【あらすじ】
国木浩史(ひろし)は、塗るだけで筋肉質な肉体になれる『ラガーマンオイル』を手に入れて、数々の男をラガーマン化させていた。
その一部始終を見ていた彼の息子・悠真(ゆうま)はそのオイルを盗み出し、自身の身体に塗ろうと試みるがーー……。
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ガタイの良い男二人が、その一室から出てきた。一人は短髪で口髭と顎髭を生やし、くっきりとした目鼻立ちをした、ハーフ顔のリーマンだ。肩幅は広くて、筋肉は隆々。Yシャツやスラックスは、はち切れんばかりにピチピチになっている。
そしてもう一人は、白衣を着た整体師・国木浩史(ひろし)だ。短髪でラウンド髭、顔の輪郭ははっきりしていて男臭さと色気がある。袖はしっかり捲り上げ、逞しい腕には太い血管が浮き出ていた。
「また、よろしく頼むよ」
「ああ。いつでも来てくれ」
お互いに何度もボディタッチをする二人。やがてハーフ顔のリーマンは名残惜しそうに去っていった。その姿を浩史が見送っていると、彼の背後からボーダー柄のTシャツ姿の少年が顔を出した。
「パパ、おしごとおわったぁ〜?」
「ああ、今終わったぞー」
浩史はその少年を抱き上げ、よしよしとやさしく頭を撫でた。浩史の最愛の息子であり、小学二年生の国木悠真(ゆうま)だ。頭を撫でられ、悠真は笑みがこぼれる。二人は部屋に戻ると、悠真は目を輝かせてこう言った。
「きょうの太ったオジサンも、短髪マッチョになって帰っていったね!」
「ああ。このラガーマンオイルのおかげだな」
浩史はテーブルの上に置かれた小さな瓶を指差して言った。瓶の中では透明なブルーの液体が静かに揺れている。浩史はそれを手に取ると、「おっと、いけないいけない」と言って、クローゼットにしまいガチャリと鍵を掛けた。
「お前には、まだ早いからな」
「えぇ〜、ぼくもマッチョになってみたい!」
「だーめだ。さあ、良い子はとっとと寝る時間だぞー」
悠真はじっと浩史の目を見つめたが、浩史は首を横に振った。やがて諦めたのか、悠真は黙って自分の部屋へと戻っていった。
「つまんないのー」
そもそも浩史が『ラガーマンオイル』を使い始めたのは、ここ数年のことだった。元々彼はマンションの一室を借りて整体院を開業していたのだが、ある時闇市で声を掛けられ、ラガーマンオイルを手に入れたのだ。日中は通常営業していた整体院を、深夜帯だけ男性客のみに限定し、希望者にはこのオイルを使って肉体を強靭化ーーつまり、ラガーマンのような肉体へと変化させた。さらにこのオイルを塗った者は、ラガーマン体型になるだけでなく、その身体に相応しい性格や喋り方、仕草まで習得することができた。
悠真はこれまで何人もの男たちの変身を見届けてきた。禿げたお爺さんやガリガリ体型、肥満体型のオジサンが、逞しく若々しい肉体や凛々しい顔を手に入れて、そして自信に満ちた清々しい笑顔を見せる。その一部始終を見ながら、悠真はずっとこう考えていた。
「パパはみんなのために、スッゴイことをしてるんだ......!」
悠真は浩史のことを父として、男として、心の底から尊敬し、誇りに思っていた。
「ぼくも早くマッチョになって、パパにもっともっと褒めてもらいたい!」
その日、真夜中に悠真はある作戦を決行した。ベッドからこっそり抜け出して整体院に侵入すると、ラガーマンオイルが入ったクローゼットの鍵をこじ開けたのだ。彼はどこに鍵が隠されているのか把握していたし、脚立を使ってよじ登れば、小柄な彼でも『ラガーマンオイル』を盗み出すことは難しくなかった。
「みーつけたっ!! さっそく塗っちゃうぞ!」
悠真は脚立から降りると、オイルが入った瓶のフタを勢いよく引き抜いた。部屋中にはムワッと鼻を刺すような異臭が立ち込める。悠真はパジャマを脱ぎ、瓶の中に入った透明なブルーの液体をドボドボッと大量に手のひらにのせると、自身の身体にそのオイルを満遍なく塗り始めた。
「んー、なんかスースーするかぁ......あれ、身体が熱くなってきたよーな......って、アツッ!?」
火傷するほどの熱が悠真を襲った。彼は身悶えながら大声で助けを呼んだ。
「パパ……! んん゛……!!」
「......ん? どうした、悠真ッ!?」
浩史が飛び起きて悠真のもとへと駆けつけると、悠真は床にうずくまり、身体中の筋肉が痙攣しているようだった。そして苦しむ彼の隣には、隠していたはずの『ラガーマンオイル』が蓋の開いた状態で転がっていた。
「悠真、もしかして......! こんなに多くの量を一人で……!?」
「……なんか、からだが……う゛あッ!」
その瞬間、悠真の身体はギシギシと音を立てながら変化を始めた。脚や胴体が伸びていくと、胸囲は大きく膨れ上がり、鍛え上げられた分厚い胸板へと変わる。次に肩幅が広くなると、肩まわりは丸くて逞しい、タンクトップがよく似合いそうなメロン肩に。腕には巨大な筋肉の塊が出来上がり、小さくてやわらかい小学二年生らしい手は、大きく武骨で豆だらけの手に変わっていた。
「ハァ、ハァ……パパ......助け゛ッ……!」
(続)