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孔明の罠
孔明の罠

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憑依・催◯アプリ その1

「じゃあ、頼むぜ長瀬」 「はい……んむっ……んちゅっ……」  岩崎先生の『ご命令』を受けて、私は彼の股間に屹立する突起物を口に咥えた。唇で柔らかく擦り当ててみたり、舌先で細部を刺激してあげたりすると、彼の敏感なそれはいちいちぴくりと反応を示して、それが私にたまらない充足感を与えるのだ。 「うっ……さすが、男が気持ちよくなれるところはよく理解してるな」 「ふふっ」  お褒めの言葉を頂いて、私が上機嫌に顔を前後へと動かし始めると、口内の肉棒は一際大きく跳ね上がり、岩崎先生の顔に苦悶の表情が浮かんだ。 「ふぉうれふか?(どうですか?)」 「ああ、いい感じだ……けど」 「?……んぐっ!?」 「もう少し勢いが欲しいかもな」  言いながら彼は私の頭部をがしっと鷲掴み、私のことなんてまるで構わずにそれを自分のいいように振り動かし始めた。けれど能動的にする先ほどまでとは打って変わった乱雑な、私の意思など蔑ろにして当然だと言わんばかりのこんなフェラのさせられ方すら、私はもう嫌いになれないでいた。  彼が喜んでくれている。そう思うだけで気持ちは晴れやかになって、その他には何もいらないと断言さえできる。 「……♡」  私の心と『彼女』の身体は、もはや先生という絶対的な主人に従い、傅き、ご奉仕するためだけに存在している。そのことに今の私も、そして『彼女』も、この上ない幸福を感じることができる。 「出すぞっ!こぼさず飲み込め!!」 「んんっ……!ご……んっ……ぷ、はぁ……美味しいザーメンを、今日もありがとうございました」  そういって私が恭しく感謝の言葉を伝えると、 「きゃっ?」  間を置かずベッドに押し倒されてしまった。先生はどうやら本番をご所望らしい。 「たっぷり可愛がってやるよ、長瀬」 「はいっ、よろしくお願いします♡」  私がにこりと微笑むと、彼の手は私のきゅんと疼いて止まない下腹部へと伸びていきーー  これから始まる幸せなひととき。  不思議なアプリと、私のミスと、彼が抱いた悪意とで、この物語は始まった。  そう。これは私が、かつての不幸な『俺』から、今の幸福な『私』になるまでのお話ーー ×××  就職活動が天王山を迎え、そして過ぎ去りつつある7月、大学4年生の俺、長瀬智和は内定のひとつも貰えないまま、日夜履歴書とにらめっこする毎日を送っていた。 「やっぱり、これがマズいんだよなぁ……」  F欄大学卒業見込みという低学歴に加え無味乾燥とした経歴欄。この4年間で打ち込んだことなんて何もなく、拙い文章で当たり障りなくつまらない話が並べられたこの履歴書で、内定までこぎつけるのはやはり無理があったのだろう。 「在学中に頑張ったことなんてなにもないし、なんならゼミだって入ってない。GPAもSPIもてんでダメ。特技も皆無。高校大学も底辺校……もう、ブラック企業しかないか……」  無論、職や福利厚生さえ選ばなければ受け入れてくれそうな会社は普通にある。カタログスペック激弱とはいえ、面接はそう極端に苦手というわけでもない。時期も時期だし、将来を底辺で過ごす覚悟を、そろそろ俺も決める時なのかもしれない。  と、俺がどんよりとした思考を巡らせていると、机に置いていた携帯が振動を立てた。自己主張はほんの一瞬だったので、届いたのはおそらくメールだ。 「……」  既に20社からお祈りメールを貰っている身だ。今さら1通増えたところで落胆することなんてない……そう割り切れれば、自分の強みにメンタル面をアピールできるのかもしれないな、なんて益体もないことを思いながら俺はケータイの画面を開いた。 『憑依アプリ 当選のお知らせ』 「……馬鹿馬鹿しい」  予想の斜め下をいく通知を見て俺は呆れ果てるほかなかった。 「……」  さっさと削除してしまおうと画面に指を掛けたところで、しかし俺はいや、と少し考えを改めた。  こういった迷惑メールの類は、きっと俺のような底辺の人間が作り、そして発信しているのだろう。無論、一度クリックしただけで法外な金額を請求されるなんてこともあるのだろうが、そうなれば別に無視を決め込んでやればいい。もし裁判にでもなったとして、こちらが負けるなんて展開はまさかあるまい。  俺はひとつ見てみたくなった。自分と同類の人間が作り上げた、非生産性、非社会性の極みともいえるこの成果品を。将来の自分を見るような、そんな怖いもの見たさと、少しばかりの憐憫、同情の念とが俺の胸中にあって、それらが俺をリンク先へと誘った。  アプリは妙にしっかりとした出来栄えだった。丁寧に羅列された説明書きと簡素ながらも理解のしやすいUI。ゲームアプリに触れること自体久しぶりというのもあってか、俺は柄にもなく少しだけわくわくしていた。 「……?」  ちゃんとしたゲームだというのなら、タイトルからしてRPG風に登場人物への憑依を繰り返して物語を進める感じのゲームみたいな、よくあるタイプのやつだろうと始めは思った。  しかし画面のどこを開いても物語をスタートさせる項目は見当たらず、代わりに1番目立つよう表示されているのは『憑依対象を撮影』というものだった。 「どうするんだよ、これ……」  これだけきっちり作られてるのに肝心の始め方がさっぱりというのは困る。俺はげんなりしながらも、そういえば昨今のゲームには現実の位置情報や写真を利用した連動型のものも存在していることに思い至った。もしやこれもそういった類のものなのかもしれない。 「まあ、試しに……」  俺が撮影ボタンを押すとアプリはカメラモードへと切り替わった。部屋の窓から外を覗きこみ、とりあえず通行人を適当に撮影してみようと構えた。ちなみに窓は網戸越しにしているし、この部屋はマンションの4階に位置しているため、盗撮がバレる心配は多分ない。被写体自体の映りが悪くても憑依に支障はないらしいことは先ほど読んだ説明書に書かれてあったので、気にすることもないだろう。  しばらくすると人影が見えた。判別が少し難しいが中学生か、見た目の幼い高校生の女の子だった。けれど制服に見覚えがないため近辺の学校の生徒ではなさそうだ。となれば後者で確定だろう。  俺はスリープに入りかけた薄暗い画面を起こしてカメラの照準を女子高生に合わせた。カーソルに彼女が収まるよう調整し、そして撮影ボタンに手をかけーー 「……ん?」  気づけば俺は、路上にポツンと立ち尽くしていた。 「は、え?」  俺はたしか、たった今さっきまで自室でカメラを構えていたはずで……それがなんで外にいて?え?  呆然とする俺の脇をスポーツカーが通り過ぎた。瞬間的な強風が吹きすさび、それが俺の視界にとうとうふたつの違和感を示した。  ひとつめは、髪だ。風になびいた横髪が、俺の鼻腔をくすぐったのだ。俺の髪型は日頃常に角刈りで、だからこんなに長くはなかった。さらに前髪がヘアピンでまとめられていることに遅れて気づき、首元に手をやれば、さらりとしたきめ細やかな後ろ髪が肩幅にまで伸び進んでいた。  ふたつめは、布だ。それはきっと衣服だった。風に煽られた直後に視界の真下から一瞬顔を覗かせたあれは、紺色を基調としたチェック柄で、等間隔に襞が設けられていた。さらに視覚とは別に、俺はまるで下半身の衣服を剥ぎ取られたかのような感覚をも味わった。ちゃんとしたズボンを履いていたはずなのに、今でも外気が直接太ももを撫で続けているのは明らかにおかしかった。  視線を下げると、まず胸元の赤いリボンと柔らかげに盛り上がった胸部の双丘が印象的だった。そして俺の身体は涼しげな半袖のワイシャツと、さっき目にした布そのままのプリーツスカートに包まれ、両脚は露出が激しく、しかし低い箇所はクルーソックスで申し訳程度に覆われ、靴にはやたらと小さなローファーが充てられていた。 「これって……」  俺はこんな服装をしていた人に、ひとつ心当たりがあった。意識が飛ぶ直前に被写体として選んだあの少女が、たしかこの身そっくりな制服姿だったはずだ。  手元を見ると片手には手提げ鞄、もう片手には質素な携帯電話。いずれも俺の持ち物ではないものだ。しかし携帯の画面には、『憑依成功』の4文字が大きく表示されていた。 ××× 『憑依アプリ』取扱説明書 ・このアプリの利用者が憑依を成功させた場合、このアプリは自動で被憑依者所有の電子端末にインストールされ、元の電子端末からは抹消されます。被憑依者が電子端末を所有していない場合は、所有した時点で自動的にダウンロードが開始されます。 ・憑依後、元の身体は当時その者だった人物の思想や性格、感情その他一切の要素を参照して自動でその者として妥当な行動を取るようになります。ただし、当アプリに関する記憶は残されません。 ・被憑依者の記憶は、必要に応じて引き継ぐことができます。その場合でも思想や性格、感情等の精神的な部分は利用者の有するものが最優先されるため、あくまでこの機能は利用者の記憶等の引き出しを被憑依者の持ちうる限りで増幅させるものとお考えください。 (一部抜粋) ×××  一応自分のマンションにまで足を運んではみたが、『長瀬智和』にはインターフォン越しでただ訝しがられただけだった。憑依アプリの名を口に出してみても、まったく反応がなかった。  どうすることもできず、とりあえず俺は自分の荷物を漁ってみることにした。ひとりで一度落ち着ける場所というのを考えた結果、真っ先にトイレが浮かんだため、近所の公園を目指した。  歩いているうちに、否が応でも自分が自分じゃなくなったことが…女子高生になったことが実感できた。  まず鞄を肩に掛けようとして、失敗に終わった。失敗も何もあるかと思われそうだが、女子は男と比べて撫で肩の割合が高いそうで、この子もその例に漏れなかったという話だ。要するに角張りのないこの肩じゃ手提げの部分が引っ掛からずに、するりとずり落ちていってしまうのだ。  普段とは違った頭ひとつ分は低いこの目線は、世界の見え方を大きく変えた。ご近所さんの庭先を上から覗き込むことができていた道路沿いの背の低いブロック塀は俺の身長を追い越していたし、道行く男性は巨人のようにすら見え、すれ違うたびになんとなく身じろぎしてしまった。  この子の脚は一般的な女子高生よりいくらか長くすらっとしているように見えるが、それでも歩幅はかなり小さく、歩いても歩いてもなかなか先に進まないことがじれったかった。  片足が地面を蹴り上げ、もう片足が着地するそのわずかな衝撃の度に肩まで伸びた黒髪が細く敏感になった首をくすぐり、また気まぐれに離れていった。  揺れ動くものは他にもあった。腰部に引っ掛けられていたスカートだ。これもまた髪の毛と同様リズミカルにふわふわと揺れ、時折り俺の膝上や太ももを撫でた。そしてそれが俺の男としての自意識を刺激し、まるで女装でもしているかのような羞恥心を生み出していた。  それから忘れてはいけない……というか意識から外せないのが、この胸だ。俗な言い方をすれば、おっぱいだ。  この少女、実はそこそこ胸が大きいらしい。今の視点で真下を向くと、視界の2割を埋め尽くすほど、それはもう大きい。こうなるとブラジャーや張り上がるワイシャツを持ってしても完璧には固定しきれないようで、これらもまた髪の毛やスカートと同様にふるふると揺蕩い、控えめながらもその存在を都度俺に主張してくるのだ。ちなみに下世話な話だが、汗が滲んでいるのもあって間近だと薄ら水色であることが透けて見えた。何がとは言わない。 「やっと着いた……」  口からこぼれたこの子の声は淑やかながらも明澄とした、ノイズの混ざらない綺麗なソプラノボイスだった。  それにしても、大した距離でもないはずなのにかなり歩き疲れた。慣れない身体のためか、それとも女子の身体だからか。きっと両方なんだろう。  さっそく俺はトイレへと足を踏み入れ…… 「え?」 「へ?……あっ」  作業着を着たおじさんと鉢合わせをし、遅れてその過ちに気づいた。  そうだった!今の俺は女子高生だった! 「す、すみませんっ!間違えましたー!」  俺は慌ててその場から離れて、逃げるように公園を飛び出した。  そんなことがあって戻るに戻れず、行き場を無くした俺は結局、この子の自宅に向かってみることにした。 ×××  鞄の中から学生証でも出てくれば住所を知ることなんて造作もなかったろうが、俺は試しにアプリの説明にあった記憶の引き継ぎというものをしてみることにした。 「うむむぅ……」  どういう感じでするのだろうか。念じればいいんだよな?ええっと、この子の住所は……家に帰るルートは……。  探り探りといった形だが内心に情報を問いかけてみるも、しかし反応はなかった。 「……あ」  反応はなかったが、しかしそんなものは必要もなかった。気がつくと俺の頭には、この子の帰宅経路が既に存在していた。 「なるほど。こんな感じで引き出してくのか」  てっきり思念体かなんかが教えに出てきてくれたりするのかと思ったが、これは便利だ。  それから家に到着するまで、俺はこの子の記憶からいくつかの情報を引き出した。  まず、この子の名前は水上千春。ここから市を跨いだ先にある県内有数の県立進学校に通う高校1年生。運動は少し苦手らしいが勉学に優れ、前回のテストでは学年1位の成績を修めているのだそう。  交友関係はまずまずで、親友とも呼べる仲のいい女子がひとりいて、他のクラスメイトとの関係も良好。しかしつい先日、ある男子生徒から告白をされ、それを断ってから今日に至るまでその子とはギクシャクが続いてしまっているらしい。  水上千春自身、自分の可愛らしい容姿と、それから凹凸の大きい身体つきとにはなんとなく自覚があるようで、最近の悩みはそんな自分を嫌らしい目で見てくる男の子が言い寄ってくるというものだった。肝心の彼女のほうには彼氏を作ろうと思えるほどの恋心が芽生えた経験もないそうで、なるほどこれは難儀だと思った。  そんなこんなしながら、俺は無事、水上千春の自宅に到着することができた。並か少し大きいかくらいの、ありきたりな一軒家だった。 「ふぅ……」  彼女の両親は共働きらしく、また兄弟もいないため、しばらくは落ち着いていられるだろう。俺はさも当然のように鞄のポケットから家の鍵を取り出し、ドアの鍵穴に差し込んだ。  本来の彼女であれば帰宅したら家族の在不在に関わらず「ただいま」と言葉にするみたいだが、俺は面倒だからその情報を無視して、そのまま水上家に上がりこんだ。 「もっと華やかな感じかと思ったが……」  水上千春の部屋は、思っていたより女子らしくなかった。記憶を辿ってみると彼女には特に女子らしい趣味もないらしく、まず実用的な家具が一式。それから大きめの本棚にはたくさんの参考書と少しばかりの文庫本が詰められていた。女子らしいものといえば、クローゼットの中身くらいだろう。なんとも簡素な部屋模様だ。俺にとって人生初の女子の部屋に足を踏み入れるイベントは味気なく終わりを迎えた。 「……あ」  しかし現状がそんなチャチなことをいちいち気にしている状態なんかじゃないことを、『それ』が改めて気づかせてくれた。  部屋の片隅、俺の目線の先には、姿見が置かれていた。そして鏡の向こうの少女と、必然目が合った。  近くまで寄ると、それは水上千春の全身をありありと映した。  部屋の照明をほのかに受けて天使の輪を帯びさせた、肩まで伸びた緑の黒髪。その1本1本が絹のように滑らかで日頃の入念な手入れを想像させる。指先をそっと埋めてみると癖のないそれらは一切の反発も生まず、しっとりと、それでいて重みのある高級感を俺に堪能させた。  顔は小さく丸っこく、童顔をそのまま体現したかのようなつくりで、けれどその面を彩るパーツは端正に整えられている。例えば目。くりっとした大きくて愛らしい瞳は潤いと輝きを纏って一際強い存在感を放っている。その周りには先端を緩やかに婉曲させた、長く品のある女性らしい睫毛が萌え立つ。眉はほんのりと薄く、すっと筆で一本書きしたようなささやかなものだった。今は感情の起伏を表すことなく、弓形にその形を保ち続けている。薄紅色の小さな唇は湿り気を宿し、年頃の少女に不相応な艶美さを醸し出させ、見る者の目を惹きつけて止まない。その上部ではささやかな鼻がちょこんと添えられていた。 「……」  リボンを、ワイシャツを、スカートを脱ぎ下ろす。  大人になりかけの、それでいて幾らかのあどけなさを残した女子高生の破廉恥な下着姿が露見する。俺はさらにブラジャーのホックをぷつりと外し、ショーツまで剥ぎ取って、水上千春を一糸纏わない生まれたままの姿にさせた。  握れば折れてしまいそうな、喉仏のない細い首。肩は目に見えて撫で肩。筋肉質とはまるで無縁そうな細くしなやかな両腕。無駄毛なんてかけらも見当たらず、透き通るような乳白色の美肌を披露させている。その先にある手のひらも随分と小さいもので、指先に無骨さなど皆無に等しかった。左右2点を中心に盛り上がり大きな双丘を象っている胸部のこれは、間違いなく女性ならではの乳房。綺麗な肌には染みひとつなかったはずなのに、しかしその膨らみの先端にある突起は桃色に塗られ、瑞々しくもそこはかとない色気を吹き込んでいた。 「……」  姿見を見て、それから改めて自らの身体を見下ろす。服越しでも思ったが、やはりこの胸は大きい。  手のひらをあてがい、それから軽く指先で握り込んでみると、それは外圧にされるがまま形を歪ませ、俺の脳に柔らかな膨らみを揉んだのだという感触と、俺の柔らかな膨らみが揉まれたのだという刺激が信号となって到達した。  逸る気持ちを抑えてそれらを意識の隅に置き、さらに下方に目を向けると、やや縦筋に開いたへそや、女性特有の健康的なくびれ、男を誘惑する大きな臀部に、むっちりとしながらも体積を抑えた太もも、すらりとしたしなやかなふくらはぎ。しわのない足首に汚らしさを思わせない小さな両足。 「す、すごくないか……?」  そのどれもが水上千春を美少女足らしめるものだ。すべてが可愛らしく、それか美しく、はたまた可憐と形容できた。 「……」  けれど俺としては、いや、俺でなくとも、1番気になる女体の箇所は、おそらくここに違いない。  この歳になって未だに生えてこないなんてことはないはずだから、自分で処理しているのだろう。そんな隠れ蓑のなくなったこの子の恥部に、俺は指を潜み込ませる。あられもなく欲望の侵入を許す水上千春の女性器に、俺の興奮はより高まっていく。  侵入を許す?許すとはなにか?  自らの意思に沿って指を潜ませ、自らの意思のままそれを受け入れた。そんな今の一連の行動の、一体どこに許諾の生じるところがあったというのか。  今この身体は確実に俺のもので、どう使おうが動かそうが、それはすべて水上千春の自発的な行いと同義だ。許すだなんていかにも他人行儀で表現として不適切だ。今この身体のする目的は心身ともに反意のないところで、意思は統率されている。この指先とこの女性器は対立関係にないのだ。ただ「女の快楽を味わってみたい」という一心で、『俺たち』は団結している。  他人の、それも年頃の女子高生の身体を支配しているという倒錯感は、俺の脳に相当な甘美をもたらした。  しかしいつもならこんなとき屹立していたはずの男根は、もう持ち合わせてない。むしろそんな男根の挿入を待ち焦がれる一筋の割れ目だけが、今の俺に備わっているものだ。差し込むのではなく差し込まれるのが、この身体の性的役割。つまり俺は、絶対的に『女』だった。  そんな俺の昂りを受けてか、勃起の代わりに愛汁が滲み始めた。俺の感情に連動して、この身体がその場に適した生理現象に陥るのは、今の俺にとってもはや至極当然の道理だった。 「……んっ」  可愛らしい嬌声が漏れた。頬を紅潮させた鏡に映る女の子は、品性に欠けた、まるで似合わない下卑た微笑を浮かべていた。  俺はこの後、水上千春を…『俺自身』を、満足いくまで蹂躙し続けた。 ×××  カーテンの隙間から漏れた朝の日差しに意識が目覚め、俺はむくりと上体を起こした。 「ふゎ……んぅ〜っと」  我ながら可愛らしいあくびを口からこぼしながら腕を伸ばした。しばらく伸びを続けていると段々と意識が覚醒してきたので、ベッドから立ち上がりリビングへと向かった。 「おはよう。今日は早いのね」  穏やかにそう挨拶を交わしてきたこの女性は水上千春の母親だ。歳は40を過ぎたというのに若々しく、もう5年ほど早ければ千春の姉と名乗ってもギリギリ通ったかもしれない。容姿は千春とよく似て端麗で、血筋の良さを窺わせる。白状するが、俺は例のアプリで彼女の身体にも何度かお世話になったことがある。 「おはよ、ママ。今日は係でちょっとだけ早く出なきゃなの」 「そう、新学期早々たいへんね。はい、召し上がれ」  桜も散りゆく4月の初め。今日は水上千春…いや、俺が2年生になって最初の登校日だ。  俺が水上千春に憑依してからもう1年近くになるだろうか。あの突発的な出来事によって、俺の人生は文字通り様変わりした。  結局俺はたまたま憑依した水上千春の身体と人生をありがたく拝借し続けることにした。元の長瀬智和に戻ってもろくな人生になりそうもなかったし、引き換え水上千春のスペックは相当に高く、女にこそなってしまったもののそれなりの高校生活を堪能できそうだと思ったからだ。  実際、22年間を男として過ごしてきた俺にとって、JKとしての生活は非常に新鮮味があった。身支度では髪型を変えてみたり、色んなコーデを着こなしてみたり、同じひとりの少女だというのに着飾る度に印象を大きく変えることができ、さらにはそれがスタイルの良い、とても可愛い自分自身なのだから面白くないわけがなかった。髪の毛や肌のケア等、美容といった手間こそ掛かるが、結果出来上がる美少女を見れば余裕でお釣りが返ってくるほどのものだった。  学校では仲の良い女友達とスキンシップを取ることができ、男だったら通報されてしまうような行為も冗談として受け入れてもらえるので、男にとっての花園にでもいる気分だった。平時であればやはり体育の授業だろうか。準備体操で肌身の触れ合うひとときや、女子更衣室で平然と脱衣し、男子がいないことに油断して生じる生々しい女子トークに混ざれることに興奮が冷めやらなかった。股間にアレがあったなら、俺は間違いなく毎時間勃起していただろう。言うまでもなくそんな事態には陥らなかったが、「千春って最近みんなとの距離が近くなったよね」と言われる程度まで水上千春の人物像を歪ませてしまった。反省はしていない。  しかし無理のない程度に以前の水上千春を維持すると決めていた俺は、帰宅後1時間机と向き合い勉強することを習慣にした。彼女の培ってきた頭脳もあって、勉強嫌いの俺でも習慣自体は難なくこなせていたが、元の彼女の足元にも及ばない勉強時間のせいか学力はみるみるうちに低くなり、今では試験で平均点ほどしか取れなくなってしまっていた。  そんな日課をこなした後は、遊び放題の自由時間だ。自らの女体を弄ぶ日もあれば、アプリで彼女のいる同級生男子へと憑依して情事に勤しむこともあった。約束があれば友達と適当に遊んだり、ひとりでウインドウショッピングに出かけたりと、普通に女の子らしいこともした。  初めの頃は入浴したりトイレなんかでもいちいちドギマギとしたものだが、人間何事にも慣れるようで、最近だとこの身体の裸体を見るくらいではそれほど興奮できなくなっていた。もっともそれはあくまで視覚情報に限った話で、身体の秘部に物理的な刺激を与えてやればまだまだ全然女体としての快感は楽しめる。  そんなわけで、年頃の少女の身体を使う身として異性とのまぐわいには必然興味を抱かざるを得ない。しかし水上千春という上等の女子高生、その処女を興味本位で喪失させるのは憚られた。彼女を気遣って…とか、そういった良心ではもちろんなく、単にもったいないからという、好物は最後に取っておくみたいな感覚だった。かといって間に合わせに別の女子に憑依しようにも、この身体が女体の出来の良さというハードルを大いに引き上げてしまったために、遊びの感覚で女子大生やOL、人妻、低い年齢だと女子小学生と、幅広く憑依はしてきたし、その延長でひとりエッチを嗜んだ経験も何度かあるが、やはり俺にとっての処女喪失というお楽しみはもう少し時期を選びたいというのが本音だ。  そんなことをぼんやりと考えながら、ワイシャツに腕を通す。男女で上下が反対のこのボタン構造にももうすっかり慣れた。リズムよくぷちぷちと留めてから、腰に垂れたその下部分をスカートの内側に巻き込んで腰上でぴちりとまとめる。それから紺のハイソックスに爪先を潜り込ませれば、俺の色白な両脚の過半は衣服に覆い尽くされる。しかし残った露出部分は女学生特有の絶対領域となってかえって素肌を目立たせて、清楚な色気を匂わせる。  放っておくと邪魔になるよく伸びた前髪はヘアピンで軽く止めて、味気のないブレザーを羽織り、最後に胸元の赤いリボンを整えてあげれば、ごく普通の制服姿だというのに、市内でも有数の可愛さと断言できるほどの可憐な女子高生が出来上がった。 「いってきまーす」  もう何度目かも分からない女子高生としての登校に、俺はもはや慣れ親しみ切った自宅の玄関を跨いだ。 ×××  開いた口が塞がらないとは、きっとこのことを言うのだろう。あまりの驚きに立ち止まり、そんな俺とすぐ後ろをついて歩いていた親友の麻耶とがぶつかって、彼女は「わぷっ」と素っ頓狂な声を漏らした。 「あ、ごめん」 「急に立ち止まらないでよまったく……なに、なにかあったの?」 「なにかってわけじゃ、ないんだけど……」  俺が目を向ける先の教壇には、このクラスの担任になるらしい現国の教師とは別にもうひとり、俺のよく見知った男が立ち並んでいた。 「見ない顔の人ね。教育実習生かしら?」  そんな疑問を浮かべる麻耶の反応は自然なものだろう。そして俺が、あの男は教育実習生…すなわち大学生ではなく、もう社会人であることを知っているというのは、どう考えても不自然なものだ。だって、『水上千春』にとってあの男…岩崎駿はこれまで面識の一切ない、全く赤の他人なんだから。  にも関わらず彼が社会人であることを知り、それどころか名前まで把握できているということは、すなわち彼が元の俺…『長瀬智和』にとっての知人であることを表していた。 「ほ、ほんとに長瀬なのか……ありえねえ……」  放課後の職員室から上手いこと岩崎を誘導し、人気の少ない化学室へと呼び寄せた。そこまではよかった。  が、当然のことながら「よう岩崎。実は俺だ長瀬だ。1年前からこのJKに憑依していて、元の俺はCPU状態なんだ」なんて説明で納得してもらえるわけなんてなかった。それでもなんとか友人としての交流の記憶を辿って、俺が長瀬でなければ知り得ないような思い出話をいくつか、それから男同士の性癖暴露までかまして、ようやく理解してもらうことができた。 「それにしても驚いた。お前が本当に教師になるなんて」 「こっちのほうが驚いたわ。なんだよ憑依アプリって……」  ちなみに岩崎は免許こそ持っているらしいがこの学校では非常勤だ。こいつは俺らの大学の中じゃかなり優秀な学生だったが、やはりF欄の出身だと正規の待遇を掴み取るのは難しいのだそう。むしろ県内随一のこの進学校で教鞭を振るう機会があるだけでも十分に御の字らしい。  そういえば、と俺はかねてより少し気になっていたことを尋ねてみることにした。 「どうだ?俺は元気にやってるか?」 「俺?……ああ、CPUのことか?そうだな、まあフリーターでその日暮らしの生活らしいが、死なない程度には元気だよ」  俺が間に合わせで口にしたCPUという表現は岩崎にとって意外にしっくりきたようで、特に言い淀む様子もなくその用語を使うようになった。 「ていうか、そうか。就活、やっぱり俺駄目だったか」  憑依前の俺の惨状を思えば別におかしなことではなかったし、残念だとも思わなかった。 「元に戻ったら大変だぞ、あれは」 「白々しい。俺は戻る気なんてさらさらないからな?この頭なら受験も就活も適当に済ませれるだろうし、あとは女の人生に飽きるか社会の荒波に揉まれるかしたら、今度はイケメン勝ち組の若い男に乗り換えるつもりだ」 「乗り捨てかよ、千春ちゃんかわいそー」  けらけらと笑う岩崎。こいつは付き合いはいいから友人の立場でいると楽しいんだが、見てのとおりわりかし性悪だ。そういう意味でも教師になったのが意外だったのだ。 「なあ岩崎、お前なんで教師を目指したんだ?」 「あ?言ってなかったか?現役JK眺め放題だからだよ。あわよくばワンチャン」 「……あ、呆れた。あれ、マジで言ってたのか」  当時のことならぼんやりと覚えてはいる。しかしあんなの冗談の類だと普通誰しもが思うだろう。  俺が友人の持つ謎のバイタリティに引いていると、岩崎は不意に身体をずいと寄せてきた。 「な、なんだ?どうした?」 「いやよ、今のお前、かなりいい身体してるじゃん?」 「やだ」 「まだ何も言ってねえよ!」  言われてはないが想像に難くもなかった。 「この身体の処女をお前なんかにやるとかもったいないだろ」 「は?まだ処女なの?てっきり適当な男引っ掛けて遊んでるもんかと」 「……なんとなくもったいぶってるんだよ」 「……あー、なるほど。まあ、こんだけ見た目のいい子なんてそういないもんな」  しかしこの男の物分かりの良さも変わらず健在だったらしく、俺の言わんとすることを察して、岩崎は大人しく引き下がった。 「もっとも、そうじゃなくっても、お前となんてやりたくはねえよ…こほん、岩崎先生!私、男の人ならいくらだって選べる立場にあるんですよ?♪」 「……中身が長瀬って分かってんのにムラっときたわ……ま、お前が駄目ってんなら仕方ねえ」  それでも俺なら女の快感って好奇心に負けるだろうけど、と付け加えて岩崎は落ち着いた。  かと思ったら再び顔を明るくさせて前のめりになった。 「じゃあさ、その憑依アプリってやつを俺にも使わせてくれよ!」 「あ、悪いけどそれも無理なんだ」  期待に満ち満ちた岩崎の弾む声。しかし現実は残酷だった。  別に俺が意地悪をしているわけではない。このアプリの説明書きの一文に、『スマートフォンの所有者以外には使用できない。』とあるのだ。試させてやってもよかったが、不用意に他人に渡してアプリの力がおかしな事態に結びついてもよくない。俺は丁重にお断りした。 「と、そろそろ職員会議の時間か」  岩崎が時計に目をやってそう呟いた。本日はこれでお開きのようだ。俺たちは連絡先だけ交換して、並んで化学室を出た。  その時。 「……?」 「でさー……どうした長瀬?」  どこからか視線を感じた。こんな辺境の廊下に放課後足を運ぶ生徒なんていないと思うのだが……俺の気のせいだろうか? 「急に黙りこくってどうしたよ長瀬」 「……いや、なんでも。それよりお前、俺のことは水上って呼べよ。周りに不審がられたらどうするんだ?」 「くははっ!ねえよ、ありえねえ。渾名かなんかだって思われるだけだ。普通のやつには憑依だなんて非科学、考えにかすりもしねえよ」 「……ま、それもそう、か」  結論から言うと俺の不安は結局、杞憂ではなかった。あのとき感じた視線は、気のせいなんかじゃなかったからだ。  しかしそうはいっても、それほど問題にもならなかった。それはひとえに、この憑依アプリに新しく実装された新機能のおかげだった。 ××× 「そいつが昨日言ってた追加アプデの催眠機能ってやつか」  新学期の忙しなさもすっかり落ち着いた今日この頃、俺と岩崎はたまの密会場所である化学室へと潜り込み、ふたりして1台のスマホの画面を眺めていた。  というのも、今岩崎が言ったように、昨日この憑依アプリに突然のアップデートが入ったのだ。説明書きは寝る前にざっと確認しておいたが、改めて読み込んでみると、これもまた憑依に勝るとも劣らないとんでも機能だった。  催眠モードを起動して催眠を掛けたい対象にカメラを向けると、その人は途端に放心状態になり、さらにアプリ内で任意の事項を記入してからシャッターを切ることで、それらの内容がそのまま催眠の効果として現実に反映されるというのだ。 「説明じゃ分かりにくいとこもあるし、とりあえずその辺の誰かで試してみようぜ」 「ああ」  岩崎のその提案に俺も同意し、さっそく化学室を出ようとドアを開け、 「あ……」  まるで教室内での会話を盗み聞きしてたかのような姿勢の親友、西条麻耶と鉢合わせした。 「ま、麻耶ちゃん……?」 「……っ!」  突然駆け出す麻耶を見て、ただ俺は呆然としていた。  まさか、俺と岩崎との密会がクラスメイト…それもよりにもよって麻耶に聞かれていた?つまり、憑依のこともバレてしまった……? 「おい長瀬!催眠モードでカメラ回せ!!」  予想外のこの事態に一足先に冷静さを取り戻したのは岩崎だった。その言わんとすることに遅れて気づき、俺は慌ててカメラの照準を逃げる麻耶へと向けた。 「……あ……」  すると麻耶は唐突にその足を止め、やがて廊下で棒立ちになった。 「……うまくいった、のか?」 「みたいだな。はぁ、ぶっつけ本番かよ。焦ったぜ」  ため息をひとつ吐き苦笑いを浮かべる岩崎。多分俺の顔はこいつのよりは強張ったままだろう。心臓もバクバクと高鳴って、しばらくやみそうにない。  そんな俺たちの視線の先には背を向けたままで突っ立つ麻耶の姿。先ほどまでとは打って変わって、まるで生気を感じさせない人形のような状態だ。 「とりあえず化学室に運ぶか」 「そうだな」  触れられても持ち上げられてもピクリとも動かない麻耶の姿に、俺は改めてこのアプリの恐ろしさを実感した。  西条麻耶は水上千春の親友である。才色兼備で品行方正。曲がったことが大嫌いで、その少しキツめの性格から親しい人間はそう多くはない。  彼女と千春のファーストコンタクトは中学時にまで遡る。今と変わらない綺麗でよく伸びた長髪に、彼女は引き結ばれた唇とややつりあがった目、それから黒縁の楚々とした眼鏡が印象的な女の子だった。そして端正な顔立ちをしているのにその表情は常日頃いくらか強張ったままでいて、さらに今この時、その癖はより露骨に表れていてなにか彼女にとって納得のいかない事態が起きているらしいことは容易に想像がついた。 「水上さん」 「は、はい?」 「私、次こそ1位を取ってみせるんだから」  期末試験成績上位者の名前が貼られた掲示板の前で、しかし彼女は最終的には穏やかそうな表情を作り、そして水上千春に所信表明か宣戦布告か判断に困る言葉をぶつけた。  年頃の女子中学生にしては随分とおかしな馴れ初めに見えるが、その後彼女たちはすっかり意気投合することになり、結果高校生になった今でも親友という関係を保ち続けることができていた。  催眠アプリを用いて、俺たちは麻耶の魂を雁字搦めに縛り上げていった。  まず、このアプリに関わるすべての出来事を他言できないようにした。ただ、俺か岩崎の許可があった時だけ、周囲の人間に聞き取られないよう小さい声でその手の話をすることだけは可能にしておいた。  それから、俺と岩崎の命令には絶対服従。言わずもがな、これが1番重要かもしれない。  その他にも抜け穴を潰すためいくつか設定を考え、それらをアプリで次々に彼女へと刷り込ませにかかる。 「よし、こんなところか」 「そうだな。じゃあ撮るぞ」  そしてカメラのシャッターを切る。すると麻耶の錆びた瞳は輝きを取り戻し、身体は生気を吹き返した。 「あ、あれ?ここって……」 「いよぉ、西条さん」  戸惑う彼女に岩崎が品のない声を掛けた。 「っ!」  当然、岩崎の声を認めた麻耶は先ほど同様に逃走を試みる。 「まあ、『座れよ』」 「…………え?」  しかしそんな本人の意に反して、彼女の身体はすぐそばの椅子にすとんとその身を委ねてしまった。 「な、なにこれ?あれ?身体が……ね、ねえ千春!どういうことなのこれ!?いったい私、どうなってるの!?」  自尊心の強い彼女がこんな縋るような声を出すとは、やはりその身の危険を薄々理解できているらしい。しかしこんな状況に至ってなお千春ちゃんに助けを求める辺り、まだ憑依の実態にまでは辿り着けていないのかもしれない。 「あー、いちから説明してあげるから、一度『黙って』」  そして麻耶はその口こそ塞がれはしたものの、目は口ほどに物を言うのか、俺の説明を受けている最中、彼女が俺たちに何を思っていたのかなんて明白で、その醜く歪んだ表情は、混じり気のない憎悪によるものに違いなかった。  この1年間、麻耶にも色々と思うところがあっただろう。お互いに切磋琢磨しあっていたはずの学業はおざなりになり、誰にでも分け隔てのなかった気の優しさは鳴りを潜め、係の仕事等といった割り振られた仕事は責任感なく粗雑に済ませる……それらはいずれも一般的な女子高生の常態の範疇に収まるようなものではあったが、水上千春を1番によく知る彼女にとってはあり得ないほどの変容ぶりに違いなかった。実際、それとなくだったが探りを入れられたことだってあった。そこでもし彼女が俺にもっと深く踏み込めていたのなら、あるいは窮地に立たされていたのは俺のほうだったかもしれない。  未だそのよく整った綺麗な小顔を憎々しげに歪め続ける麻耶に、俺はふと、悪戯心に一芝居打ってみたくなった。 「そんな目で見ないでよ。そうだ、君がそんなに千春ちゃんのことを案じてるんなら、一度彼女に切り変わってあげるよ………………うっ……麻耶ちゃん、分かる?私だよ。千春」 「……っ!!」 「麻耶ちゃん、たいへんだったんだね。ごめんね、私なんかのために……」 「……面白そうだし、『喋っていいぞ』」  岩崎は相変わらず気の遣い方がうまい。内心で感謝をしながら、俺は千春本人に戻った振りを始めた。 「千春……?本当に、千春なの……?」 「うん、私だよ。ただいま、麻耶ちゃん」  戸惑う麻耶に近づいて優しく抱きしめてあげると、彼女は嗚咽を漏らしながら俺に抱き返してきた。女子特有の柔らかな抱き心地とほのかに香る甘い匂いに俺は内心でまた劣情を催した。 「よしよし、麻耶ちゃんがこの人たちをここまで追いつめてくれたおかげで、やっと戻ってくることができたよ」 「千春ぅ……」  冷静さをすっかり失ってしまったらしい。こんな適当なデタラメひとつ言ってやるだけで、麻耶はされるがままに俺に頭を撫でられ続けている。こうなるともうすっかり小動物みたいで、普段とのギャップも相まってなかなかに可愛らしく見え、それがまた面白かった。 「……」  当然ながら男である俺はその情欲を掻き立てられ、そしてーー 「……ち、はる……?」  そっと彼女のささやかな胸に手を当てながら、俺はその小さく可愛らしい唇を、自らのそれで塞いだ。 「っ……!?」  乱暴に胸を揉みしだかれ、唇同士が接触し、それでようやく彼女は抱擁をやめ、俺から一歩後ずさった。 「千春じゃ、ない……?」 「何を言ってるの麻耶ちゃん。私ちゃんと千春だよ。あ、そっか。言ってなかったね。私、実はね、麻耶ちゃんのことが好きだったの。だからずっとこうし」 「黙りなさいよ!!もういい加減、あの子を解放してあげてっ!!あなたいったい、どこまで千春の人生を踏み躙るつもりっ!?」  そんな怒髪天を衝く勢いに俺が肩をすくめると、しばらくだんまりだった岩崎が口を開いた。 「じゃあ、選べ。こいつがこのまま千春の身体を乗っ取り続けるか、それともお前が自分の身体を俺たちに明け渡すか」  岩崎の言っていることを理解して、俺は自分の嗜虐心がまだまだ甘かったことを思い知った。こいつほど悪役に適任な人材もそういないだろう。そして悲しいかな、この世界に俺たちを懲らしめる正義の味方なんて都合のいい存在もいなかった。  十秒、数十秒、もしかしたら1分ほど掛かったかもしれない。まあ、それも仕方ないことだろう。思春期真っ只中の華の女子高生が下衆な男にその身体を奪われて、以後その人生をいいように弄ばれ続けるだなんて、親友を救うためだとしてもそう簡単に頷ける話ではない。実際に千春という悪例を目の当たりにしてきたのだから、麻耶にとってはなおさらだろう。  しかし俺は、既に彼女が出すであろう答えを確信している。中学生の頃から親友として一緒に過ごしてきた『俺』にとって、彼女がどういう性格をしていて、どういう答えを出すかなんて火を見るよりも明らかだったからだ。 「……さい」 「ん?」 「わ、たしの、身体、使って……ください」  消え入るような声で言い切った麻耶に、岩崎はほくそ笑んだ。 「というわけで長瀬、せっかくだし一度見せてくれよ。憑依ってどんな感じでするのかをよ」  そうか。言われてみれば、岩崎には実際に憑依をしてみせたところを一度も見せたことがなかったかもしれない。  俺はアプリを憑依モードに切り替えて、麻耶にこう言った。 「それじゃあ麻耶ちゃん、あなたの身体と人生、私が貰っちゃうね。でも安心して?私たち、どんなになっても、ずっとずぅっと、親友のままだからっ」  無論、俺はほどほどに遊んだらまた千春の身体に戻るつもりでいる。雰囲気で適当に言ってみただけだ。だが当の麻耶にはこれが相当堪えたらしく、諦念を匂わせていた彼女の弱々しい印象から一転、途端に鬼気迫る殺気を放ちながら床を蹴り出し、先ほどまでとは打って変わって俺に襲いかかってきた。 「『止まれ』」  が、岩崎の命令に麻耶の身体はあえなく固まり、その隙に俺は彼女へとカメラを向けて撮影ボタンを容赦なく押した。 「……ん」  ふっと、一瞬視界が暗転し、それから今さっきとは違った視点に立たされる。もはや馴染みの、憑依成功の感覚だ。俺は無事、西条麻耶になれたのだ。 「さて、とりあえず千春の目が覚める前に……あれ?」  自分の口から麻耶の声が出ることに若干の違和感を抱きながら、俺はあることに気がついた。 「どうした長瀬?」 「……動けない。多分、さっきの岩崎の命令が麻耶の身体に効いたままなんだ」  宿主が俺になったとはいえ麻耶の身体が催眠の影響下にあることは変わりなく、そのため直前にされた岩崎の『止まれ』という命令がそのまま効力を持ち続けているのだ。考えてみればこれは当然の話だった。  なので俺は岩崎に命令を解除するように頼んだ。 「……」  ところが岩崎はなにか考えるような素振りを見せ、そして、こう言ったのだ。 「長瀬、命令だ。『『お前はこれから、俺が指示を出した内容でしかそのアプリを操作することができない』という催眠を自分に掛けろ』」  一瞬、意味が分からなかった。が、麻耶の身体は呆然とする俺の意に反して手際よくスマホを操作しだした。 「ちょっ、岩崎!?」  俺が抗議の声をあげるも、しかし岩崎は悪びれもしない。 「これは棚からぼた餅だな。これでお前はもう、俺の操り人形も同然ってわけだ……つまり、俺はこれで好きなようにそのアプリを使えるようになった」  さっと、血の気が引いた。 「お、おい?悪い冗談だろ?一度落ち着いて、とりあえず麻耶への命令を解いてくれよ?な?」  しかし岩崎はただにやにやと俺を見下ろすばかりで、まるでその前言を撤回する様子はない。 「お、俺ら友達だろ?そうだ、千春の身体、お前に遊ばせてやるよ。ヤリたがってたろ?ほら、処女もさ、特別にお前にあげるから、だから……」 「んな上から目線の施しなんか受ける必要もうねえよ。だってよ、お前を操り人形にできるってだけで、その程度じゃ収まらない恩恵が俺のものになんだからさ……その後にじっくりと、千春の初体験も頂けばいいだけのことだろ?」 「ふ、ふざけ……あ」  無意識に動かされていた片手が不意に持ち上がり、そしてパシャリと自撮りを済ませた音がした。  俺への催眠が完了した。これで俺は、完全に岩崎の支配下に置かれてしまった。 「まあでも、長瀬は千春ちゃんの処女を大事に残してきたんだもんな。ああ、だったらちょうどいい方法があるな。長瀬、『水上千春に、今お前に掛かっている催眠と同じ内容のものを全て掛けろ』」  俺の手は岩崎の命令の通りに文字を打ち込み、そして最後に地べたに倒れたままでいる千春をそのカメラへと収めた。 「お前が大事に大事に取っておいた千春ちゃんの初体験、その身でたっぷりと味わわせてやるよ……んじゃ、『水上千春に乗り移れ』」  画面は憑依モードに切り替わり、俺は成す術もなく麻耶としての意識を手放した。 その2 ↓ https://tsfnowana.fanbox.cc/posts/3075518


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