【小説】増殖する寄生生物
Added 2022-10-11 12:16:34 +0000 UTCもともとPixivに掲載していましたが、諸事情あり非公開にしたのでこちらに掲載します。
作者 りあ
4334文字
本編
「今日未明、〇〇科学研究所から新種の寄生動物が流出したとの発表がありました。人体へは無害のものであり問題は無いとの事ですが、引き続き調査が進められ───」
お風呂上がりでしっとりと濡れた髪を乾かしていると、ふとニュースの音声が耳に入った。
「寄生生物?そういえば……」
風呂に入っていた時の事を思い浮かべる。シャワーで髪を流していたら、排水溝の方に赤黒い何かがちらりと見えたような……そんな気がしたのを思い出した。
その次の瞬間にはもう見えなくなってしまっていたけれど。
「まさか、そんな事はないよね」
仮にあれが例の寄生動物だったとしても、そのまま流されてしまった可能性が高い。
別になんてことない。そう思って、眠りについた。
◇
「おはよう、今日は起きるの少し遅かったね?」
「おはよう。なんか眠くてさ……」
未だうまく開かない目をこすり、大きなあくびをする。
普段は早寝早起きを心がけていて、昨夜もいつも通り寝たはずだった。しかし、今朝起きたのは普段よりも一時間ほど後。
予備でセットしておいた目覚ましの音と共に起床したのだった。
「疲れがたまってるのかもね。ほら、朝ご飯出来てるよ」
「いただきます」
朝ご飯は、ご飯とみそ汁におかずと、よくある普通の朝ご飯だった。
ただ、なぜだかいつもよりも食欲があった。
寝起きなのにと疑問を抱きつつも、ご飯を二杯、三杯とお腹の中に入れていく。
「ちょっと食べすぎじゃない?大丈夫?」
「大丈夫だよ。そろそろ行ってきます!」
しばらく食べるのに夢中になっていたせいで、出発までの時間が迫っているのに気づかなかった。
急いで制服に着替えると、慌ただしく家を飛び出した。
◇
「わっ、もう電車来ちゃった!」
踏切の音がカンカンと鳴り響き、遠くから電車が近づいてくる音が聞こえる。
この電車に乗れなかったら遅刻してしまうのでなんとしてでも乗りたい。
はぁはぁと息を切らせながら改札まで走ると、ちょうど同じタイミングで電車が来た。
ギリギリのタイミングで滑り込み、入った直後にドアがガシャンと閉まった。
「ひゅー、危なかった」
疲れたので座りたかったけれど、あいにく席は全部埋まっていたので電車の壁に寄り掛かる。
息を整えていると、ついさっきご飯を食べた直後よりも少しだけお腹が膨れているような気がした。
走っていたせいで気づかなかったけれど、お腹をさすってみるとさっきよりも明らかに膨らんでいるのが分かる。食べ放題のレストランに行った帰りぐらいだろうか。
頭の中にハテナマークが浮かび、ふと思い出したのが、昨日ニュースで言われていた寄生生物の存在である。
「もしかして……」
ぞっと青ざめた。自分の体内に侵入していたとすれば、まさに今、自分はこの寄生生物の宿主になってしまっている。
思えば朝にあれだけ食欲があったのもおかしいし、お腹に違和感があるのもこの寄生生物のせいかもしれない。
だからと言って、今すぐ病院にというわけにもいかない。
ガタゴトと電車に揺られる中で、何事もないようにじっとするしかなかった。
「うう、お腹が痛い」
願い届かず、お腹がキリキリと痛くなってきた。何かがお腹の中でうごめいているような気がして、吐き気を催す。
「体調悪そうなので、これ、使ってください」
「ありがとうございます」
口に手を当てて耐えていると、近くに座っていた乗客のお姉さんが袋を手渡してくれた。
次の駅までどれくらいか確認すると、まだまだ時間がかかるようだった。
はぁ、はぁ。
肩で呼吸する。お腹の中にある謎の違和感は相変わらずである。
普段の腹痛のような痛みとは違う。同じような場所だけど、なんとなく違うような。
痛みを逃がすかのように、ぽっこりと膨れたお腹をマッサージする。
しばらくすると、お腹の中で「ポコン」と何かが弾けたような気がした。
最初は断片的にだったものの、徐々に勢いを増していった。まるで、ポップコーンが弾ける時のように。
「うぐ……い、痛い痛い痛い!」
何かがお腹の中でボコボコと暴れているような感じがして、そのたびにお腹がじわりじわりと膨らんでいった。
お腹を押さえる手が徐々に押し上げられ、スカートのホックが悲鳴を上げている。
近くの乗客も異変に気付いたようで、ハラハラしながら見守っていた。
お腹の膨張は加速していき、ボコボコという擬音が似合うような膨らみ方をしている。
歯を食いしばってなんとか耐えるも、苦しみだけが増していく。しかし、他にどうすればいいか全くわからなかった。
その膨張は止まることを知らず、やがて臨月の妊婦と見紛う大きさまで膨れ上がった。
臨月サイズになったお腹は制服を大きく押し上げており、パツンパツンになってしまっている。
「ひぐっ……なんで……」
臨月サイズになりやっと膨張が収まってきたそのお腹は、スレンダーな体の真ん中でずっしりとその存在を主張している。涙目になりながら自分のお腹をさすると、それに反応するように体内で何かがもぞもぞと動いているのがわかる。
その違和感はお腹の方から、徐々に下の方へと移動していく。このお腹の中にいるものが外に出ようとしているのだと、直感的にわかった。
「やめっ……やだ! 出てきちゃだめ!!」
股の辺りから、ぷしゃっと液体が噴き出す。股を手で抑えると、次の瞬間、中から何かがもぞもぞと顔を出してきた。
液体は手の隙間を通って下着を貫通し、床に垂れていく。しかし、この謎の生物はなんとしてでも外に出すまいと、力を込めて押さえていた。
中からの圧力は徐々に高まっていく。謎の生物が出口を求めて動き回り、お腹の中から徐々に出口の方へ集まっていくのがわかる。
「ああっ……もう無理っっ!」
押さえていた手を押しのけ、むりゅん。と下着の中に飛び出した。ひとつ飛び出してからは後に続いて続々と出てきてしまい、下着をモコモコと膨らませていく。収まりきらなくなった謎の生物は床へボトリと落ちた。
「キャァァァ!!」
周りの乗客がどよめき、悲鳴を上げる。その間にも人間の人差し指ほどのサイズである赤黒いミミズのような生物が、次から次へと出てきた。
その生物はしばらく床を這いずり回っていると、周りの乗客めがけて素早く突進していった。
「うわっ、逃げろ逃げろ!」
男女ともに襲われて、車内がパニックになる。
ある人は口から侵入され、吐き出そうとしても出てこず。
ある人はズボンの中に大量に侵入されたらしく、ズボンを脱いで半狂乱になっていた。
「うう……ごめんなさい……ごめんなさい……」
自分のお腹は少しずつ小さくなってきた。分泌された液体によって靴下まですっかり濡れてしまい、床に小さめの水たまりまで作ってしまっている。
自分の股から断続的に出てくる生物を抑える力がもう残っておらず、申し訳なさでいっぱいになって涙があふれ出てくる。
それもつかの間、また、お腹の中でポコポコと弾けだした。第二波がやってきてしまったのである。
「うっぎっ……もうやだっ……!」
お腹の皮が柔らかくなってしまったのか、最初よりも早いペースで大きくなっていく。
ボコボコと膨れていくお腹を抱え、苦しみのあまり四つん這いになる。お腹が垂れ下がって余裕が出来たせいか目に見えて膨らんでいった。
そのうちバスケットボールをお腹に抱えたぐらいの大きさになり、制服はすっかり捲れ上がってしまった。
お腹の中でぐにぐにとうごめく感じがすると、その中身は次から次へと外へ飛び出していく。
ぐいぐいと下着が押し下げられていき、そのうち遮るものが無くなると、一段と勢いを増していった。
四つん這いのままぶりゅぶりゅと下品な音を立てながら謎の生物を排出し続け、その間にもお腹は少しずつ膨らみ続けていく。胎内で増殖する速度の方が出る速度よりも少し上回っているようで、今にも破裂しそうなお腹からはミチミチという音が聞こえてきそうである。
周りを見てみると、電車の床は自分から出てきた生物でほとんど覆われてしまっている。他の乗客はなぜだか意識を失っており、自分のようにお腹が膨らんでいる人も何人か居る。
あまりの惨状に声が出なかった。もっとも膨らみすぎたお腹のせいで、呼吸すらうまく出来なくなってしまっているけれど。
そのうちだんだんと視界がぼやけてきて、自分まで意識を失いそうになっているのが分かった。
自分はこのまま死んでしまうのかもしれない。
いよいよ限界を迎えて床に横たわろうとした時、電車のアナウンスが耳に入った。
「次は〇〇~〇〇~」
さーっと血の気が引くのを感じた。この大量の生物が一気に解放されたら、それこそどうなってしまうやら。想像もしたくなかった。
「そ……うだ、緊急停止ボタン……!」
何としてでもこの電車を止めて、被害を抑えなければならない。
緊急停止ボタンを探すと、5メートルほど先にあった。
ポールを掴んでなんとか立ち上がったものの、ずっしりとしたお腹に引っ張られて前につんのめりそうになる。
限界まで引き伸ばされた皮は光を反射し、今にも張り裂けてしまいそうである。
お腹をかばいながら、波打つ床を一歩一歩確実に踏みしめ、徐々に緊急停止ボタンの方へ近づいてゆく。
その時、電車がガタンと大きく揺れた。
「あっ、やば───」
バランスを崩して、お腹の方から倒れこんでしまった。
大きくなりすぎたお腹のせいでうまく手をつくことが出来なかったものの、床で蠢うごめいていた生物が下敷きになったおかげで怪我はしなかった。
いよいよ電車は駅のホームへ進入して、ゆっくりとスピードを落としていく。
自分はもう立ち上がれなかった。
「あ……あはは、終わった……」
半ば自暴自棄になり、その場で横たわった。やがて電車が完全に止まると、そのドアが開いた。
電車内の惨状を見て人々がどよめく。立ち尽くす人もいれば、スマホのカメラを向けてくる人もいる。
次の瞬間、電車内の生物がどっと動き出し、人々に襲い掛かった。
一瞬にして、駅のホームは阿鼻叫喚の巷と化した。