近年、春や秋の季節が短く、梅雨→夏→冬の存在感が強すぎる気がしていましたが、ここ数日は春の陽気を感じられる穏やかな気温になりました。
仕事で知り合った方と雑談をする機会がありまして、「マツリさん、怖い話が好きだというのでこんな話を。過去にネットで読んだ山怖のお話なんですが…」と教えていただきました。
「山怖」「山中異界」というように、山に関する話だけで怪談特集されるほど、山には未知が潜んでいる…というのはメジャーになりつつありますね。
今では書籍やドラマ、朗読などで山に関する怖い話をよく見かけます。
私が山の怪に対して意識するようになったのは、洒落怖を読みふけるようになった頃に見つけた「邪視」「ヤマノケ」「シシノケ(これはキャンプ場)」あたりです。
特に、「邪視」を読んだとき「ああ、山には不思議な存在がいるんだよなぁ」という感想を持ちました。
このように山の怖い話はよく聞くのですが、海での怖い話というと洒落怖系やネット小説ではあまり見かけない気がします。山の話ほど多くないといいますか…。
実話怪談などでは海辺であった怖い話も聞きますが、その正体のほとんどが人間の霊(特にお盆の季節)によるもので、「なんだかよくわからないもの」というと、山が多い気がします。
私の小説でも何度か書いていますが、黄泉の国とは地下説と海の向こう説の両方があり、古代日本では死者の魂は海の世界(または海を越えた先)にあるとされていました。
海は魂が還る場所という認識が、古くから日本にはあったのでしょう。
妖怪の種類でいうと、山も海も多いですし…山の異界、海の異界に焦点を当てるとどんどん深みにはまっていきます。
大変前置きが長くなりましたが、今月の「頁をめくる」は、私の体験談を。
私は夏になると山登りをしたり、一時期は山城攻めといって山に遺された城跡を見に行くのにハマったりと、海より山に入ることが多いのですが、山で不思議な体験をしたというのはそうありません。
個人的には、山よりも海の方がなんとなく怖いなぁ…というイメージです。
睡眠導入法として、"湖の上のボートに寝ているのをイメージする"といったものや、"波音を頭の中で再現する"などがありますが、波音を聞くと不思議と心がざわついて返って落ち着かなくなるのは私だけでしょうか。
自分が海に不安を感じる、というのを自覚したのは中学校での臨海学校でのときでした。
瀬戸内海に浮かぶ、とある島に行きました。
海辺近くの古い旅館に泊まったのですが、私が泊った部屋は1階で窓から出ると砂浜に繋がっていて海に直行できる位置にありました。
同室の子の一人がクーラーだと寝冷えするといって、じゃあ窓を開けておこうかという話になったのです。(当時は夏といってもそこまで暑くはなかったので)
窓は壁の一部分とかではなく、出入りできる扉タイプのものです。
不用心かもしれませんが、そこはまあ田舎の緩さといいますか…網戸にして就寝しました。ところが、数十分経っても、なんだか心がざわざわとして全然眠れないのです。
元々、旅先では熟睡できないタイプで、いつも最後まで目が覚めていて団体で就寝する時の心細さを何度も味わってきました。しかし、これはその寝つきの悪さとはなんだか違うのです。何となく横になっているのが嫌で、そっと上体を起こすと、隣で寝ていたはずの子が「マツリちゃんも眠れんの?」と声をかけてきました。
「波の音が近すぎるよな…」と私が言うと、
「なんか怖いよな。この音聞いてると」と友達が返してくれます。
他の皆はすっかり寝入ったようだったので、もし暑くなったらまた窓を開けようということにして、窓を閉めて寝ました。それからはぐっすり眠れたと記憶しています。
暗いなか横になっていると、さざなみの音がすぐ近くのように感じられて、黒い海が脳裏に浮かんでとても不安に感じたのを覚えています。
波の音と共に、よくない何かが部屋に入ってきそうな。
この話を当時の部活の先輩に話すと、「わかるわかる!私も日本海に面した旅館に泊まったとき、岩に当たる波の音が激しすぎて全然眠れなかった!超うるさかった」と言われたのですが、違う 違う そうじゃ そうじゃない。
中学では特に何もなかったのですが、小学校の臨海学校では不思議な体験をしました。「夏のひんやりした話を報告するスレ」の肝試しの話は、私の実体験をアレンジして書いたものです。
島内の民家が建ち並ぶ辺りに宿泊場所がありました。そこは廃校になった小学校を綺麗にリノベーションした宿泊施設でしたが、臨海学校が決まったときに先輩から「あそこは出るらしい」と、具体的な話を聞くことになり、その「出るらしい教室」を寝る場所として割り振られた隣のクラスの女子は行く前から怖がっていました。
私のクラスの部屋はそういう話題の対象ではなく、リノベーションしたばかりなのか思ったより綺麗なところだったという記憶があります。
初日の夜だったと思います。
男女5~6人で班分けされ、1班ずつ小学校の周囲を懐中電灯だけを持って歩いてくるという肝試しが行われました。
既に辺りは暗いなか、「墓場の前にある焼却炉の蓋に立てかけられた白紙に、班全員の名前を各自が書いてくる」という途中コースの指示内容を聞きながら、いい感じにトチ狂ってるなと感心しました。今だとPTAなどが五月蠅そうですが、大らかな時代()だったのでしょうね。
私の班員は割と全員がそれほどの怖がりはおらず、パニックになる子もいなくて平和にゴールすることができました。
ところどころに、隠れているのがバレバレな先生たちの姿を見たというのもあると思います。焼却炉の横にある大きな木の陰に先生が隠れているのが、ちょっと面白かったです。大柄な先生で、幹からはみ出たシルエットに和みました。
(班の男の子が「せんせー、次あっち(の方向)で合ってる?」と影に話しかけると、無言でにゅっと手で方向示していました。あくまで見守り要員のようでした)
ただ、そこから学校までの民家の前の通るコースが、ほとんど人の気配がせず、なんとなくみんな不安になってきて「ちょっと歌おう!」とか言い始めて、陽気な歌など歌って校庭まで歩いて戻りました。
そんな歌いながらの道中のことです。古い感じの民家の前を通りました。低いブロック塀から庭の木の枝が道まで伸びていて、そこに藁で出来たなにかが掛けられているのを見つけました。
班のみんなは、「あれなんだろう?」とか「あの下通るときに落ちてきたら怖いよなー」とか立ち止まってワイワイ話していました。私はふとそのとき、その古い民家と隣の家との間にある細い道に、何かの影を見つけてしまいました。
それはしゃがんだ人の姿のようで、頭の高い位置で両サイドにおだんごヘアをした女性のように見えました。光源は少ないものの、それが誰かも分からないレベルで真っ黒なシルエットでした。
あんな髪型の先生がいただろうか。
そう思ったのですが、私はなぜかそれをその場で班のみんなに伝える気にはならなかったのです。
そうしてゴールである学校に戻り、待ち構えていた先生が懐中電灯を顔の下から照らしておどかしてくるというお出迎えつきで、私の班はわぁっと驚いた程度でしたが、後続の班の一人がギャン泣きしてプチ騒ぎになったので、結局あの影のことは誰にも言う機会がありませんでした。
誰にも言えないでいるうちに影のことはすっかり忘れて校外学習を楽しんでいました。
学校に戻り、臨海学校での思い出を感想文にする宿題が出ました。
みんなが書いた感想文は文集にされて、同学年の全員に配布されました。そのなかで、同じクラスの男の子が書いたものが目に留まりました。
その子は2日目から熱を出して、寝泊まりする教室で一人で日中も寝ていたのですが、夢の中で見知らぬ女の人の夢を見たそうです。ふと目が覚めると、閉めたはずの窓が網戸ごと開いていて、蚊に刺されて大変だった・・・というような内容が書かれていました。
私はそれを読んだ時に、肝試しの途中で見たシルエットのことを思い出しました。
例の男の子に「夢に出てきた女の人ってどんな感じだった?」と聞いてみると、「女の人ってことは覚えているんだけど、どんな人だったのか、夢でなにをしたのかは覚えてないんだ」と返されました。
幽霊が出るらしいという元音楽室に泊まった隣のクラスの子は、「特になにも起きなかったよ」と言っていました。
例の男の子が泊まった教室は、特に出るという噂はありませんでした。
肝試しでなにかを見たという人も、いませんでした。
あれはなんだったんだろう、と今思い返してみても不思議な出来事です。
そんな体験をしたからでしょうか。
私は山よりも、海の近くになんとなく怖さを感じてしまいます。