XaiJu
あいまり
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お菓子の代わりに食されて

「うわ、凄い人……」  駅前に群がる仮装集団を前にした大学生の私、狭間菜月は、ついそんな風に零した。  今日は十月三十一日。ハロウィンと呼ばれるこの日、この駅の周囲では毎年仮装した人々が集い、各々に散策したり写真を撮ったり買い物をしたりする一種の習わしのような行事が開催されている。  人ごみと目立つことが苦手な私が今までこの行事に参加することは無かったのだが、今日に限って急遽バイトに出なければならなくなり、こんな時間に帰宅することになってしまったのだ。  一つ駅をずらして自宅まで歩くという方法も考えたのだが、流石にそこまでする必要は無いだろうと高を括って駅に来てみれば、この人だかりだ。  さて……どうしたものか。  流石にこの群衆に紛れて家に帰る気力などあるはずも無いが、かと言って次の電車が来るまでにはまだ時間がかかるし……駅前にバス停はあるが、どうせその辺りもこのイベントの参加者で賑わっていることだろう。  ……そうだ。大通りに面しているこの東口周囲は人が多いが、裏の西口の方は基本的に人気はほとんど無い。  遠回りにはなるが、西口から出て裏道を使えば、何とか家に帰ることが出来るのではないだろうか。  そう思って、踵を返した時だった。 「トリック・オア・トリート! お菓子くれなきゃ悪戯しちゃうよ? おねーさん♪」  気付けば背後に立っていた少女が、私の顔を覗き込みながらそう言ってきた。  突然の言葉に、私は咄嗟に体の動きを止めながら、目の前にいる少女をまじまじと観察してしまった。  ……最近の仮装は、クオリティが高いんだな。  それが、少女を見て真っ先に浮かんだ仮装だった。  ウィッグだろうか。肩の少し下辺りまである髪はムラの無い白銀色で、街灯を反射して怪しく光っている。  どうやっているのかは分からないが全身の皮膚は青白く、耳は軟骨の辺りがエルフのように鋭く尖っている。  両目はカラコンをはめているようで、血のように真っ赤な瞳が真っ直ぐ私の顔を見つめている。  肩や両足等を惜しげもなく晒した露出の多い赤と黒を基調とした衣装を身に纏い、背中の小さなコウモリ羽は作り物とは思えないくらい生々しく、たまにパタパタと軽く動く様子は正に本物のようだった。  彼女は見たところ……中高生くらいだろうか?  もしこの仮装が自作なのだとしたら、その年齢でこれだけの物が作れるというのは中々の才能だと思う。  仮に買ったものだとしてもメイクは流石に自分でやっただろうし、何よりこの衣装を着こなせている時点で天性の美貌の持ち主であると言えるだろう。  最近の若い子は凄いなぁ……と、私自身そこまで年を食っている訳でも無いのに、つい考えてしまう。 「おねーさん、聴こえてる~? お菓子くれないと、悪戯しちゃうよ~?」  そんな風に心の中で感心していると、少女がそんな風に問い掛けながら小首を傾げた。  おっと、いけないいけない。あまりにもクオリティの高い仮装を前に、つい見惚れてしまっていたらしい。  しかし、折角の美貌と技術の持ち主だと言うのに、こんな所で通行人に悪絡みとは……才能の無駄遣いとは正にこのことかと、内心呆れてしまう。  とは言え、元はと言えばこのハロウィンイベントの参加者ではない私がこの場にいること自体が間違いであり、ここで正義感を振りかざして説教するのは野暮というものだろう。  ここは適当にあしらってこの場を離れるのが吉といったところか。 「あ~……ごめんなさい。私、このイベントの参加者じゃなくて、これから家に帰るところなの。悪いけど、他を当たってもらえる?」  私はそう答えながら肩に掛けていた鞄を持ち直し、この問答が終わり次第この場を離れる意思を伝える。  すると、少女は「ふ~ん……?」と呟きながら小首を傾げ、ズイッと顔を近付けてきた。 「うわッ……!?」 「じゃあつまり、お菓子は無いってこと?」 「なッ……ある訳無いでしょ!? わ、私もう行くから……!」  猫撫で声で聞き返してくる少女の言葉に、私は若干裏返った声でそう答えながら鞄を持ち直し、至近距離まで迫って来ていた彼女の体を躱して大股で歩き出── 「ちょっと待ってよ♪ おねーさん♡」  ──そうとしたところで後ろから腕を掴まれ、私はその場に足を止めることとなる。  一体何だ? 私はこのイベントの参加者では無いのだから、これ以上話すことも無いだろうに。  そう思いつつ、私は未だに腕を離さない少女の方に視線を向けた。 「何? まだ私に何か……──」 「お菓子が無いなら……悪戯しなくちゃ♡」  そう言って微笑む少女の目は、赤く、怪しい光を放っていた。  目と目が合い、その光を目の当たりにした瞬間、私は「ぁ……」と小さく声を漏らしながら全ての動きを止めた。  何だ……? この、光は……?  見た瞬間、目が離せなく、なって……頭も、上手く、回らない、ような……? 「ぇぁ……な、にを……?」 「余計なことは考えちゃだぁ~め♡ なぁんにも考えないで、頭の中空っぽにして、私の目ぇ見て?」  何とか抗議しようとした私の声は、蜂蜜のようにねっとりと甘ったるい声で紡がれた言葉によってあっさりと遮られる。  甲高い耳障りな声の筈なのに、彼女の声はなぜか私の頭の中に響き渡り、浸透していくような感覚がした。  頭が働かない。体にも上手く力が入らず、両手が重力に従ってダランと垂れ下がった。 「もしも~し? ……んふふ♪ おねーさんってばトロンとした顔しちゃって、すっかり何にも考えられないお人形さんになっちゃったかな?」  少女は呆然と立ち尽くす私の目の前で軽く手を振り、すぐにクスクスと楽しそうに笑いながらそう呟く。  そんな彼女の言葉に答えられずにいると、彼女は「でも、念の為……♡」と呟きながら私の頬を両手で掴み、顔を近付け……──「んッ」──……唇を重ねた。  否、唇を重ねるだけの口付けは一瞬のこと。  彼女はすぐに私の後頭部を押さえ、唇の隙間から自分の舌を挿入してきた。 「んむッ……んッ……」 「んちゅッ……んふふっ……♡ んむッ……」  口内に広がる異物感に私は一瞬声を漏らしたが、彼女はそんなこと気にする必要も無いと言わんばかりに自分の舌で私の舌を絡め取り、問答無用で私の口内を蹂躙していく。  初対面の少女に、好き勝手に口内を貪られているこの状況。  本来なら抵抗の一つでもするべきなのかもしれないが、今の私は指一本すらまともに動かせないまま、無抵抗に彼女の接吻を受け入れることしか出来ない。 「んんんッ……ぷはぁッ! フフッ、良い感じ♪ それじゃ、もっと凄い悪戯したいから……人がいないとこ、行こっか♡」  唇を離した少女はそう言いながら舌なめずりをし、どこか悪戯っぽい笑みを浮かべた。  私はその言葉の意味を理解するよりも前に手を引かれ、彼女に導かれるまま、ハロウィンの夜へと足を踏み込んでいくのだった。 ---  駅前の人込みを抜け、人気の無い裏通りへと入り……少女に導かれるまま連れていかれたのは、駅から歩いて十五分くらいの裏路地に聳え立つ、一軒のラブホテルだった。  私は少女に手を引かれるままホテルに入り、言われるがままにチェックインの手続きをして、気付けば部屋まで連れて来られていた。 「わぁ~♪ 可愛いお部屋~♪ こんな素敵なお部屋取ってくれてありがとうねっ、お姉さん!♡」  桃色の電灯で全体的に怪しく照らされた部屋の中心に位置するダブルベッドに腰掛けながら、少女は背中のコウモリ羽をピコピコと上機嫌に揺らして嬉しそうにそう言った。  何を言っているのかよく分からないけど、彼女が喜んでいるのならまぁ、良いか……。 「ホラ、お姉さんもそんな所でボケッとしてないで、服脱いでこっちおいでよ♪」  部屋の扉の前で立ち尽くしながらぼんやりとそんな風に考えていると、少女がそう言いながら軽く手招きをしてきた。  彼女の言葉に、私は「はい……」と掠れた声で答えながら上手く力の入らない手を服に掛け、自分でも分かる程に緩慢な動きで脱衣を開始する。 「あっ、下着も全部脱いで、真っ裸になっちゃってね~♪ あはっ♡」  私は言われるがままに下着も含めた全ての衣服を脱ぎ終え、床に落ちている衣服を畳もうとした。  しかし少女に早くベッドに来るよう急かされたので、乱雑に脱ぎ捨てた衣服もそのままに、フラフラと少し覚束ない足取りでベッドの方に歩み寄った。  私の歩みの遅さに痺れを切らしたのか、手が届く距離になると少女は私の腕を掴んで強引に引き寄せ、その勢いを利用してそのままベッドに押し倒した。 「……? ……」 「んふふっ♡ 本当に可愛いね、おねーさん♪」  背中が柔らかく包み込まれる感触を味わう暇も無く、すぐさま少女は私の上に馬乗りになり、満面の笑みを浮かべながらそう言った。  彼女はそのまま私の頭を愛でるように撫で、クスクスと楽しそうに笑いながら続けた。 「ねぇ~ぇ、おねーさん? なんかぁ、おねーさんって呼ぶのもちょっとタニンギョウギ? っていうかぁ、ヨソヨソしいな~って思うんだよねぇ~♪ だからぁ、おねーさんのお名前、教えてよ♡」 「はい……わたしの、なまえは……はざま、なつき……です……」  少女に問われるがままに、私は自分の名前を答える。  今日会ったばかりの素性も知れない相手に、こんな風に易々と名前を教えてしまっても良いのだろうか、と頭の中で微かに警告が鳴る。  しかし、彼女の怪しく光る瞳を見ているとその僅かな理性すらすぐさま霧散し、私はまた何も考えられなくなっていった。 「そっかぁ、ナツキちゃんって言うんだ~♪ 可愛い名前~♪ あっ、私の名前はミアって言うんだぁ♪ お姉さんは可愛いから、気軽にミア様って呼んでくれて良いよ!」 「はい……みあさま……」 「うんうん! 良い感じっ!♪」  少女……ミア様は上機嫌な様子でそう言いながら、組み伏せた私の頭をワシャワシャと少し乱暴に撫でた。  一体どうして嬉しいのか、何が良い感じなのかはさっぱり分からないが、まぁ……ミア様が楽しいなら、それで良いのでは無いだろうか。  そんな風に考えていると、彼女は私の首に指の先端を当て、スーッと首筋をなぞるようにその手を下ろしていった。 「ッ……」 「あはっ、良い反応♪ ホンット……今すぐ食べちゃいたいくらい可愛いなぁ……」  その言葉と同時に、ミア様の目付きが変わる。  自分のペットを愛でるような優しい目付きから……これから獲物を仕留める獣のような、鋭いものへと。  突然自分に向けられた鋭い空気に驚く間も無く、彼女は私の下腹部に手を伸ばし……──。 「んくッ……んッ……」 「おっ、良い反応♪ ホント可愛い……♡」  突然下腹部に甘い刺激を感じて声を漏らしそうになる私に、ミア様はどこかうっとりした笑みを浮かべながら言い、私の陰部を指でなぞる。  彼女の細く綺麗な指が自分の性器を撫でている映像が脳裏を過ぎり、私は一気に込み上げてきた羞恥心から反射的に身じろぎをしたが、そんな些細な抵抗など無意味だと言わんばかりに体を押さえつけられる。  ただでさえ上手く力の入らない私の体は、それだけで簡単に組み伏せられてしまう。  働かない頭が『流石にこの状況はおかしいのではないか』と弱々しく警告を鳴らすのを感じ、咄嗟に目の前にいるミア様の顔を見ると、そこには怪しく光る真っ赤な双眼があった。 「ぇぁッ……? ぁ……」  文字通り目と鼻の先にあるその光を目の当たりにした瞬間、私は抵抗しようとしていた体の動きを止め、食い入るようにその光を見つめた。  あ……ダメ……また、何も……考えられなく、なって……。 「そう。ナツキはなぁんにも考えなくて良いの……何にも考えないで、頭の中空っぽにして……私に身を委ねれば良い……私の言うことに従うだけの、お人形さんになっちゃえば良いんだよ……」  何も考えなくて良い。  頭の中空っぽにして、ミア様に身を委ねれば良い。  ミア様の言うことに従う、人形になれば良い。  下腹部を中心に全身に広がっていく甘い快楽と共に紡がれたその言葉は、思考を失い空っぽになった私の頭の中によく響く。  完全に抵抗をやめた私の様子に満足したのか、ミア様はその目を嬉しそうに細めながら空いている方の手で私の肩を押さえ、ゆっくりと唇を重ねた。 「んむッ……んぅッ……んッ……」 「んちゅッ……んむッ……んふッ、ホント可愛い……♡ ちゅッ……♡」  唇を重ね、舌を絡め、吐息を混ぜ合わせる。  ミア様が舌を絡めてくるのならそれに応えた方が良いのかと思い、出来るだけ舌を伸ばしてみると、彼女はその目を綻ばせながら私の舌を絡め取る。  下腹部の甘い刺激と濃厚な接吻によって感じる快楽によって私の全身は歓喜に打ち震え、口からはくぐもった嬌声を漏らしてしまう。  そんな私の反応がミア様の気分を昂らせてしまったようで、彼女は私の性器を愛撫する手を速めながら舌を奥の方まで挿入し、私の口内を念入りに舐め回す。 「んんんッ……! んぅぁッ……! んふぅッ……!♡」  ただでさえ膨大な快楽に喘ぐことしか出来なかった私にとって、さらに激しくなった愛撫と接吻による快感は凄まじいものだった。  最早気持ちいいという感覚はとっくの昔に通り越し、視界はチカチカと激しく明滅し、肉体は快楽を感じるままに震えるだけの玩具と化す。 「ん~~~~~~~ッ!♡ ぷはぁ~!♡ ナツキってばほんっとうに可愛いなぁ、もう!♡」  そんな私の様子に気付いているのか否か、ミア様は唐突に接吻も愛撫も止め、恍惚とした表情を浮かべながらこちらを見下ろした。  永遠に続くと思われた快楽地獄が終わりを告げ、ようやくまともに呼吸が出来るようになったばかりの私は、それに答えることが出来ない。  肩を上下させ荒い呼吸を繰り返しているであろう私を見て、ミア様は満面の笑みを浮かべながら私の頭を撫で、続けた。 「町で一目見た時から可愛いなぁ、美味しそうだなぁと思ってたけど、こんなに可愛くなるなんて……♡ やっぱり、私の目に狂いは無かったねぇ……♡」  楽しそうな口調でそう言いながら、彼女は私の頭を撫で続ける。  何を言っているのかよく理解できないけど……とりあえず、今彼女が凄く喜んでいるということだけは伝わって来る。  彼女が嬉しいのなら、まぁ、良いか……。 「えへへっ、本当はナツキのことはパパッと食べて終わりにするつもりだったんだけどぉ……ナツキ可愛くて気に入っちゃったから、特別に私の眷族にしてあげるっ!♡ どう? 嬉しいでしょ?♡」 「ハァ……ハァ……はぃ……? うれしい、れす……? ハァ……」 「あはっ♡ やっぱりぃ?♡ 良かったぁ♡ 私優しいからぁ、ナツキの気持ちも優先してあげたいなぁと思ってたんだけど……んふふっ♡ ナツキも私と同じ気持ちなんだぁ♡ 嬉しいなぁ♡」  ミア様は甘ったるい声でそう言いながら私の首筋を指先で優しく撫で、ゆっくりと舌なめずりをした。  彼女の言葉の意味は理解出来ないが、私は頭空っぽにして彼女の言うことを聞くだけのお人形なので、理解する必要なんて無いのだろう。  他人事のようにそんな風に考えていると、またもやミア様はその瞳を赤く光らせ、て……あ、これ……また……──。 「ねぇ、ナツキ? 貴方は何者なの? 教えて?」 「は、い……わたしは、あたま、からっぽの……みあさまの、めいれいに、したがう、だけの……おにんぎょう、です……」 「そうだよね? それじゃあナツキは、持ち主である私の所有物ってことになるよね?」 「はぃ……わたしは、みあさまの、しょゆうぶつ、です……」 「フフッ……それじゃあさ、ナツキが身も心も私のモノって証が欲しいと思わない?」  冷たい笑みを浮かべながら言うミア様の口から、二本の鋭い牙が生えてくる。  私はミア様のお人形であり、身も心も彼女の所有物なのだから、それを証明するものは欲しいかもしれない。  そんな風に考えてると、また頭を優しく撫でられた。  ぁッ……。 「正真正銘、ナツキが私のモノってことを証明する繋がり。欲しいよね?」 「は……はぃ……わたしが、みあさまのものって、しょうめい……ほしい、です……!」 「フフッ……それじゃあ、今から私が言うことを繰り返して、その心に深く刻み付けて? 私の……ミア様のモノになりたいと、心の底から願いながら復唱するの。良い?」  軽く小首を傾げながらそう問いかけてくるミア様の言葉に、私はガクガクと大きく頷くことで返答する。  それを見たミア様は満面の笑みを浮かべ、ゆっくりと続けた。 「私、狭間菜月は」 「わたし、はざまなつき、は……」 「吸血鬼ミア様にこの魂を捧げ」 「きゅうけつ、き……みあさま、に、このたましいを、ささげ……」 「永遠に隷従する眷属となることを、ここに誓います♡」 「えいえんに、れいじゅう、する……けんぞくと、なるこ、とを……ここに、ちかいま、す……あッ……!?」  ミア様の言葉を復唱し終えた瞬間、突然首筋に噛みつかれた。  所有物である私の皮膚に、所有者であるミア様の鋭い牙が突き刺さっている感触に、私は全身を歓喜に打ち震わせた。 「かッ……はぁッ……♡ みあ、さまぁ……♡」 「んッ……♡」  呼吸もままならない中で何とか喉から声を振り絞ると、ミア様はどこか嬉しそうな声を漏らした。  不思議と痛みは無い。ただ、所有者であるミア様に噛まれているという事実に心の底から喜びが満ち溢れ、それだけで全身が溶けて無くなってしまいそうな心地よさだけを感じた。  ミア様が私の血を吸うのを感じる度に、文字通り私の全てが彼女の所有物であり、彼女こそが私が付き従うべき主なのだという実感が胸の内を満たす。  それどころか、まるで私という存在そのものが、ミア様の所有物として相応しい物に作り替えられていくかのような感覚が全身に漲っている。 「あはッ……♡ あはぁ……♡ みあさまぁ……♡ みあさまぁぁぁ……♡」  身も心も侵していく忠誠心を吐き出すように名前を呼ぶと、ミア様は私の首筋から口を離し、顔を上げて私と視線を合わせた。  目が合った瞬間、私の視界は桃色一色に染まり、一気に膨大な幸福感が込み上げてきた。 「あッ……♡ みあさま……ッ♡」 「……♡」  咄嗟に名前を呼んだ私を見て彼女はクスリと小さく笑うと、何も言わずに私の体を抱擁して唇を奪った。  やった……!♡ ミア様のハグ……!♡ ミア様のキス……!♡ ミア様好き……!♡ 大好きぃ……!♡  持ち主からの抱擁と接吻に、私の脳が受け止めきれる量を軽く上回る程の幸福の波が溢れ出し、それは絶頂となって私の体を襲った。  快感によって跳ねる体を押さえつけられ、視界が白と桃色で激しく点滅するのを感じながら、私の意識は絶頂によって押し流されていく。 「フフッ……♡ ハロウィンの夜はまだまだこれからだよ? おねーさん♡」  意識が落ちる寸前。  耳元で囁かれたその言葉に、私は性器から噴き出した愛液を返事に変えた。 ---  翌日の11月1日、月曜日。  今日は私の取っている講義は昼からだったので、一度ホテルから自宅に帰って着替えと荷物の準備を済ませ、通っている大学へと向かった。 「な~つきっ! おはよっ!」  大学に着いて掲示板で諸々の連絡を確認していると、同じ学科の友人である芦田楓が軽く手を振りながら明るく挨拶をしてきた。  彼女の言葉に、私は手を振り返しながら「おはよ。楓」と挨拶した。  すると彼女は笑みを浮かべて私の隣に並び、同じように掲示板を見た。 「何か新しい連絡あった?」 「ううん、特には。教室行こっか」 「そだね~。というか、菜月さ。今日なんか……顔色悪くない?」 「えっ?」  教室に向かって歩き出しながら、いつもより少し声のトーンを落として聞いてきた楓に、私は咄嗟にそう聞き返す。  すると、彼女は神妙な面持ちで私の顔を覗き込みながら続けた。 「なんか、いつもよりも青白く見えるんだけど……もしかして寒い? 珍しくストールなんて巻いてるし……」 「えっ……あ、あぁ! うん。今日ちょっと寒くて……いつもより厚着してきたつもりだったんだけど、まだ寒いなぁ」  心配そうに呟く彼女の言葉に、私は慌ててそう答えながら首に巻いたストールに手を添えた。  それに、彼女は「やっぱりそっか!」と納得した様子で呟いた。 「最近結構冷え込んできたもんねぇ。でもそうなると……今日は暖房がよく当たる席、取らないとだね」 「あははっ、大丈夫だよ。ていうか、あったかいと楓、講義中に寝るでしょ?」 「それは大丈夫! 私はどの席になっても寝るから!」 「威張って言うことじゃないよ……」  そんな風に会話していた時、手に持っていたスマホが二度、バイブを鳴らしたのが分かった。  一体誰からの連絡だろう? と不思議に思いつつ通知を開いた私は、画面に表示されたメッセージを見て咄嗟に足を止めた。 「……? 菜月? どうかした?」 「ん……? あっ、ごめん。ちょっとね」  同じく足を止めて問い掛ける楓に、私はすぐにそう答えながらスマホを胸に抱き、すぐに歩みを再開した。  すると、楓は特に気にしていない様子で同じく歩き出したが、すぐに私の方に視線を向けて口を開いた。 「ね、もしかして彼氏でも出来た?」 「へっ? なんで?」 「いや、明らかに機嫌良さそうだからさ。彼氏から連絡でも来てたのかな~と思って」  そんな、傍から見て分かる程に浮かれていたのか……気を付けないと……。 「そんなんじゃないよ~。まぁ、良い連絡ではあったんだけど……」 「え~? 何々?」 「ん~……内緒っ」  私がそう言いつつスマホを体に隠すような素振りをして見せると、楓は不満そうに口を尖らせた。  そう。別に恋人が出来たとか、そういう関係性の相手から連絡が来たとか、そう言う訳では無い。  だって私は高貴な吸血鬼であるミア様の所有物なのだから、わざわざ下等な人間などと恋愛関係になる訳が無いのだ。  まぁ、ミア様からそういった命令があれば、話は別ではあるが……。  そんな風に考えていると、気付けば次の講義がある教室へと到着していた。  楓は先程の宣言通り暖房がよく当たる位置にある席をとっており、近くの席に座っている生徒と何やら雑談をしていた。  私は彼女の隣の席に腰を下ろしつつ、改めて先程来たメッセージを確認する。 『今日の夜、家行くから準備してて』  所有者である少女から届いた、端的な文章。  画面に表示された何よりも愛おしいメッセージに、私は頬を綻ばせながら文字を打ち込み、『了解しました。お待ちしております。』と返事を送った。


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