色彩は艶やかに染められて 後日譚
Added 2023-11-12 17:05:22 +0000 UTC「──……では、撮影は以上で終わりです。お疲れ様でした」 撮影した映像に不備がないか確認すると、撮影監督の方がそう挨拶をしてくれた。 それに、ノゾミが軽く手を挙げて「ありがとうございました~!」と明るく挨拶するので、私とカリンもそれに続けるように「ありがとうございました」と挨拶した。 今日は、朝からスタジオで新曲のMV撮影をしていた。 ダンス映像だったので曲に合わせてダンスをしていたが、振りの間違いやカメラの都合等で何度も撮り直しがあり、撮影を終える頃にはすっかりヘトヘトになっていた。 スタジオ内は冷房が効いていると言うのに、それでもすっかり汗だくだ。 汗臭くなってないかな……一応スタジオを出る前に、制汗剤とボディーシートで念入りに汗を処理しておいた方が良いかもしれない。 「……つっかれた~! 香純お疲れ~!」 撮影用の化粧を落として貰いメイクさんが控室を出て行くが早いか、ノゾミは明るい声でそう言いながらカリンに抱き着いた。 それに、カリンは頬を赤らめながら「ひゃぁッ!?」と可愛らしい悲鳴を上げ、すぐにその眉を八の字にして抵抗するように両手をノゾミの胸元に当てた。 「やッ……! ま、待って、望……!」 「うん? やだった?」 抵抗するような素振りを見せるカリンに、ノゾミはキョトンとした表情で聞き返す。 それに、カリンは恥ずかしそうにその目を伏せながら「や、嫌とかじゃ、ないけど……」と口ごもり、ノゾミの服をキュッと軽く握り締めた。 「その……私、今、汗臭いから……」 「えぇ~? そんなことないよぉ~?」 「わ、やだ……ッ」 尻すぼみになりながら続けられた言葉に、ノゾミはすっとぼけるように言いながらスンスンと鼻を鳴らして嗅ぐものだから、カリンは上ずった声で言いながら顔を背ける。 お熱いことで……なんて考えつつ、私はボディーシートで自分の体を拭きながらその様子をぼんやりと眺めていた。 ……一ヶ月前。催眠術師のakiさんがゲストとして参加した『ぷりまりるっ』の撮影の際に、二人が両想いになるような暗示を掛けられることがあった。 それがきっかけとなったのかは定かではないが、気付けば二人は付き合っており、今ではすっかりラブラブカップルだ。 元々仲が悪い部類だった訳でも無いが、全然タイプの違う二人が付き合うことになるとは……世の中、何が起こるか分からないな。 ちなみに、前までは男癖が悪かったノゾミは、カリンとの交際をきっかけに全ての男性との関係を絶った。 ……聞けば、ノゾミは合計六人もの男性と関係性を持っていたらしい。 全員との関係性を絶った後にそのことを聞いたカリンはそれはもうご立腹だったが、今は誰とも連絡を取っておらずカリン一筋だと言われると、割とあっさり絆されていた。 また浮気するんじゃないの……? という疑惑はありつつも、今は二人が幸せそうなので、これで良いのではないかと思う。 ちなみに、二人の交際を一番喜んでいたのは、私達のマネージャーだ。 ……というよりは、今までノゾミの男癖の悪さに頭を悩ませていた様子だったので、ようやく一人の相手に落ち着いてくれたことに安堵していたというのが正しい。 曰く、一人の相手に落ち着いてくれればまだ事務所の方からもカバー出来るし、それが同じグループのメンバーであればスキャンダルの心配もしなくて良いからとのことだ。 ピロンッ♪ そんなことを考えつつ撮影で出た汗をボディーシートで拭いていた時、机に置いていたスマホから、メッセージアプリの通知音が鳴った。 ひとまず空いている方の手でスマホを操作し、今届いたメッセージを画面に表示する。 『駐車場に着いたよ。 待ってるから』 「っ……!」 画面に表示されたそのメッセージに、私は自分の胸が高鳴るのを感じつつ、汗を拭いたボディーシートをゴミ箱に捨てて鞄を持った。 「私、先帰るね! お疲れ!」 「えっ? そんな、気遣わなくて良いのに」 「違うでしょ。……デート?」 自分でも分かるくらい慌てて控室を出ようとする私の様子に、ノゾミは申し訳なさそうに言いながら抱いていたカリンの体を離すが、カリンはどこか悪戯っぽい笑みを浮かべて聞いてくる。 それに、私は笑顔で手に持っていたスマホを軽く振ることを返答に変え、そのまま控室を後にした。 逸る気持ちで今にも駆け出したくなる気持ちを押さえつつ、早く会いたい気持ちから小走りでスタジオの地下駐車場に着いた私は、目的の車を探して辺りを見渡す。 しばし駐車場の中を歩き回ってその車を見つけた私は、もう一度辺りを見渡して近くに人の気配が無いことを確認すると、小走りで運転席側のドアに駆け寄った。 スモークガラスで中が見えない窓を覗き込み、コンコンと二回ノックすると、ウィーン……と無機質な音を立てて窓が開いた。 「どうしたんだい? マナ。助手席に──んむッ」 「んッ……♡」 不思議そうに問い掛けてくる新見 晃さんの頬に手を添え、私はそのまま唇を重ねる。 彼女はそれに一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐにその目を緩めると、ガチャリと音を立てて車の鍵を開けてくれる。 なので、私は一度唇を離してから車のドアを開けると、運転席に腰掛けている晃さんの膝に跨るようにして覆い被さる。 開けた扉を閉める時間も惜しかった私は、そのままもう一度晃さんの唇を奪い、閉じている彼女の唇に軽く舌を這わせた。 すると晃さんは右手で開いたままだった扉を閉め、開いたままの窓を閉じながら左手を私の後頭部に当てて軽く唇を緩め、私の差し出す舌を受け入れてくれた。 舌を絡ませ合い、ひとしきり深い接吻を堪能してからゆっくりと唇を離すと、微かに息を荒くした晃さんがどこか困ったような笑みを浮かべて私の顔を見上げていた。 「……どうしたの? 今日は積極的だね」 「だって、もう一週間も会えてなかったから……やだった?」 「嫌とかじゃないけど、車にも乗ってない状態で始めるものだから……パパラッチがいたらどうするのさ」 「ちゃんと周りに人がいないのは確認したもん。それに、もし何かあっても……晃さんが何とかしてくれるでしょ?」 私が首を傾げながらそう聞き返して見せると、彼女は自身の前髪を掻き上げながら「それはそうだけどさ……」と呆れたように笑った。 晃さんのコネクションは芸能界やインターネット関係に留まらず、週刊誌の記者や法律関係にまで及んでいた。 私のようなアイドルや女優など、様々な職種の女性と関わりを持っている彼女の行動が一切世に出ていないのも、その幅広いコネクションを利用しているからに他ならない。 「……もしかして、怒ってる? 最近、中々構ってあげられなかったから」 すると、晃さんはどこか申し訳なさそうな笑みを浮かべながら、そう聞き返してきた。 彼女の言葉に、私はカァッと自分の頬が熱くなるのを感じながら「違ッ……!」と一瞬反論しようとしたが、すぐにグッと口を噤んでから口を開いた。 「だ、だって……晃さんの彼女が、たくさんいるのは、知ってるけど……私には、晃さんだけなのに……」 「……可愛いね、マナは」 「なッ」 「心配しなくても、僕が本当に好きなのはマナだけだよ」 晃さんはそう言いながら私の頬を撫で、優しい笑みを浮かべる。 その笑顔で、名前を呼ばれて、愛を囁かれるだけで。 私の胸中を満たしていた不安や痛みは瞬く間に熱を帯び、ドロドロと溶けて消えていく。 口を噤み、頬を撫でるその手に軽く顔を擦り付けてみると、彼女はすぐに優しい笑みを私の唇を奪う。 私はそれにゆっくりと瞼を瞑りつつ、彼女の腰に両手を回した。