先程の絶頂の余韻で敏感になったアイルの体は、自身より華奢な少女の腕の中でビクビクと弱々しく痙攣する。  未だ自分の体に何が起こっているのか理解できないまま、初めての快楽に翻弄されてか細い嬌声を洩らしながらその身を打ち震わせる生娘と成り果てた彼女の姿に、ルシェはドロリと蕩けるような笑みを零しながら銀髪の頭を撫でた。 「大丈夫だよ~アイルさんっ♡ もっともっと気持ちよくしてあげるっ♡ イってイって何回もイって♡ 気持ちいいってことしか分からなくなるまでぐちゃぐちゃにしてあげるっ♡」 「ぅぇ……?♡ るしぇ、なにいって……んんぅッ♡」  呂律の回らない口で困惑を訴えようとしたアイルの唇を、ルシェは問答無用で奪った。  唇を重ねて舌で口内を舐った後、すぐさま唇を離したルシェはそのままアイルの体を離す。  自身の体を包む温もりが消えた感触と、周囲を漂う甘い香りが僅かに薄れるような感覚に、アイルは緩んだ口元から垂れる涎もそのままに虚空に手を伸ばしながら「るしぇ……?♡」と弱々しく名前を呼んだ。 「るしぇ、どこいったの……?♡ るしぇぇ……♡ ……ふあッ!?♡」 「ふふっ♡ アイルさん捕まえたっ♡」  足腰に力が入らず、へたり込んだまま不安げに名前を呼ぶアイルの体に両足を絡めたルシェは、そう言って足に力を込めて拘束した。  一度アイルから離れたのは、近くにあるベッドに腰掛けた状態で両足を自由に動かせる状態を作る為だった。  突然得体の知れない何かに捕まったアイルは思わず素っ頓狂な声を上げてしまったが、頭上からルシェの声が降って来たことでそれが彼女の足だと気付くと、強張っていたその表情を緩めて顔の横にある太ももに頬ずりをした。  ルシェはそんなアイルを見てその顔を蕩けさせると、自身の両足の間にある彼女の頭を優しく撫でながら、続けて口を開いた。 「よしよし♡ アイルさん、抵抗しなくて偉いねぇ♡ すっかりトロトロになっちゃって可愛いねぇ♡ 良い子にはご褒美上げないとねぇ~♡」 「えへぁ……♡ るしぇぇ……♡ ……んむぅッ?♡」  頭を撫でられ恍惚に浸る様子のアイルにルシェは微笑み、靴を脱いでいる方の足を持ち上げて彼女の口元へと押し付けた。  突然口と鼻を押さえつけられたアイルは微かに目を見開いてくぐもった声を洩らすが、顔に触れる温もりと甘い匂いからそれがルシェの足だと気付くと、その目をトロンと蕩けさせた。  かと思えば、彼女は白い靴下を纏ったソレに両手を添えると、自身の顔を少しでも深く埋めるかのように押し付けて大きく息を吸った。 「すぅぅぅ……♡ はぁぁぁぁ……♡ すぅぅぅ……♡ はぁぁッ……!♡ あぁッ……♡ はぁぁあッ……♡」 「も~アイルさんってば息荒い~♡ そんなに私の足の匂いが好きなんですかぁ?♡」 「あはぁ……♡ しゅきぃ……♡ るしぇのあし、しゅきぃ……♡ んふぅ……♡ んんぅッ……♡」 「よく言えましたっ♡ もっと嗅いで良いですからねぇ~♡」  ルシェはそう言うと自身の股間部にある白銀の頭を両手で支え、顔に押し付けた足を更にグリグリと動かして踏みにじる。  緩んだ口から垂れた涎や見えない両目に溢れる涙が、年下の幼馴染の足によってグチャグチャに掻き混ぜられて踏みにじられる感触に、アイルは嬌声を上げながらビクビクと体を震わせて歓喜を露わにする。  完全に堕ちた。  性を知らない無垢な盲目の少女は、親友の妹であり大切な幼馴染の足で顔を踏まれて尊厳を踏みにじられて、その身を打ち震わせて歓喜を露わにするまでに堕ちきった。  フェロモンの虜になった今のアイルは、この匂いの為ならば例えどんなに恥辱的な命令や倫理に反した命令でも迷わず従い、他の二人の幼馴染との絆を捨ててでもルシェと一緒にいることを選ぶだろう。  完全にフェロモンの虜となった、足奴隷の完成だ。  ──でも、まだ……まだ、足りない。  ルシェが欲しいのは、どんな命令でも絶対服従の足奴隷では無い。  ただ、自分のことを想ってくれる……──私だけを見てくれる、盲目の愛。  その為には、もっと心の奥深く……アイルという人間を構築する核とも言える部分まで、自分の色で染め上げなければならない。  だから……──と、ルシェはアイルの顔から足を離すと、彼女の顎に両手を添えて「ア~イルさんっ♡」と呼びかけながら、両手足に力を込めて彼女の顔を上から見下ろす自分の方へと向けさせた。  足を離され、半ば強引に頭上を向けさせられたアイルの顔は涙や汗でぐちゃぐちゃになっており、それでも彼女の顔は悦楽に蕩け切っていた。  ルシェはそんな彼女の頭を愛でるように撫でながら、「アイルさん♡」ともう一度名前を呼んだ。 「ね、気付いてる……?♡ 私まだ、右足の靴は履いたままなんだよ?♡」 「ぅぇ……?♡」 「こ~こ♡」  ルシェはそう言って笑いながら、未だ革靴を履いたままの右足をヒラヒラと軽く振ってみせた。  目は見えないが、頬や体に触れている太ももの振動から右足の動きを感知したアイルは、言われるままにルシェの右足へと緩慢な動きで手を伸ばす。  それに、ルシェは「だぁめ♡」と言いながら右足を離し、アイルの顔を覗き込みながら続けた。 「覚えてる……?♡ 脱いだばかりの靴の匂い……♡ 散々嗅がせてあげた足の匂い……♡ あんなに夢中になって嗅いでたんだもん♡ もちろん、覚えてるよね?♡」 「えっ……♡ あぁ……♡」 「もし、靴を脱いだばかりの足の匂いなんて嗅いだら……アイルさん、どうなっちゃうんだろうね♡」  ルシェの言葉に、アイルは思わず口を噤む。  彼女が靴を脱いだ瞬間、周囲に漂った甘美な芳香。  顔に押し付けられた甘ったるい温もり。  生まれて初めての絶頂と、自身の全てが純白に染められたかのような忘我の境。  柔らかな足裏で顔を踏みにじられ、甘い芳香に意識や思考すらも綯い交ぜにされているかのような快感。  甘いフェロモンを纏ったそれらの行為は、今までまともに性を知らなかった少女の心を歪に染め上げるには十分すぎる程に膨大な快楽をもたらした。  もし、それらの快楽が同時に与えられたら。  そんな考えが一瞬でも脳裏を過ぎっただけで、アイルの頬はだらしなく緩み、焦点の合わない盲目の瞳に淫らな情欲が滲んだ。  ルシェはそんな愛する顔の表情を上から見下ろし、どこか加虐性を感じる微笑を浮かべながら「想像しちゃった?♡」と囁く。 「だって、アイルさん……脱いだばかりの靴の匂いだけで腰揺らしちゃって、すっごい夢中になって嗅いだりして、気持ち良くなってたもんねぇ~♡」 「ぇぁ……♡ あは……♡」 「さっきも顔踏まれて悦んじゃって、すっかり私の足でよがっちゃう変態さんになっちゃったもんね~♡」  まるで歌でも歌っているかのような軽やかな口調で言いながら、彼女はアイルの顔を太ももで挟んで軽く揺らしてやる。  ただそれだけでも、今の弛みきったアイルの頭は脳味噌を直接揺らされているかのように錯覚し、朧気でほとんど機能していなかった思考すらも呆気なく霧散していく。  何も考えられず、ただ与えられる刺激に身を委ねるだけの木偶と成り果てた彼女の様子に、ルシェはその目を愛おしそうに緩めながら淫らに蕩けたその顔へと手を伸ばした。  白銀の前髪を指で梳き、指先で軽く弄びながら、彼女はゆったりとした口調で続ける。 「ね……♡ もっと虐めて欲しいなら、これから私の言うことをよく聞いて……?♡ ちゃんと私の言うことが聞けたら、アイルさんが満足するまで……ご褒美、たくさんあげるから……♡」  ご褒美。  その単語に、アイルは思わずゴクリと音を立てて生唾を飲み込む。  今の彼女には、目の前に垂らされた極上の蜜を無視出来る程の理性など、残っている筈も無かった。 「ごほうび……♡ ほしい……!♡ るしぇのいうこときく!♡ ちゃんときくっ!♡」 「ふふっ、良い子だね……♡ アイル♡」  呂律の回らない口で答えるアイルに、ルシェは嗜虐に満ちた笑みでそう答えながら頭を撫でてやる。  それに、ほう……と熱を帯びた溜息を洩らすアイルに笑みを返し、彼女は続けた。 「ね……♡ アイルは、私の匂い、好き?♡」 「ん♡ すきっ♡ るしぇのにおい、しゅきぃ♡」 「そうだねぇ……♡ もう、この匂いが無いと生きていけないぐらい……この世界の何よりも、大好きだよねぇ……♡」 「らいしゅきぃ……♡ もう、これがないといきてけない……♡ なによりも、るしぇのにおいがしゅきぃ……♡」  穏やかな口調で語られる言葉が、じわじわと侵蝕する毒薬のように、アイルの価値観を歪めていく。  かつて三人の幼馴染達を分け隔てなく愛した無垢な心は、与えられる甘い香りを愛するように。  何も見えない暗闇の世界で、進むべき道を示してくれる唯一の指標は……物心ついた時から一緒だった親友のエスラから、快楽をもたらす甘いフェロモンの香りへと。  歪に、淫らに歪められていく心を……彼女は受け入れる。  与えられるままに。無抵抗に。成すがままに。  何も考えず、ただ目の前に垂らされた甘い蜜を受け止めて、飲み干していく。  それが、自らの心を歪める毒性を含んでいるとも気付かずに。 「そう。アイルは私の匂いが好き。だから……私のことが好き♡」  そして、ルシェは全て理解した上で……彼女の蕩けた心がより自分好みになるように、形作っていく。  言いながら靴下を脱いだ左足でアイルの頬を撫でてやると、彼女は緩んだ口から「ぁぁ……♡」と喜悦の声を洩らして、その体を微かに打ち震わせる。  ルシェは続ける。 「アイルには、私がいればそれで良い♡ 私のことだけを考えて、私だけを見て……私の為だけに生きれば良いよ♡」 「ぁぁッ……♡ るしぇの、ためにぃ……?♡」 「だって、アイルは私のことが好きなんだから……他に何もいらないよね?♡」  ルシェはそう言いながら、左足でアイルの口元を軽く撫でる。  それだけで、アイルはビクビクッと体の痙攣を僅かに強めながら、「はひぃッ♡」と上ずった返事をした。 「るしぇがすきぃっ♡ るしぇがいればそれでいいっ♡ えすらもッ、ゆいもぉッ……♡ ほかはもうッ、なにもッ、いらないぃッ♡」 「よく言えましたっ♡ それじゃあ……はい♡ 好きなだけ嗅いで良いよ♡」  ルシェはそう言うと、靴を履いたままの右足の甲をアイルの頬に触れさせた。  自身の頬に触れる固い革靴の感触に、アイルはその顔を法悦で蕩けさせながら足を持ち、どこかぎこちない動きで靴を脱がせる。  靴の踵の部分に指を掛けて脱がせると、白い靴下を纏ったルシェの足が露わになって……── 「んぉぉおッ!?♡ おぉおッ……♡」  ──鼻腔を貫く甘く濃密な香りだけで、達してしまった。  虚ろな白銀の瞳を上方へと引ん剥かせて絶頂するアイルに、ルシェはすぐさま彼女の頭を強く掴んで固定し、その顔に靴を脱いだばかりの足をグリグリと押し付けた。 「ほらほら♡ これが欲しかったんでしょっ?♡ だったらそんなよがってないで♡ もっとちゃんと嗅がなくちゃっ♡」 「んぁぁ゛あ゛ッ!?♡ ま゛ッ、らめ゛ぇッ♡ ぎもぢッ、よ゛ずぎる゛がら゛ぁッ♡ ……ん゛む゛ぅ゛ッ!?♡」  快楽に喘ぎながらも必死に抵抗の言葉を紡ぐアイルの声に、ルシェは問答無用で彼女の顔に足裏を擦り付けた。  それだけでアイルはまたもや絶頂し、下着や衣服で吸収しきれなかった液体が彼女の股間部を中心に広がって水溜まりを作っていく。  口では否定しながらも体は更なる快楽を求め、気付けばアイルは無意識の内にルシェの足を両手で掴み、自身の顔に強く押し付けた。  鼻息を荒くして足裏に顔を擦り付けるその姿は、欲望のままに快楽を貪る浅ましい獣そのものだったが、本人はなりふり構わずフェロモンの香りを摂取し続ける。  ルシェはそれに笑みを零しながら、嗅がれている方とは逆の足でアイルの体を拘束し、その顔により強く足を押し付けながら口を開いた。 「ほらほら、もっと嗅いで♡ アイルにとって、この匂いは何だったっけ?♡」 「ん゛ぁ゛あッ!♡ このにおいぃ゛ッ!♡ しゅきぃッ!♡ このにおいッないとぉ゛ッ♡ いきてけッ゛ないぃ゛ッ♡ らいしゅきぃ゛ッ!♡」 「そうだねぇ♡ じゃあ私のことは?♡」 「すぅぅぅッ♡ はぁぁぁぁッ♡ しゅきぃ♡ るしぇしゅきぃッ♡ らいしゅきぃ……♡」 「ふふっ♡ どれくらい好き?♡」 「いちばんッ♡ なによりもすきッ♡ あぁあッ♡ るしぇがいればぁッ♡ それでいいのぉッ♡ るしぇのためにいきりゅのぉぉッ♡ んむぅぅッ♡ んはぁッ♡」  言いながら、アイルは自らの顔にルシェの足を押し付けて絶頂する。  ビクビクと腰を打ち震わせて達する彼女の言葉に、ルシェは「よく言えました~♡」と言いながらグリグリと足を擦り付けた。 「ちゃんと覚えてて偉いね♡ 私もアイルのことがだぁいすきだよ~♡」 「あはぁッ♡ るしぇぇッ♡ るしぇぇぇッ!♡」  愛する人からの大好きという言葉だけで、アイルはまたもや絶頂する。  ルシェの放つ甘く濃厚なフェロモンが、アイルの体に快楽を叩き込む。  例えこの魔法が切れて、フェロモンが出なくなったとしても。  ルシェの香り、足、手、声……──ルシェという存在全てで快楽を感じ、離れられなくなるまで、徹底的に。 「ほぉ~ら♡ もっと言って? 私のことがどれだけ好きなのか、もっと私に教えてよ♡」 「んぁ゛あ゛ッ!?♡ しゅきぃッ!♡ るしぇすきぃッ♡ るしぇがいないとッ♡ いきてけない゛ぃ゛ッ♡ んひぁ゛あ゛ッ♡ らいしゅきぃッ♡ るしぇらいしゅきぃぃッ♡ るしぇがいればぁッ♡ それでいいのぉぉ゛お゛ッ♡」 「ふふ♡ ちゃんと言えて偉い偉い♡ 良い子だから舐めても良いよっ♡」 「ん゛あ゛ぁ゛ッ!♡ ありがとうございましゅッ♡ はむッ♡ んむぅッ♡」  ルシェに言われ、アイルは彼女の足裏に舌を這わせた。  白い靴下の裏に舌を這わせると、今まで嗅いできたフェロモンの甘さを凝縮した蜜のような味が味覚を刺激し、ビリビリと痺れるような衝撃が脳髄に走る。  一瞬だけ「甘いな」と感じたかと思えば、その甘ったるさを突然叩き込まれた味覚は瞬く間に麻痺してその機能を果たさなくなり、舌先の味蕾から脳天に向けて電流のような痺れが突き抜けた。  その衝撃すらも今の彼女にとっては快感へと変わり、一度舌を這わせただけでその体を震わせて軽くイく。  くぐもった嬌声を洩らしながらも、彼女は打ち震える体に鞭打って必死に目の前の足を掴んでしゃぶりつく。  靴の中で蒸れて汗を吸った靴下は芳醇な香りを放ち、舌で舐めて唇でしゃぶりつけば染み付いた甘味が唾液と混ざって甘露と化し、劣情に渇いた喉を潤す。  息継ぎの度にいやらしい水音が鳴るのも構わず、欲望のまま獣のように貪りつく愛する人の姿を見下ろして、ルシェはその顔を蕩けるように綻ばせた。 「アイルがこんなに求めてくれるなんて……♡ ちゃんと見ててあげるから、満足するまで好きなだけ味わって良いからねぇ♡」 「んちゅッ♡ じゅるッ……♡ ぁむッ♡ れろぉッ♡ んんむぅッ♡」  彼女の声が聴こえていたのか否か、アイルは口の端から涎が零れて舌先から唾液の糸を引くことさえも気にせず、目の前の足を舐り続けた。 ---  カーテンの隙間を縫って挿し込んできた朝日の細い光が、薄暗かった室内を淡く照らす。  その光が丁度目に当たる形となったルシェは、「んッ……」と小さく呻くような声を発しながら重たい瞼を開いた。  ──あれ、私……何してたんだっけ……?  ──昨日は、確か……──。  起き抜けの緩慢な思考を何とか巡らせながら、ルシェは朧気な視線を自身の隣へと向ける。  そこでは……ルシェの細い腕を枕にして安らかな寝息を立てる、愛する人の姿があった。  太陽の光を反射してキラキラと光る白銀の毛髪と、あどけない寝顔に似合わない、どこか痛々しさのある火傷のような左目の傷痕。  その姿を確認したルシェは一瞬目を丸くした後、すぐにその表情を綻ばせて小さく微笑を浮かべた。  ──あぁ、良かった……。  ──あれは……夢じゃなかったんだ♡ 「ふふ……♡」 「ん……ぅ……?」  思わず笑みを零した時、隣で眠っていたアイルは微かに声を洩らしながらその目をキュッと一度強く瞑り、それからゆっくりと瞼を開いた。  ──しまった……起こしちゃったかな……?  ルシェが内心そんな風に心配していると、アイルは焦点の合わない両目でパチパチと軽く瞬きをしながら、もぞもぞと軽く蠢いてルシェの方に手を伸ばした。 「るしぇ……? おきてるの……?」 「うん、起きてるよ。おはよう、アイル♡」  重たい声で問い掛けるアイルに、ルシェは笑顔でそう答えながら伸ばされた手を握ってやる。  するとアイルは眠たげだったその表情をトロンと緩め、「るしぇだぁ……♡」と甘い声を洩らしながらその手を握り返した。 「えへへ、おはよぉ♡ おこしちゃった?」 「ううん、私の方が先に起きてたから。むしろ私が起こしちゃったかも」 「そうなんだぁ……♡ えへへぇ♡ るしぇにおこしてもらっちゃった♡」  アイルは嬉しそうに笑いながらそう言うと、ルシェの体に両手を回して首筋にスリスリと顔を擦り付けるように甘える。  それにルシェは小さく笑いつつ、アイルの頭を軽く撫でて「嫌じゃなかった?」と聞き返すと、彼女は「ん~ん」と答えて首を横に振った。 「やじゃないよ?♡ るしぇだったらなにされてもうれしい♡」 「ふふっ……♡ よかった♡」 「ん……♡ でも、起きてもるしぇの顔みれないの……や、かも……」  アイルは呟くようにそう言いつつ、ルシェの体を抱き締めてスンスンと軽く匂いを嗅ぐ。  それにルシェは一瞬目を丸くしたが、すぐにドロリと溶けるようにその顔を緩め、彼女の体を抱き締め返して「そうだね♡」と答えた。 「大丈夫。絶対に私がアイルの目を治すから……それまで我慢してくれる?」 「ほんとっ?♡ うんっ♡ がまんするっ♡ るしぇだいすきっ♡」  ルシェの言葉に、アイルはパァッと明るい笑顔を浮かべてそう答えると彼女の華奢な体に抱き着いた。  それにルシェは「私も大好きだよ、アイル♡」と答えつつ、抱き締め返すのだった。


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