XaiJu
nikuvacuum
nikuvacuum

fanbox


「御楯乃会」とアメリア(IF)

 岡平さん(御楯乃会構成員)とアメリアさんのやりとりです。

 岡平さんは『融国』本編では直接的に登場せず、桐島大尉の回想でのみ存在するキャラクターなので、今回のアメリアさんとの会話は完全にIF話です。






*********





「……やるなら人の少ない夜中ね」

「何をやる気だ?」

「——っ」

 後ろからかけられた声にアメリアは身体を跳ね上げて振り向いた。色々と深く考え込んでいたためか、背後に気づかなかった。桐島からの脱走計画を再考していたと知りつつも、岡平はいつも通りの様子だった。

「何かやらかす気なら派手にしてくれよ。どうせお前さんのことだ、軟禁で懲りるとは思えんからな」

「あなた……本当に不真面目ね。私が何かしたら、監視役の自分が処分されるって言ってたじゃない」

「言っただろう?俺は全部が馬鹿らしくなって馬鹿やっているとな」

 笑う彼にアメリアは少し頭を抱えたくなる気分を抱いた。最初から分かっていたことだが、岡平はこの組織に対して忠誠を誓っていないどころか、懐疑的ですらあるようだ。仕事こそこなしてはいるが、絵に描いたような面従腹背である。

「そういえばこの際だから聞いておきたいのだけど。この組織、結局何がしたいの?」

「損得勘定で考えるから分からんのだと、前にも言ったはずだぞ?国難を自らもたらして神風を誘発し、外敵を払う。それが目的だ」

「ううん、そういうのは抜きに考えても分からないのよ。あなたたちが米国に一矢報いることを目的としていることは前に聞いたわ。でも、その先がわからないの」

「その先?」

「ええ、その先よ。いったい、アメリカを排除した後にするであろう動きが分からないの。もう日本は武装解除されていて戦争を起こせるような状態ではないし、もし仮に戦争を再び起こしてアメリカに勝ったとしても今の情勢では他の国に追い打ちを受けるわ。どうあってもあなたたちが守りたいはずの國體そのものがなくなってしまうし、無駄死にとなるの。どうしても、死に急いでいるように見えてしまうのよ」

「ほう、分かってるじゃないか。正解だ」

「え……?」

 アメリアは、言葉に詰まる。この男は今、何と言ったのだ?彼女は聞き間違いではないかと思い恐る恐る口を開いた。

「正解って……どういうこと」

「では断言しようか。死にたいんだよ、俺“たち”は」

 アメリアは絶句した。今、「俺たち」と複数形で言わなかったか?この御楯之会は狂気の攘夷思想に取り憑かれ、米国を拒絶するあまりに日本転覆を狙っているものだと彼女は思っていた。実際、その筈だ。理解し難い行動であるが、理念そのものは確かにあったはずだ。それすらも、偽りと?朽ち果て、妄執に成り果てた正義でさえない陶酔の中でこの国と共に死のうとしているというのか、祖国への忠誠を捨てぬままに!そんなはずはない、聞き間違いであってほしいと思うアメリアだが——同時に、意味のわからない狂人の行動ではなく日本やアメリカを巻き込んだ盛大な自決を執り行うためにこの組織があると考えると非合理に感じられた全てに合点がいってしまう。戦慄に目を見開いていたが、どうにか言葉を紡ぐ。

「……それは私たちのせい?」

「そうでもあり、そうとも限らん。いや、もうアメリカなどどうでもいいのかもしれん」

「どうでもいい?では何故……あなたはアメリカが憎くはないの。私たちは自分たちの正義のために戦ったけど、同時にたくさんの人の命を奪ったのは確かだわ。怒りと憎む気持ちが少しでもあるから『御楯乃会』に協力しているんじゃ……」

「俺が怒りを感じるとしたら戦争そのものだ。日本がこんなことになったのは全部君たちのせいか?それは違う、参加した時点で同じ穴の狢だ。君たちのやったことは許せないが、同じ軍人だ。理解はできる。ならば責任のある筈の陛下や閣下のせいか?それも違う、あの方は開戦そのものには反対していたと聞く。生徒隊の連中は放送に納得できず攘夷に走ったようだが、陛下が神をおやめになったのも臣民の為だろう、少なくとも俺は桐島のように『などてすめろぎは人間となりたまいし』だのと呪詛を吐く気にはなれん。——では誰だ?俺は、何に慨嘆すればいい」

「…………」

 アメリアは無表情で語る岡平を見て、憎しみに満ちた御楯乃会の構成員や、自分への怨嗟の叫びを思い出した。誰に対して怒ればいいのかわからない。胸が張り裂けそうな悲しみ。「生き残ってしまった」のだ、彼らは。そして、悟った。この組織は——彼と同じ骸たちの組織なのだと。

「……ともかく、戦いは終わった。任務は全て完了した。もう、忠義を果たさねばならん謂れはない。この世に俺の未練はない。だが、腹の内に燻る余燼をどうにかする術もない。だから俺は桐島にそれを託した。彼は——俺たちという怨念の“苗床”だ」

 御楯之会。

 それは桐島紘一が教官として自ら育て上げた生徒隊と、同調する者たちによって生まれた反米組織。その実態をアメリアはここに至って心底から理解した。


『 ガダルカナルに続き南方の島々までも立て続けに失った大日本帝国は米英諸国に降伏した。しかし、これは見せかけである。鬼畜米英から亜細亜を解放し大東亜共栄圏建設を成し遂げるための、ブラフに過ぎないのである。その証拠に、宮城において敗北を認めぬ同胞が蹶起した。八紘一宇の精神と不屈の信念を抱く兵は今、この神国日本において健在だ。この武力結社“御楯之会”は悪逆非道なる米帝への怨嗟と、祖国を憂うる言葉の数々を聞いて“気づきを得た”我らが桐島紘一大尉が終戦反対派の陸軍将兵をここに集結させ結成したのだ。


天皇陛下はこの世に実体を持ち御国を支配する神である。即ち“現人神”にあらせられる陛下は、古く神代の時代に日向より大和国を東征して“日本”という国を生み出した神武天皇の裔であり、更に遡ればこの世に光をもたらした太陽神“天照大御神”を太祖とする。なればその霊験のほんの一端たる“神風”をお吹かせになれば、偽りの勝利に沸く愚かなる 米帝を悉く討ち滅ぼすことができるはずなのだ。我等が帝国は神の国、小癪な連中に遅れは取りはしたがその真価は未だ発揮していない。帝国存亡を賭けた聖戦を否としたかの聖旨も皇国臣民を米帝の邪智暴虐より護る為の対応に過ぎず、優しすぎるがゆえに選んだ苦渋の選択肢であったのだろう。ならば、未曾有の危機を以て真に存亡の刻が訪れたならば今度こそ陛下がその神威を以て 救国を導いてくださるのだ。


御楯乃会は、帝国勝利のための礎となること——すなわち、自らの誇りと身命を擲ち、帝国に神風を呼び込むことを最終的な目標としている。どのみち生きて帰ることは叶わぬだろう。だが、勤王に尽くす帝国軍人たるもの命はとうに捨てている。神国、大日本帝国を不滅 とするためならばその身を擲つことに一切の躊躇いはない。構成人数は僅かに30人余——中隊にも及ばぬ、吹けば飛ぶような兵隊に過ぎない。しかし、桐島大尉の下で今こそ神兵となり、奴らに死してなお消えることなき永遠の恐怖を その骸に刻み込んでやるのだ。


我らは地獄を望んでいる。 我らは鉄血が三千世界を覆い尽くす絶望的な光景を望んでいる。


そして、神風によりそれが吹き消され、美しく輝く皇国をこそ望んでいる。

帝国と米帝の間に破滅的な対立をもたらし、今一度生存をかけた絶滅戦争を起こす。多くの臣民が血を流し、地獄の業火が空までも焼き尽くす酸鼻極まる光景が広がるだろう。だが、それは神風を起こす為の必要な犠牲だ。洗脳的教育による日本支配を企む鬼畜どもから解放された時にこそ真なる勝利がある。永遠に不滅なる皇国を作り出すことが、我らの持つ崇高な目的なのだ——』


 この組織は、攘夷思想に取り憑かれた狂った組織 などではない。

 この日の本を巻き込んで「死にたい」のを、反米思想で覆い隠したものなのだ。理解し難い——だが、理解が及んでしまう。頭を殴られたような衝撃が走る。


「リンゴの唄なんておめでたい代物が流行りに流行っているような新生日本に、俺たちの居場所はない。新たな時代に我らは不要だ。……御楯之会は、『大日本帝国』と共に置いていかれるべき“痛み”の忘れ形見だ。この先にどうなるかは知らんがな」


 岡平の言葉が、頭に入ってこない。恐怖や侮蔑ですらない、得体の知れない感触が少女の心の中に黒雲のように膨れ上がってゆく。そんな少女の胸中を知ってか知らでか岡平はふと、己が手にしていた得物に目をやった。

「まあ、うまくやることだ。これで君があの桐島から逃れられるとは思わないが」

 そう言って、岡平はゆっくりとアメリアとすれ違った。最後に彼女の手に、不釣り合いなモノを託しながら……。





「——あなたたち、どうして腹を切らなかったの。なんでこうなってしまうまで、生き残ってしまったの……」


 喉の奥のひりつきも、鉄槌で殴られたような衝撃も、背骨を這い上がる哀しみとして全身に遷移していく。岡平が去ったあと、何も紡ぐこともできず、何も伝えることもできず、少女の唇からただ虚無が漏れ出した。







*********






桐島の獄中手記——巣鴨拘置所より(桐島という男⑥)IF

 あの日、大元帥陛下の玉音を聞いたときに私の信じていた『理想』というのは既に消え去っていたのだと思う。  あの時、私を覆っていた帝都の宵闇と晩夏に薫る焦土のにおいは今も鮮明に思い出せる。大元帥陛下が現人神をおやめになった時から、桐島紘一というひとりの男は空虚になっていた。神州の民であり、神国日本...

こちらのIF話と繋がっています。


「御楯乃会」とアメリア(IF) 「御楯乃会」とアメリア(IF)

Comments

「彼は――俺たちという怨念の苗床だ」 すごく心に響く一説です。 歪み滾っているけど、真摯で崇高。そんな桐島様の魅力が、二人のやり取りから感じられました。 岡平さん、達観した視点から物語を客観的に語ってくれる、とても魅力的な人物ですね。 そして、やはりアメリアさんは素敵なヒロインだと改めて思いました。

リスワン

どうしようもない感情の行き場がこの組織なんですね… みんなの心の奥底にはこんなことしてもどうにもならないことは分かっている、けどするしかないって感じがひしひしと伝わります… 岡平の言葉を聞くと誰もがどこかに救いを求めてるんですかね…

ホウギ


More Creators