【有料限定公開版】心が白く染まる時
Added 2022-06-15 13:35:10 +0000 UTC<千原 律 視点> 「……もう、十分そうだね」 白と紺色の二色の螺旋が一杯に広がったノートパソコンの画面を、まるで食い入るように見つめる春井先生の姿を確認した僕は、そんな風に呟きながら彼女の頭から手を離した。 ずっと顔が動かないように押さえていた手を離したと言うのに、彼女がそれに反応することは無い。 彼女の邪魔をしないよう、そっと横から覗き込むようにして様子を伺ってみる。 そこでは、半開きになった口から一筋の涎を垂らしながら、焦点を失った虚ろな瞳で目の前の画面を見つめ続ける春井静香の姿があった。 普段の朗らかで暖かい雰囲気とはまるで別人のようなその姿に、私は思わず口元を緩めながら彼女の髪に指を這わせた。 「あぁ、君は……本当に可愛いね……」 無意識に口から零れたその声は、腹の底から込み上げてくる愉悦を隠し切れず、上ずった声だった。 こんなに可愛らしい姿……僕以外の誰にも見せたくない。 この学校には図書室とは別に自習室のような部屋があり、放課後学校に残って勉強する生徒の大半はそちらで勉強している。 定期試験が近付いてくると、自習室を利用する生徒も増えて図書室で勉強する生徒も出てくるが、大学共通テストも終わって学年末試験まではまだ余裕がある今の時期はその範疇では無い。 元々この図書室を放課後に利用する生徒はほとんどおらず、日が落ちるのが早くなった今の時期で、しかも土日を目前にした金曜日の今日にわざわざ図書室を訪れる物好きは皆無と言っても過言では無いだろう。 とは言え、別に放課後の図書室への出入りが禁じられている訳では無いし、絶対に誰も来ないという保証は無い。 今の先生を誰にも見せたくないというのも勿論あるし……折角念入りに準備をして、ここまで順調に進んできたというのに、ここで誰かに邪魔なんてされたら堪らない。 あの日……──一カ月前の、クリスマスの日。 前日のクリスマスイブの日に、恋人の秋山健二からプロポーズされて婚約したという話を聞いてから、この日の為に時間を掛けて準備をしてきたのだから。 ……僕はただ、普通の人生を送りたかった。 生まれ持った病気も、治療の副作用で白くなった髪も、変わっていると言われてきた口調も……全て、望んで手に入れた訳じゃない。 僕だって本当は、年の近い友達と外で駆け回ったり、下らない話で笑いたかった。 幼少の頃は、病弱な体がそれを許さなかった。 年を取って、病気が完治してからは……周囲の人々が、それを許してくれなかった。 髪色のことで奇異の目で見られ、病気のことを知ると同情の視線を向けられた。 皆、僕のことを可哀想な存在として見下し、対等な扱いをしてくれなかった。 中学生になると、周囲の人々は口々に、僕の態度がおかしいと非難した。 教師からはもっと周りに合わせるべきだと苦言を呈され、同級生も表向きは優しく接しながら、裏では僕の口調や態度を馬鹿にして陰口を言っていた。 僕はただ、普通に生きているだけなのに……人はそれを、普通じゃないと言う。 悪いことは何もしていないのに、直すべきだと……周りに合わせるべきだと言う。 でも、一体何を直せば良いのか。 僕の何が良くないのかは、誰も教えてくれなかった。 ただ、僕が“普通”じゃないと、批判するだけだった。 そんな中で、僕は……春井静香と出会った。 彼女だけは、僕を……他の生徒と同じように扱ってくれた。 自分の好きな本を紹介し、感想を言い合って、笑い合う……年は離れているが、本当の友人のように接してくれた。 彼女と親しくなる際に、一度だけ……僕のことを変だと思わないのか、聞いたことがあった。 すると彼女は不思議そうな顔をして、今まで気にしたことも無かったと、さも当然のことのように言ったのだ。 それから、僕の口調についてどう思うか聞くと、「言葉遣いが綺麗で素敵だと思う」と笑ってくれた。 今まで、家族以外の全ての人から否定されてきた僕のことを……肯定してくれた。 彼女の言葉は、他の何物にも代えがたい救いとなり……いつしか僕は、彼女に恋心を抱いてしまっていた。 同性同士で、教師と生徒。 僕の抱くこの感情は、きっと彼女の負担となることだろう。 何よりも大切な最愛の人に迷惑を掛けたくないという気持ちから、僕は、この感情を封印することにした。 秋山先生との関係を知った時も、先生が幸せならそれで良いと思っていたし、彼女の幸せの為なら応援するつもりでいたんだ。 だけど、あの日……冬休みを目前に控えた、終業式の日。 世間ではクリスマスと呼ばれるその日、先生に勧めてもらった大学の合格も決まっていた僕は……自分の気持ちに整理をつけたくて、プレゼントを渡そうと思っていた。 勿論告白するつもりは無かったし、ただ自分の気持ちに、一つの区切りをつけたかっただけ。 クリスマスに、お世話になった先生に少しだけ高価なプレゼントを渡して、日頃の感謝を伝える。 ただ、それだけのつもりだった。 ……それだけのつもり、だったのに……。 『実はね、昨日……秋山先生にプロポーズを受けたの』 左手の薬指に付けたダイヤの指輪を見せながら、今まで見たことないくらい幸せそうに綻んだ表情を浮かべながら、彼女は言った。 その言葉を聞いた瞬間、プツンッ、と……僕の中で、何かが切れる音がした。 『そうか……それは良かったね、おめでとう。二人は本当にお似合いだよ。お幸せに』 咄嗟に返したのは、そんな、心にも思っていないような上辺だけの言葉。 この時ばかりは、今まで散々悩まされてきたこの口調に感謝した。 感情が乗りにくく、何を考えているか分からないと言われてきたこの話し方のおかげで、僕の胸中を埋め尽くす冷たく仄暗い感情を知られずに済んだのだから。 ……いつか、この日が来ることは分かっていた。 分かっていた筈なのに……まだ自分の恋心に決着がつけられず、心の準備が出来ていなかったところに告げられた彼女の言葉は、今まで心の奥に仕舞い込んでいた感情を溢れさせるには十分過ぎた。 ……春井静香を、自分のモノにしたい。 様々な感情が込み上げてきて、グチャグチャに混ざり合って溶け合った結果、ただその一文だけが僕の胸中を埋め尽くした。 そして、その感情に突き動かされるままに今回の計画を立て、約一ヶ月もの間念入りに準備を整えてきたのだ。 今更、こんなことで手を抜いて邪魔される訳にはいかない。 「……このまま、少しだけ待っていてね」 イヤホンをはめたままの先生の耳元に口を近づけてそう囁いた僕は、彼女の元を離れて図書室の扉の方に近づく。 扉の前に掛かっている札を『open』から『close』に変え、外から見えないように小窓のカーテンを閉めて、内側から鍵をする。 図書室内にある窓のカーテンも同様に閉め、この部屋はあっという間に僕と先生だけの密室と化す。 念の為、図書室内を軽く散策して他に誰かいないか確認した後、僕は未だにノートパソコンの画面を見つめている先生の元へと戻った。 姿勢を僅かに前傾させるようにしてパソコンの画面を見つめる彼女の背後に近づいた僕は、彼女の左耳にはまっているイヤホンを外して口を近づけた。 「はい。じゃあ、もう画面は見なくても良いよ。力を抜いて、ゆっくりすると良い」 僕がそう囁いた途端、一瞬にして彼女の体から力が抜けて椅子の背凭れに身を委ねた。 焦点の合わない瞳で虚空を見つめ、両手足を投げ出して完全に脱力した人形のようなその姿に、僕は思わず口元を綻ばせて溜息を洩らした。 計画の成功率を高める為、医療従事者をしている父に無理を言って視線入力装置を借りたり、視線誘導を用いた映像を作成してプログラムを組んだりと、ここまで準備するのにかなりの苦労を要したが……先生のこんな姿を見られるなら、ここまで掛けてきた時間も労力も無駄では無かったな。 心の底から込み上げる達成感に表情を緩めながら、僕は脱力する彼女の体に背中から両手を回す。 少しでも多く先生の感触を味わう為に、掌全体を使って彼女の体を服の上から撫で回していく。 豊満な乳房の周囲をなぞるように指を這わせた後、彼女の体から手を離さないまま撫でるように掌を動かし、彼女の指先へと持っていく。 そして互いの指を絡み合わせ、一般的に恋人つなぎと呼ばれる繋がりを作り出す。 「……」 しかし、そこで……左手の薬指と中指の間に、何やら金属質な固い感触がした。 視線を落としてその違和感の正体を確認した僕は、胸の奥に何か黒い感情が込み上げてくるのを感じながらも、すぐに指を這わせてソレを先生の指から外させた。 カツーン……と。 小さなダイヤモンドが施された銀色のリングは、甲高い金属音を響かせて床に落ち、そのままカウンターテーブルの下に転がっていく。 「ふぅ……これで、僕達の邪魔をする物はもう、何も無いね」 胸中に込み上げてきていた言い知れない感情が失せ、どこか晴れ晴れとした気分を抱きながら、僕は改めて先生の指に自分の指を絡めて優しく握る。 その間も彼女が何か反応を示すことは無く、椅子の上で両手足を投げ出すように脱力したまま、呆然と虚空を見つめ続けている。 彼女が完全に深い催眠状態に落ちているのは一目瞭然ではあるが……一応、確認はしておいた方が良いよね。 「それじゃあ……先生。僕の声が聴こえるかな? 聴こえたら、返事をしてくれる?」 「……はい。きこえます……」 耳元で質問を投げかけてみると、彼女は虚空を見つめたまま、抑揚のない声で答える。 その様子を見て自分の頬が緩んで口角が上がっていくのを感じながらも、僕は彼女の手を握る力を僅かに強くして続けた。 「今から、僕から先生に、幾つかの質問をします。けど、何かの検査とかではないから、先生は何も考えないで正直に答えてくれれば良いよ。……良い?」 「……はい……わかり、ました……」 「ありがとう。じゃあ、まずは……君の名前を教えてくれるかい?」 まずは催眠の掛かり具合を確かめる為、比較的答えやすい質問から投げかけてみる。 僕の問いに、先生は相変わらず虚空を見つめたまま、涎を垂らしている半開きになった口を微かに動かした。 「……はるい……しずか、です……」 「ありがとう。じゃあ、次の質問だけど……君の仕事は何かな?」 「わたしは……こうこう、の……としょしつの、ししょを……して、います……」 「うんうん。じゃあ、次は……君の年齢は?」 「とし、は……にじゅう、ごさい……です……」 どこか眠たげな感じの重たい声で答える先生の言葉に、僕は静かに頷く。 彼女が答えた情報に、偽りは無い。 催眠の掛かり具合は上出来なようだ。 「それじゃあ、君は……千原律のことを、どう思っているんだい? 嘘偽り無く、正直に答えてくれる?」 僕の問いに、先生の肩がピクリと微かに震えたのを感じた。 しかし、彼女はすぐにまた脱力し、ゆっくりと口を開いた。 「ちはら、さんは……あたまが、よくて……はなしていると、たのしい……すなおな、いいこ、だと……おもって、います……」 「へぇ……恋愛感情は?」 「れんあい、かんじょうは……ないです……」 弱々しい声で紡がれたその言葉に、僕は静かに口を噤んだ。 分かりきっていたことではあるが……好きな人からそういう対象として見られていないと明言されるのは、中々辛いものがあるな……。 胸の奥にズキズキとした鈍い痛みが走るのを感じながらも、僕は小さく深呼吸をして気を取り直す。 ……ひとまず、彼女の催眠の掛かり具合に問題が無いことは分かった。 それじゃあ、次は……もう少し深く、彼女の心を探ってみようか。 「それじゃあ、次の質問だけど……君は、今までどれくらいの人と付き合ってきたのかな? 交際経験を教えてくれるかい?」 「わたしの、こうさい、けいけんは……あきやま、けんじさん、だけです……」 「えっ? 彼以外とは、誰とも付き合ったことが無いの?」 「はい……けんじさん、いがい、とは……つきあった、こと……ない、です……」 虚ろな声で続けられたその言葉に、僕は静かに息を呑む。 元々、恋愛経験がほとんど無いという話は聞いていたが……決して見た目が悪い訳では無いし、性格も良いから、秋山先生以外にも何人か交際経験はあると思っていた。 しかし、それなら……──。 「じゃあ、恋愛の経験は? 秋山先生以外に、好きになったことある人はいる?」 「……はい……います……」 「それは一体、どんな人だったかな? 教えてくれるかな?」 「はい……わたしが、ちゅうがく、せいのころ……おなじ、としょいいん、だった……ひとつうえの、せんぱいに……こいをして、いました……」 「へぇ。付き合ったりはしなかったの?」 「はい……こくはく、できなくて……せんぱいが、そつぎょうして……それきり、です……」 「なるほどねぇ……ちなみに、その先輩は男性かな?」 「はい……おとこの、ひと……です……」 淡々と答える先生の言葉に、僕は静かに目を伏せる。 思っていたよりも恋愛経験は少なかったが……やはり、恋愛対象は男性、か……。 いや……秋山先生と交際して婚約までした時点で、分かりきっていたことではあるか。 とはいえ、彼女は同性愛を題材とした小説も幾つか嗜んでいるようだったし、もしかしたら女性も恋愛対象として見ている可能性もあるのではないかと、密かな期待をしてしまっていた部分があった。 けど、交際経験が秋山先生だけだと言うのなら……──。 「それじゃあ、次の質問だけど……君の、今までの性交渉の経験は、どれくらいかな?」 「わたしの、せいこうしょうの、けいけんは……」 口を開き、抑揚のない声で答えようとした彼女は、そこまで言って言葉を詰まらせた。 そんな彼女の反応に、僕は彼女の耳元に口を近づけて続ける。 「どうしたんだい? 君の、今までの性交経験について教えてほしいんだけど?」 「は、い……わたしの、せいこう、けいけんは……」 少し声のトーンを落として再度問いかける僕の言葉に、彼女は答えようとするが、唇をパクパクと動かすだけでそれ以上の言葉を続けられない。 催眠が解けかけている? いや、これは……彼女のプライベートに深く切り込む質問をしたから、深層心理の部分が抵抗しているのか? それならば……と、僕は先生の体に自分の体を密着させるような体勢を取り、右手で彼女の両目を覆い隠した。 「静香」 「っ」 耳元で名前を呼んでやると、先生──静香は、ピクリと肩を震わせて息を詰まらせた。 微かだが、初心で可愛らしい彼女の反応に、僕は口元を綻ばせながらも続ける。 「静香。君は今、深い催眠状態に落ちています。君の意識は、心のふかぁい所まで沈んで……頭の中は真っ白で、何も考えられない、とても気持ちいい状態。そうですね?」 「ぇぁ……? はぃ……そう、です……?」 「けど、まだ完全な催眠状態ではないみたいだ」 静かな声で続けた僕の言葉に……脱力しきった彼女の体が、僅かに強張る。 それに、僕は口元に小さく笑みを浮かべて、口を開いた。 「もっと深く……心の一番奥深い所まで落ちれば、今よりもっと気持ちよくなれる。……君は、今よりもっと、気持ちよくなりたくはないかい?」 「わた……しは……」 僕の囁きに、静香は弱々しい困惑の声を漏らす。 その声はまるで、一人で道に迷ってしまい途方に暮れた子供のようだと思った。 ……迷っているのなら、僕が、正しい道へ導いてあげよう。 「大丈夫。今ここには、僕と君以外は誰もいない。君には僕が付いている。何かあっても、僕が助けてあげるよ」 「ぇぁ……でも……」 「大丈夫。今まで君を気持ちよくしてあげたのは、他でもない僕なんだよ? そんな僕が、君に害を与える筈が無いじゃないか。だから、心配しないで……思う存分、気持ちよくなれば良いよ」 「……」 矢継ぎ早に囁いた僕の言葉に、彼女の体から力が抜けていくのを感じる。 これで、催眠への不安感や抵抗感は完全に取り除いた。 後は、仕上げをするのみ。 逸る気持ちを押さえながら、僕は静香の両目を覆っていた右手を離し、人差し指を立てた状態で彼女の目の前に差し出した。 「さぁ、静香。目の前にある指を見て」 「……」 「この指は、君を更に気持ちよくしてくれる、魔法の指なんだ。この指が君の額に触れると、君の意識は心の一番深い所まで落ちていくよ」 「……」 「そこは……春井静香という人間を形成している、根っこみたいな所かな。そこまで落ちていくと、今よりもっと頭の中が真っ白になって、どんなに恥ずかしいことや人には言えないようなことでも、ありのままに曝け出せるようになるんだ」 「……」 「でも大丈夫。今ここには、君の味方しかいないからね。恥ずかしがる必要も無いし、何かあっても助けてくれる。だから、何も心配しないで……安心して、落ちて良いからね」 淡々と語る僕の言葉に、彼女は答えない。 相変わらずうつけたような表情を浮かべたまま、意思の無い人形のように脱力しきっている。 しかし、今まで全く焦点が合わなかったその視線は……目の前に差し出された、僕の指を見つめていた。 それを見て、僕は気取られないようにほくそ笑みながらも、差し出した指をゆっくりと彼女の額へと近付けていく。 焦らすように、ジワジワと時間を掛けて指を近付けていくと、その指を注視していた彼女の目も徐々に中央へと寄っていき── 「……ぁッ……」 ──トンッ……と。 僕の右手の指先が、彼女の額に軽く触れた。 ずっと指を注視していた彼女の目は寄り目となり、カクンッとどこか無機質さを感じる動きと共に首が力無く後方に倒れる。 しかし、彼女は暗く淀んだ瞳を寄り目にしたまま、椅子の背凭れと僕の体に全体重を預けて呆然と天井の方を眺めていた。 「それじゃあ、もう一度質問するよ。……今までの性交経験は、何回?」 「はひ……わたしの、いままでの、せいこう、けいけんは……さんかい、です……」 改めて問いかけた僕の言葉に、静香は相変わらずの寄り目で天井の方を見つめたまま、重たい声でそう答えた。 彼女の返答に、僕は自分の口角が吊り上がっていくのを感じながら続けた。 「へぇ……三回か。それは全て、秋山先生とかな?」 「はぃ……さんかい、とも……けんじさんと、だけ……です……」 「そうか。……あと、彼のことを名前で呼ぶのは少し気に食わないから……これから秋山先生のことを話す時は、秋山さんと呼んでもらって良いかい?」 「はい……これから、けんじさんの、ことは……あきやま、さんと……よびます……」 「それで……あぁ、そうだ。普段、オナニーはどれくらいするのかな? 週何回とか、一日何回とか……頻度を教えてくれるかい?」 僕の問いに、彼女は唇をパクパクと微かに開閉させて、しばし黙り込む。 また抵抗しているのか? と危惧したのも束の間。 彼女は数秒程の間を置いた後、口を開いた。 「おなにー、は……あまり、したこと、ないです……」 「へぇ……? 性欲が溜まったりとか、それを発散したくなったりはしないの?」 「いえ……とくには……」 抑揚のない声で答える静香に、僕は小さく嘆息した。 秋山先生以外との交際経験が無いと言っていた時点で何となく察していた部分もあったが、彼とも片手で数えられる程度の性交経験しか無く、自分で慰めることもほとんど無かったとは……。 以前聞いた話では、彼女は昔から本の虫だったらしく、本を読むのに夢中になって食事や睡眠を忘れることも少なくないとのことだった。 性欲が少ないというよりは、人としての三大欲求が全般的に少ないと捉えた方が良いのかもしれない。 想定外の出来事ではあったが……不都合な話では無い。 僕は口元に笑みを携えると、椅子の上で脱力している静香の体をゆっくりとなぞり、彼女の着ている白いセーターの下部を軽く捲り上げた。 すぐさまその下に履いているロングスカートのウエスト部分を指で軽く押し広げ、その奥にあるショーツの下に手を滑り込ませて……── 「……んくっ……!?」 「静香。このままの状態で、僕の話をよく聞くんだ」 ──最奥に秘められた蜜壷の縁を指でなぞりながら、僕は彼女の耳元でそう囁く。 高揚する気持ちを必死に押し殺しているからか、その声は掠れ、僅かに震えていた。 しかし、今更そんなことはどうでも良い。 ここまで来れば、今更そんなことは些末なことだ。 指先に温もった湿り気を感じながら、僕は続けた。 「良いかい? 静香。君が中学生の頃、同じ図書委員だった先輩に抱いていたのは、実は恋愛感情では無くて憧れだったんだよ」 「ぁぇ……? あこが……? ……んきゅっ!?♡」 どこか不服そうな声を漏らす彼女の言葉を遮るように、秘所の割れ目を擦り上げる。 すると、彼女の体は僕の指に合わせてピクンッと微かに跳ね上がり、喉からは引き絞ったかのような甲高い声が発せられる。 予想以上に良い反応だったことと可愛らしい声に、僕は頬が緩むのを感じながらも続けた。 「君は今まで、先輩に向けていた憧れの感情を、恋愛感情だと勘違いしていたんだよ。中学生の頃は、どうしてもそういう恋愛への関心が強まる時期だからね。正常なことさ」 「ぇぁ……? あこが、れ……? かんち、がい……?」 「そうだよ。そして秋山先生に対しても、初恋だと勘違いしていた先輩と重ねていただけで、本当は好きでも何でも無かった。……そうだろう?」 矢継ぎ早に続けた僕の言葉に、静香は口から弱々しく困惑の声を漏らしている。 あぁ……急に色々な情報を与えすぎて、少し動揺してしまっているみたいだね。 でも、大丈夫。僕がちゃんと、正しい方に導いてあげるからね。 「だって……君が本当に好きなのは、自分と同じ女の子だろう?」 僕は少しトーンを落とした声で囁きながら、彼女の秘部の周囲をゆっくりと指でなぞり、空いている方の手で彼女の胸を服の上から撫で回す。 ピクピクと肩を僅かに痙攣させ、呼吸を荒くしてたまに小さく声を漏らすその姿に、僕は胸の中が何かで満たされていくのを感じつつ続けた。 「だって、同性の僕に愛撫されて、気持ちよくなってるじゃないか。同性に興味が無いのなら、こんな風に触られても、何も感じないはずだよ?」 「んぇっ……?♡ でもっ……っ……♡」 「君は、年下の女の子に触られて悦んでしまう、レズビアンなんだよ。だから、中学生の頃の先輩や秋山先生に対しても、恋愛感情は抱かなかった。年下の女の子が好きなんだから、年上の男性に恋をする筈が無いだろう?」 僕はそう囁きながら、熱く湿った割れ目に中指を滑り込ませた。 すると、彼女は一際強く体を痙攣させ、半開きになった口からは可愛らしい嬌声を発する。 少ないとは言えども性交経験が皆無という訳では無く、性欲もあまり強くない部類だと言うのに、思いのほか良い反応をしてくれるな。 深い催眠状態に落ちていることで、感情が表に出やすくなっているのか。 それとも、僕達の体の相性が良いのか……なんて、ね。 「ふふ……ねぇ。今、どんな気持ち? 隠さないで、噓偽り無く教えてよ」 「は、はぃ……ちはらさんに、さわられて……すごく、きもちよく、なってます……んぁぁっ♡」 「ちゃんと答えられて偉いね。静香♡」 膣の内側を強く擦り上げ、人差し指で陰茎をこねくり回して上げながら、僕は言うことを聞けた静香を褒めてやる。 すると、彼女は歓喜の声を上げながらその顔にだらしない笑みを浮かべ、ビクビクと体を震わせて与えられる快楽を享受する。 それを見た僕は息を吐くように笑いつつ、一度彼女の秘所から指を引き抜き、透明の液体に塗れた指を目の前に差し出して見せた。 「ホラ、静香。コレを見て?」 「……?♡」 「ちょっと触っただけなのに、こんなにもびしょびしょに濡らして……静香は自分の生徒に欲情する、変態さんなんだねぇ?」 僕はそう言いながらもう片方の手で彼女の着ている服を捲り上げると、豊満な乳房の上に身に付けているブラジャーの中に手を滑り込ませて、今度は直に胸を愛撫する。 すると、彼女はまたもや甲高い嬌声を上げて快楽に身を震わせた。 そんな彼女の姿に、僕は思わず笑みを零しながらも、さらに続ける。 「僕に触られてこんなにも感じるなんて、よっぽど僕のことが好きなんだねぇ」 「はへっ……♡ ちはらさんの、ことぉ……?♡」 「隠さなくて、僕はちゃんと全部知ってるよ? 初めて会った時から、静香が僕に一目惚れして恋焦がれていたことも。毎日僕のことを想ってオナニーしてる、変態だってことも。本当はずっとこんな風に触って欲しかったことも。ぜ~んぶ知ってるんだよ~?」 語る言葉が少しずつ饒舌になっていくのを感じつつ、僕は自分の声に合わせて、指で摘まんだ乳頭をクニクニと刺激してやる。 先程までの直接的な愛撫の後だと少し物足りないのか、彼女はどこか悩ましげな声を発しながら、まるでもっとして欲しいとアピールするかのように身じろぎして見せる。 更に気持ちよくなろうとする浅ましい行為だと言うのに、今まで性経験が少なかった彼女が必死に快楽をねだるその姿はいじらしく、愛らしさを感じるのと同時に嗜虐心までもが刺激されてしまう。 ゾクゾクと背筋に言い知れない感覚が走るのを感じながら、僕は愛液に塗れた方の手も彼女の空いている方の乳頭に添え、両手を使って優しく刺激を加えてやる。 「んくっ……♡ ひぁっ……♡ んぁっ……♡」 「あははっ。どう? ずっと恋焦がれてた人に触って貰えて、どんな気持ち?」 「ぁはっ♡ きもちぃっ♡ すごくっ♡ きもちいい、ですぅ♡」 「幸せ?」 「しあわせぇ……♡ すごく、しあわせぇ……♡ あはぁっ♡」 「それは良かったねぇ♡」 普段からは想像もつかないような、だらしなく蕩けた淫靡な笑みを浮かべながら快楽によがるその姿に、僕は笑みを返しながら彼女の乳頭を強く摘まみ上げた。 すると、それだけで彼女の体はビクンビクンッ! と激しく痙攣し、口からは悲鳴のような甲高い嬌声が振り絞られる。 ……本当は、もう少しだけ焦らすつもりだったんだけどな。 少しだけ呆れながらも、きっと婚約者の秋山先生ですら知らないであろう淫らなその姿に、気付けば僕は彼女の体を抱き締めていた。 「ぁ……♡」 「乳首を弄られるだけでイッちゃうなんて、本当に君はどうしようもない変態なんだねぇ♡ 君みたいな淫乱を受け入れて満足させられる人間なんて、この世にはきっと僕しかいないよ?」 「ぁは……♡ いいれすぅ……♡ ちはらさんが、いればぁ……♡ ほかにはもぅ……♡ なにも、いりましぇん……♡」 耳元で囁いた僕の言葉に、静香は呂律の回っていない口で答える。 その言葉に、僕は思わず彼女の体を抱き締める力を強めた。 「そんなこと言ってくれるなんて嬉しいなぁ。でも、千原さんって呼び方は他人行儀だから……律、で良いよ? 静香♡」 「えへぁ……♡ りつぅ……♡ りつぅ……♡ すき、すきぃ……♡」 胸の中を満たす温かい感情をそのまま吐き出すように続けた僕の言葉に、静香は熱に浮かされたかのような甘ったるい声で答えると、背後から抱き締めている僕の頬に自分の顔を擦り付けてくる。 まるで猫のように甘えてくる可愛らしいその姿に、僕は高揚する気持ちに突き動かされるままに、彼女の唇を奪った。 唇を触れ合わせるだけの口付けなど一瞬のこと。 半開きになった唇の隙間に舌を潜り込ませ、彼女の口内を丁寧に舐め取りながら奥へ奥へと掘り進めていく。 「んんんッ♡ んぅぅッ♡ んんんんん~~~~ッ♡」 静香はくぐもった嬌声を上げながらも、脱力したままビクビクと肩を震わせて僕の口付けを受け入れる。 暗く虚ろに濁りながらも、溢れ出る情欲に潤む瞳を視界に収めながら、僕は濃厚な接吻を止めること無く片手を制服のポケットに潜り込ませた。 そして目的の物を手に取ると、空いている方の手で彼女の肩を押さえて、ゆっくりと唇を離した。 「ぷはっ……そういえば、実は君に渡したい物があって……んむッ!?」 接吻を止めて話そうとした僕の言葉は、身を乗り出してまたもや唇を重ねてきた静香によって遮られた。 その際に椅子に座っていた彼女が体勢を崩し、僕の体を巻き込んで椅子ごと転倒する。 静かな図書室にはおおよそ似つかわしくない派手な音を立てて僕達は床に倒れ込むが、それが彼女を止める理由にはならず、床に座り込んだ僕の上に馬乗りになるような姿勢で、何度も啄むような口付けを交わしてくる。 「んんむっ、ちょっ、ちょっと待って! ストップ!」 彼女からのキスは嬉しかったが、“これ”だけは先に渡しておきたかった僕は、申し訳なさを感じながらも慌ててストップを掛ける。 すると、彼女は「ぁぅ……」とまるでお預けを喰らった犬のような悲しげな表情を浮かべたが、僕が手に持っている小さな箱を見てすぐにキョトンとしたような顔で首を傾げた。 「りつ……? そのはこ、なに……?」 「……実は、君に渡したい物があるんだ」 幼い子供のような拙い口調で聞き返す静香に、僕は小さく笑みを浮かべてそう返しながら、手に持った箱の蓋を開けて見せる。 そこには、小さな宝石が付いたネックレスが収まっていた。 「これ……ねっくれす……?」 「うん。静香が……僕の恋人になった記念に、ね」 どうかな? と聞き返してみると、静香の顔はパァッと明るい表情に染まっていき、すぐに満面の笑みで頷いた。 「うれしいっ♡ りつからのぷれぜんと、うれしいっ♡」 「本当に? 良かった。じゃあ付けてあげるから、ジッとしていてね?」 「うんっ!♡」 僕の言葉に素直に頷いた静香は、そのまま両目をキュッと固く瞑った状態で顎を上げた。 その姿は、まるで首輪を付けてもらうのを待っている忠犬のようだと、頭の中のどこか冷静な部分が考えた。 いや……あながち、間違いでは無いのかもしれない。 元々このネックレスは、クリスマスの日に、彼女への恋心にケリを付ける為に渡そうと思っていた物だ。 しかし、彼女から秋山先生との婚約の話を聞かされた時に、渡せなかった物。 彼女を誰にも渡したくない。僕だけの物にしたい。 そんな感情が込み上げ、この気持ちを諦めることなど出来ないと、今の今まで仕舞っていた物。 ……そう。 このネックレスは、云わば……僕の抱き続けていた感情の権化だ。 彼女に渡すことで区切りを付けようとしたのに、結局諦めきれなくて……僕の中で焦がれ続けていた、恋心。 それが今、彼女の首に付けられる。 僕以外の誰かの元になんて行かせないよう、二度と消えない鎖となって、彼女の身も心も縛り付ける。 「……似合ってるよ。静香」 彼女の胸元で光り輝く小さなハート型の宝石を見つめながら、僕はそう答えてみせる。 すると、彼女は相変わらず光を失ったまま暗く淀んだ瞳を嬉しそうに綻ばせながら、「ほんとう?」と聞き返した。 「あぁ、凄く似合ってる。……そこに転がってる指輪なんかより、ずっとね」 床に座り込む体勢になったことで、丁度視界に収める形になったカウンターテーブルの下に転がった指輪を横目に見ながら、僕はそう答えてみせる。 すると、静香はパァァッと満面の笑みを浮かべ、すぐに僕の体を抱き締めてきた。 「うれしいっ!♡ りつだいすきっ!♡ あいしてるっ!♡」 「……あぁ。僕も愛してるよ」 僕はゾクゾクとした高揚感に肩を震わせながらそう答え、彼女の体を抱き締め返す。 やっと……やっと手に入れた。 もう誰にも渡さない。もう絶対に離さない。 君はもう、命が尽きるその時まで……永遠に僕のモノだ。 「……ずっと一緒にいようね。静香」 胸中を満たす情欲に突き動かされるままにそう囁いた僕は、そのまま彼女の唇に自分の唇を重ねた。 彼女の首に掛けたネックレスが軽く揺れ、電灯を反射して僅かに光るのを、視界の隅に収めながら。