暑い日が続いたあの日がまるで嘘のように、連日雨が続いていた。
いつもなら、俺と九条は旅館の敷地のはずれにひっそりと佇む別邸で勉強をしている
筈だが・・・・
彼女は高熱を出し、寝込んでいる。
「くじょ・・欲しいものはないかい?水のむかい?」
ふーっと熱い息を吐いてゆっくりと目を開ける彼女。
「大丈夫だよ。もう少し眠ったらよくなるから。・・・ありがとう・ぁきつ」
かすれ声で弱々しい声から、とてもすぐに治るとは思えない。
俺はまた、涙がこぼれそうなのを必死でこらえた。
そもそも・おれがあの時・・・・・
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毎日同じ部屋で同じ景色を見ながらの勉強に飽きてきたので
俺は足りない資料を探す名目で九条を図書館に誘った。
「行きたいけど出かけていける?この雨・・・」
「お昼までにかえってこれば大丈夫だよ・・・いこ?」
「う、うん・・・」
屋根に当たる強い雨の音が次第に激しさを増す。
庭園の草花も雨に当たり小刻みに揺れている。
幸い風はさほど無いようなので、二人はペンとノート、テキストを
鞄に詰め、出かけて行った。
図書館の帰り道・・・・
「雨やまへんね・・・・」
「台風が来るからね。まだ強くなるかも・・・」
近所の商店街も台風に備えて店じまいの準備を始めているようだ。
秋津はショーウィンドウの前で立ち止まった。
野球で使うグローブだった。
秋津は大分で生まれ、博多で育ち中学で京都にやってきた。
博多の旅館では一つ上のアニキとよくキャッチボールをして遊んだものだ。
男だけ5人の兄弟なのでいつも賑やかに暴れていた秋津は
今の静かな環境に物足りなさを感じている。
「どないしたん?・・・」
「あ、いや。なんでもない・・・行こう」
「グローブ欲しいの?」
「いや、そうじゃないんだ。ちょっと思い出してさ。
にいちゃんとよく、キャッチボールして遊んだんだ。それを思い出して」
「ふーん・・・」
帰り道、秋津はそのころの楽しかった思い出話を彼女に話してあげた。
九条はそれをずっとニコニコしながら聞いている。
彼女は一人娘の為そういった兄弟の思い出がない。
彼から聞くそんな話はとても新鮮で魅力的なものだった。
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帰宅し、秋津がシャワーを浴びている間彼女は母親から声を掛けられる。
「雅美ぃ~彼のお誕生日のプレゼント用意したん?」
「え?・・・・うそ!誕生日なの?」
「あれだけ言うたやろう。時間あるときに買いに行ったらええのにって。・・・」
「あ~どないしよう~なんも用意してへんよぅ」
「う~ん後で買いに行くわ。」
「せやけど雅美、あれやで。台風でどこも明日まで店しまうんちゃう?」
「あ。・・・行ってくる!」
「雅美!風も強なってきてるさかい危ないって!」
午後からはさらに雨風が激しくなり、川の氾濫警報も出ていた。
加えて風も強く傘もまともにさせないくらいになってきている。
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「お義母さん?雅美は?・・・・・・次シャワー使うって言ってたのに。」
「あんなぁ、それなんやけど。あの子外に飛び出してもうて。まぁ、すぐに帰ってくる思うさかい待ってようか。」
「そうですか?・・・・」
一時間が経ち・・・・・さらに三十分・・・・さらに・・・
「お義母さん?雅美探してくる。この雨だよ、どっかで帰れなくなって困ってるかもしれない。」
「だめよ、番頭はんに探しに行ってもらうさかい、あんたは家で・・・」
秋津はすでに外へ飛び出していた。
近所の川は午前中に二人で通った時よりも水かさが増し、流れも急になっていた。
その激しい流れは見ているだけで身の危険を感じてしまう。
「まさみ~・・・」不安がよぎる。
時折暴風が彼を押し戻し川へ突き落そうとする・・・
「あっぶねぇ・・・・落ちるとこだった・・・」
(まさか・・こうやって彼女は・・・落ちたんじゃ)
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何の変哲もない路地に彼女は居た。
道端にひと際鮮やかな黄色いワンピースと白い肌が目立っているからすぐに彼女だとわかった。
「くじょ~!!探したぞ~!!どうしたんだ。」
大事そうに何かを抱え真っ赤な顔をした彼女が座っている。
ゆっくり顔を上げ、安心したような柔らかい笑顔で秋津に微笑みかける。
「見つかっちゃった。・・・誕生日プレゼント。買ってなかったのバレちゃった」
「グローブ買ったよ。二つ」
秋津は言葉を失う。
「ほんとにお前は・・・・キャッチボールなんてできんのかよ」
目頭が熱くなった。
「帰ろう・・・」そう言って彼女の体を抱えてすぐに異変に気が付いた。
「熱あるんじゃないか?・・・」
「ごめんね・・・・あきつ。ごめん。」
ずるずると鼻をすする秋津。
「泣いてんの?」「泣かね~よ!」「すなおちゃうな~」
ドリー
2020-08-25 00:53:29 +0000 UTCあき
2020-08-24 22:40:17 +0000 UTC